【だのに】はポケモンネタなんだ……許して。
コトバンクとかで【だのに】で調べていただければ……。
「ミー!」
去り行くミミッキュに手を伸ばす。
けれどその手は掠めることなく宙を切り、ミーは手の届かない場所へ逃げて行ってしまった。
一体どうして。
そんな疑問は、すぐに紐解かれることになる。
「ハッ、ゴーストタイプなんか使うからこういうことになるんだよ!」
「ゴーストポケモンを使うと不運に見舞われるっていうのは本当なのかもしれないねぇ」
「これに懲りたらとっとと逃がして別のポケモンでも育てるんだな」
会場のあちこちから、私たちを罵る声が聞こえる。
ミーは分かっていたんだろう。
自分がバトルフィールドに立つ意味を。
私と違ってミーは、もともとそういう環境で育ってきたから。
だからミーは、私の元からいなくなった。
私に迷惑が掛からないように。
すべての悪意を自分に引き寄せることで、私へのヘイトをそらそうとして。
「……ふざけないでよ」
怒気をぶちまける。
心の中でうめき声をあげる灼熱に身を堕とす。
渇ききった大地には誰の声も届かない。
「私が、そんなことをされて喜ぶと思ったの?」
私はバトル後の挨拶をすることもなく、会場を後にした。
対戦相手へのリスペクトを忘れた恥ずべき行為。
だからどうした。
今大事なことはそんな事じゃなく、ミーを追いかける事だろう?
*
ライブキャスターを取り出し、Nに連絡を入れる。
人手は多い方がいい。
接続を試みる電子音が二度三度と鳴り響く。
けれどその通信が繋がることは無かった。
「こんな時に何をしているのよッ」
顔の見えない相手に怒りをぶちまける。
ライブキャスターの通信を切り、走ることに集中する。
風景が後ろへと流れていくが、どこまで行ってもあの影は見えない。
「ミー!」
手を口元に当て、呼び掛ける。
そんなことを、どれだけ繰り返したか。
喉が裂けるような錯覚に陥る。
足は鉛でできたかのように重くなる。
どれだけ行けど、真っ暗な道。
いつしか私は声を上げることを止め、足を止めていた。
「どうして……、私は、ただみんなと一緒にいられれば、それでよかったのに……」
どこで間違えたんだろうか。
キョウヘイを潰そうと、ポケウッドでガブリアスを出したとき?
転生者というアドバンテージに調子に乗って天才子役となったとき?
それとも、ゲーチスをこの手で倒したとき?
「こんな、こんなことになるならッ」
天を仰ぎ、慟哭する。
枯れきった涙が頬を伝うことは無い。
焼け切った喉は声を届けることは無い。
「愛称なんて付けるんじゃなかったッ!」
愛着がわくと、別れがつらくなる。
だから、だから一線置いていたのに。
ぽっかりと穴があいたような感覚に、自分を支えることができずに倒れ伏す。
私は、こんなにも弱い人間だったのか。
「ミー……行かないで。ずっと、ずっと一緒にいてよぉ……」
要するに、私は空っぽだったのだ。
化けの皮は何も内包しておらず。
ただの一撃で砕けるような抜け殻だったのだ。
「見つけたぞ、ラプラスの悪魔め」
随分と高い位置から、声を掛けられる。
ラプラスの悪魔か。
たしか数学のラプラス変換が適用できない稀有なパターンの事だったかな。
どちらにしろ私には関係がないことだ。
「随分と弱り切ってんじゃねぇか。こんなのがゲーチス様の障害になるなんて信じられんな」
「……プラズマ団?」
「ハッ、ただのプラズマ団と一緒にするな。我々は新生プラズマ団だ」
「……そう」
どうやらラプラスの悪魔というのは私の事だったらしい。
けれど、もうどうだっていい。
もういい、もう疲れた。
もう、休ませてくれ。
「チッ、どうにもやり辛いったら仕方ねぇ。そのまま無駄な抵抗せずにいろ。今楽にしてやる」
プラズマ団はレパルダスを繰り出した。
思い返されるのは、チョロネコを奪われたと言っていたヒュウの事。
彼はポケモンがいなくなることを非常に恐れていた。
今ならその気持ちが分かる。
「レパルダス、つじぎり!」
そのしなやかな肉体が。
鋭い爪が。
私に迫るのを知覚しながら。
世界がスローモーになっていき。
『色あせた黄色』が視界を奪った。
「ミー……?」
先ほど1000万ボルトを食らい、既にボロボロだった。
そんなミミッキュが、レパルダスの辻斬りを耐えられるわけもなく、力なく鳴き声を上げる。
「どうして……」
「ミミッキュッ……」
出し切ったと思った涙が零れ落ちる。
ミミッキュは布の内側から黒い影を伸ばすと、それを拭い取った。
ぽきりと折れた首を引きずりながら、私に一歩歩み寄り、崩れ落ちた。
「ミー!」
抱き寄せる。
力む腕を意識的に抑え、閉めすぎないように心掛ける。
先ほど拭いきれなかった涙がミーに零れ落ちる。
「チッ、邪魔が入ったか。まあいい、次は殺す」
立ち上がり、レパルダスとトレーナーを視界にとらえる。
殺気をぶちまける。
宙を舞う木の葉が感応し弾ける。
「な、何ができるっていうんだよ。既に手持ちは全員瀕死のお前に。なんで、なんでそんなに……」
抗う手段がない?
