残念、番外編でした!
(『ルリった!』五話分くらいあります。時間のあるときにどうぞ)
「絶対に笑ってはいけないポケウッド」
ヒウンシティ、港、某日。
彼女たちは集められた。
「ルッコちゃん、これってどういう企画なの?」
「え? うーん、私も詳しく知らないんだよね」
ルッコという女性に声を掛けたのは、今ポケウッドで人気急上昇中の俳優キョウヘイ。
その類稀なる容姿と運動神経、そして何より心を掴む演技から、既に多くのファンがいた。
そして彼女、ルッコと呼ばれた少女。
こちらはまさしく主人公«バケモノ»であった。
彼女はポケウッドの頂点に立つ女優。
彼女はイッシュで一番人気のアイドル。
彼女はPWTレンタルトーナメント初代チャンピオン。
彼女はPWTチャンピオントーナメントの第四位。
歴史の表に現れる経歴だけを見ても、その異常性がうかがい知れる。
だが、彼女の恐ろしいところは表に出ない部分、水面下の履歴だった。
曰く、二年前の白の英雄対黒の英雄の立役者。
曰く、悪事を企てたプラズマ団を一人で崩壊させた。
曰く、世界を二度救った。
恐ろしいのはこれらの話が全て事実であることだ。
だがしかし、これらは決して人々の記録には残らない。
彼女と、ごく一部のものだけがその真実を知っていた。
「そっかー、ルッコちゃんも知らないのか。ならヒュウに聞いても無駄っぽいね」
「んだとコラ!」
キョウヘイが次に声を掛けたのは幼馴染のヒュウ。
ハリーセンのような髪型が特徴の目つきの悪い男子である。
「え? ヒュウは知ってるの?」
「……いや、知らないけどさ」
一応、彼もこのイッシュを巣食う悪に立ち向かったという実績はある。
だがしかし、前二人と比べれば霞んでしまうものでしかなかった。
「俺は知らねえけど、トウヤさんなら知ってるんじゃねえか?」
「トウヤでいいよ。でも、ごめんね。俺も良く分かってないんだ」
棘を体現したかのようなヒュウに、敬称付きで呼ばれた少年、カノコタウンのトウヤ。
彼の正体は、二年前世界を掌握しようとしたプラズマ団にたった一人で挑んだ英雄その人であった。
「っていうことは、この場の誰もこれから起きることを知らないってことか……」
誰が言ったか。
その言葉を待っていたかのようにある人物が現れた。
「ハロー! ハロー! みんなよく来てくれたな!」
「あなたは……ッ!」
彼女ら四人を前に唐突に表れたその人物。
かつて映画界に歴史を立てたその男。
今はポケウッドを経営するオーナー。
名をウッドウと言った。
「ボクはウッドウ! ヨロシクね! 今回キミらには、映画撮影の体験をしてもらう」
「いや、私人生の大半をこの業界で過ごしているのですが……」
何か危険を察知したルッコ。
幾度となく死線を潜り抜けてきた彼女の本能が、この仕事を引き受けてはいけないと訴えかけていた。
「みんなに相応しい衣装を用意したからな。着替えてきてや」
「いや、あの」
憐れルッコ。
抵抗空しく企画に参加させられてしまう。
他三人を見るも、未だに状況が飲み込めていない様子だった。
(あはは、まさか、ね)
彼女の脳裏をよぎるのは、前世で何度か見た番組。
かぶりを振って、それを否定した。
*着替え*
「ほいじゃあ左側から順番に出てきてな。最初はトウヤや」
「……どうも」
現れたトウヤはウルトラ警備隊のような恰好をしていた。
その衣装は、『侵略者』という映画で用いられるものだ。
「よう似合とるやん。ほな次、ヒュウや」
「……俺は今から怒るぜッ!」
出てきたヒュウの格好は、黒装束の忍者衣装だった。
こちらも同様、『Full Metal Cop』という映画で用いられる衣装だ。
「よう似合ってるからそんな怒らんといてや。次、ルッコ」
そして彼女の出番が来る。
彼女が、着替えボックスから一歩歩くたびに、その腕を振るうたびに。
その美しさに、全員が見惚れた。
「よろしくお願いします。一生懸命頑張りますね!」
「おおお! さすがルッコちゃん! グレイトだよ!」
「おいコラ! 俺らの時と反応違いすぎんだろ!」
「うわ! 二人とも凄い恰好!」
「……放っておいてくれ」
ルッコの衣装は『トレーナーとポケモン』という映画で採用されている衣装であった。
街中で歩いていても、目立ちはするが浮きはしない衣装。
前二人のコスプレとは内容が違った。
「最後や、キョウヘイ出て来い」
しかしキョウヘイは出てこない。
何かトラブルがあったのだろうか。
そう思っていると、ウッドウさんが無理やり引きずり出した。
「うおおおお! やめてください! というか俺だけ確実に方向性違いますよね!?」
「いいからいいからッ!」
無理やり引きずり出されたキョウヘイの姿は、『魔法の国の不思議な扉』という作品のものだった。
ただし、女主人公用の。
つまり今、キョウヘイの姿はお姫様だった。
「キョウヘイ……お前……」
「おいヒュウ誤解すんな! っていうかお前もたいがいな恰好じゃねーか!」
「キョウヘイ君……」
「待ってルッコちゃん! これには深いワケが……!」
そう言ってルッコはキョウヘイから目をそらした。
その行為にキョウヘイは意気消沈し、絶望に打ちひしがれたという。
(何この胸の高鳴り!? 静まれ静まれッ!)
