ルリった!   作:HDアロー

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佐藤東沙さん誤字報告ありがとうございます!


十三話 「前夜祭的なアレ」

 突然だが隠し穴について知っているだろうか。

 BW2のみに存在する隠しマップのような存在で、そこではアイテムや通常とは異なる特性を持つポケモンが手に入る。

 私は今、ジャイアントホールの隠し穴に来ていた。

 

 ん?

 遺伝子の楔?

 大丈夫、恙無くすり替えておいた。

 本当に何事もなく入れ替えられたから書くことが無いんだよ。

 

 まぁそこはいいんだ。

 私がここに来た理由は、メタモンをここに住まわせるためだ。

 いわゆる隠し穴マラソンというやつだ。

 

 洞窟に少しだけ体を忍ばせ、中の様子をうかがう。

 ゼラチン、あるいはジェルのような体質。

 紫色の体に気の抜けた表情。

 

「はー、ようやく出た」

 

 このメタモン、本当に出ない。

 まさか丸二日掛かるとは思わなかったよ。

 タチワキコンビナートで捕まえておいたコイルをリリース。

 これで下準備は完成だ。

 

 おまけで子宝のおまもりを投げつけておく。

 さて、お邪魔虫は退散しますか。

 

 数日後、ジャイアントホールにはコイルとレアコイルが大量発生していた。

 そんな様子を夜空から見下ろす、可憐な少女がいました。

 灼熱を思わせる鳥ポケモンに乗る、その少女は誰でしょう。

 そう、私です。

 

「計画どーりっと」

 

 満足満足。

 何をしたかったかって?

 ふふふ、レアコイルの図鑑内容は知っているかい?

 

『謎の 電波を 発信 しており レアコイルが 棲んでいる 場所では 精密機器が 故障してしまう』

 

 謎の電波は磁力線だったりまちまちだけど、レアコイルがいると精密機械は壊れるんだよ。

 これこそが私が考えたゲーチスの杖封じ!

 ただし、これすらも本命を隠すための陽動に過ぎない。

 本命はこっち。

 

「おいで、イーブイ」

 

 ボールからイーブイを繰り出す。

 あの後他のポケモンと顔合わせをした。

 するとガブリアスにだけ異様に怯えることが分かった。

 きっと特性が『きけんよち』なんだろう。

 ガブは瓦割りを覚えているからね。

 

 そして私はこのイーブイをエーフィに進化させるつもりだ。

 そう、特性マジックミラー。

 ほぼすべての補助効果を跳ね返すアビリティ。

 これが一番ゲーチスの杖を対策しうる解だと判断した。

 ここまで考えてレッドさんは私に託したのだろうか。

 いや、流石にそこまでは知らないだろうな。

 

「イーブイ、めらめらバーン」

 

 その辺のコイルやレアコイルを適当に狩ってレベリングする。

 このイーブイ、元はレッドさんのポケモンなんだ。

 好奇心旺盛の戦闘狂。

 ならば、分かり合うためには戦友になるのが手っ取り早い。

 

 そうやって少しした時だった。

 イーブイの体が光り輝きだした。

 

「え、ちょ、ちょっと待った! 早い早い早い! なんで!? なんでそんなに懐き度高いの?!」

 

 交換で手に入ったポケモンの好感度は七十じゃないの?

 懐き進化って二百二十以上じゃないの?

 いくら何でも早すぎるでしょ。

 

「バカな……早すぎる……」

 

 言うてる場合か!

 あわわ、どうしよ。

 今深夜だよ?

 ブラッキーになったらマジックミラーじゃないんだよ?

 というかブラッキーの夢特性って何!?

 

 しかし、いくらアドリブ力を鍛えられた私でも、図鑑もなく進化キャンセルができない今、為す術もなく進化をただ見届けるしかなかった。

 そうして光は収まっていった。

 くりくりとした目とピンと張った耳。

 二又に分かれた尻尾と、額に付けた深紅の宝玉。

 

「エーフィ……?」

 

 此は如何に。

 そう思っていると、エーフィが懐からアイテムを取り出した。

 

「もしかして、太陽のかけら?」

 

 受け取ったアイテムを手に取ると、ほんのりと暖かかった。

 そう、エーフィへの進化条件は実は二通りある。

 一つ目は懐いた状態で日の出ている間に進化させる方法。

 そしてもう一つは、たいようのかけらを持っている状態で懐かせて進化させる方法だ。

 XD闇の風ダークルギアだけに存在するアイテムだから知らない人も多いんじゃないかな。

 

「あ、危なかった……」

 

 思い出したけどブラッキーの隠れ特性って精神力じゃん。

 どうやって使えと?