関係ない。
無駄な抵抗?
知ったことではない。
ミーが繋ぎ止めてくれた命を易々とくれてやるものか。
たとえどぶの中でも前のめりに死ぬ。
私は私を貫く。
私が私でなくなるまで、決して諦めてなんかしてやらない。
「レ、レパルダス! もう一回つじぎりだ!」
重心を左にずらし、紙一重で避ける。
プラズマ団は怯んだようだったが、もう一度と、何度でも指示を出す。
何度となく迫りくる刃を、しゃがみ、バク宙し、受け流す。
ポケモンがトレーナーに成れるなら、トレーナーがポケモンと渡り合えない道理はない。
そうして何度となく死を回避した後だった。
先日まで降り続いた雨でぬかるんだ地面に足を掬われた。
(しまっ――)
「レパルダス! 今だ!」
ああ、今度こそ駄目だな。
そう思った。
私は、この子たちの親に成れただろうか。
それを悔やんだ。
「イーブイ! こらえる!」
私とレパルダスの間に、茶色の毛並みを持ったポケモンが割り込んだ。
「げぇ、リ、リビングレジェンドォ!?」
「イーブイ」
レッドさんがそれだけ言えば、イーブイはコクりとうなずきレパルダスへと向かって行った。
体力が少ないほど威力を発揮する技。
じたばただった。
「く、まだだ!」
プラズマ団は次のポケモンを繰り出そうとした。
出そうとして、その動きを止めた。
直接対峙したことがあるからこそわかる。
レッドさんが放つ威圧感は、人のそれを超越している。
結局プラズマ団は、覚えてろよという情けない声を上げて立ち去って行った。
「ミー」
カバンからきのみジュースを取り出し飲ませる。
あ、あれ?
どこから飲ませればいいんだろ。
いつもは木の実を渡したら影が伸びてきて内側に吸い込まれていったからなぁ。
そうして私がわたわたしているとレッドさんが元気の塊を使用してくれた。
元気の塊!?
非売品ぞ!?
「み、ミミッキュッ!」
「ミー!」
元気になったミーを好きなだけ抱きしめる。
もう離さない。
「あ、あの、ありがとうございます!」
私がお礼を言うと、レッドさんは手を振ってジェスチャーを返した。
無口な人だ。
ゲームだと大体三点リーダしか使わないからなぁ。
そんな考えを隅に追いやり、ミーと見つめ合う。
「ごめんね。ミー」
しわがれた声だっていい。
ひしゃげた声だって構わない。
今はこの思いを伝えたい。
「自分がいたら私に迷惑が掛かる、そう思ったんだよね……。でも、でもね。よく聞いて」
まぶたをぎゅっと閉じる。
握る力が強くなる。
恐怖を振り払うように。
強く強く、その手を離さないように。
「そんなの関係ない! 周りの人がなんて言ったって、たとえ世界中の人から嫌われたって、ずっと、ずっと一緒にいたいの!」
声を振り絞る。
この思いを届けるために、一粒たりとも零さず伝えるために。
「自己犠牲なんていらない! 今までも、これからも、私はずっとあなた達と一緒に過ごしたいの! だから、おねがいだから」
声が震える。
怖い。
拒絶されることが。
一緒にいたいと思っているのが、私だけなんじゃないかということが。
でも、相手の気持ちを知らずにいるのはもっと怖い。
いつか私の目の前からいなくなってしまうことが怖い。
だから一歩を踏み出し、ミーに聞く。
「もう、二度といなくならないで……」
ミーを強く抱き寄せる。
もし、それでも一緒にいられないというなら、その時はさよならだ。
腕が震える。
そんな私を、ミーは恐る恐るといった様子だったけど、抱擁し返してくれた。
「これからは、ずっと、ずっと一緒だよ」
レパルダスとやり合うルリさん(10)
ポケモンがトレーナーになれるってのはミュウツーの事。
その後のトレーナーがポケモンとやり合えない道理はないっていうのはちょっと良く分かんないです()
ポケスペのルビーもポロックケースでキュウコンと戦ってたし……。
プラズマ団が一人しかいないのはこいつが独断で行動したから。
普通に考えて他のリーグチャンピオンが集まってる中騒ぎ起こそうなんてしないよねっていう話で。
プラズマ団の総意としては今回は手出ししないということでしたが、手柄を欲しがった下っ端が勝手なことした感じ。
レッドに負けたことで感想欄荒れてるけどこれだけは言わせてほしい。
だれも主人公最強なんて言ってないです。