漢方配達する青年と無愛想なイーブイの話   作:ノクス*。

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それから数日、アッシュは相も変わらずバイトのためにせっせと薬草帳に載っている写真や付けたしの手描き絵を見ていた。

実際に乾燥させた薬草とそれらを見比べ、その内容を頭になんとか叩き込もうとしているところである。

正直そこまでする必要があるのかだんだん疑問に思えてきたが、なかなかどうして出来ないとなるとやりたくなるのが人の性である。

それにカンポウの書いた薬草帳には走り書きのメモもたくさんあり、薬草自体の特徴や間違いやすい野草との見分け方が書かれているのだ。

ついそれらを読んでいると、現物の方もまじまじと観察してしまう。

そうしているうちに覚えていくのが大半であった。

 

イーブイはというと、勉強するアッシュを面倒くさそうに見つめてくぁっと大きな欠伸をしている。と思ったら身体を丸めてうとうとし始めた。

手書きの文字に関してはまだ完璧に覚えたわけではなかったが、それでも何とか記憶に残りつつある。

そんなわけで何とか覚えたそれらに実際の香りや見た目の感想を頭の中で付け足しながら自分なりに薬草の種類を覚えようとしていると、カンポウ宅の扉が開いた。

どうやら出かけていた家主が帰ってきたらしい。

 

「どうだった?」

「大分良くなったよ」

「医者ははなんて?」

「……骨には異常ないからあとは安静にと。全く、だから大丈夫じゃというのに」

と大きくため息をついた。

 

カンポウはなかなか病院へ行かないせいで何日も前から続いていた腰痛に未だ悩まされており、最近ようやく町医者の元へと通うようになったのだ。

まるで子供のように病院は好かなくてのぅと言っては通院を拒否する為、ならば医者に来てもらうかとアッシュが通信を開いて脅すと全力で拒否する。

ここに呼ぶくらいなら自分でいくとようやく文字通り重たい腰を上げたのだった。心配してついて行こうとするアッシュには、ラッタがヒスヒスと鼻を鳴らした。

どうやら自分が行くという事らしい。

勉強しろとしっかり釘を打っていくと、ラッタはカンポウの付き添いについて行ったのだった。

 

今も病院で貰ったらしい湿布薬を持ってカンポウの後ろをトコトコと付いて回っている。

 

「大きな怪我じゃなくて良かったよ」

「じゃから言っただろうに」

「それで、あとどの位かかりそうなんだ?」

「後1週間もすれば良くなるだろうと」

その後ろでラッタが鳴いて、もう一度来いと言っていたと追加する。

しかしそれを察したらしいカンポウははっきりと先回りして言い切った。

 

「一度は行ったからの。今度から自分で薬を作るわい」

「え」

 

思わずラッタの方を向くと、諦めたように首を横に振っている。

恐らくというか十中八九通院は今日で終了することだろう。

とはいえ、1度専門に診てもらえればこちらとしても何もしないでいるよりは安心である。

 

「それよりアッシュや、この前言っていた長くなる配達の件なんじゃがのぅ?」

「あぁ、それか。んで、何処まで行けばいいんだ?」

「今回はタンバシティまで行ってもらいたいんじゃ」

「タンバ?!」

 

タンバシティといえば、確か海を渡った先にある島であった筈である。

アッシュは勿論行ったことがない場所だ。雑誌等で何度か見かけたことがあるだけである。

予想外の発言に驚いていると、

 

「タンバにある薬屋は親戚での」

 

と更に予想外の発言が聞こえ、アッシュは目を丸くした。

タンバの薬屋といえば、何でも治るという噂のある秘伝の薬でその方面からは有名である。

それがカンポウの親戚であったとは、この爺さん侮れないなとアッシュは再認識したのであった。

 

そんなわけで多少驚く事は続いたものの、時間がかかる長旅では少し多めに給料を貰っているので特に不満はない。もはやバイトの域を超えつつあるアッシュであったが、貰える分には不満はない。

強いて言うなら家にいる時間が短くなったので家賃を払うことが惜しくなったことくらいだ。

そこまで考えて、ふとこの前今の部屋が狭く感じたことを思い出した。

そこでカンポウにその事を相談すると「任せておけ!」と何やらいつも以上に意気込み始めた為、アッシュは正直心配でしかない。

何だか物凄く心配だが行かないわけにもいかない為、アッシュは一抹の不安を抱えたまま大体の経路を聞くことにした。

タンバシティに行くにはまずアサギシティまで行き、アサギから出ている船でタンバシティへと上陸するらしい。

ジムバッジを持っていればポケモンの技で行くことが可能だが、勿論アッシュは持っていないので船一択である。

とりあえずエンジュで一泊してからアサギの方へ向かうのが良いだろう。

 

「準備出来た次第向かってほしい」

「分かった」

「これは準備金じゃ。百貨店で揃えるのが良かろう」

 

ほいと渡されたのはいつもの前金みたいなものだ。ここまでされるともう完全にあとあとカンポウが何を考えているのか見えているようなものだが、アッシュはまだ答えが出せずにいる。

今はまだ知らないふりをしてそれを受け取ると、イーブイに声をかけてコガネ百貨店へと向かう事にした。

 


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