滅龍剣と謎のキグルミ   作:ケツアゴ

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思いつき一時間で何とか執筆!


プロローグ

 一寸先も見えない暗闇の中、その存在だけは日光の下にいるようにハッキリと見る事が出来た。黒と白が入り交じったズングリとした体型でオフィス用の椅子に座り此方に背中を向けている。その後ろ姿からパンダだと気付いた時、それは見られている事に気が付いたのか椅子を回転させ、此方を向く。間違いなくパンダだったが前足で腕組みをした上で脚をブラブラと動かしていた。

 

「やあ、読者の皆。知っている人には相変わらずの登場で、初めての人には初登場の喋るパンダのアンノウンだよ。……え? 正体知ってるし、お前はキグルミだろうって? はっはっはっ! この作品がオリジナルである以上、僕の正体は謎のまま、正体不明のアンノウンなのさ」

 

 アンノウンが得意げに前足を両側に広げた時、何処からか金鎚が飛んでくる。それを右前脚でキャッチしたアンノウンはそのまま金鎚を腹部に仕込んだポケットにしまうと椅子から飛び降りてポテポテ歩き始める。スポットライトが追っているかの様に先程まで座っていた椅子は闇に包まれ見えなくなり、アンノウンだけがハッキリと見えた。

 

「この世界での僕の玩具……お友達が急かしているし、お話を始めようか。舞台は中世位の文明に魔法が加わったファンタジーの世界。当然、モンスターだって居るし、魔王ってのも何度滅ぼされても現れる。まあ、今から始まる物語では……え? 早くしろ? って言うか僕なら何とか出来るんだろ? 気が短いし、今回僕は主役じゃないから打ち切りエンドでもない限り大活躍はしないさ。じゃあ、始まり始まり~」

 

 アンノウンが両前脚をぶつけると拍子木に似た音が響き渡り、アンノウンの姿も闇に消える。やがて地面に穴が開き、其処から遙か下の大地、小さな農村へと続く荒れ道を走る馬車へと近付いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……三年ぶりかぁ。皆、元気にしてるかなあ」

 

 手綱を握り馬を急かしながら小柄な少女は懐かしそうに呟く。短く刈り揃えている少しくすんだ金髪は癖毛なのか所々カールしており、青い瞳は望郷の念からか僅かに涙が滲む。少しだけサイズがあっていないのか大きい服は所々縫い直された痕があるが、胸元に飾られた紋章、国立アムリタ騎士学校の卒業の証だけは誇らしげに輝く。

 

 少女の名はレヴァ・スルテス。先日騎士を養成する学園を卒業し、正式に部隊に配属される前に故郷の村へ報告に向かっていた。親は既に居らず、村人達が彼女にとって家族だった。村を襲った盗賊を撃退した騎士に憧れて学校に入りたいという我が儘を聞き入れてくれ、学費まで出してくれた村の皆の顔をレヴァが思い出して涙ぐみ手で涙を拭った時、村が見えてきた。

 

 

「おーい! 皆ー! ただいまー!」

 

 大きく手を振るレヴァに鍬を振るっていた老人が畑仕事を中断して同じく手を振る。その体を上空から飛来したドラゴンが踏み潰して血飛沫が舞い散った。

 

「……え?」

 

 思わず呆然となり手綱を手から落としたレヴァに背中を向けているドラゴン、大きさは小屋ほどもあり、鱗は黒く輝いている。鋭い牙の間からチラチラと炎が漏れ出している、そんな姿を見た馬がパニックを起こし来た道を暴走状態で駆け出す中、ドラゴンは気にする様子もなく村の方へと歩みを進める。この時間、畑仕事をする者以外は家の中で収穫した作物の仕分けなどの作業をしている者が多く、外から聞こえてきたパニックの声に気付かなかった。

 

 

「皆、山に逃げてっ!」

 

 暴走する馬を宥める暇はないと剣を握り締めて馬車から飛び降りたレヴァは気を引く為に足元の石ころ、拳ほどの大きさの石をドラゴンに投げつける。大きい石であったが騎士学校での訓練で鍛えられた彼女の腕は引き締まっており細く見えても力がある。見事に後頭部に命中し、ドラゴンは動きを止めて彼女に振り返った。

 

「グルル……」

 

「うっ!」

 

 僅かにドラゴンが唸っただけで少女の体に寒気が走る。学校の実地訓練でモンスターとの戦いはあったが集団であり、一人で生物の頂点とされるドラゴンに挑んだ事などない。いや、そもそもドラゴンは天災が命を持ったと評される存在、小さくなって物陰に隠れ、どうか居なくなってと願う存在だ。

 

 

「レヴァちゃん、逃げろっ!」

 

「人間が敵う存在じゃない!」

 

 口々に彼女に逃走を促す村人達。ドアを叩き、半鐘を鳴らし建物内部の者に危険を知らせながら逃げ惑う。レヴァも今すぐに逃げ出したい衝動に襲われる。だが、村人達の声に反応したのかドラゴンの視線が自分から逸れるのを見た時、竦んで動けそうになかった足を無理矢理動かし、剣を取り落としそうな程に震える手に力を込め、ドラゴンに挑み掛かっていた。

