漢方配達する青年と無愛想なイーブイの話   作:ノクス*。

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「戻りました」

「おぉ!ご苦労じゃったな!」

 

コガネシティにあるカンポウの家に直接戻ると、座っていたカンポウがわざわざよっこらせと立ち上がって出迎えてくれた。

部屋の中を見渡せば、簡素ながらも和風な間取りとなっている。天井には吊るされ乾燥させている最中らしい薬草が束になってぶら下がっていたり、標本よろしく種類ごとに瓶詰めされずらりと並べられた薬草、そして恐らくそれらを加工するのに使うのであろうたくさんの道具にまみれている。

部屋の中は少々狭いが、少し日に焼けたい草の香りが鼻をくすぐり漢方独特の匂いと混ざって不思議と落ち着く香りがする。

 

近づいてきたカンポウに、とりあえず頼まれた薬の代金とモンスターボールを返すとはて?と首を傾げる。

何事かとアッシュも首を傾げると、「これは違うの」と先ほど渡したモンスターボールを返して寄越した。

帰ってきたボールをよくよく眺める。そこで初めて自分が渡したのがラッタのボールではなく先程少年に押し付けられたイーブイのボールだと気づく。

 

「え、何で分かるの?」

 

見た目はただのボールなのに何故と思っていると、カンポウは目を細め何処か穏やかに笑った。

 

「長年連れ添ってるとな、何と無く分かるんじゃよ」

 

そういうものなのかとポケモンとトレーナーの絆に少しばかり感動していると、「ところで、見たところ空ではなさそうじゃな。捕まえたのかい?」と尋ねる。

ラッタの活躍を想像してか、ワクワクしたような面持ちなのがアッシュとしては少々心苦しい。

確かにラッタの功績とも取れるがアッシュにとってそれが功績かと言われるとそうでもない。

少年に押し付けられた経緯を話すと、「そうかそうか…」とだけ呟いてにっこりと笑みを浮かべた。

それは初めて会った日から、お使いを頼まれる今日まで何度も見てきた人の良さそうな笑みである。さっき感じたばかりだが何度でも言おう。

 

嫌な予感しかしない。

 

「ならば育ててやれば良い良い」

「いやいやいや!俺ポケモンなんて育てたことないから!」

 

何歳になろうともきちんと登録さえすればトレーナーになることは出来るが、アッシュは旅とかポケモンリーグとかに心惹かれるものを感じない。

勿論、自分だけのポケモンというのに全く心惹かれなかったわけではないが、弟分達が旅立っていくのを見て思ったのは大変そうだなぁということが大半を占めていた。

一匹でも面倒……ではなく色々な世話がかかるというのに、ポケモンリーグに挑むには六匹全てのコンディションを揃える必要がある。

自分の世話ですら大変だと思うのに、全ての手持ちに気を配るなんて自分にはとてもじゃないが出来ない気がしたのだ。

かといってコンテストなども美に興味が薄い自分には向いていない。

それに、アッシュは指示を出すのが下手であまりバトルも好きではなかったので、コンテストであれトレーナーであれバトルに明け暮れるなど辛くて仕方ない。

そういうことは好きなヤツに頑張ってもらえばいいというのがアッシュの理屈であった。

 

それを簡単かつやんわりとカンポウに伝えたが、ただただ笑うだけで「とりあえずポケモンセンターに連れてっておあげ」と追い出されてしまう。

確かにいつまでも怪我をしたままボールに放置しているのは可哀想なので、アッシュはそれに素直に従い街中のポケモンセンターを目指して歩き出した。

 

 

 

 

「こんばんは、ポケモンセンターです……って、あら?アッシュさん?」

 

ポケモンセンターに着くと、カウンターにて丁寧に挨拶してくれたコガネシティのジョーイは不思議そうに小首を傾げる。

 

「あらあら、珍しいですね?あぁ!もしかしてラッタの回復かしら?」

 

カンポウのところでボランティアをしているのを知っているジョーイは合点がいったように笑ったが、アッシュは思わず曖昧な笑みを浮かべてしまった。

 

「いや、それが…」

 

事の詳細を簡単に説明すると、驚いたように目を丸くした後ジョーイは眉を下げ表情を曇らせる。

 

「その子なら、何度も此処へ来ていますよ。確かに懐かないとよく言っていましたけど…」

 

手元にあるイーブイのボールをそっと撫でると「でも、まずは回復が先ですね」とジョーイは持ち直したように言って、イーブイを回復機へ連れていくよう伝えてからラッキーへと手渡した。

任せといてとかそんな事を言って去っていくラッキーを何と無く見送っていると、ジョーイはいつの間にか何やら書類を出している。

 

「それは?」

「カードの手続き書類です」

「え、いや…俺はまだあいつを引き取るって決めたわけじゃ」

 

断るよりも先にジョーイは申し訳なさそうにしかしはっきりと告げた。

 

「事情はどうあれ、ここはトレーナーカードがないと本当は使えないんですよ。なので、とりあえずカードの手続きをしましょう!」

 

ね?と念を押されてジョーイさんもそれが仕事なのだから仕方ないと自分に言い聞かせ、アッシュは渋々ペンを手にとった。

 

「はい、登録完了です」

 

そしてジョーイにカードを手渡されたアッシュは、人生で初めて自分のポケモンを持つことになったのだった。

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