ルリった!   作:HDアロー

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暁 ののの!さん、GN-XXさん、誤字報告ありがとうございます!


五話 「共同戦線」

 アイドルを辞めると言ったが、やめさせてもらえなかった。

 けれど船に乗った乗客たちの証言により、私が襲撃されたことは事実だと判明。

 事態を重く見て、無期限の活動休止が発表された。

 そんなこんなで突発的にライモン遊園地で一曲だけ歌うことになった。

 

 ライモン遊園地であることは突発的でも人が集まりやすい事、もともと警備が多い事、そして私の初めてのコンサート場所だったことからだ。

 開始三十分前にSNSで突然の発表だったが、多くの人が集まった。

 ルッコという少女がどれだけ愛されているかを知った。

 

 公演を終えて、髪を解き、ルッコからルリに戻る。

 無期限の活動休止と言いつつ、実際のところプラズマ団が殲滅されるまでが私の休止期間だ。

 ことは迅速に運ばなければならない。

 早々にプラズマ団を潰す。

 

「うへぇ、まだ一杯人がいるよ……」

 

 裏口から出れば、熱気の止まぬ観客たち。

 彼らはプラズマ団の事を知らない。

 だから危機感を持っていないのだろう。

 それは仕方ないと思う。

 

「だから最終公演とかもやりたくなかったんだよ」

 

 まあ終わってしまったことは仕方がない。

 何も起きないようにお祈りしよう。

 

 夕日が、空の境界に落ちる。

 空を赤く燃やし、朝と夜の入れ替わりを告げる。

 あれだけ大量に居た観客たちも、既に大多数が帰り、遊園地は平常通りの賑やかさに戻った。

 

「観覧車……」

 

 忌々しい記憶だ。

 こことは違う世界線での思い出。

 キョウヘイに依存し、ヤンデレになる未来。

 その未来を変えるために、小さい頃から走り回り、今の私がここにいる。

 

 思えば、この観覧車もずっと避けていた。

 もうしばらくここに来ることは無いだろうと思うと、それはそれで寂寥感があり、思い出として真下から仰いででみることにした。

 夕暮れ時で、気持ちが途切れていたのか。

 私は彼に気づかなかった。

 

「観覧車、美しい数式の集まり」

 

 飛び退き、地を蹴り、後ずさる。

 

「N……」

 

「やっぱり、君だったんだね」

 

 そこにいたのは旧プラズマ団の王、ナチュラル・ハルモニア・グロピウス。

 どうしてここに? と思ったが、こいつはよく観覧車の前に出没するんだったと思い出す。

 そして、Nの発言から察するに、二年前の人物であることは察知されているのだろう。

 くぅ、ポケウッドで使ったのは間違いだったなぁ……。

 いや、今回は不用意に名前を読んだ私が悪いのか?

 うーん、でも接触してくるってことはある程度確信があるんだろうしなぁ……。

 

「君の事はポケモンから聞いたよ。いつも君の手持ちのポケモンの事を思い、いつも寄り添い、いつも一緒だと。トレーナーのポケモンへのあこがれるポケモンがいるなんて、知らなかった」

 

 トウヤの時は何と言っていたんだったか。

 一緒にいたいとか、そんな感じだったか。

 あまり違わないと思うけどな。

 

「あのトレーナーの時も驚かされた。だから彼と最後に対峙することになる、それはなんとなくわかっていたし、それが当然だと思っていた」

 

 Nは幼少期、人の手によって傷つけられたポケモン達としか接することができなかった。

 そして歪んだ思想を植え付けることがゲーチスのたくらみで、Nは見事に人形の王として育った。

 けれど、ゲーチスの思惑から外れる出来事があった。

 それがトウヤとの出会い。

 彼と出会い、人と一緒にいたいというポケモンがいることを知った。

 

 知ってしまったら、無視することはできない。

 自分のしていることは本当に正しいのか。

 疑問に思ったことは、確かめずにはいられない。

 だからトウヤと正面からぶつかり合うことを選んだ。

 

「でも僕は負けた。僕の信念は、彼の思いに打ち負けたんだ。いや、彼らの、だね。だから僕は、ポケモンを解放することを強いることを止めようと思った。でも、あの人は違った。それでもなお、止まらなかった」

 

 虚空を見据えていた二つの瞳が、確かに私を捕らえる。

 なるほど、視線を感じなかったのは私を見ていなかったからか。

 そして陰キャよりだから気配も察知しづらいと。

 こいつ、私の天敵なのでは?

 

「君には感謝している。あの人を止めてくれてありがとう。でも、まだ終わってないんだ」

 

「……知ってる」

 

 つい先日残党たちに暴力振るわれたばかりなので。

 きちんと教育しておいてよね。

 私じゃなければ体力が切れておぼれていたよ。

 

「……観覧車には乗ったことはあるかい?」

 

「おあいにくさま、そんな相手いないわ」

 

「そうか、なら一緒にどうだい?」

 

 どうやら敵対心は抱いていないようだ。

 それなら別に観覧車に乗ってもいいのではないかと思う。

 いや待てよ。

 これだと恋人ができたからアイドルを辞めたみたいな感じに映るのでは?