なお、当のルッコは自身の好感度メーターの制御に精一杯だったそうな。
事実彼女の顔は、マトマの実のように赤くなっていた。
その事はキョウヘイの反対側にいた二人、トウヤとヒュウだけが知っていたそうな。
「みんな着替えてくれたみたいやし、ほな行こか」
これが、悪夢の始まりだった。
ウッドウがやわらかく、薄暗くワラう。
「キミたちにはこれから、『絶対に笑ってはいけないポケウッド』をやってもらう」
その言葉に一早く反応したのはルッコであった。
その世界で初めての試みを、なぜ彼女は知ることができたのか。
それはひとえに、彼女が転生者であったからだ。
「お疲れ様でしたー!」
早々に見切りをつけ参加拒否の意を表明するルッコ。
そんな彼女の前に、行く手を阻む者たちが現れる。
その男たちは、今人気急上昇中のグループ。
『やまおとこーず』であった。
(しかし回り込まれてしまった!)
そこは『逃げきれなかった』じゃないのかとセルフ突っ込みを脳内で行うルッコ。
行くも地獄、引くも地獄。
彼女は企画参加を決めた。
「じゃあルールの説明をするで。一つ、これからみんなには映画撮影を研修してもらう。一つ、これから絶対に笑ってはいけない。一つ、笑ってしまったものにはキツイ罰が与えられる。どや、かんたんやろ?」
「笑ってはいけない?」
疑問を投げかけるトウヤに、ウッドウはせやと答える。
「説明は以上や、んじゃ行くで」
そうして彼女たちは、タチワキ行きの高速船に乗り込んだ。
こうして彼女たちの地獄の一日が始まった……ッ!!
*お仕置き*
彼女たちは高速船のデッキに通された。
タチワキに着くまではここで待機しておいてくれということだった。
「笑ったらキツイお仕置きねえ。要するに笑わなければいいんだろ?」
楽勝じゃねえかと鼻で笑うヒュウ。
そんなヒュウに、魔の手が襲い掛かる。
「ヒュウ、ヒュウ」
「どうしたキョウヘイ?」
「……べ、別にアンタのためじゃ、ないんだからね!」
「あっはっは!」
キョウヘイはその容姿を利用してツンデレを演じた。
そして笑ってしまったヒュウには魔の手が襲い掛かる!
『ヒュウ、アウトー』
「はっ! しまった!!」
どこからともなく表れる一匹のマニューラ。
ヒュウに後ろを向けとジェスチャーをする。
後ろを向いたヒュウに放たれる一撃。
「うごふッ!」
仕事を終えたと言わんばかりに立ち去っていくマニューラ。
彼が放ったのは『だましうち』だった。
「キツイ罰ってこれか……まじかよ」
戦慄する三人。
中でもルリだけは、ケツバットではなくだまし討ちであることに恐れおののいていた。
(これが……、ポケモン時空……ッ!)
*乗客*
その後仲間内での足の引っ張り合いはやめようという協定が結ばれた。
そしてしばらくして、二人の男性ペアが入ってきた。
「おー見ろよレッド! 結構空いてるぜ!」
彼らは伝説の二人組。
「レッドさんにグリーンさん!? 何やってるんですか!」
世界的に有名な二人。
マサラタウンという辺境の地から名を轟けた二人。
彼らの名前はレッドとグリーンと言った。
「お、ちょうどいい感じに人がいるじゃん。ちょっと俺たちのネタ見てもらおうぜ」
「ネタ!?」
「」
「しゃべれや!」
グリーンの発言に、小さくうなずくレッド。
あんたこの世界線だと普通にしゃべってただろと突っ込むルッコ。
ゲーム内のレッドを知っているのはルッコだけだ。
故に、ルッコだけが笑った。
「あはは」
『ルッコ、アウトー』
「いや、それズルいじゃないですか……」
こうしてルッコも身をもってこの企画の恐ろしさを知ることになった。
ニューラではなくマニューラを用意した運営は潰すと心に決めた瞬間だった。
「すみません、俺ら芸人目指してるんですけど、ちょっとネタ見てもらってもいいですか?」
「芸人て、ふふっ」
『全員アウトー』
あんたら芸人になる必要ないだろ。
「ありがとうございます、ほらレッド、行くぜ」
一度上座の方向に向かっていくレッドとグリーン。
こういうところ律儀だよなーと思うルッコ、気づかない三人。
聞き覚えのある曲とともに、上座から二人が登場した。
「でんでんででんでんでんででんでん」
「あっはっは」
『ルッコ、アウトー』
(いや、前世のネタ持ってくるのズルいやん!)
