ルリった!   作:HDアロー

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金木犀さん誤字報告ありがとうございます!

BW2編ラスト!


十六話 「告白」

「納得いかない」

 

 病院のベッドの上で目が覚めた。

 いや、正確には一度ジャイアントホールで目が覚めている。

 その時、既に周りには誰も居なかった。

 

「言っちゃえば私って今回の事件の立役者じゃん? なんでこんなぞんざいな扱いなわけ?」

 

 そもそも私が破壊の遺伝子を持ち込んだことが原因だとか知らない。

 そもそもNがトウヤを連れてこなければオリジンキュレムとかいう化け物にならなかったわけだし。

 ん? トウヤを引っ張ってきたのも私?

 はっはっは、何を言ってるか分かりませんね。

 

(それにしたって)

 

 キョウヘイあたりは私が起きるまで待ってくれててもいいだろうに。

 そんな言葉が出そうになった。

 でもそれを言うのは癪だったから飲み込んだ。

 偉い、わたし。

 

 腕に繋がれた点滴のチューブを辿る。

 

「そんなに重傷だったのかな?」

 

 あたりを見回してみると他の入院患者はいない。

 俗にいう個室とかいう奴だろうか。

 これが金持ちだけに許されるという……。

 とりあえず目が覚めたっていうことを連絡しようか。

 たしかどっかにナースコール的な奴があるはず。

 

「んー、これかな?」

 

 適当にそれっぽいボタンを押す、というより押そうと試みた。

 くぬぬ。

 力が入んない。

 

「ミー、いる?」

 

 最初に出来た友達を呼んでみる。

 返事はない?

 

「ガブ? ロア? エーフィ?」

 

 ひとりひとり名前を呼びあげる。

 けれど誰一人として私の声に反応してくれない。

 

「ああ、あア、アァァアァ!?」

 

 警報音が鳴り響き、視界が赤く染まる。

 そもそも、ここが病院だと、誰が言った?

 

(怖い恐いコワイコワイ助けて助けてタスケテ!)

 

 恐怖に駆られる。

 

「嫌だ嫌だ嫌だ、独りぼっちは嫌だ」

 

 布団をはぎ取り、点滴のチューブを引っぺがし、枕を放り投げる。

 真冬の川のように肌が冷え込む。

 その感覚が現実のものなのか、錯覚なのか。

 それすらわからなかった。

 

 気が付いた時には、部屋にガスが満ちていて。

 私の意識はもう一度途切れた。

 

「目が覚めたかい?」

 

「知らない天井だ」

 

「ふふっ、珍しいネタを知っているね」

 

 日本じゃ有名だったんだけどな。

 さっきのは夢だったのか。

 ここはどこだろうか。

 

「ここは?」

 

「ここはライモンで、いやイッシュで一番の総合病院だよ」

 

 冷静になって辺りを見回してみる。

 先ほど一人で暴れまわったときと同じ部屋。

 強いて違いをあげれば、壁に点滴の支えがぶつかった跡が残っているくらいか。

 つまり、夢じゃなかったってこと。

 

「なるほど。で、私の体におきた異変は何なんですか?」

 

「……君は聡明な子だね」

 

「よく言われます」

 

 ただの病院が睡眠ガスなんか使うはずがない。

 逆説的に、ただの病院じゃないことが伺える。

 

「下手に隠されると私不安で暴れちゃいます、どこかに素直に教えてくれる優しい人はいないかなー」

 

「ふふ、ルッコちゃんの棒読みなんて珍しいものを聞いてしまったな」

 

 医師は朗らかに微笑み口を割った。

 

「君の遺伝子に、ポケモンの遺伝子が混ざりこんだ。それも、かなり凶暴な奴だ」

 

「あー」

 

「……あまり、驚かないんだね」

 

「心当たりがあるんで」

 

 医師は『君が狂乱する最悪の場合まで考えていただけに拍子抜けだ』と言った。

 こちとら二度も世界の危機に駆けつけてるんだ。

 いまさら自分の体に異変が起きたくらいで錯乱なんてしてられないよ。

 

