ルリった!   作:HDアロー

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三話 「一緒に帰ろ」

「お願い! マンタイン!」

 

 私がそう声を上げただけでマンタインが水面に顔を出す。

 飼育員たちの声色、声量、声調は昼間覚えた。

 あとは演じるだけ。

 

 つまりマンタインは、私と飼育員を勘違いしてやってきたのだ。

 

「行くよ!」

 

 そういってマンタインを走らせる。

 

「な、ライドポケモンを使いこなすだと?」

 

「いったいどうなってるんだ」

 

 とはいえ、流石にゲームみたいに隣の島まで移動したりはしない。

 ポケモン泥棒は気が引ける。

 まだ国際警察に手配されたくはない。

 浜辺沿いを高速で走らせる。

 

 浜辺の端までたどり着いたらマンタインにお礼を言って陸に上がる。

 体格が小さいから浅瀬でも膝上まで海水に飲まれた。

 そんなことを無視して走り出す。

 

 草の茂った岩垣を。

 木々の隙間を縫って走り抜ける。

 

「もっと早く、もっと前へ」

 

 肺が悲鳴を上げる。

 呼吸が荒ぐ。

 足が悲鳴を上げる。

 

「それでも、止まるわけには、いかない」

 

「ミミッキュッ……」

 

「あはは、大、丈夫。だから。安心、して」

 

 腕の中に抱きかかえたミミッキュに微笑みかける。

 意識が足先から腕の中に向けられる。

 私はよろめいて、岬から海に放り出された。

 

(あ、ダメだ)

 

 せめてミミッキュだけでも。

 そう思い、ぶん投げる。

 ここまで僅かコンマ数秒。

 崖の上に向かってボロ布が飛んでいく。

 

(ごめんね。やっぱり私じゃ、君の助けに成れなかったよ)

 

「ミミッキュッ!!」

 

 ミミッキュの内側から、黒い影が二本、こちらに向かって伸びる。

 その腕は私をしっかりつかんで受け止め、崖の上へと引き上げた。

 

「あ、ありがとう。ミミッキュ」

 

「ミミッキュッ」

 

 どこまで走ったのか。

 大人たちが追い付く様子はない。

 

「ねぇ、ミミッキュ?」

 

「キュ?」

 

「あなたはこの場所が好き?」

 

「……」

 

 意地悪い質問だと思う。

 七歳の、邪気の無い言葉ではなく、二度目の人生を歩む、意地悪な問いかけ。

 人目に隠れて、いつも怯えて過ごすこの場所が、心地よいはずがない。

 それでもミミッキュが、答えずに沈黙しているのはこう思っているからだ。

 

「どこに行っても同じ。そう考えてる?」

 

 ハッとしたようにこちらに向くミミッキュ。

 

「私と一緒にいて、楽しくなかった?」

 

「ミミッキュッ!」

 

 そんなことは無いという様にぶんぶんと首を振るミミッキュ。

 

「なら、私と一緒に来ない?」

 

 ミミッキュが固まった。

 自分を必要としてくれる存在なんていなかったんだろう。

 布越しに、目を丸くしているのが分かる。

 

「私はあなたと一緒にいたい。あなたは、私と一緒にいたくない?」

 

「ミ、ミ、ミミッキュッ……!」

 

 少しだけためらったようだが、私がやさしく微笑みかけると飛びついてきた。

 可愛いなぁ。

 プレミアボールを突き出す。

 ミミッキュはもう一度黒い影を伸ばすと、ボールの中心、開閉スイッチに触れた。

 

「よろしく、ミミッキュ」

 

 初めてのポケモン。

 きっと今よりずっと、仲良くなれるよね。

 

(さて、最後の一仕事と行きますか)

 

 持っていた目薬を取り出して差す。

 即席の涙の完成だ。

 

「うわあああああん! ミミッキュ! ミミッキュゥ!」

 

「! こっちだ!」

 

 近くはないが、遠くもないところまで来ていたようだ。

 結構ギリギリだったのね。

 近くにいなかったら延々泣き続けるつもりだから丁度よかったが。

 

「嫌だよ! ミミッキュー!」

 

「いた! 女の子だ!」

 

「ミミッキュはどこだ!?」

 

「わた、私を、私をかばって! 代わりに海に!」

 

 男たちが何だって! といって身を乗り出す。

 結構高さのある岬だ。

 この高さから落ちればただでは済まない。

 

「ミミッキュは優しいポケモンだったの! 悪いことなんてしてなかったモン! なのに、なのにィ……!」

 

 涙を拭って大人たちを睨みつける。

 悪いことをしたという自覚が現れたのだろう。

 ミミッキュを追い回していた時の威勢はどこへやら。

 誰も彼もバツが悪そうに顔を背ける。

 

「悪かった」

 

 一人の男が謝ってきた。

 私を掴んで、ミミッキュと引き離そうとしていた男性だ。

 

「俺たちが悪かった」

 

「でも、でもミミッキュは……!」

 

「……もう二度とこんなことが起きないようにする。本当にすまなかった」

 

「う、あ、わ、うわあぁあああぁん!」

 

 私は男性の中に顔を埋め込むと大声で泣いた。

 泣いたというより、鳴いたというほうが正しいか。

 天才子役と謳われた私だ。

 人を欺くなんてお茶の子さいさいよ。

 

 その後は、特に何が起こるでもなく、島々を移動しながら休暇を楽しんだ。

 

 メレメレ島では、メレメレの花園やショッピングエリアを回った。

 オドリドリもそうだが、一面に広がる山吹色の花畑はとても美しかった。

 

 アーカラ島では、せせらぎのおかとシェードジャングル、ヴェラ火山を回った。

 どこもかしこも自然の力がいっぱいでリフレッシュできた。

 ただヴェラ火山はもういいかなって思った。

 

 ウラウラ島ではマリエシティとカプの村に寄った。

 カプの村からメガ安跡地まで行こうと思ったけれど道中のトレーナーが邪魔で断念した。

 ごめんね、ミミッキュ。 

 

 ポ二島だけは訪れなかったので、いずれは行ってみたいと思う。

 ミミッキュは人目が付かないところでボールから出してあげてポケモンフードをあげたりした。

 今はイッシュに帰ってきていつも通り練習しているわけだが、一つ新たな選択肢を思いついた。

 

(もし、ライブキャスターを落としたときに、回収するのではなく買い替えれば?)

 

 もちろん、ライブキャスターは安くない。

 その為普通は買い替えたりしない。

 だけど、あるじゃないか。この世界には。

 元手無しで稼げる方法が。

 

「トレーナーバトル」

 

「ルリちゃん、トレーナーになるの?」

 

「……うん。決めた。私、ポケモントレーナーになる」

 

 今まで生きて行くのに精いっぱいで、全然考えつかなかった。

 折角ポケモンの世界に転生したんだ。

 知識を総動員すればチャンピオンだって夢じゃない。

 ならば手を伸ばしてもいいじゃないか。

 

 もしかすると、バトルしているだけで食べて行けるようになるかもしれない。

 そうすれば今のアイドル路線から離れられる。

 

 これからは少しずつ休みを取ってポケモンの育成に力を入れよう。

 そう決めた。




ルリは転生前はレート潜ってるレベル想定。
ただそこまでガチでやってなくて、ふとした時に一日がっつり潜るくらいを想定してます。
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