「でん、でーでん! レッちゃんいつもの言ったげて!」
「おう聞きたいか俺のレジェン伝!」
「そのすごいレジェン伝言ったげて」
「俺の伝説ベストテン!」
レッツゴー!
「一日三ミリ、バス停動かす」
「二年かけてぇ↑自宅の前へ」
「あっはっは」
『全員アウトー』
しれっと『てぇ↑の人』ネタ混ぜて来るなよと恨むルッコ。
誰も分からんだろ!
どうやら前世ネタの分かる彼女には厳しい一日となりそうだ。
「しゃっきーん! は、鋼です……」
「あははははは」
『ルッコ、ヒュウ、アウトー』
そこにつなげて来るな。
今のはミカンという、ジョウト地方のジムリーダーの持ちネタだ。
ヒュウが分かったのは彼がPWTのファンだからだろう。
トウヤとキョウヘイはネタが分かってなかった。
*銅像*
(これは本当にヤバイ)
レッドとグリーンが去ってから、ルッコは精神統一を図っていた。
彼ら相手に何度罰を与えられたことやら。
このペースでいけば今後の仕事に間違いなく支障をきたす。
それは避けたいところであった。
幸い、このペースでいけばこの話が何万字になるか分からないという創造主の不安により、船の上で襲い掛かる予定だった魔の手は退かれた。
没になったプロット達に追悼を。
アーメン。
「着いたで、ここがボクのポケウッドだよ」
「すげー!」
「そういえばトウヤは初めてだっけ?」
「うん。俺はずっと本土にいたから」
タチワキシティにすら来たことがないということか。
キョウヘイもヒュウもヒオウギシティ出身だから、必然的にここを通っていた。
「そしてこれが、ポケウッド創設者を祭った銅像や」
「あはははは」
『ルッコ、キョウヘイ、アウトー』
そこにあった銅像は、ゲーチスのものであった。
「このスイッチを押すと音声も流れるんや。ここを開いた時のありがたいお言葉やからな、きちんと覚えていくんやで」
『ワタクシだけがッ! ポケモンを使えればいいんです!』
「あっはっは」
『全員アウトー』
「いやなんでヒュウも笑ってんだよ」
「わりぃ、なんかつられた」
*机ネタ(トウヤ)*
「じゃあ次呼ぶまでここの部屋で待っといてな」
そういってウッドウさんに連れてこられたのは控室。
いわゆる机ネタゾーンであった。
(この待ち時間には、必勝法がある)
ルッコは知っていた。
机の中身を探ってはいけないと。
それはパンドラの箱だ。
一度開いてしまったが最後、数多の絶望が襲い掛かる。
ならば対処法は簡単だ。
開けなければいい。
たったそれだけだ。
しかし、彼女以外はその事を知らない。
しばらくの休憩時間の後。
トウヤが口を開いた。
「机の中なんかあるのかな」
「あ、トウヤ待っ」
「なんだこれ、封筒?」
ルッコが制止しようとするが間に合わない。
もう、すべて、手遅れであった。
封筒の口を切って中身を確認するトウヤ。
そしてまたまた封筒に閉じ込め、引き出しに戻した。
その顔はとても痛ましかった。
「えぇ! 何があったんですか!」
声をあげたのはキョウヘイだった。
しかしトウヤは力なく、『見てはいけないものだった』というだけだ
見てはいけないと言われれば見たくなる。
キョウヘイはヒュウとアイコンタクトをとると、封筒の奪取を試みた。
「行け! ヒュウ! ここは俺が食い止める!」
「任せろ!」
「あ、待て! やめろ!」
(あーあ……)
キョウヘイがトウヤを抑え込み、ヒュウが机から封筒を取り出す。
ルッコはそれが良からぬものであるということだけ知っていたので、その行為を傍観していた。
「……ふふっ」
『ヒュウ、アウトー』
キョウヘイが戦慄した。
トウヤは見て意気消沈したのに、何故ヒュウは笑ったんだ?
