GN-XXさん誤字報告ありがとうございます!
崩壊した未来。
人々の命運は襲来した宇宙人が握り、世界の支配構造は一新された。
そんな宇宙人たちにあらがうべく、人類は立ち上がった。
かつての自由を求めて。
少年には、尊敬する人がいた。
その人は自分と同い年でありながら、宇宙人と最前線で戦い、いつも被害をギリギリに抑えていた。
人類が絶滅していないのは、その人のおかげだといってもいい。
だが、少年はその人が苦しんでいることを知っていた。
「同じだ……。何回繰り返せば、この悪夢は終わるの……。あと何人、見殺しにすれば……。いつまで、延命措置を続けるの。永劫に苦しむことになると、分かっていながら」
彼女は、いつも一人で泣いていた。
最大多数の人を助けるために、最少寡数を切り捨てる。
彼女が狂っていれば、壊れていれば、心が弱ければ。
こんなにも苦しむことは無かった。
だけど、彼女は正常を保ち続けた。
異常に落ちないことが異常だった。
「私の手なんかじゃ……こんなに一杯の命を、掬いきれないよ……」
少年は決意した。
彼女の支えになることを。
少年は覚悟した。
彼女の為に命を捧げることを。
少年はここに、絶対不破の誓いを立てた。
*
そうして、二年の月日が流れた。
少年は彼女の部隊に組み込まれ、かの日の誓いを守るべく精進していた。
そうして、その日が訪れた。
「隊長! 俺も、俺も戦います! 俺はこの日の為に……!」
「命令よ、引きなさい。私の事を真に思うのならば、引いて、引いて次につなげるの。それが最善なのよ」
「未来の最善なんてくそくらえだ! 今、この一瞬の最善を、俺は選びます!」
「……キョウヘイ……」
キョウヘイと呼ばれた隊員が、隊長に食い下がる。
隊長である彼女は一筋の涙と、ほんの少しの笑みを浮かべた。
けれど驚いて瞬きすれば、そこにはいつもの氷のような表情があるだけだった。
「あなたの思いは分かったわ。でも、あなたを連れて行くことはできない」
彼女はボールを取り出すと、砂ザメを繰り出した。
彼女の手持ちの特攻隊長。
青い肌に鋭い鎌を持ったそのポケモンは、ガブリアスと呼ばれている。
「どうしてもというのなら、私を超えていきなさい」
音を立てて空気が軋む。
威圧、重圧、緊迫。
なるほど、彼女こそ百戦錬磨と呼ぶにふさわしい。
それは英雄の気迫。
王者の風格。
それを前に、逃げ出したくなる思いを堪えて、キョウヘイは前に踏み出した。
「分かりました。行きます! 頼んだぞ、オノノクス!」
*
というのが大まかな台本。
あとはキョウヘイがレンタルポケモンでどうにかしてガブリアスを倒すだけ。
レンタルポケモンのオノノクスは、気合の襷を持ったカウンター型。
こちらが地震などで攻めて、耐えて、返しの一撃で落とす。
それがキョウヘイの勝ち筋。
……そんな手ぬるい行動、私がとると思った?
「ガブリアス! ダブルチョップ!」
「なっ! しまった! かわせ!」
「キャンセルしてすなあらし!」
ダブルチョップは隙を生じぬ二段構え。
迫りくる第一の刃を堪えても、次の攻撃が牙をむく。
ゆえに回避行動は正解だ。
だが、気合の襷を潰す方法なんていくらでもある。
「くっ、戻れ!」
すなあらしはじりじりと相手の体力を削っていく。
そうすれば気合の襷は意味をなさない。
その前に引き、襷を温存したのは正解だ。
あいてがガブリアスでなければ。
「ガブリアス、ステルスロック」
キョウヘイのバトルフィールドにとがった岩が漂い始める。
これで再びオノノクスを繰り出したときにはステルスロックが突き刺さり、襷が効果を失う。
襷を残す方法は存在するけれど、キョウヘイは気付けるか。
「フォレトス! こうそくスピン!」
……やるじゃん。
こうそくスピンにはステルスロックを取り除く効果がある。
これですなあらしが切れるタイミングで再びカウンターを狙えばいい。
確かに、勝ち筋は残っている。
残ってはいるが、堂々巡りだ。
「ねぇ、いつまで続けるの?」
何も変わっていない。
なんどカウンターを試みようと、対面はダブルチョップかすなあらし、交換されればステルスロック。
それを繰り返すだけでじりじりとキョウヘイの手持ちは削られていく。
いつか来る終焉を先延ばしにしているだけだ。
