表紙絵描いたから良ければ見て行って
東風吹かばさん、N2さん、瑪瑙@趣味→誤字報告さん、nekotokaさん、誤字報告ありがとうございます!
一話 「2 Years Later」
二年前が全盛期。
どこかでそんな話を聞いた。
けれど、仕方がないでしょう?
背負うものの重さを知ってしまうと、元のようには動けない。
その翼は、空を自由に飛ぶことができなくなった。
*
その日私は、ポケウッドで映画の撮影をしていた。
ゲーム内ではカルトエンドを試すために大量のバッドエンドを生成したが、ここは現実。
不作一発ですら億単位の損失に繋がりえる。
どう転ぶか分からない演技を避け、なるべく台本通りに演じる。
それが今の私だった。
確かに、私が出た映画は人気が出る。
宣伝に私がいるかどうか。
それが興行収益を決めると界隈では言われているくらいだ。
だけど、私からすればそんなものはうざったいだけ。
最強という言葉は、ただの足かせにしかならない。
いつの時代も、どんな種目でも、挑戦者側の方が精神的にいい状態になる。
ここ一番の勝負所で、攻めに転じるか、守りに入るか。
その差は、実力をどれだけ発揮できるかに現れる。
貪欲に勝ちを求めるものと、敗北が許されないもの。
同じ行動をとるにしてもリスクが違う。
その点、やはり挑戦者は質のいい選択を取りやすい。
私は、失敗することを許されなくなった。
監督やスポンサー、役者に観客。
多すぎる人々からの過剰な期待と信頼。
私には、勝ち続ける責務が負わされた。
「存在の怪しい最適解よりも、確実に存在する準最適解……ねぇ」
「……」
目の前にいる監督に、冷たい視線を突き刺す。
役者として長らくやってきた私のそれは、気温が下がったと錯覚する。
監督はこわいこわいと言って、両手を上げた。
「ルッコちゃんには感謝してるよ? でも、ありきたりな芝居じゃなく、神がかった演技。それが見てみたいなぁ……って思うんだよね」
「……そうしたいと思うような脚本があればそうすると思いますよ?」
「ははは、こりゃ一本取られたね」
挙げた右手を頭に当てて、参ったとのたまう監督。
私が言った言葉は、多分本心じゃない。
私が全力で演技に取り組むことがあるならば、それは一から出直す場合か、最後の一本くらいだろう。
それ以外はリスクに対する見返りが割にあわない。
「ところでなんだけどさ」
そう監督が切り出した。
「いつも通りNG無しで演じてくれたから、だいぶ時間に余裕ができたでしょ? ちょっとお願い事があるんだけど聞いてくれない?」
「聞くだけならいいですよ?」
「さすがルッコちゃん! お願い事っていうのは……」
本当は帰って休むつもりだった。
ほぼすべてのスケジュールが埋まっている私にとって、時短によってできた時間は貴重なフリータイム。
それを浪費させられるのは歯痒くもあるが、私の時間を相手に売ったのだから文句は言えない。
けれどお願いの内容は別に聞く必要はない。
それはサービスであり、私には断る権利があるからだ。
「新人のオーディション相手をしてもらいたいんだよね」
「お疲れ様でしたー」
「早い!? ちょっと、待って!?」
つったかつったか。
踵を返して出口にすすむ。
私が作った時間だ。
誰にも渡さない。
「ルッコちゃん、最近心を打たれたのって、いつ?」
ピタリと、足が止まった。
思い返されるのは二年前、Nの城での出来事。
あの日、自分の本心に触れた。
触れて、成長したと思う。
でも、それ以降は?