 しかしポケモンの遺伝子か。

 どっちだろうな。

 キュレムかミュウツーか。

 どちらにしろ嬉しくはないが。

 

「普通なら拒絶反応が起きるはずなんだ。既に内臓の一つくらい壊死していてもおかしくない。だというのに、なんというか、そう、むしろ適合してきている」

 

「はぁ」

 

「ありえないことだ。しかも、徐々に融和していっていて、もはや切り離すこともできない」

 

「そっかぁ」

 

 私の感想はそんなものだった。

 医師は悲しそうな顔をした。

 何故だ。

 

「すまない、私の実力不足だ。私にもっと技術があれば」

 

「ああ、気にしなくていいですよ」

 

 よく見ると、窓一つないこの部屋。

 今の話から推測するに、きっと隔離病棟なのだろう。

 見えない空を見上げて、瞼の裏に思い描く。

 

 あの時、すぐ隣に死の存在があった。

 それでも、大事なものを守るためにこの体は動いた。

 生と死の境界線で綱渡りをして、戻ってこれたんだ。

 そんなか細い可能性を、私は掴み取ったんだ。

 命があるだけでこの賭けは私の大勝ちだ。

 

「それより、みんなとはいつ会えますか? みんなと会いたい」

 

「ああ、そうだったね。今の君はだいぶ落ち着いているようだし、構わないかな」

 

 医師は無線機を取り出し、誰かに連絡を入れた。

 すると壁が開いて、モンスターボールが出てきた。

 白色のプレミアボールが一つ、ピンクのドリームボールが二つ、赤と白のモンスターボールが一つ。

 見慣れたボール並び。

 

 開閉スイッチをかちりと押し込み軽く投げる。

 それぞれのボールエフェクトが飛び散り、みんなが現れる。

 涙があふれそうになって、それを堪えることなく自由に零し、みんなに抱き着いた。

 

「ただいま」

 

 ガブのさめはだが、ロアの羽根が、エーフィの毛並みが、そしてミーの布の感触が、肌を通して伝わってくる。

 温もりが伝わってくる。

 

(死んでいたら、もう二度とみんなに会うことはできなかった)

 

 それでも、そんな未来を乗り越えて、今の私がいる。

 今日の私が明日を生きて行く。

 みんなと一緒に。

 

 しばらくして、経過観察という名の退院となった。

 もし症状が再発するようならもう一度入院する羽目になるらしいけど。

 まあ大丈夫だろう。

 みんながいれば、乗り越えていける気がする。

 

 これから毎月検診を受けなければいけないらしい。

 逆に言えば、一ヶ月は自由なのだ。

 とある理由から完全にアイドルを辞めることになったからね。

 女優業だけ休止してしまえば完全なオフだ。

 

 そういうわけで私はいま、フキヨセシティに来ていた。

 飛行機に乗って、他の地方を旅するのだ。

 

 エンテイはその炎で体内の悪しき細胞を焼き払うことができるという。

 シロガネ山の秘湯は、治癒効果が高いらしい。

 そういうところへ赴いて、一度この遺伝子と向き合おう。

 でないと、彼と会うこともできない。

 

「ルッコちゃん!」

 

 思わず振り向きそうになる体を止める。

 キョウヘイだ。

 やっぱり、来てくれた。

 

 顔を見たいという思いと、顔を見られたくないという思いが交錯する。

 でもやっぱり、見られたくないという思いの方が強くて、私は彼を拒絶した。

 

「何しに来たの?」

 

 抑揚のない声。

 興味がないと、察しろと、音だけで伝える。

 身振りはいらない。

 振り返らなくても、キョウヘイが怯んだことは手に取るようにわかる。

 

(だから、関わりたくなかったんだ)

 

 胸が苦しい。

 両手で掻きむしって、中身をぶちまけたいと思う。

 だけどそんなこともできず、押し堪えて鬱屈をためていく。

 恋がこんなに苦しいのなら、最初から知り合わなければ良かった。

 

「お、俺! イッシュ地方のチャンピオンになったんだ!」

 

