漢方配達する青年と無愛想なイーブイの話   作:ノクス*。

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※前話に出てきた石の表現を緑を帯びた丸い石→ただの丸い石に訂正しています。失礼致しました。


2

参加方法は簡単で、手持ちのポケモン一体でポケモンを捕まえるとそのポケモンが審査対象となるらしい。

待っている間に教えてくれた少年のアドバイスによるとストライクやカイロスの評価が高いらしい。また、あまり攻撃せずに捕まえるのがポイントだとも教えてくれた。

 

「色々教えてくれてありがとう」

「おう!お互い頑張ろうぜ!」

 

少年はそう言うと手持ちのモンスターボールを持ったまま草むらへと駆けていった。

さて、こちらのポケモンはというと勿論やる気満々のイーブイである。

というか、イーブイしかいないので参加してもらうしかない。

 

「ストライクかカイロスか……知らないんだよなぁ」

「ブイブイブイ!」

 

イーブイもその二体をよく知らないらしく眉をひそめていた。響き的にはとても強そうな名前だが見た目が想像つかない。

イーブイはとにかく捕まえるとか何とか言っているらしい。

 

「張り切ってるとこ悪いんだけど、優勝してもあの石は貰えないぞ」

「……ブイー?」

 

あれは二等賞だと言うとイーブイはあからさまに面倒臭そうな顔をした。

優勝を目指すよりある意味難しいことは確かなので何とも言えない。

結局よく知らないストライクかカイロスを捕まえるより、出てきたポケモンをあまり攻撃せずに捕まえる方が確率が高いと考え、とにかく草むらの中を探し回ることになった。

 

「……なんか、そもそもポケモンが出てこないんだが…」

「……ブイブイブイ!!」

 

何でだよとか何とかイーブイが喚くが、はたと動きを止めるとジト目でアッシュの方を睨んできた。

 

「ん…?え、――あぁ!」

 

何事かとアッシュは暫しその視線の意味を考えていたが、すぐにそれが自分から漢方薬のにおいがするからだと悟った。

 

「あー、そうだよなぁ」

 

ポケモンが嫌う匂いらしいからなと明後日の方を見て呟く。

足元からイーブイがギリギリと歯ぎしりするのが聞こえた。

よくよく辺りを見渡してみるといつの間にか周囲の人間は最初より格段に減っており、逆に開催テント付近に人が集まり出している。

最早絶望的とも言える状況にアッシュは困ったような表情を見せたが、イーブイの方は何かに気づいたらしく弾かれたように後ろの茂みを振り返った。

アッシュも何事かとそちらを振り返ると、大きな木の根元付近の茂みがガサガサと揺れている。

何かは分からないがとりあえず一匹は捕まえなければとボールを構える。

 

 

――出てきたのは小さなキノコのカサだった。

 

 

アッシュはズサッと数歩後ろへ下がる。既視感あり過ぎるフォルムに冷や汗が止まらない。

逆にイーブイはゆらゆらと尻尾を左右に揺らして低姿勢を構えた。

そんな中、キノコが尚もガサガサと揺れる。それが一番激しくなった時にひょっこりと姿を現したのは初めて見る姿のポケモンであった。

オレンジの身体に背負った2つのキノコは赤地に白の水玉模様である。

これまた見覚えのある姿にアッシュは顔を引きつらせかけたが、そのポケモンの瞳はくりくりと丸く色は澄んでいたため、そこまで拒絶反応を示すことはなかった。

しかしどう見てもパラセクトの進化前の姿であろうポケモンを前にしてアッシュの冷や汗が止まらない。

ここは一旦引いて違うポケモンにしようかと思ったが、イーブイはそんな事はお構いなしに飛び出して行った。

 

始めから攻撃は最小限にと決めていた為、アッシュの命令も待たずにイーブイはポケモンの周りをぐるぐると回りながら砂かけを仕掛ける。

驚いたポケモンが目を閉じながらふるふると小さなキノコのカサを揺らすと、何やら黄色い胞子が宙を舞う。

それに気づいたイーブイは一度身を引いてサッと距離を取ったが、すぐにパラパラと飛んでくる胞子ごと押し返すように先程よりも盛大に砂かけを続けた。すると胞子が土煙に混じるようにして、放ったポケモンの方へと流れていく。

ポケモンは最初の砂かけで目をやられてしまったらしく、見えないながらもわたわたと足を動かしながら慌てて避けようとしていた。

しかしその前に自分の放った胞子が掛かりプルプルと震えた後にぺたんと地面に足を投げ出す。

 

どうやらあの胞子は麻痺か何かの効果があったらしい。

アッシュはそれを確認した後、予め渡されていたボールをポケモンに投げつけた。

ボールの中心部分が赤く点滅しながらカタカタを数回ボールが揺れた後、光が消えて静かになる。

 

「よし、こいつでいいか?」

 

全く微動だにしないボールを見て無事ゲット出来たらしいことを悟ったアッシュは、横でどうしようかと悩んでいるイーブイを見やった。

 

「どうするよ?」

「ブイブイ…」

「いやー……うーん?」

 

石が貰えるかと聞かれても正直微妙としか言えない。

というか、何が優勝なのか分からないので何も言えないアッシュであった。

その後うんうんと悩んだものの、結局その一匹以外にポケモンが飛び出して来なかった為そのまま審査をしてもらうこととなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「二位!パラスを捕まえたアッシュ!」

 

一位はアッシュ達にアドバイスをしてくれた少年で、彼はカイロスを捕まえたらしい。

成る程、あれがカイロスかぁと少年の方を見ながら賞品を受け取ると、イーブイが早く見せろと足元でせっつくので屈んで見せてやると嬉しそうに目が輝いていた。

あまりにも喜ぶイーブイを見て、この石をネックレスにしてイーブイの首にかけてやろうとアッシュは今日の予定を変更したのだった。

 

 

 

 

 

 

ちなみにパラセクトの進化前であるらしいあのパラスは主催者側に持って帰るかと聞かれたので全力で公園内に逃がした。

 


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