ルリった!   作:HDアロー

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昨日間違って今日の分上げていました。
なので昨日の19:00~22:30頃に読んでから読んでないという方は一話前の話をお読みください。
大変申し訳ないです。

あと誤字報告してくださった皆さんへ。
確認する前に丸っと修正したので分かんなくなっちゃいました……。
もう一度読み直して修正したつもりですがまだ漏れてるよ!
っていうところがあればお手数ですがもう一度報告いただけると嬉しいです。
本当に申し訳ございません。


四話 「海の王者II」

『えー皆様、お集まりいただきありがとうございます。この船は我々がジャックさせていただきました。生きて帰りたければ私たちの要求を聞いてください』

 

 違和感の正体にようやく気付き、今更感に苛まれる。

 わざわざ乗客の不安を煽るような言い方。

 そして甲板への誘導。

 これが違和感だったのか。

 

『乗客の中に、白いワンピースに白い帽子のピンク髪の少女がいる。その少女をこちらに引き渡していただこう』

 

 あれ?

 それ私じゃね?

 

「いたぞ! あいつだ!」

 

「わりぃな、俺にも家族がいるんだ」

 

 様々な弁明を述べられ、なされるがままに拘束される。

 私を捕らえようとするのはほんの数人。

 大多数は傍観を決め込んでいる。

 そりゃそうだ、自分の手を汚さずに助かる、一番いい選択だ。

 

 後ろ手に腕を縛られ、前に突き出される。

 キョウヘイとヒュウはこの人混みに捕まっているのが視界の隅に映っている。

 役立たずめ。

 

「ふ、ようやく捕まえたぞ。白い悪魔め」

 

「いやそれだとトゲキッスになっちゃうじゃん、ここはピンクの悪魔だろ」

 

「それだとラッキーじゃねえか」

 

「いやカービィだろ」

 

 かっこつけてプラズマ団が登場した。

 黒い服の、新生プラズマ団だ。

 アナウンスに使っていたマイクではなく、肉声でどうでもいい会話をしている。

 遠くの乗客に聞かれないのはいいが、この状態で放置されるのは流石に腹が立つ。

 

「私に何の用?」

 

「なんの用だと? しらじらしい」

 

「役者ですから」

 

 しかし本当に訳が分からない。

 この感じ、プラズマ団に私が敵対していることがばれている?

 はて、どこでミスったのか。

 

「二年前、まさにプラズマ団が世界を掌握しようというとき、妨害が入った。一人はカノコタウンの少年、こいつはわれらの王だったものを退けた」

 

「なるほど?」

 

「そしてそのカノコタウンの少年を退けたゲーチス様の邪魔をしたやつがいた」

 

「ふむふむ」

 

「お前だ! なんなんださっきからその適当な返事は! お前の立場が分かっているのか?」

 

 私の事だったのかー、と驚いた表情をしておく。

 ワンチャン勘違いだと思ってくれたらラッキーだからね。

 しかし、これは完全に顔が割れてるっぽいね。

 なんでなんだか。

 

「そいつはファイアローとガブリアスとミミッキュを使っていたという! お前以外にこんな手持ちのトレーナーはこのイッシュに存在していなかった!」

 

「へぇ?」

 

 貼り付けた笑顔を引っぺがし、正面から向き合う。

 しかしどういうことだろう。

 ガブリアスはポケウッドで、ファイアローは移動手段として人の目に付くところに出したことはある。

 けれどミミッキュの存在は徹底して秘匿してきた。

 レンタルトーナメントに参加したのも、ミミッキュを公の場に出さないためにである。

 

(いや、違うか。そもそもファイアローとガブリアスの両方を手持ちに入れているトレーナーが少ないんだろう)

 

 その上でゲーチスの前に現れた時の背丈、声色、立ち回り。

 そういったところでバレたのだろう。

 やっぱりあの時出て行ったのは下策だったか。

 うーん、ここからどうにか巻き返す手段はないか。

 あ、そうだ。

 

「ガブリアスもファイアローもポケウッドのレンタルポケモンなんだけど……」

 

「!?」

 

「だから人違いなんじゃないかなー?」

 

 ふふふ、どうだ私のポケウッドのレンタルポケモンです作戦は。

 作戦名が愚直すぎるって? 気にしない気にしない。

 だがまあ、これを嘘だと証明することはできないだろう。

 なぜなら彼らは、あの場にいなかったのだから。

 私の事は伝聞でしか知りえないだろう。

 

 それならまだ誤魔化しようはある。

 

「な、ならばミミッキュはどうだ!」

 

「ミミッキュ? どんなポケモンなの?」

 

「こう、ピカチュウの偽物みたいな……」

 

「何ポケモン? 何タイプ? 生息地は?」

 

「う、それは……」

 

 作戦セカンドフェーズ、問答法。

 もともと相手の無知を指摘するための手段をシラを切るために使う。

 天才過ぎる。

 さあ、知っている情報を洗いざらい話してもらおうか。

 

「ええい、そんなことどうでもいいのだ! 我々は今一度このイッシュを支配すべく乗り出すことにした。その先駆けに、理想を汚すお前をここで消す!」

 

「できると思ってるの? この負け犬風情が」

 

「この! ヒヒダルマ! サイコキネシス!」

 

 こちらルリ。

 作戦サードフェーズ、時間稼ぎは失敗に終わった。

 キョウヘイとヒュウが助けに来るまで耐え凌ぐことはできなかった模様。

 至急リカバリーを要請する。

 ……ふざけてる場合じゃないんだよなぁ……。

 

 ヒヒダルマ(ノーマルモード)が私にサイコキネシスを使う。

 いくら特攻種族値が低いとはいえ人体に使う技じゃないだろ。

 私の体は勢いよく甲板から放り出された。

 今になって私に憐憫の目を向ける乗客たち。

 