 シンクロの方がずっと有効的じゃん。

 危うく取り返しのつかないことになるところだった。

 

「まさか、私がドジすることまで見据えて……?」

 

 もしそうならレッドさんはきっと未来視か何かを持っていると思う。

 まさか……本当に……?

 く、本当に高い壁だよ。

 

 何にせよエーフィに進化させるという第一段階の目標は達成された。

 あとは複数の相手と戦えるように慣らすだけだ。

 ジャイアントホールに、魔(私)の手が忍び寄る。

 

 ジャイアントホールで狩りを始めてしばらくしたころ。

 もう何日たったかもわからない。

 ジャイアントホールにはいまだにコイルやレアコイルが増え続けている。

 

「これがコイループ」

 

 そんなくだらない感想をぼやいた時だった。

 空から飛行船が降ってきたんだ。

 

「親方! 空から宙船が!」

 

 それに応える人はいない。

 あの船は見たことがあるぞ。

 プラズマフリゲート、プラズマ団のアジトにして移動手段だ。

 

 だけどどうしてこのタイミング?

 ソウリュウシティに行かなくてよかったの?

 

 そこまで考えてライブキャスターを取り出す。

 ……ぶっ壊れていた。

 

「しまった! そりゃこんだけコイルやレアコイルがいたらそりゃ壊れるよねぇ?!」

 

 ということはまさか、すでにソウリュウシティは襲撃されていて、最終決戦がすぐそこまで来ているということか!

 まずいですよ!

 これだとNと落ち合うことができない。

 っていうかあんな感じで落っこちてきたけど中の人たち大丈夫なのかな。

 あ、爆発した。

 

 その爆発した船から、絶対零度が姿を現す。

 かつて一体だったドラゴンが二人の英雄に呼応して。

 二匹に分かれた時に残った抜け殻。

 三体目の伝説のドラゴン、キュレム。

 ラスボスが姿を現した。

 

「ええい! どうしてレアコイルがこんなにいるのです! キュレム! おとなしく私に操られるんだ!」

 

 あ、ゲーチス出てきた。

 憎まれっ子世にはばかる、渋柿の長持ちとはこのことか。

 まあここで死なれたらNの活躍が無駄になるから私としては全然オッケーなわけだけど。

 

 そしてゲーチスの杖は普通に起動している。

 まぁそりゃそうだよね。

 アクロマとかめっちゃ精密な機械触っておきながら手持ちにレアコイル入れてたし。

 アクロマが手掛けた機械なら磁気の対策も出来ているだろう。

 無駄なことしちゃったなぁ。

 

 まあいいや。

 おかげでプラズマフリゲートは壊れたし、ゲーチスもだいぶ負傷したっぽいしね。

 全然問題ない。

 

「ルッコちゃん!?」

 

「ルッコさん!?」

 

 まて、お前らはお呼びではない。

 私に声を掛けてきたのは、ハリーセン頭のヒュウとサンバイザートップスターのキョウヘイ。

 完全に忘れていたぞ。

 そういえばこの物語の主人公だったじゃん。

 最終決戦に居合わせないわけがないよなぁ。

 

 流し目に存在を確認してその場を立ち去る。

 一旦Nと合流したい。

 しばらくはあんたらでどうにかしてくれ。

 

 私からは探せないがNからは探すことができる。

 ポケモンの声を聴けるからね。

 だからいろんなポケモンの目に留まるように移動する。

 ジャイアントホールの入り口のさらに上に立ち、Nが訪れるのを待つ。

 

 しばらくして、Nとトウヤが一緒にやってきた。

 Nはおそらく何回も連絡を入れたんだろう。

 少し不機嫌な顔をしている。

 ごめんって。

 故障したライブキャスターをNに投げつける。

 あ、余計に顔を顰めちゃったよ。

 

 そう思っていると、もう一人の英雄が口を開いた。

 

「あなたが、二年前の……」

 

「そう、私がやまおとこのナツミだ」

 

「!!」

 

 あいにく今は昔話に花を咲かす余裕はないんだ。

 軽くトラウマを引き起こしてやる。

 そのつもりだったんだけどトウヤはめちゃくちゃ震えてしまった。

 ……寒いもんなぁ、ここ。

 わかるよ。

 

 さて、あんまりうかうかしているとキョウヘイが凍える世界の餌食になってしまう。

 さくっと助けに入ろう。




まあトウヤとNがいたらゲーチスくらいどうとでもなるでしょって思ってるルリちゃん。
キョウヘイの事を失念する。

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