「ずっと、ずっと憧れている人がいました」
キョウヘイの独白。
「幾度となく人類を絶滅の危機から救いながらも、いつまでこんなことを繰り返すのか。決まった終焉を先延ばしにして、永劫に苦しむのかと、葛藤している人がいました」
ポケウッドでは、セリフが重要な役割を担っている。
キョウヘイの言葉選びは緻密で繊細で、的確だった。
「それでもその人は、絶対に諦めなかった。何があっても挫けなかった! 俺も、そんな人になるって、決めたんですッ! フォレトス、だいばくはつ!」
大爆発は、いわゆる自主退場技に含まれる。
他には三日月の舞や置き土産があり、相手の起点になることを回避、あるいはトリックルームや追い風などの時間制限のあるギミックを最大限生かすときに使われやすい。
自らの命を、次に託す技。
「頼んだぞ! オノノクス」
再び現れたオノノクス。
特性闘争心を発揮し、ベストパフォーマンスのオノノクス。
一方、大爆発を受け、大きく消耗したガブリアス。
わざわざカウンターを打たずとも、急所に当てれば倒せる可能性が浮き上がる。
そして彼は、そのごくわずかな可能性に賭けてきた。
「オノノクス! ドラゴンクロー!」
「ガブリアス!」
ガブリアスはレンタルポケモンではない。
ゆえに、わざわざ指示をしなくてもいい。
ずっと一緒に戦ってきた、大切な仲間だ。
ガブリアスの攻撃が、オノノクスに迫る。
ダブルチョップのような連続技ではない、一撃に重みを置いた技。
「オノノクス! キャンセルしてカウンターだ!」
オノノクスが無理やりその場にとどまり、カウンターの構えを取る。
HPが削れていなければ気合の襷が発動する。
完璧な一手。
キョウヘイはここまで読んでいたのだろうか。
急所に賭けたような指示は、演技。
さすがはトップ俳優になる男だ。
「さすがね……でも、まだ足りない」
それじゃあ届かない。
首を取るに及ばない。
ガブリアスが攻撃することを読んでいた?
読まれる可能性を、私が、考慮していないとでも?
オノノクスのカウンターがガブリアスを捕らえる。
ただし、『ガブリアスの攻撃を受ける前に』だ。
「オノノクス!?」
「ドラゴンテール」
ガブリアスの鮫肌に触れ、体力の削れたオノノクス。
気合の襷は発動しない。
深く、地面に突き落とす。
「そんな、どうしてカウンターが先に……?」
「ドラゴンテール、カウンターよりさらに遅い攻撃。カウンターは後の後に発動してこそ真価を発揮する。なら後の先を譲ればいい」
「そんな、ガブリアスの速さを殺すような技なんて……」
「でも、それもまたポケモンの可能性よ」
ガブリアスをボールに戻す。
キョウヘイの前から立ち去る。
ふはははは、キョウヘイのスター生命を潰してやったわ!
このルリ様を口説き落とそうなんて一万光年早いんだよ!
*
「お前のその勇気、その覚悟は一体どこからやってくる?」
「もちろん、あの惑星から!」
楽屋にて、今回の映画をパソコンで見ていた。
部下を地球に残し、敵の親玉と宇宙で最終決戦を繰り広げる。
「あそこには、守りたい人が大勢いる。一番、守りたい人がいる!」
お互いがぶつかり合う。
広い月に、ちっぽけで、強大な力を持つ二人。
斬り、結び、弾く。
その戦いは死闘と呼ぶにふさわしいものとなった。
この時点でキョウヘイは主人公から落ちたと思ったんだけどなぁ……。
「ルッコ隊長!」
なんでお前このタイミングでやってくるんだよ……。
宇宙人は撃退した。
けれど帰るすべを失い、一人月に残される運命にあった私。
そんな私を、私が生きていると信じて、月までやってきたキョウヘイ。
そんな幕引き。
「いやールッコちゃん! 今回の映画なんだけどさ、予想を超える展開にみんな大興奮! さすがルッコちゃんだって! キョウヘイ君も期待の新人として取り上げられてるよ!」
「……なんで、カルトエンド……」
「ルッコちゃん、何か言ったかい?」
「いいえ何も」
映像を巻き戻し、最後のシーンを繰り返す。
キョウヘイに抱きしめられて、頬を赤らめる私。
「~~~~~~ッ!」
あんなやつに絶対靡かないんだから!
絶望への反抗!!とB★RSと武装錬金とノゲノラまぜた感じの映画。
カウンターにドラテ打ったらカウンターは不発だと思うけど、この世界微妙に技がゲームと違う仕様だから許して。