「その新人さん、長らく俳優を夢見ていたんだけど本職との兼ね合いで諦めていたんだよね。でも、なにかが切っ掛けになって俳優に挑戦することを決めたらしい。その思いと向き合ってみないかい?」
何かが変わるかもしれないよ。
そう監督は言った。
二年前もそうだった。
剥き出しの信念、情熱にあてられ、心動かされ、確かに自分の中にある熱源を感じた。
「……それもいいかもしれないですね」
ここ最近、演技に対する熱というものを見失いかけていた。
もしそのオーディションを受ける人が私の心を動かしてくれるほどの熱意を持っていたら。
私はさらに成長できるかもしれない。
「よし、なら早速現場に向かおう。となりの撮影スタジオで待機してもらっているんだ」
*
隣のスタジオにいたのは船乗りだった。
聞くところによると船長らしい。
なるほど。
確かに船長となれば俳優をしていく時間もないだろう。
(はて、何か大事なことを忘れているような)
思い出せないということは大したことではないのだろう。
ということで普通に共演者と考えて演技してみる。
けれど……。
(これはヒドい……)
ポケウッドは『倒せ』、『やられろ』などの指示以外、つまり『セリフ』は自分で考えなければならない。
だがこの船長、いくらなんでもひどすぎる。
仕方がない、フォローしてあげるか。
「リオルマン! 私がついてる! 不安や悩みは全部預けて、全力全開のパワーを見せつけて!」
大げさな演技。
魅せることを意識したそれは、初心者であろうと物語の世界に引き落とす。
私が主演を務めた作品が人気なのは、周りの演技のレベルも上がるから。
実際ほら、彼はリオルマンと現実の自分との間に境界線を引いていた。
その境界線を曖昧なものにし、こちらに連れ出す。
「すまないッ! うおおおお! 行くぞ、ハチクマン!」
……このハチクマンは、ギリギリプラス収支くらいだろう。
まあ主演が新人でプラス収支なら上出来なんじゃないかな。
しかしまあ、無駄な時間を過ごした。
ハチクさんがいるなら私いらなかったじゃん。
もういいや、帰ろう。
私が帰ろうとした瞬間の事であった。
「ウェルカムトゥポケウッド! やー、キョウヘイさん! お待ちしておりましたよ!」
なんで!?
なんであいつがここにいるの?!
ふぅ、落ち着け。
よく考えればキョウヘイはトップ俳優として名を残すことになるんだった。
つまりここにきていてもおかしくない。
(でもさすがに早くない?)
Nの城での決戦が二年前。
BW2がBW世界線の二年後。
あら、ぴったりだった。
(なんでそんな大事なところ忘れるかなー!?)
さっきの船長。
あれはおそらくホミカの父親。
たしかにあの酷い演技はホミカパパだ。
(とにかく、大事なのは今この場から立ち去ること)
ファイアローを出そうとボールに手を掛けた時だった。
「そうだ! ちょうど今ルッコちゃんがいらっしゃっているんですよ! 彼女は我がポケウッドが誇る看板スターなの! そんな大スターの彼女と初々しいキミにピッタリな台本も用意してあるのよ!」
「ちょっと待って! なんで!?」
「どうしたのルッコちゃん?」
「いや、私がなんでそんな素人と演技する前提の脚本が存在しているんですか!?」
思わず突っ込んでしまった。
キョウヘイはびっくりしてこちらを呆然と見ている。
とにかく、変なフラグは立てるべきではない。
ここは逃げるが勝ちだ。
「いやいや、さっきも船長さんと共演したじゃないの。今回もたのむよー」
「さっきのでこりごりです! もうやらないですよ?」
「ルッコちゃんにも初出演があったでしょう?」
「私は初出演から天才だったので」
初出演がエキストラとしてなのか、セリフがある役なのかというのはあるかもしれないが、どちらにせよ私は期待以上のものを演じていたはずだ。
「ならキョウヘイ君も天才かもしれないよ?」
「そんな低確率に賭けるほど私の時間は安くないんですよ」
「でもルッコちゃん、逆張りすきだよね」
「うぐぐ」
好きです。
敢えて定石を外した展開とか大好きです。
私から言わせてもらえばキョウヘイが大ヒットすることなんて目に見えている。
だから逆張りならキョウヘイがヒットしないパターンだ。
けれどそれを証明することはできない。
(あれ? キョウヘイがヒットしない場合……?)
夢の跡地以来、原作への介入はできる限り抑えてきた。
けれど、ポケウッドに関してはサブイベント的な扱い。
してもしなくてもいい。
つまり、キョウヘイを潰しても問題ないのでは……?
「……分かりました。なら、全力で相手してあげますよ。天才だというのなら、ポケウッドの未来を背負うというのなら、これくらいこなせないといけない。それくらい本気で挑んであげます」
だから……覚悟しろよ?
ルリちゃんは一応本業はアイドル。
時折映画撮影に赴く感じ。
その他ラジオとか声優とかもやっているらしいです。
時間足りるの?