「ふーん、すごいね」

 

 努めて冷静に、無感情にそう返す。

 彼が自慢をするような性格でないことは知っている。

 きっと、私に認めて欲しかったんだろう。

 でもそれに応えることはできない。

 合わせる顔なんてないんだ。

 もう、放っておいてよ。

 

 右手を頬にあてる。

 人肌ではない、硬いものに触れる感触がした。

 

「ずっと、ずっとルッコちゃんに憧れてた! でも今は違う!」

 

 やめて。

 聞きたくない。

 

「好きだ! ずっとそばにいたい! だから、どこにも行かないで欲しい!」

 

 違う、今の私は、そんな言葉望んでない。

 居ても立ってもいられなくなって、私は駆け出した。

 

「待って!」

 

 キョウヘイが追いかけてくる。

 追いかけてきてくれている。

 でも、今の私を見たら、その時。

 それでもまだ追いかけてきてくれるの?

 

「エルフーン、くさむすび!」

 

 足を取られた。

 顔面から地面に倒れ行く。

 やば。

 思わず両手で顔を隠した。

 

「わたほうし!」

 

 だけど私に伝わってきたのは、硬いアスファルトの感触じゃなく、やわらかい綿のそれだった。

 特性悪戯心か。

 本当に、主人公ってやつらはバトルセンスが高い。

 

「来ないで!」

 

 抑揚のついた声で、ハッキリと拒絶する。

 紛れもない私の本心。

 

「もう合わせる顔なんてないの」

 

「なんで!」

 

 キョウヘイは食い下がる。

 ……もういっか。

 どうせ終わった恋なんだ。

 私は服をずらして肩口を見せた。

 

「あの時、遺伝子の楔で取り込まれたときの弊害かな。私の体に、私以外の遺伝子が入り込んじゃったの。いつまで人の体でいられるかもわかんない」

 

 肩に見えるのは病的なまでに白い肌と、肥大化した神経。

 私に取り込まれたのはキュレムのものとミュウツーのもの、両方だった。

 このまま解決策が見つからなければその時は、人を辞めなければいけない。

 

「だからあなたの思いには応えられない。でも」

 

 首に巻いたマフラーを取って向き直る。

 首筋にはうっすらと、氷のような鱗ができていた。

 既に人の体をやめようとしてきている。

 

「私も、ずっとずっと、キョウヘイの事好きだったよ」

 

 がばりと。

 キョウヘイが私に抱き着いた。

 

「そんなの関係ない! 例えお互いの姿が分からなくなったって、お互いの言葉が通じなくなったって! それでも俺はルッコちゃんの事が好きだ!」

 

 キョウヘイのぬくもりが伝わってくる。

 頬を涙が伝う。

 

「……ありがと」

 

 キョウヘイの胸板を押し返す。

 目と目を合わせて思いを打ち明ける。

 

「いつか、元の姿に戻ってみせる。きっと。だから待ってて?」

 

「! 待ってる! いつまでもずっと、ずっとずっと!」

 

「ふふ、元気出た。ありがと」

 

 キョウヘイの腕を取り、ライブキャスターを操作する。

 私の新しいライブキャスターの連絡先を登録する。

 うん。

 

「じゃあ、またね」

 

「ああ、またね」

 

 キョウヘイと別れて空の旅に出る。

 行先はジョウト地方。

 多分フスベシティから東に進めばいつかシロガネ山に着くでしょ。

 そこで湯治してエンテイを探そう。

 

 空港の窓から空を見上げる。

 雲一つない、一面晴れ渡った空だ。

 

(昔思い描いた未来とは違うけど)

 

 ヤンデレになることを恐れて、子役として走り回って、結局アイドルとして歩み始めて、今はこの容姿で爪弾きにされて。

 いろんなことがあった。

 本当に、いろんなことが。

 

(でも、この未来も存外悪くないや)

 

 口元に微笑みを浮かべて。

 私は飛行機へと足を向けた。




今後の展開については19日の私が割烹に書いてるはず。
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