漢方配達する青年と無愛想なイーブイの話   作:ノクス*。

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翌朝、アッシュがベッドから起き上がろうと大きく身動ぎをすると、イーブイが跳ね起きる様にして寝床から起き上がる気配がした。

慣れない場所で驚いたのだろうと思い、さして気にすることなくゆっくりと身支度を整え、移動する前にイーブイへ声を掛ける。

 

「おはようイーブイ」

 

その後で棚の裏へ顔を覗かせると、寝床からじっと見つめるイーブイと視線が合う。なるべく刺激しないように注意を払いながらフーズをやろうと近寄る。

イーブイは昨日と同じく相も変わらず不機嫌そうだったが、立ち上がることなくじっとこちらを見つめている。

さてどれくらい食べただろうかとフーズ入れ代わりの小皿を見やると、フーズが半分程減っている。

思ったよりも手をつけてくれたなと嬉しい気持ちになるがあまりそれを表に出さない様にしながら一度その場を離れる。

皿を洗ってまた新しくフーズを用意し、昨日と同じようにアッシュ自身がフーズと水に手をつけてからゆっくりと立ち上がると、自分の朝食を用意しに台所へと向かった。

 

そして昼間はイーブイを置いたままバイトや漢方配達に行き、帰ってくるとイーブイの食べた量や排泄量を確認するというサイクルを繰り返した。

たまに掃除がてら部屋の中も確認するが、物が動いている様子もないので恐らく自分のテリトリー付近からこちらへは一歩も動いていないらしい。

まだ触らせてくれる様な段階ではない為お風呂にも入れていないが、自分で毛繕いをしているのかそこまで汚れた様子は見られない。

そもそも、話しかけても此方を無視する徹底ぶりは凄まじく、ここへ来てからイーブイは一度たりとも鳴き声を上げることもないのだ。

多少心配ではあるが、フーズは相変わらず何とか食べてくれている為様子を見ようとその後もイーブイのテリトリーにはなるべく近づかずに自身の好きなことをして過ごす様にした。

 

そんなことを続けてちょうど一週間、イーブイはようやく用意したポケモンフーズを目の前で食べてくれるようになった。

此方を無視するのと警戒してなのか半分程残すのは相変わらずだったが、これは大きな進歩だろうと思う。

そこからアクションの仕方を変えることなく更に数日が経つと、イーブイの方も何となく態度が軟化した様子が見られた。

こちらに対する態度は相変わらずなのだが、首や足を今までより伸ばすなどややリラックスした様子を見せることが多くなったのだ。

 

そんなある日のこと、バイトも配達もなくベッドの上でアッシュはのんびりとポケモンの育て方という初心者向けの本をパラパラとめくっていた。買出し中、たまたま目について手に取ったのだが、初歩の初歩全てのポケモンにほぼ共通するだろう事が書かれている。

個体ごとに好きな物は違うのでその子の好きな物を探しましょうとか、具合が悪い時だけでなく定期的にポケモンドクターやポケモンセンターで様子を見てもらいましょうといった具合だ。

どうやらそこからタイプ別に書かれた冊子を買ってほしいというような内容であった。

今のところこれと言って参考になった部分はあまりないが、当たり前を知るのも大事なことだろう。

そう思うことで折り合いをつけていると、

 

「……ブイ」

 

イーブイがここに来て初めて鳴き声を上げたのだ。

それはおいとかなんとか、とりあえずぶっきらぼうな呼びかけであった様に思う。きっとイーブイからしてみれば意を決して声をかけてきたのだろうと思う。

 

「どうした?」

「……ブイブイ、ブイ」

 

アッシュは本を読んでいる態勢を崩すことなくイーブイに尋ねると、「喉が渇いた」的な返事を返してくる。

本をベッドの上へ置いて、取ってきたミネラルウォーターを水皿へと注ぐと静かにその場で飲み始めた。

その顔は相変わらず不機嫌そうであったが、目の前で飲んでくれたことに変わりない。

その日の晩御飯をイーブイは初めて全部平らげ、アッシュはようやく肩の力を抜くことが出来た。

 

 

それはイーブイがアッシュの家に来てから12日後の事であった。

 


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