漢方配達する青年と無愛想なイーブイの話   作:ノクス*。

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ざわざわと森のポケモンたちがざわめく中を抜けると、それまで森で感じていたよりも強い香りーーー木々を燻した匂いが立ち込めてくる。

 

「ありがとうラッタ」

 

ずっと出していたラッタにお礼を言うと、おうとかそんな感じの男前な返事が返って来る。そのままラッタをボールの中に仕舞うと、木炭のけぶる町中を改めて見回した。

旧家らしい茅葺屋根の家が建ち並ぶ中を、たくさんのヤドン達が思い思いの場所でのんびりと日光浴や居眠りをしているのが目に入る。

コガネシティから出ずとも殆どのものが揃ってしまうので、ヒワダタウンに来るのはかなり久しぶりなことだ。初めて1人で訪れた時から穏やかな町の雰囲気は変わっていないらしい。

 

「……………………やあん?」

 

近くにいたヤドンを何と無く眺めていると、長い長い間の後にのんびりとした口調で疑問符を浮かべられた。言葉にするならなぁにー?とかそんな感じだろうか。何とも間伸びした口調である。

さて肝心のお客の家は何処だろうかとキョロキョロしているとすぐ近くに居た女性に声をかけられた。

 

「あなたもガンテツさんにボールを作ってもらいにきたの?」

「いや、俺は配達で来たんだ」

 

あら、そうだったの!ごめんなさいねと言いながら女性は恥ずかしそうに笑った。

ボールを作ってもらったことはないが、雑誌なんかでも見たことがあるためガンテツさんの事は知っている。女性によると、この町にはガンテツさんにボールを作ってもらおうとするトレーナーが良く訪れるらしい。

 

「へぇー…。ところで、この住所の家は何処だか分かりますか?」

 

忙しい人なんだなと思いながらもアッシュがついでとばかりに配達のリストを女性に見せると、覗き込んだ女性は「あぁ!炭職人さんのところね!この御宅ならこのすぐ先よ」と教えてくれた。

礼を述べるとカモネギがいるから見せてもらうと良いわよと言われ、カモネギってなんだっけなと首を傾げつつもその場を後にする。

ポケモンだったのは間違いないが、どんなポケモンだったかまでは思い出せない。

 

少し歩いていくと、蒔き木を脇に積み重ねた家が見えてきた。

煙突から白い煙が上がっているところを見るに、あれが配達先である炭職人の家らしい。すぐ横にあった看板を覗き込んで見ると、

 

「ここは炭職人の小屋。炭の材料探しはカモネギにお任せ!」

 

というキャッチコピーが書いてあった。

炭といえば炎タイプだろうかとも思ったが全くもって覚えがない為分からない。思い出せないもやもやした気持ちを抱えつつ中へと入ると、釜戸の中の火がごうごうと燃えておりそれ程近くでもないのに物凄く熱い。

その熱さを物ともせず、二匹の鳥ポケモンが楽しそうに小屋の中を走り回って居た。

 

「どちら様ですか?」

「漢方屋です。配達に来ました」

 

すぐアッシュに気がついた職人の一人がこちらへきたので、商品の中から頼まれたものを探し出して彼に渡す。お代を待つ間に走り回るポケモン達を見て、そういえば確かにこれがカモネギだった!と自分の中で合点がいったので漸く気持ちがスッキリする。

 

お代を受け取り、とりあえずカンポウに電話を入れようとポケモンセンターへ向かうと、入り口の所でセンターを後にしようとしていた人と鉢合わせした。

 

「すみません」

「いや、此方こそ」

 

相手の方が早かったので先に道を譲ると、丁寧に挨拶をして緑髪をなびかせながら相手がセンターを出て行く。声を聞くまで男か女か分からなかったが男だったのか。さすがにご本人には聞かせられないことを思いながら、アッシュもセンターの中に入って行った。

 

その後、無事届けた事やこれから帰ることを報告するとラッタを連れてウバメの森の入り口へと足を運んだ。すると通路にいた婆さんにぼそりと、けれどしっかりとした口調で声を掛けられる。

 

「森には神様がいるという……悪さをしたらいかんぞい」

「あぁ、分かりました」

 

悪戯するような歳じゃないけどなと思いつつ素直に頷いておくと、婆さんは満足そうに笑って「気をつけてお帰り」と小さく手を振った。

それに小さく頭を下げ、アッシュは森に足を踏み入れた。

 

「それじゃあラッタ、もう少し頼むよ」

「ラッタッ!」

 

勇ましく先頭を歩き出すラッタに続いて、アッシュは森を抜けるべくまたラッタを抑え込む役に徹することにしたのであった。

 


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