漢方配達する青年と無愛想なイーブイの話   作:ノクス*。

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翌朝、朝食もそこそこにイーブイを連れて受付カウンターへと顔を出しに行くとジョーイと一緒にあのガーディが待っていた。

 

「おはようございます」

「あぁ、アッシュさん。おはようございます」

「ワゥン!」

 

にっこりと笑顔を見せたジョーイと一緒に足元にいたガーディが一声吠える。

その様子に昨日の様な剥き出しの警戒心はなく、こちらに向かってパタパタと尻尾を振っていた。表情も穏やかで睨みつけるような様子もない。

 

「何だか随分昨日と違うような…」

 

あまりにも昨日と違う様子にアッシュがやや戸惑い気味に呟くと、ジョーイも不思議そうにガーディを見やった。

イーブイは一歩後ろで静かにその様子を伺っているが、表情は硬いままだ。

 

「それが、何だか負けた事で逆にすっきりしたみたいで。昨日目が覚めて暴れるかと思ったんですがそんなこともなく大人しくしてくれて」

 

アッシュがガーディの向かい側にしゃがみ込むとふんふんと鼻を寄せたガーディが近づいてきたのでアッシュも静かにそれを見守る。

するとガウガウ鳴いてお礼らしきものを言い、後ろへと下がった。

アッシュもうんと頷くと、イーブイが面白くなさそうにブイと一声だけ不服そうな声を上げた。どうやら急な変わりように気持ちがついていけないらしい。

 

「帰るのか」

「ガウ!」

 

アッシュが尋ねると帰ると答えたらしいガーディがパタパタと尻尾を振る。

 

「ラキー!」

 

それが聞こえたらしいラッキーが出入口にてここだと鳴いて知らせると、もう一度だけジョーイの方をじっと見つめた後あっという間にラッキーの横を通り抜けて走り去って行った。

 

「ふふ、お礼を言ってくれたのかしら」

 

一部始終見守っていたジョーイは微笑ましげにそう言う。アッシュは再度ジョーイに頭を下げた。

 

「野生ポケモンをむやみに連れてきてすみませんでした」

 

トレーナーのいるポケモンと違って野生ポケモンは警戒心が強い上に暴れてもボールに戻すことが出来ない。何かあれば大変な騒ぎになっただろう。

その事に部屋へ帰ってから気づいたアッシュは慌てて朝こちらへきたのだった。しかしジョーイは首を横に振るとにこりと笑った。

 

「いいえ。いざとなれば私もラッキーもそれ相応の対処は出来ます。その上でお預かりしたんですから構いませんよ。むしろ、トレーナー達から良く聞く子だったので気にしていたんです。ありがとうございました」

 

きっとこれからはもう少し落ち着いてくれるんじゃないかしら、と言うジョーイにアッシュもこちらこそタオルやら何やらありがとうございましたと礼を述べる。そこで話は終いとし、イーブイと一緒に朝ご飯を食べに食堂へと向かう事にした。

食後、そういえばカンポウへの連絡がまだだったと気づいたアッシュはとりあえずカンポウへ連絡を入れる為通信機の前へと移動する。

通信を入れると割とすぐに出たカンポウが早々呆れたような声を上げた。

 

「なんじゃい、まだポケギアに登録しとらんのか!」

「あー、」

 

そういえばそうだったとその時になって気づいたアッシュは誤魔化すように頭を掻きつつ、今度までにはしておくよと苦笑する。

帰ったら荷物の中から探しださねばならない。

 

「昨日薬草を採った後、大雨にあってそのままエンジュに来たんだ」

「おぉ!そうじゃったか!ならば丁度良い!鞄の中に薬草が入っとったじゃろ?」

 

言われてそんなものあったっけとよくよく思い返してみると、そういえば薬草らしきものが入った袋があったなと思いアッシュは頷いた。

遺跡で出会ったあのポケモンが気にしていた匂いの元凶である。

 

「言いそびれたんじゃが、それをエンジュのジムリーダーに届けて欲しいんじゃよ」

「ジムリーダー?」

 

元々頼むつもりだったんじゃがお前さんいきなり飛び出して行ったじゃろ?と言われ、アッシュはうっと言葉に詰まる。

確かになにか言っていた気がするが、パラセクト云々でそれどころではなかったアッシュは逃げ出したのだった。

しかも、何を話しているのか気になったらしく、画面の端ではラッタと共にパラセクトらしきキノコのカサが見え隠れしている。

どうやら昨日コガネでも雨が降ったらしく、今日はパラセクトも絶好調らしい。

わさわさとキノコを揺らす様子を見て初対面時の恐怖を掻き立てられたアッシュは無意識に身震いしそうになったが、それをぐっと堪える。

 

「エンジュのジムリーダーは知っているじゃろ?」

「いや、知らない…」

「トレーナーなのに知らんのか!」

 

驚いたカンポウは目を丸くして驚く。

そもそもアッシュはトレーナーになってあまり日が経っていないのだが、カンポウはそんなことお構い無しである。

 

「エンジュのジムリーダーはマツバというゴースト使いじゃ。ポケモンセンターにおるのならマップで確認すると良いじゃろう」

「……あぁ、分かった」

 

カンポウはそう言って長い髭をさするが、アッシュはそんな事よりもパラセクトが今にもひょっこり顔を出すのではないかと画面が気になって仕方なかった。ひょこひょこと揺れるきのこのカサに気が落ち着かない。

 

「――というわけじゃ!頼んだぞ!」

「え?あぁ。うん、分かった!」

 

思わず意識がそれている内に話が終わったらしく、これ幸いとばかりに電話を切るとふぅーっとため息を吐き出した。

一部始終を見ていたイーブイは呆れたような顔をしているが最早慣れたものだ。

 

「さっそくここのジムリーダーに配達だってさ。ジムリーダーを探しに行こうか」

 

アッシュは荷物を確認すると、イーブイを連れて早速エンジュジムへと向かう事にした。


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