 

(それは嫌だな)

 

「お断りするわ」

 

「そうか……なら、ここで打ち明けることにするよ」

 

「お断りするわ」

 

「……こっちは断らないで欲しいな……」

 

 嫌だよ。

 絶対面倒なことじゃん。

 あーもう! 分かった分かった!

 ラプラスみたいな顔しやがって。

 聞いてあげるからさっさと吐け。

 

「あの人は強力だ。僕一人では対処できないかもしれない」

 

「その時に、助けに入れと?」

 

「……そうだよ」

 

 大きなため息を吐く。

 両手をやれやれと言った風に持ち上げ、首を振る。

 

「それになんのメリットがあるのさ。団体行動を得意とするような人間じゃないでしょ。私も、あなたも」

 

「別にタッグバトルをしようというんじゃない。共通の敵だというのなら、同じタイミングで強襲を仕掛けたほうがいい」

 

「……あなたの口から明確に敵という言葉が出るとは思わなかったわ」

 

 Nの喉仏が動いた。

 息をのむというのは、こういうことを言うのだろうか。

 とにかく、はっきりしたことがある。

 

「嘘を、吐いたわね?」

 

「……君は鋭いね」

 

 Nは観念したといった風に佇まいをなおした。

 そうしてもう一度私の目をのぞき込む。

 そこに、一切の淀みは無かった。

 

「僕は、もう一度父さんと向き合いたいと思っている。異なる考えを受け入れ、共感し、ハーモニーを奏でる。その事のすばらしさを知った。きっと、父さんとも分かり合える」

 

 でも、と彼は続ける。

 

「今の父さんには、きっと僕の声は届かない。世界を支配することで頭がいっぱいになって、他の事に気を向ける余裕がない。だから、一度倒す必要がある。そうして、僕の思いを伝えなければいけない。ポケモンバトルを通して!」

 

「……ならなおさら、私はいない方がいいんじゃないかしら?」

 

「それじゃダメなんだ。ポケモンと分かり合えても、人と分かり合えなければいけない。人と向き合う必要性を、父さんには伝えられない」

 

 だからと、Nが手を差し出す。

 夕日がブレスレットを照らし、光り輝く。

 手を伸ばせば届くこの距離が、どうしようもなく遠く感じられた。

 

「すこし、考えさせてくれる?」

 

 彼女には、眩しすぎた。

 

 ゲーチスを止めようとしたわけじゃなかった。

 ただ自分のエゴで暴れまわっただけ。

 いまだに、人と向き合ったことは無かった。

 自分の中にあるのは、ポケモン達とともに生きる事。

 そこに人は含まれていなかった。

 

 彼女が彼の手を取るには、彼女はあまりにも独善的過ぎた。

 まだ十歳だといえばそれまでかもしれないが、十歳と言えば図鑑所有者たちの年齢だ。

 

 あるものはポケモンマフィアを潰し、またあるものは世界を破滅から救い、あるものは世界の終末を回避した。

 彼らは人の役に立った。

 けれど、自分がしたことは?

 

 二年前、あの場にいた五人を除いて、誰からも認識されない。

 記憶にも、記録にも残らない。

 それが人の役に立ったと言えるだろうか。

 私にはわからなかった。

 

「私は、あなたが思うような人間じゃないよ。自分の都合であの場を荒らし、自分がしたいようにしただけ。その付属効果としてゲーチスを止めることになっただけなんだよ」

 

「……それでもいいじゃないか」

 

 心臓が鼓動を刻む。

 頭を殴られたような錯覚を、衝撃を受ける。

 手に汗握る。

 彼は今、なんといった。

 

「途中式が異なっていたって構わない。人それぞれ、異なる関数を持つんだ。入力が同じでも、出力が異なるなんてのは当たり前の事さ」

 

 腰に付けたヴォイドキューブを外し、そういう。

 左手でくるくると回した後、顔の高さまで持ち上げる。

 

「逆に、出力が同じでも入力が異なるという場合もあり得る。君が君の行動を身勝手なものだと言っても、結果としてそれは、僕を救ってくれた。自分勝手に起こした行動が、誰かの役に立つこともある。だからこそ、この世界は面白い。解けない方程式。心と心の触れ合い。それでも、実行してみれば答えが得られる。動かなければ答えも分からない」

 

 再び腰にヴォイドキューブを取り付け、もう一度私に手を差し出す。

 

「もう一度言う。僕と一緒に戦ってくれ」

 

「……分かったわ」

 

 私の頬には、雫が滴っていた。

 演技ではない、そして演技で留めておくこともできない、涙だった。




Nがゲーチスに襲撃を仕掛けるタイミングにキョウヘイがいることを失念しているルリちゃん。
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