漢方配達する青年と無愛想なイーブイの話   作:ノクス*。

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「だいぶ長居したなぁ」

 

ぐっと伸びをして空を見上げると、来た時とは違って太陽が真上をとっくに通り過ぎていることに気づいた。

サンサンと輝いていた太陽は白い雲に時々隠れては顔を出している。随分と雲が増えたようだ。

その様を見ていると初めて腹の虫がくぅっと音と立てて主張してくる。

ついお腹をさするとようやく空腹を実感する。考えてみれば早朝に食べてから何も口にしていない。

流石にお腹が減ったアッシュは遺跡群からやや離れた森の入り口で草むらに腰掛けると、イーブイのフーズと今朝食堂で包んでもらったサンドイッチを用意して遅い昼食にすることにした。

ボールから出したイーブイは小さく尻尾を振ってフーズ皿に顔を突っ込んだ。

それを見つつ、自分も昼食に目を向ける。

用意してもらったのはぴりっとした辛味が特徴の木の実を使ったサンドイッチで、一緒に挟んであるスライスした野菜や魚の油漬けと絡まると味が緩和されてとても食べやすい。

アッシュがモソモソとサンドイッチを楽しんでいる横であっという間にフーズを平らげたイーブイは口の周りの毛づくろいを始める。

 

「ブイブイ」

 

胸元まで毛づくろいを終えるとそのまま眠くなったらしく、ボールに戻る的な事を言って自分からボールへと戻っていった。前足でポンとボールを叩いて戻る姿のなんと器用なことか。

食べ終わったアッシュは暫し遠くから遺跡の眺めを堪能していたが、片付けを済ませるとそろそろコガネの方に戻ろうかと立ち上がる。

振り返ってゴミが落ちていないことを確認すると歩き始めた。

来る時に北口ゲートがあったからそちらから出ようと決めそちらへと向かうと、すぐ横の池で何かがパシャンと音を立てた。

振り向いた時には水面が揺れているだけで何がいたのかはわからない。何だろうかと好奇心で近づき池の中を覗いてみる。

すんだ水面がゆらゆらと揺れている。じっと見つめていると一箇所色がじんわりと変わっていくのに気づいた。何かいるようだ。

更に観察していると水色の頭がひょっこりと覗く。目があったそれはアッシュに興味を示したのかスイスイと近づいてきた。ぴょんと勢いよく水から上がった姿は見たことのないポケモンだった。

全体が淡い水色で、左右に薄紫色の触角が二本生えており、両腕はなく二本足で立っている。角のない丸い形の尻尾もついている。

 

「ウパー?」

 

何か惹かれるものがあったのか、そのポケモンはペタペタと足音を立てて近寄ってくる。バランスを取るためか、平たい尻尾がゆらゆら揺れるのが可愛らしい。

そのままアッシュの周りをくるくると回りながら観察したり、クンクンと匂いを嗅いで確認しているような様子だ。随分と人懐こい個体らしく、怖がる様子もなければ警戒する様子もない。

縄張り争い以外で野生のポケモンが近づいてくることがあまりない為一体何事かと身構えたが、そう警戒しなくても良さそうだ。

くるくる回っていたポケモンはそのうちカンポウから貰ったリュックの前で止まりクンクンしきりに匂いを嗅ぎ始めた。そういえばカバンの中に薬草が入っていたのだった。

 

「薬草の匂いだよ」

「ウパ?」

「――ブイブイ!!!」

 

疑問符を浮かべたポケモンに返事を返そうとしたその時、眩い光と共にイーブイがボールから突然出てきて相手のポケモンに唸り声をあげる。突然寄ってきた相手に警戒しているらしい。

しかしポケモンは全く気にせず尚もクンクンと匂いを嗅いで回っており、匂いの元がリュックだと気づいて不思議そうな顔をしていた。

 

「ウパパ!」

「ブイ!?」

 

大元を発見したことで自分の欲求が満たされたのか、今度はイーブイにじゃれかかって行くがイーブイは嫌そうに顔を歪める。

イーブイよりもポケモンの方が大きいのでややイーブイが押されているようだ。

遊べ遊べと相手が寄ってくる為、うっとおしかったのかそのまま体当たりを仕掛けようとするがそれを避けたポケモンは嬉しいそうに鳴き声を上げた。

どうやら遊んでくれると勘違いしたらしい。

 

「ブイブイブイ!!」

「ウパ?」

 

それにイーブイがキレて何するんだと文句を言っていたが、何故怒られているのか分からないらしくポケモンは始終首を傾げていた。

一体どうやって止めようかと戸惑っていると突然、

 

「ウパ!ウパパー!」

 

と嬉しそうに鳴くとポケモンは踵を返してそのまま水の中へ飛び込んで行ってしまった。いきなり全然違う単語が飛び出したのでアッシュも思考が追いつかなかったが、どうやらお腹が空いたから帰ると言ったらしい。

 

「…え?」

 

突然過ぎて反応し切れず、思わず水面を見つめるがポケモンが浮上してくる様子はない。どうやら行ってしまったらしい。

イーブイも流石にポカンとしていたが、怒りのぶつけどころがいなくなったと気づいて物凄く不機嫌になってしまった。

 

「えーと、とりあえず俺たちも帰ろうか…」

 

一体何だったんだと思わなくもないが、待っても戻ってくるわけではない。

変わったポケモンもいるものだと思いつつ、イーブイを見やる。

イーブイはギリギリと歯ぎしりをして苛立つ心と葛藤しているらしい。怒っているからか、尻尾の毛が膨れている。

アッシュは大きくため息を吐くと空を見上げた。先ほどよりも大分日が傾いてきている。まだ明るいが早くしないと日がくれてしまうとアッシュ達もそそくさと遺跡を後にすることにしたのだった。

 


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