 

「はぁああああああああああああああっ!!」

 

 切っ先をドラゴンに向け、狙うのは鱗が無く肉の薄い首の部分。踏み込みの勢いを乗せた全力の突きを放とうと駆け出す。ドラゴンの口から一直線に炎が吹き出されたのをスライディングで避け、掠りもしないのに髪の一部が焦げたのを感じた。近くを通り過ぎただけで肌が焼け、肺の中が熱せられて玉のような汗が吹き出す中、ドラゴンの至近距離まで接近したレヴァの真横から長い尻尾が迫る。鞭のようにしなって襲い来る丸太の様な尻尾、それを彼女は飛び上がって避け、跳躍の勢いを乗せた突きを放つ。彼女の剣はドラゴンに届いた。

 

 

「……あれ? 嘘……」

 

 だが、それが何だと言うのだろう。確かに剣の切っ先はドラゴンの首の肉が薄い部分に届くも無慈悲に跳ね返される。そこが他に比べて弱いと言うだけでドラゴンの強靭な肉体の一部に変わりはない、ただそれだけの話だ。

 

 空中で体勢を崩すレヴァに鋭い爪が生えた前足が振るわれる。咄嗟に滑り込ませた剣は無惨に切り裂かれ、殆ど勢いを殺さずにレヴァの肩口から脇腹までに三本の赤い線が走り、血が吹き出すと同時に尻尾が馬小屋まで彼女を吹き飛ばす。レヴァが直撃し粉々に砕けた馬小屋に興味を向けずにドラゴンは動き出す。逃げ惑う村人にはドラゴンが嘲笑っている様に見えた……。

 

 

 

 

「うっ、あぅ……」

 

 崩れ去った馬小屋の中でレヴァは呻き声を上げる。剣が盾になって削いだ僅かな威力の差、馬小屋に居た馬がクッションになった事で一命を取り留めた彼女は教官から褒められた治癒魔法で傷を塞ぐと出血と痛みで朦朧とする意識を無理矢理保ちながら這い出る。応急措置にしかなっていない額の傷口から流れ出していた血を手で拭った彼女が目にしたのは焼け落ちる建物と、弄ばれたと一目で分かる村人達の死体。わざわざ見せつけるかの様に積まれた村人達の顔は恐怖と苦痛で歪んだまま固まっていた。

 

「あぁ、うわぁああああああああああああああああああっ!! 畜生っ! 畜生畜生っ!」

 

 まるで神が哀れんで火を消すべく降らしたかの様な豪雨が突如降りしきる中、レヴァは泣き叫び、何度も拳を地面に叩き付ける。彼女の慟哭は雨の音にかき消される事無く、村だった場所に響き渡るのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ドラゴンは災害そのものだ。大きな町が襲われん限り騎士団は動けん』

 

『諦めろ。この時代、村が滅びるのは珍しい事じゃない』

 

『討伐に力を貸せ? 貴女、正気!?』

 

 村人達を埋葬し、ドラゴンの事を報告した彼女に告げられたのは討伐隊は出ないという事だった。理性では理解している。ドラゴンがどの様な存在か、恐怖と共に歴史に刻まれているからだ。だが、レヴァは諦める事が出来なかった。彼女が騎士を目指したのは何よりお世話になった村人達の笑顔を守りたかったから。だが、それはもう無理だ。

 

 

 この日、レヴァは騎士になる夢を捨て村を滅ぼしたドラゴンを退治する事だけを生涯の目標と決めた。次は何をすべきか? それを思案した彼女はとある噂を思い出す。騎士学校で聞いた眉唾な噂。彼女の祖国であるアムリタ王国の隣の隣、ポーシェル帝国にドラゴンさえ切り裂く魔剣を創り出す鍛冶屋が居るという一笑に付される内容。当時の彼女も信じなかったが、それしか縋る物がない彼女は僅かな路銀を持って国を飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

「……まさか本当に居るなんて。町の人は平然と話をしてたけど」

 

 半年、それが彼女が目の前の工房にたどり着くのに掛かった月日だ。盗賊やモンスターを退治して路銀を稼ぎ、嘘の情報に右往左往しながらも辿り着いた山の上の工房。山の下の町では噂通りにドラゴンの強靭な肉体を斬る事が出来る剣の鍛冶屋は子供でさえ平然と口にして、何より村を滅ぼしたドラゴンよりも弱々しく見えるがドラゴンの死体が普通に売られていた事が事実であったとの確信に変わる。

 

「……皆、待ってて」

 

 こみ上げてくる想いを押し殺しレヴァは工房の扉をノックする。ものの数秒で扉は開き、中に居た者と目があった。

 

 

「やあ。グッ君のお客さん?」

 

「……パンダ? って言うか喋った?」

 

 そう、目の前に居るのは紛れもないパンダ(ただしキグルミ)であった。だが、レヴァは何故かキグルミとは気付かない。じゃないと喋っても驚くはずがなかった。

 

「イエス! アイアム喋るパンダ!」

 

 この日の出会いをレヴァは忘れない。但し、良い意味とは言っていないが……。




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