ルリった!   作:HDアロー

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N2さん誤字報告ありがとうございます!

ようやくNN付けれたよ!
タイミングが無くて困ったんだよ!


七話 「赤髪のボンバヘッド」

 PWTにやってきた。

 降り続いた雨は止み、空は青々と輝いている。

 ドーム状の建物が存在感を主張している。

 今、あなたの目の前で存在感を放つ……やめよう、なんか変なフラグが立つ気がする。

 要するにトーナメントを行う施設だ。

 

 私が参戦するのはチャンピオンズトーナメント。

 今回はシングルバトルのルールだ。

 私の手持ちが三匹しかおらず、それ以外参加できなかったから好都合だ。

 ラプラス? 知らない子ですね。

 

 ゲームと違い、様々な種類のチャンピオンがやってきた。

 まず、ゲーム通りの、各リーグのチャンピオン。

 そして私のように、ある程度名のある大会でのチャンピオン。

 その他トライポケロンのチャンピオンやポケスロン、虫取り大会のチャンピオンとかもいた。

 なんだ虫取り大会のチャンピオンって。

 

 参加人数は百人を超えている。

 ざっくり計算して七、八回勝ち抜けなければ優勝できない。

 試合時間も長くなる。

 絶対プラズマ団が来るじゃんヤダー。

 

 ちなみにベストエイトまでが予選リーグ、そこからが決勝リーグとなる。

 予選リーグは八ブロックあり、その優勝者だけが決勝リーグに進出できる。

 

 まあここまで来てしまった以上帰ることはできない。

 腹くくっていこう。

 

「……ふふ」

 

 今回はNが味方に付いている。

 誰かの手助けを受けられるっていうのはいいものだなぁと思った。

 受付を済ませ、控室へ向かう。

 個人個人に用意なんかできないから大部屋だ。

 

 ドアに手を掛ける。

 痺れが走ったような気がした。

 季節は夏。

 静電気が起きるような時期ではない。

 

(飲まれるな)

 

 正体は分かっている。緊張感だ。

 扉を開けて部屋に入る。

 掛ける思いは様々だが、信念を持つ強者のみが集うこの空間。

 当然、ピリピリとした雰囲気が漂っている。

 

(今回の目的はトウヤの目に映ること。最悪、トウヤがこの会場にいなくてもいい。テレビ中継でも何でも、私の事を見つけてくれればそれでいい)

 

 そうすると、当然多く試合をした方が見つけてもらう確率は高くなる。

 最初の方なんて第二第三、第四会場まで使って一斉に消化していくのだ。

 目に留まる前に敗退、っていうのは避けたい。

 最低でもテレビ中継が始まるベストエイトまでは残りたいものだ。

 

 しかし、あれだな。

 会場を四つ使ってもなかなか自分の番が来ない。

 こう何もしない時間が続くとそわそわしてくる。

 ん? もしかして私ワーカーホリックか?

 ……そんなことは無いと信じたいね。

 

「そうだ、ニックネームを付けておこうか」

 

 結局二年前からニックネームを付けてこなかった。

 いい名前を考えているうちにタイミングを逃して、そのままずるずると引きずってしまった感じだ。

 こういうのは良くない。

 今のうちに断っておこう。

 

「まずファイアロー、あなたはロアよ」

 

 ファイアローの入ったドリームボールに向かって語り掛ける。

 ボールが小刻みに震えた。

 ガラスの向こうでリアクションを取ってくれているんだろう。

 

 ロアっていうのは名前からっていうのもあるが、ガレット・デ・ロワからでもある。

 あれのロワって王達を意味するらしい。

 空の王者たれという意味が込められている。

 

「次にガブリアス、あなたはガブよ」

 

 本当はガブリールとかジブリールにしたかったけど。

 ジブリールだとガブ要素が薄れすぎるしガブリールだとドロップアウトしそうな気がする。

 分かりやすく、慣れ親しんだ名前が結局落ち着くというものだ。

 たとえフェアリータイプが環境を蹂躙しようと、私はあなたとともに挑み続けるよ。

 

「そしてミミッキュ、あなたはミーだよ」

 

 ミミッキュから一文字取ったミー。

 同時に一人称のミーでもある。

 化けの皮に身を隠し、外面を取り繕う。

 私たちは本当によく似ている。

 

「みんな、これからもよろしくね!」

 

 両手にボールを抱え、語り掛ける。

 さあ、バトルの時間だ。

 

「勝者! イッシュ地方のルッコ!」

 

「イエーイ、応援ありがとー!」

 

