「Eグループトーナメント優勝は、イッシュ地方のルッコ!」
会場が沸き上がる。
溢れんばかりの熱量が、また新たな熱気を生み出す。
私は両手を大きく振ってアピールする。
今のでベストエイト入りが確定した。
とりあえず第一目標は達成かな。
この後は休憩が入る。
今までのは予選リーグみたいなもので、ここからが決勝リーグのようなものだ。
休憩時間中に対戦相手が決定する仕組みだ。
「その間どうしますかねぇ」
ガブリアスとファイアローにオボンの実やヒメリの実を与えて回復させる。
くぅ、ポケセン縛りだっていうのにこんなところで木の実を使う羽目になるとは。
でも一番即効性があるからなあ。
ちなみにミミッキュには与えない。
なぜなら今まで一度も出していないから。
手持ちを見せたくないという理由も一割くらいあるけれど、やはりゴーストタイプというのが大きい。
他の参加者を見てもゴーストタイプを使っているトレーナーはほぼいなかった。
それくらいゴーストタイプというだけで毛嫌いされている。
世間のイメージ的に私が使うのはあまりよくない。
「こういうときって私から連絡入れるべきだよねぇ……」
ライブキャスターを付けてNに掛ける。
多分NはNで、私に連絡入れ辛いだろう。
自分は選手でNは観客だからね、集中を切らす事とか考えると。
「もしもし?」
「はろー? どう? そっちは」
「まだ見つかってない」
「そう、何か他に問題は起きてない?」
「問題ない」
そう、と言い渡し、お別れを告げて通話を切る。
そうかぁ、見つかってないかぁ。
ワンチャンあるならこのタイミングだと思ったんだけどなぁ。
どうやってもトウヤはあの場に現れないのだろうか。
まあ、まだ可能性はあるんだけどね。
むしろ決勝トーナメントが本番だし?
ぜ、全然凹んでないんだからね!
さて、と。
問題は後ろに立っているこの人だよな。
「どうも、さっきぶりですね。盗み聞きははかどりましたか?」
振り返り、軽く微笑む。
こちらは気づいた上で放っておけるほどの余裕があるぞ、と。
ただまぁ、実際には表情が凍り付くのを抑えることになったが。
アデクさんは、修羅のような表情をしていた。
「きみは、何故戦うんだ?」
「何故って、私のためですよ。私は私が望む未来の為に生きる」
「ならば、君の望みとは何だい?」
「距離の取り方が下手くそですね」
今日初めてあった人に心の内を打ち明けろとは。
まぁ、この人が私が知るように朗らかな性格で、私がよくいる十歳なら答えていたかもしれない。
けれど目の前のこの人はどこか憔悴しており、あげく私を威圧している。
そんな相手に願いを教えるわけがないだろう。
「あなたは自分の強さをはき違えています。そんな人の話なんて聞きません」
「……やはり、言葉では分かり合えないか。決勝トーナメント一回戦、そこで話を付けよう」
そういってアデクは立ち去って行った。
なんだったんだ。
というかもう対戦相手決まったのね。
ならそろそろ試合かしら。
私も会場に向かおう。
*
「第一回PWTチャンピオントーナメント決勝リーグ! その記念すべき一回戦は奇しくもイッシュ地方出身同士の戦い!」
入場口の前で口紐を縛りなおす。
口元が緩むのが感じられる。
なんだかんだポケモンバトルは楽しい。
そこに試合前の緊張感と高揚感が混じり合い、最高潮のコンディションに繋がる。
「アイドルに俳優、声優にパーソナリティ! 様々な分野で活躍する天才少女! 初代レンタルトーナメントチャンピオン、ルッコ!」
階段をあがりバトルフィールドに立つ。
モンスターボールを腕を使って転がす。
肘を使って宙空に打ち上げ、落ちてきたところをキャッチする。
うん、コンディションは変わらず最高だ。
「ウルガモスとの思い出を胸に、強さを、優しさを伝えよ、アデク!」
向かいの入場口からアデクがやってくる。
まるで死地へ赴く兵士だ。
いや、見たことないけどね、そんな人。
あくまで例えだけれど。
「どれだけの肩書があろうと、この場に立った以上はトレーナー同士。言いたいことはバトルを通して伝える!」
「あ、はい」
なんでこの人こんなに怒ってるの?