「キョウヘイ、見てみろよ」
そういってヒュウがキョウヘイに封筒の中身を見せる。
そこにあったのは、やまおとこに抱き着かれるトウヤの姿だった。
「あっはははは!」
『キョウヘイ、アウトー』
地獄はまだ、始まったばかりだ。
*机ネタ(ヒュウ)*
次いで行われた話し合いは、誰から机を開けていくかということだった。
ただ一度の事例から結果を予測する能力は、人間が生き抜くために与えられた生存本能であった。
故に机を開くことを忌避する。
しかし机の中身に興味を抱く。
「おし、なら俺から行くぜッ!」
動いたのはヒュウだった。
机に手をかけ、開く。
一段目、何もない。
二段目、何もない。
もしや、何もないのでは。
そう思った時であった。
少し大きめの三段目。
そこにあったのは、一枚のDVDであった。
「DVD?」
「ちょうどそこにプレイヤーあるよ」
「いや、見るのやめとかない?」
「何言ってんだよルッコちゃん。ここで退いたら漢じゃないって!」
ルッコは女だからその理屈は通らない。
が、多数決によりDVDの視聴が決定した。
この場においてルッコは野党であった。
「お、始まったぜ」
DVDに映されたのは、ヒオウギシティ。
キョウヘイとヒュウの生まれ故郷であった。
『お兄ちゃん! いつもありがとー!』
『ヒュウ、頑張ってるみたいだね』
「あ、ヒュウのお母さんと妹さんじゃん」
カメラのシーンが変わり、ヒュウの家。
そこで画面に向かって話しかける人たちが映されていた。
いわゆる、ビデオレターという物だ。
『今日はいつも頑張ってるお兄ちゃんの為に、手紙を書きました。ぜひ最後まで聞いてください』
そんなありきたりな、だけどとても心温まる始まりだった。
『お兄ちゃんへ。いつも私に優しくしてくれてありがとう。チョロネコが奪われたとき、私以上に悲しんでくれましたね。私以上に怒ってくれましたね。今でも覚えています。私が悲しめば励ましてくれて、私が楽しいときは一緒に笑ってくれました。お兄ちゃんがお兄ちゃんでいてくれて、私は本当にうれしいです』
「あれ? 俺の時となんか違うぞ」
トウヤが少し不満げに声を漏らした。
ルッコはある程度オチが読めていたので特に感想はなかった。
『ヒュウへ。あなたがチョロネコを取り返しに行くと言ったとき、本当は凄く不安でした。本当に一人で大丈夫なのか、いつもあなたの身を案じていました。けれどあなたは立派に取り返してきてくれましたね。あなたはお父さんによく似て、かっこよく育ってくれました。でも、たまにはうちに帰って来てね。いつでも、いつまでも、ここはあなたの帰る場所なんだから』
「おふくろ……」
「いい話じゃねえか……」
ヒュウとキョウヘイの目に涙が浮かぶ。
感動のシーン、というやつだ。
だがそれも、ここまでだ。
『お兄ちゃん、ヒュウ――ブレイズキック!』
「!?」
バン! という音とともに、一匹のポケモンが入ってきた。
ホウエン地方の炎御三家、格闘タイプを兼ね合わせるポケモン。
名前をバシャーモと言った。
「ちょ、待て! さすがにブレイズキックはヤバいって!」
「ぎゃはははは、ヒュウ、ブレイズキックって、あはははは」
「キョウヘイ笑ってないで助けろ!」
『キョウヘイ、アウトー』
そして断末魔があがった。
*机ネタ(キョウヘイ)*
「おし、次はキョウヘイ、お前行け」
「よし、行くぜ!」
キョウヘイが机を開く。
一段目、何もない。
二段目、スイッチが入っていた。
「スイッチ……?」
机の上に置こうとするキョウヘイ。
スイッチを持ち上げたとたん、机が小さい爆発を起こした。
「うおっ!」
「あっはっは」
『ルッコ、ヒュウ、トウヤ、アウトー』
マニューラが現れてだましうちをしていく。
とっくに感覚は麻痺し始めていた。
机の上にスイッチを取り出したキョウヘイ。
よく見ると、スイッチには注意書きのようなものが書いてあった。
『絶対に押すな』
「キョウヘイ、カントーだがジョウトだかにはこんな格言がある。『絶対に押すなっていうのは押せっていう意味だ』ってな」
「いや騙されねーよ! それならヒュウが押せよ!」
「……よし、いいぜ」
恐る恐ると言った様子で、ヒュウが押す。
できるだけ身を引っ込めて、可能な限り手を伸ばして。
手首のスナップで、スイッチを押す。
『ででーん、キョウヘイ、アウトー』
スイッチから、そんな音声が流れた。
「あっはっは」
『ヒュウ、アウトー』
「はっは、キョウヘイこの野郎!」
二匹のマニューラが入ってきて、ヒュウとキョウヘイを叩いて行った。
「なんで俺も!?」
キョウヘイは笑っていなかった。
だがしかし、スイッチから告げられた宣告も同様にアウトなのだ。
それを受けてキョウヘイはスイッチを隠した。
それを見たルリがキョウヘイに告げる。
「キョウヘイもうそれ押さないの?」
「押すわけないじゃん! こんな理不尽な装置!」
「でもさ、考えてみてよ。もしかしたらヒュウが押したからキョウヘイになったのかもしれないよ? キョウヘイが押したら、別の人になるかもよ?」
「そ、そんな甘言に……」
「へー、いいんだ、それで。ヒュウに仕返ししたいとか思わないんだ」
キョウヘイがいつになく真剣な顔で悩む。
その顔は、キョウヘイがチャンピオンに挑んだ時と寸分の違いもなかった。
「ま、押すも押さないもキョウヘイに任せるけどさ」
キョウヘイは悩んでいた。
もう一度叩かれるのは嫌だ。
だけどこの理不尽を他の人にも味わわせたい。