 こんな時もファンサービスは忘れない。

 会場が沸き上がる。

 地響きでも起きているのではないかと錯覚してしまうからその大声やめて。

 応援してくれるのはうれしいんだけどね。

 あとその辺、変な応援歌作るな。

 

「おつかれさん。今回も楽勝であったようだな」

 

「……アデクさん」

 

 入退場口から立ち去るとき、赤い髪のボンバヘッドに話しかけられた。

 イッシュ地方の元チャンピオン、アデクだ。

 二年前Nに敗れその座を譲ったがその実力は健在だ。

 

「おお、わしの事を知っておるのか」

 

「自分の地方のチャンピオンを知らないのが許されるのはトレーナースクール入学までですよ」

 

「先代とかになると知らない奴も多いけれどな。勤勉なようで感心感心」

 

「どうも」

 

 ちなみにNはチャンピオンの座につかなかったため、現チャンピオンはアイリスがしている。

 ほら、あの初手サザンドラの幼女だよ。

 褐色ロリ。

 思い出したかな?

 

「で、何の用ですか?」

 

「ん? どういうことかな?」

 

「あなたほどの人がこんな小娘に話しかけてきたんです。用がないわけないでしょう」

 

「今や世界中で有名なあなたがただの小娘とは、粋な冗談よのお」

 

 はあ。

 もういいや。

 腹の探り合いとか疲れるだけだし。

 多分この人は敵対しないだろう。

 したとしても、実力行使に入る前に、対話でどうにかしようとするだろうし。

 なんだかんだ甘い人だからね。

 その時点で適当に折れたふりをすればいいや。

 

「君は、二年前のあの人なのか?」

 

「……それが本題ですか?」

 

 立ち去ろうと、アデクから意識をそらそうとしたとき、そう語りかけられた。

 

「そうだな。二年前、私はプラズマ団に敗れた。イッシュを背負う英雄も満身創痍。その時、割って入ったトレーナーは君だったのか?」

 

「……最近、よくそう聞かれるんですよね」

 

 私は興味がないと言ったばかりにその場を立ち去ろうとする。

 

「私の手持ちと、その人が持っていたポケモンが一緒らしいですね。聞きましたよ」

 

「! 君はプラズマ団と接触しているのかッ!?」

 

 歩き出した私の腕をアデクが引き留める。

 思い切り引っ張られたので千切れるかと思った。

 

「アデクさん、痛いです」

 

「あ、ああ、すまない」

 

 すこしシュンとして、申し訳なさそうに腕を離した。

 チャンピオンとしての威厳のかけらもないな。

 そりゃチェレンに舐められるよ。

 

「だが、これだけは言わせてくれ。ポケモンと人を切り離すなんて、間違っている。今までそうだったように、これからも助け合っていくべきなんだ。我々は」

 

「……すこし、失望しました」

 

 流し目でアデクを見据え、そう語る。

 アデクは目を見開き、間抜け面を晒していた。

 

「私はこの子たちと一緒にいたい。だからあなたの考えは分かります」

 

「それなら!」

 

「けれど、人が持つ考えに、絶対的な正義や悪なんて存在しないでしょう? ましてこれから先の未来がどうなるかなんて、その時代を担う人々の選択でしかないです」

 

 アデクの言葉を切ってそう言う。

 私の知るアデクは、もっと他の考え方に対して寛容的だったはずだ。

 自分を絶対的な正義として考え、プラズマ団を悪と謗るのは意外だった。

 

「私の知るチャンピオンアデクは、自分自身の手で答えを見つけろというような方でした」

 

 言いたいことだけ言って、その場から立ち去った。

 アデクには、自分が責められたように聞こえたかもしれない。

 けれど、私が咎めたのは、私自身だった。

 

(何がアデクさんをこんな風にしたのかは分からない。けれど多分、私が二年前、あの場に飛び込んだことが原因だろう)

 

 些細な違いでも、未来は大きく枝分かれする。

 アデクをこうも弱くしたのは、私のせいだ。

 

「ごめんなさい」

 

 人気のない廊下で、誰にも聞こえない謝罪を零した。




ルリ「アデクさんなら、実力行使に入る前に対話でどうにかしようとするだろう」
今がまさにその最後の段階だということには気付かない模様。
アデクからはやべーやつ認定されてます。
具体的には二年前のチェレンと重ねて見られてます。
アデクが狭小な人間になったんじゃないです。
ルリの過去から今までを調べて、表向きの顔とゲーチスの首を取ろうとしたときの事を鑑みた結果、少しの事でダークサイドに陥ってしまうと思ってます。
その前にどうにかしたいと思って接触してきたということでした。

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