(まあいいよ、私は心が広いからね。すべてを許してあげる)

 

 ボールはバッグに入れている。

 ファイアローを取り出すこともできない。

 ゆえに、海に放り投げられるのは確定事項。

 決められた運命。

 

 荒波と荒波がぶつかり合い、飛沫をあげて遮蔽物となる。

 

 誰からも見えない場所で。

 

 私は独り。

 

 笑みを浮かべた。

 

「だから、どうしたっていうのさ。運命切り開くって言ってるでしょ?」

 

 海が盛り上がる。

 かつて出会った海の王者。

 その者の名前は。

 

「来いッ! ラプラス!」

 

「くうぅぅぅん!」

 

 衝撃を逃がしつつ、ラプラスの背中に降り立つ。

 体を捻り、ラプラスに指示をする。

 

「こおりのつぶて」

 

 私を拘束していたロープが切り裂かれる。

 ロープだけを器用に切り落とすあたり、知能の高いポケモンだよなぁと思う。

 

「くぅーん」

 

「分かった分かった! あとでかまってあげるから今は静かにしてくれ」

 

 首をひねり頭をこすりつけてくるラプラスを引き離す。

 覚えているだろうか、このラプラスの事を。

 かつてプラズマ団に襲われていたあのラプラスだ。

 実はあれ以来、ずっとストーカーされている。

 どうやって尾行しているのか気になったらコイツ、氷人形と同じような事してやがった。

 ポケスペ時空の技を持ち込んでくるなよと突っ込みたくなった。

 

 原作だと口紅でチェックを付けると氷の錠を掛けられる仕組みだったが、それが機能するかは恐ろしくて試せていない。

 分かっているのはGPSと同じ効果を持っているということだけ。

 そしてそのGPSを私に取り付けていたということだ。

 私のストーカーの中で一番質が悪いといってもいいかもしれない。

 

 ん?

 氷人形を壊さないのかって?

 そんな恐ろしいこと出来るわけないでしょう!

 人体とリンクしているかもしれないんだよ?

 氷人形を壊したら私の体もバラバラって可能性もあるのにそんな真似できないよ!

 

 さて、プラズマ団狩りと行きますかね。

 勝利条件はプラズマ団に私の存在を知覚されないこと、ラプラスのみで片を付けること、乗客に被害を出さずに一撃で葬ること。

 プラズマ団に察知されては奇襲のチャンスを不意にする。

 せっかく私と二年前の人物は別人説を提唱したんだから、ここでガブリアスやファイアローは出したくない。

 ワンチャンそのまま別の人間だと思ってくれれば儲けものだ。

 そして最後、乗客に被害を出さないのは当然だろう。

 

「楽勝過ぎるね」

 

 ラプラスに視線を送る。

 賢いこのポケモンは私の意図を汲んで頷いた。

 ラプラスの上で瞳を閉じ、船上をイメージする。

 俳優として生きてきて、視点を移動する術を身に付けた私には余裕過ぎる。

 

 ラプラスと心を通わせる。

 この二年間、強さを追求する過程で身に付けた技術。

 トレーナー自身が心の目で敵を捕らえた時、それはポケモンに伝わる。

 

 大げさな身振りはいらない。

 ただ一言、静かに言い放つ。

 

「ラプラス、ブリザードバーン」

 

 言い終わるや否や、ラプラスから凍てつく波動が放たれる。

 触れるよりも早く海を凍らせながら、目標に向かい一直線に突き進む。

 その先にいるのはあのプラズマ団たち。

 極寒の一撃はプラズマ団だけを飲み込み、戦いは幕を下ろした。

 

「ラプラス」

 

「くぅん」

 

 ラプラスに先を急がせる。

 船に背を向け、波に揺られ。

 脳内に流れるはラプラスに乗った少年。

 背中には視線が二つ。

 きっとキョウヘイとヒュウのものだろう。

 背を向けたまま、軽く右手を振ってお別れする。

 

「はぁ」

 

「くうぅん?」

 

「失敗したなぁ」

 

 そうかぁ、手持ちからバレるよなぁ。

 どれもこれもイッシュ図鑑に載らない外来種だもんなぁ。

 一応、私が二年前の人物でない可能性も考慮してくれる可能性もゼロではないけれど、まあ決め打ちしてくると考えた方がいいだろう。

 普通に考えてみんながレンタルポケモンじゃないのは分かるもんなぁ。

 

「それにしても、今更って感じがするけどなぁ」

 

 ガブリアスやファイアローは前々から使っていたからなぁ。

 もっと早く割り出されていてもおかしくないと思ったけれど。

 ……違う、逆なのか。

 

 今まで接触してこなかったのは組織がバラバラだったから。

 つまり、すでにある程度組織体制が整い始めている。

 そう考えればこのタイミングで仕掛けてきたことにも納得がいく。

 ということは、これから先も今のような事件に巻き込まれることが増えるかもしれない。

 

「いや、巻き込むかもしれないの方が適切かな」

 

 それは悪いなぁ。

 特にお世話になった人たちに迷惑をかけるのは気が引ける。

 ライブとかスケジュールが知られるようなことをすれば即襲撃を受けるよなぁ……。

 

 ライブキャスターを取り出し、事務所に報告する。

 プラズマ団に襲撃を受けたこと、これからも受けるかもしれないこと、ライブは危険だからやめる事、そして。

 

「アイドルやめます」

 

 このあとめちゃくちゃ叱られた。




ブリザードバーンはポケカのラプラスGXの技。
プラムちゃんかわいい。

海も凍らせたのは海流に流される確率を少しでも減らすためだとかなんとか。

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