そんな接近回避型の葛藤の末、キョウヘイは押すことを決めた。
『ででーん、キョウヘイ、アウトー』
「あはははは!」
『ルッコ、トウヤ、ヒュウ、アウトー』
そうしてみんなで仲良くだましうちを受けた。
*机ネタ(ルリ)*
「さて、残るはルッコさんだけだけど」
「仕方ないなー、ここまで来たらやってあげようじゃないか」
なんだかんだとノリノリになってきたルリ。
勢いよく引き出しを開ける。
「あ、鍵だ」
机に入っていたのは、七番と書かれた鍵。
室内を探して七番に対応する引き出しを探す。
「あ、ここっぽいよルッコちゃん」
見つけたのはキョウヘイ。
嫌だな嫌だなーと思いながら鍵を開け、中を覗いた。
そしてキョウヘイと一緒に笑った。
『ルッコ、キョウヘイ、アウトー』
「え? 何があったの?」
興味津々と言った様子のトウヤ。
だましうちを食らった後、その引き出しからその人形を取り出した。
「あはははは!」
『トウヤ、ヒュウ、アウトー』
そこにあったのは、なぜか首から上が回り続けるゲーチス人形だった。
*アーティとナツメ*
「みんな待たせたな。研修の準備ができたから移動するで」
そう言ってウッドウが部屋に入ってきた。
「みんなにはこれからメイクの仕事を見てもらう。しっかり学んでいってや」
ルリ達四人はウッドウの後を追いかけた。
そして外に出て、メイクしているという現場にたどり着いた。
「それじゃあ今から先生を呼ぶからな。先生、お願いします」
「ぬぅん! もしかして呼んだ!?」
呼ばれて飛び出たのはヒウンシティのジムリーダー、アーティだった。
「え、アーティさん!?」
(あー、こいつがメイク担当か……)
ルッコ以外の三人はアーティと戦っている。
戦っているから面識がある。
だからここにアーティがいることに驚いていた。
一方ルッコは妥当なところだなと及第点を与えていた。
「ほら、先生や。みんな挨拶してや。先生、このコたちが研修生です」
「よろしくねー」
「よ、よろしくお願いします」
こうして最初の研修が始まった……!
「じゃあ早速メイクに移ろうか。こっちに来てくれる?」
「わかりました」
そう言ってカーテンの向こうから現れたのは、ポケウッドのトップ俳優。
普段はヤマブキシティのジムリーダーをしているナツメだった。
「えええ! ナツメさんまで!?」
ルリは既に嫌な予感がしていた。
そしてその予感はこれから現実となる。
「それじゃあメイクを始めるからねー」
そういってアーティは絵筆と絵の具を用意し始めた。
チューブから絵の具を取り出す、そこまではいい。
その後、水で溶く代わりに別の水分で絵の具を溶いた。
「ちょっと待ってそれマトマの実じゃない!?」
「良く知っているね。そうさ、これはマトマの実を絞ってできた果汁さ」
マトマの実。
名前と形はトマトなのにその性質はハバネロによく似ているという木の実。
その性質は、辛いだけじゃない。
「いあだだだだ」
「あっはっは!」
『キョウヘイ、トウヤ、ヒュウ、アウトー』
その果汁は非常に強い刺激を持っている。
ポケスペなんかだとサファイアの目が火傷にされていたはずだ。
何と恐ろしい。
「ちょ、ちょっと待ってください。さすがにそれはヤバいですって」
「大丈夫大丈夫! これはメイクだから、ね? ナツメさん」
「こひゅー、かひゅー」
「全然大丈夫じゃないじゃないですか!!」
ナツメは力無くうなずいたが、声が既に大丈夫じゃなかった。
余談だが、ナツメは未来予知ですでに何度もこの痛みを味わうという苦行を乗り越えていた。
「それじゃメイクを続けるよー」
そう言い、アーティがナツメの顔に筆を走らせる。
刺激からか、顔がぴくぴくと痙攣しだしていた。
「ふふっ」
『キョウヘイ、トウヤ、アウトー』
こうしてメイクを学んだ四人は次の研修先へと向かった。
*ブロマイド*
「みんなメイクの研修はどうやった? いっぱい学ぶことがあったと思う。けど学ぶばっかりじゃ身につかん。そこでみんなにはこれからブロマイド販売を体験してもらう」
そういって連れてこられたのはポケウッドの東側にあるブロマイド販売所だった。
ポケウッドの頂点に立つルッコのものはもちろん、人気が出始めているキョウヘイのものもちらほらと並んでいる。
「とはいえやることは簡単や。欲しい番号のブロマイドを聞いてその番号を渡すだけや。簡単やろ? ほなしばらく頼むで」
そう言ってウッドウはまたどこかへ行ってしまった。
「随分放任的なんだな」
「確かに」
後ろでヒュウとトウヤがそんなやり取りをしていた。
ルッコは前世の認識があるから違和感はなかったが、確かに初見なら疑問に思うかもしれない。
まあ筋書きはきっちりしているんだろうけれど。
「すみませーん!」
「あ、いらっしゃい!」
「ブロマイド一枚、くださいな!」
今回接客に当たったのはキョウヘイだ。
お客さんは八歳くらいの子供。
キョウヘイはきっと、気を抜いていたんだろう。
「はいはい、何番の奴が欲しいのかな?」
「んーとね、二十一番!」
「ちょっと待ってねー、二十一番二十一番……っとこれだ……、フフッ」
『キョウヘイ、アウトー』
どこからともなくマニューラがやってきてだましうちをして去っていった。
「いやこんなんズルいじゃん。ルッコちゃんも見てよ」
「いやなんで私……フフッ」
『ルッコ、アウトー』
おのれキョウヘイ許すまじ。
そう心に誓ったルッコ。
そのブロマイドに映っていた女性は、ナツメだった。