なんかしたっけなぁ。
(この人にとっては恩人に当たるんじゃないの? 私って。なんでこんなに噛みつかれてるんだろ)
そんな思考を置き去りにしてボールを構える。
思考が澄み渡り、視点が高くなる。
フィールド全体を俯瞰するような感覚。
いわゆる鳥の目というやつだ。
「第一回戦! 試合開始!」
私とアデクさん、お互いがポケモンを繰り出す。
それと同時に土煙が巻き上がる。
私が繰り出したポケモンはガブリアスのガブ。
ボールから出たらすぐに岩雪崩を使うように指示しておいた。
「戻れ!」
土煙が戻る前にアデクはポケモンを入れ替える。
出し負けを隠そうとしたのだろう。
実際ガブの岩雪崩はあるポケモン一点読みで、私から見ればまだボールのエフェクトが残った状態しか見えていない。
土煙が晴れる前ならば私は初手が何のポケモンだったか分からないというわけだ。
(普通ならね)
残念ながら私の視点は遥か高みにある。
初手が読み通りウルガモスだったことは筒抜けだ。
交換するタイミングに合わせてステルスロックを指示する。
これでウルガモスは封じた。
「なんという幕開けでしょう! 試合開始直後ルッコさんのガブリアスの岩雪崩が炸裂! アデクさんの一体目は何かわからないままだ! これがチャンピオンたちの戦いなのか!」
「そうですね、立ち上がりから激しいものとなりましたね。ポケモンを繰り出す前に指示を出しておくのは通常リスクが高いと言われています」
「といいますと?」
「まず、読みを外した場合、隙を大きく作ることになりますからね。非常にリスキーな物であります。最大六体まで連れ歩けるトレーナー、一体を読み当てるのはなかなかに至難なものです」
「どうしてルッコさんはそんな博打に?」
「勝算があったのでしょう。野良のトレーナーバトルとは違い、手持ちは割れていますからね。メリットとデメリット、リスクをはかり、勝てると踏んだのでしょう」
実況の人がなるほど、と言っている。
この間、アデクは待っていた。
観客の事を忘れないいいエンターテイナーだ。
「アデクさんの一体目は何だったのでしょうね」
「分からないですが、ウルガモスという可能性は低いでしょう。あの威力の岩技を受けて耐えていられるとは考えづらいですからね。しかし交換をしたあたりから岩技が弱点だったんでしょう。シャンデラかウォーグル、このあたりが本命でしょう」
この解説使えないなぁ。
アデクの一体目はほぼ間違いなくウルガモスだ。
ガブの岩雪崩を耐えられたのはヨロギの実を持っていたから。
これは岩技の威力を軽減する効果のある木の実で、だから一撃耐えた。
そして耐えられるまでが私の作戦の内。
あの状態でウルガモスを場に残すはずがない。
タイミングを見てガブリアスに火傷を入れたり、羽休めで回復をする機会があるかもしれないからね。
あの場で切るのは速すぎる。
実際、裏にロアを控えさせているからそこまで怖くはないけれどミーとウルガモスだとウルガモスが有利だ。
だから一番最初に倒しておきたかった。
アデクとしては出し負けすればローブシンにでも引くつもりだったのだろう。
ならその隙すら与えずに一撃を入れる。
これが私が考えた対アデク戦必勝法。
……開幕ローブシンだった場合?
ミーに頑張ってもらおうって思ってたよ。
チュインチュインと、ガブが会場を動き回っていると、ようやくアデクは次のポケモンを繰り出した。
やはりローブシンだった。
「ガブ! じしん!」
「ローブシン! しっぺがえしだ!」
しっぺ返しは後攻で使えば威力が上がる技。
ガブリアスを返しの一撃で落とそうという魂胆だろう。
ガブリアスの地震程度、ローブシンなら余裕で耐えてのけるからね。
肉を切らせて骨を断つというか、さすがはチャンピオンというか。
それが普通のガブリアスなら正しい選択だったと思うよ。
「ろ、ローブシン、戦闘不能!」
「ローブシン!?」
審判が驚いた様子でローブシンの戦闘不能を告げる。
アデクは驚いてローブシンに駆け寄る。
ああ、アニメみたいにトレーナーサークルとかないから。
普通にフィールドにトレーナーが入ることは許されている。
安全面からあまり推奨はされていないけれど。
「ローブシンを一撃とは……そうか!」
「あれ、分かっちゃいました?」
「つるぎのまい……ッ!」
そう、解説がアデクの一体目の考察をしている間、アデクがその解説を待っている間、ガブはひたすら剣の舞を舞い続けていたのだ。
積み技は実戦だと隙を作り過ぎでなかなか使うタイミングがない。
今回私がガブに指示していた内容は隙があれば積んで行けというだけ。
アデクがなぜか待ってくれて助かったね。
さてさてアデクさん。
後続はファイアローを受けられるシャンデラでしょう?
疾く疾く出しなん。
出さないの?
ああ、また解説を待ってるのね。
本当に、甘すぎる。
「ガブ」
ハンドサインを送る。
それを受けたガブは砂嵐を起こした。
読み通りのシャンデラならば拘りスカーフを持っている。
正直スカーフを巻いたくらいでうちのガブが抜かれるとは思わないけれど時間があるならば万全を期す。
「ぬぅ、いけ! シャンデラ!」
アデクが繰り出したのは予想通りシャンデラ。
初手に撒いたステルスロックが突き刺さり、その体力を削る。
「オーバーヒート!」
アデクのシャンデラのオーバーヒートが炸裂した。
ガブが生み出した砂嵐を切り裂き、フィールドを飲み込む。
ガブの場所が分からないなら、丸ごと攻撃してしまおうという考えか。
そういう大胆な作戦、私は好きだよ。
「シャンデラのオーバーヒートが炸裂ぅ! これには姿を隠していたガブリアスもきっと……!」
実況がそこまで言って、会場がざわめく。
オーバーヒートの熱が引いて行く。
そこにガブリアスの姿はなかった。
「いけ」
私の指示を待っていたかのように。
地面がめくれ上がり。
シャンデラを襲った。
会場が沈黙を貫く中、解説が静寂を破った。
「あなをほる」
正解だ。
ガブに砂嵐をしたのは姿を隠すためではない。
行動を隠すためだ。
タイプ一致の効果抜群技をシャンデラは受け止められず、倒れ伏した。
「……降参だ」
ここに私の勝利が決まった。
おかしい。
接戦にするつもりだったんだ。
なぜこんな一方的な展開に?
(作者がガブのこと好きだから)