ただし、初代赤緑の衣装のである。
(いや、鞭て、SM嬢じゃないんだから)
ルッコは必死に笑いを抑えていた。
「すみませーん、俺もブロマイドが欲しいんです!」
「はい、ただいま!」
次に接客に向かったのはトウヤだった。
「何番でしょうか?」
「んーとね、お、これこれ。七百二十三番だ」
「……? 七百? かしこまりました」
トウヤの頭に、一瞬何かが引っかかった。
引っかかったが、それが何なのか分からないままその番号を探した。
それに気づいたのは、ルッコだけだった。
(七百二十三番……? もしかして)
「ヒェッ!」
盛大にブロマイドをぶちまけたトウヤ。
空中に飛び散ったうちの一枚をパシリと掴み、その内容を確認する。
「ふふっ」
『ルッコ、アウトー』
七百二十三番……つまりナツミだった。
分からない人向けに言えば、机ネタでトウヤに抱き着いていたやまおとこ本人さんだ。
「すみませーん。俺もくださーい」
「うっす、どれをお求めで?」
次に出向いたのはヒュウだ。
客が求めた番号を探しだす。
「おっと、これだな。……ふふっ」
『ヒュウ、アウトー』
そこに映っていたのはキョウヘイのお母さんのコスプレ衣装。
それも少し前に流行った魔法少女の衣装だった。
(いや、その年で魔法少女はきついぜ)
「すみませーん」
「いらっしゃいませ! どれにいたしますか?」
最後に接客に向かったのはルリ。
お得意の営業スマイルで応対する。
「おっふ」
観客はその美しさに、セリフを忘れてしまったという。
彼は後に、この出来事をこう表したという。
『天使だと勘違いした』
またひとつ、ここにルッコ伝説が刻まれた。
*撮影*
「みんなブロマイド販売おつかれやで。次は撮影現場を見てもらおうと思う。ほなついて来てな」
「お、ようやく映画っぽくなってきたな」
「ヒュウは元気だね」
そういって私達がやってきたのはポケウッド撮影スタジオ。
人の肌と反対側の色、緑色を背景にした撮影場所だ。
これにより撮った映画をすぐに合成し、上映することができる。
もっともルリが出演する作品は長編が多く、このスタジオを活用することは最近めっきり減っていた。
「こちらが今回の映画の監督や。監督、それではこいつらをお願いします」
「はーい、まかされました!」
「シキミさん!?」
監督役はシキミだった。
ルッコは豪勢だなーと思っていた。
「これがいわゆるグリーンバック。クロマキー合成……つまり合成をしやすいようにしているのね。それじゃあ撮影を始めましょう。スーツアクター君、お願い」
白い煙と共に、スーツアクターがやってくる。
その正体はッ!?
「アデクさん!?」
「くっはは」
『ルッコ、ヒュウ、アウトー』
全身緑のスーツに包まれた男は、かつてのイッシュチャンピオンアデクであった。
あのゴツイ老人が全身緑のスーツに包まれる絵面のシュールさときたら……。
ルッコとヒュウのツボを攫って行った。
「それではスーツアクター君、任せたわよ!」
「……」
「……」
「……アデクさん、アクションを」
「えっ? ワシの番?」
「あっははは!」
『全員アウトー』
どこからともなくやってきたマニューラが四人を叩いて去っていく。
時折やってくるこの素のボケが、実はなかなかにきつい。
「スーツアクター君、お願い!」
シキミがセリフを言いなおし、過去を無かったことにして先に進める。
アデクが機敏な動きを見せる。
アデクと言えば崖から飛び降りたり、ポケモンを鍛える際に自らの肉体を使っていることで有名だ。
彼にとってスーツアクターは、簡単な仕事のはずであった。
「あがっ、腰が!」
しかし寄る年波には勝てぬというか。
結局アデクはぎっくり腰になって救急搬送された。
何しに来たんだあんた。
*控室*
「それじゃあまたここで待機しといてな」
そう言われて、彼女たちはまた控室に来ていた。
「あれ? ルッコちゃんどこ行くの?」
「んー、ちょっとお花摘み」
「あぁ」
「その察したような声やめい」
そういってルッコは控室から出て行った。
「キョウヘイ」
「ん? どうしたの、ヒュウ?」
キョウヘイをヒュウが呼び、ちょんちょんと指さす。
その先にあるのはゲーチス人形。
「ふふっおま」
『キョウヘイ、アウトー』
「いやそうじゃねえ……」
ヒュウはなんでお前が笑ってるんだよっていう顔をした。
「これをルッコさんの席に仕掛けようぜ」
「いや……えぇ……それはどうだろうか……」
「いいからいいから」
どの辺に置こうか……。
ここ、ここならちょうど顔だけちらっと映って……。
それならこの角度にすれば座ったときにちょうど……。
仕事をやり切ったという二人。
席に着き、ルッコが戻ってくるのを待つ。
「ただいまっと」
ルッコはその空気を感じ取った。
わくわくやどきどきといった、子供が悪戯をするときによく感じる気配だ。
彼女の妹や弟がよくそれをする。
「……どうしたの?」
「なにがー?」
キョウヘイが惚ける。
大根役者か、と突っ込みたくなるのを抑えて席に戻る。
「いや、言い直そっか。何をしたの……ふふふ」
『ルッコ、アウトー』
「ふぎゃん」
キョウヘイとヒュウは必死に笑いを堪えていた。
その事からルリは、このうちのどちらかの仕業だろうと予測した。
「どっちだ! これを仕掛けたのは! ヒュウか?」
「俺しーらね」
「ならキョウヘイ?」
「何のことか分かんないね」
訝しみ、歩み寄るルッコ。
キョウヘイの前に顔を寄せる。
(目を合わせたらバレる!)
キョウヘイは、ルッコが瞳孔の収縮から嘘を見抜けることを知っていた。
だから慌てて目を閉じる。
「キョウヘイ、あなた……」
(バレた……!?)
冷や汗がキョウヘイの背中を流れていった。
嫌われるかもしれないという不安が胸を襲った。
「あなた、鼻毛出てるわよ」
「ぶはっ」
「マジで!?」
『ヒュウ、トウヤ、アウトー』
*闖入者*
「はいどーん!」
「うおぉっ、びっくりしたぁ!」
控室の壁をぶち抜いて、闖入者がやってきた。
ガタイのいい肉付きに、長期の山籠もりが可能なそのリュック。
そして震えだすトウヤ。
かれこそが、やまおとこのナツミ本人であった。
「あれは二年前の夏だった……」
「はい没シュート」
ルリがガブリアスを繰り出すと、マッハ二のスピードで山へ送り返してもらった。
「ル、ルッコざぁん!!」
「はいはい、こわかったね」
泣きつくトウヤを優しく撫でる。
この小説にBLタグは付いていない。
そこから先のセリフを言わせるわけにはいかなかったんだ。
憐れやまおとこよ、また会う日まで。
*会見*
「みんな、大変なことが起きたんや。あの有名俳優が会見を開くらしいから見に行こうか」
「有名俳優?」
誰だろうと考えながら四人はついて行った。
会見が開かれるという場所には、既に多くのインタビュアーやカメラマンが押し寄せていた。
『それではただいまより、俳優ハチクさんの緊急記者会見を始めたいと思います』
パシャリパシャリとシャッター音が鳴り響き、けたたましいフラッシュが会場を包み込む。
『ああ! 全裸です! 映画界の大御所ハチクさんがッ、全裸です!』
「真っ裸ーニバル」
『なんか言っています!』
「ふふっ、ダメだこれ、あはははは!」
既に笑いましたがそのまま続けます。
「映画ってなんかイライラする」
『ええぇぇぇ! ハチクさん映画嫌いなんですかァ!?」
「レートで不意に出てくるジャロゴーリの次に嫌いだ」
『嫌いの度合いが良く分かりませんよ!』
「すっぽんぽんぽこぽんぽこりーん」
その後も司会とハチクさんの掛け合いは続いて行く。
これ会見の形にする必要あったのか?
『全員アウトー』
ぎゃふん。
*会見その二*
『えー、えっ! た、ただいま入った情報です! なんとこの会場に、極悪犯が入り込んでいる模様です』
会場にざわめきが起こる。
小さな波紋が、大きな波を作る。
『あっと、ここで警察の方が到着したようです。ささっ、どうぞ』
『ウーハー! 警視庁捜査一課のシバだ!』
(あ、この流れ知ってる)
ハチクの会見が終わった後、続けて行われたイベント。
掛け声こそ違うものの、あの人だろうとルッコは予想を立てていた。
『この会場に、極悪犯が忍び込んだ。目撃情報によるとその犯人は黒装束を身にまとっていたという!』
ルッコは心の中で冥福を祈る。
アーメン。
隣のヒュウの顔が、みるみる青ざめていく。
ごめんね、私に君を助けることはできないんだ。
ルッコはそう心の中で謝罪した。
『これより犯人探しに入る。ん? なんだ。フム、犯人はハリーセンのような髪の毛をしているのか。ご苦労であった』
シバが壇上からこちらに降りてくる。
「おいお前、黒装束を身にまとっているな」
「いや、その、はい」
「お前怪しいな……」
「お、おれは何もしてないッス!」
ヒュウの全身から汗が流れ落ちる。
さながらナイアガラだ。
「ほう、ならばその頭巾を外してみろ」
「っぃ、ぃゃです」
「ああん!? もっとはっきり喋らんか!」
「ヒェっ」
ヒュウの体が音を立てて震えだす。
すまないヒュウ、骨は拾ってあげるよ。
そうルッコは考えていた。
「キョウヘイ、たす……」
「ごめんヒュウ、無理だよ、これ」
「おま……っ」
ヒュウの目に、涙が浮かんでいく。
なむなむ、化けて出てくれるなよ。
「ええい! おとなしくその頭巾を外せ!」
「あぁっ!」
そういってシバは、力づくでその頭巾を外した。
そしてそこには、しなびたヒュウの頭があった。
「ぶはっは!」
『ルッコ、キョウヘイ、トウヤ、アウトー』
もうその衣装に着替えて長い時間が経過している。
いつものとげとげヘアーではなく、しなびたヘアーがそこにあった。
「!? ほ、ほら! 犯人はハリーセンみたいな頭してるんでしょ!? 俺じゃないッス!」
助かった。
ヒュウは心からそう思った。
そうして神に感謝を捧げようとして、悪魔に叩き落された。
「……いや、お前、見た目は忍者だったな。俺の住むカントーには、変化を得意とする忍者がいる。お前もそうなんだろ! こっちへ来い」
「そ、そんな無茶苦茶な!」
嫌だ嫌だと駄々をこねるヒュウ。
いや、実際理不尽故正しい反応なのだが、その様子は三人の心を震わせた。
「ふっふふ」
『ルッコ、キョウヘイ、トウヤ、アウトー』
三人へのお仕置きを実行している間にも、ヒュウのデッドラインは刻一刻と迫りくる。
「ちょちょちょ、なんで足踏んでるんですか!」
「逃げるからだ、すべてわかっているんだ。お前がこの会場に忍び込んだ極悪犯だな!」
「違ーう! いや、違うんです! ほんとに俺は身に覚えがないんです!」
「あっはっはははは」
『ルッコ、キョウヘイ、トウヤ、アウトー』
すでに笑いましたがそのまま続けます。
「なら何故頭巾を脱ぐことを拒んだ!」
「シバさんが怖いからです!」
「俺の地元には、こんな言葉がある。嘘吐きは泥棒の始まりであると」
「俺は嘘ついてないんですよ!」
ヒュウが悲鳴を上げる。
ヤメロー! シニタクナーイ!
「ヒュウ、もうやられてくれよ、ひー」
「ひー、ひー……、優しくしてくれますか?」
「お、ようやく覚悟できたか」
窮鼠猫を噛むというか。
ここにきてヒュウが怒った。
「だってビンタするんでしょう? あんた俺にビンタしたいんでしょう!!!」
「行くぞ」
シバがその手を天高く上げる。
それを遮るように、ヒュウが声を上げる。
「先に言っておく」
「なんだ?」
「……俺は今から怒るぜ」
「あっはははは!」
バチコーン!
それは、決して人の体からなってはいけない音だった。
全身の骨が砕け散ったんじゃないか。
そんな鈍い音とともに、ヒュウは倒れた。
本来なら、宙を舞ってもおかしくない威力だった。
だがしかし、足を踏まれていたせいで空中に勢いを逃がすこともできない。
結果としてヒュウは、シバのビンタを余すことなくその身で受けることになった。
その目には、うっすらと涙が浮かんでいた。
「ウー! ハー!」
そういってシバは去っていった。
*終幕*
「おお、みんなよく帰ってきたな。これで『絶対に笑ってはいけないポケウッド』は終了や」
その喜ばしい宣言に反応するものはもはやいなかった。
誰も彼もが、魂が抜けたかのような表情を浮かべていた。
*その後*
布団をはじきながら、私は目覚めた。
よほどうなされていたのか、衣服には大量の汗がびったりとついていた。
服がべたつくのが気持ち悪かった。
「ここは……」
異常なほど発汗しているという事実を受け止めた後、私は周囲を見渡した。
見覚えのない天井、窓から見える知らない街並み。
記憶が混濁していた。
すると奇妙なことが起こった。
先ほどまでまとわりついていたはずの汗が、みるみるうちに凍っていったのだ。
その異常現象を前にして、私は思い出した。
左手を回し、首筋に触れる。
ヒトの皮膚らしからぬ、硬い感触があった。
「あはは、そうだ。キュレムに取り込まれて、DNAが逆流して、いつまで私で居られるかが分からなくなって……」
それでジョウトまでやってきたんだった。
ということはこの街並みは、コガネシティのものということだろう。
汗が私の体温を奪っていく。
酷く、酷く寒かった。
肩が震え、体が震える。
怖かった。
このまま私が私でなくなることが。
「全部、夢だったんだ……」
もうみんなに会えないかもしれない。
そんな不安が作り出した、ただの幻想。
「そうだよ、よく考えれば、キャスティングからしておかしいじゃん……」
あはは、と、渇いた笑みをこぼす。
凍った涙が、零れ落ちて行った。
「行かなきゃ、シロガネ山に」
私は、ふらふらとした足取りでコガネシティを後にした。
と言うわけでルリちゃんの中での楽しい思い出への願望でしたとさ。
Nがいないのはルリちゃんが人物像をつかめていなかったから。トウヤがちょくちょく消えるのは関わりがうすいから。前世ネタは記憶の世界だから。ゲーチスが散々ネタにされてるのはルリちゃんのなかでネタ枠だから。ナツメやらハチクやらレグリは他に印象の強かったネタに落とし込まれただけ、かわいそうに。
三人称なのはルリちゃん自身どこかで夢だと自覚していたから。三人称書けない……。原作沿い書けない……。無い無い尽くし。
2019年も良ければよろしくお願いします。