滅龍剣と謎のキグルミ   作:ケツアゴ

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第二話

 トライデントとは大陸の真逆の位置に存在する大雪原、通称ゴーシュ雪原。夜になればオーロラが現れる事も多々あるその場所は正しく極寒。雪は水分を含んだベタ雪ではなくサラサラした手触りであり、雪山に存在する洞窟は万年氷を蓄える天然の氷室だ。

 

「おっし! このまま帰れば俺達は大金持ちだぜ!」

 

「生きて帰れれば、ですよリーダー?」

 

「そもそも此処に来た理由を忘れたのかしら? リューナの妹さんの薬代でしょ!」

 

 極寒の環境に適応できない生物の生存を頑なに拒む地にて四人の若者達が白い息を吐きながら疾走していた。各自が首から下げているのは一見すればクーラーボックスの様なマジックアイテムであり、効果も中の温度を一定に保つ上に丈夫な造りになっている。

 

 しっかりと蓋がされた内部に入っているのは氷のように内部が透けて見える甲殻を持った少々グロテスクな見た目の蟹。大きさは大人の拳程度であり、『アイスクラブ』と呼ばれるモンスターの幼体だ。見た目に反して美味であり、親と共に暮らすことから希少価値が高い。つまり高価で売れるわけで、リーダーらしい盾と片手剣の軽薄そうな青年が嬉しそうにするのは仕方がないだろう。

 

 

「皆、また増えた」

 

 そして、弓を背負ったエルフの青年と槍を持った猫の獣人の女が苦言を呈した理由は彼らが走っている理由と同じであり、肩まで銀の髪を伸ばした白い肌の華奢で小柄な少女の言葉が状況の悪化を知らせる。

 

『キシャアアアアアアアアアアアッ!』

 

 二メートル程の体躯を持つ大人のアイスクラブが群をなして子供を浚って逃げる不届き者達を抹殺せんと迫ってくる。先程から聞こえてくる鋏を打ち鳴らす音は金属をぶつけ合わす音に似ており、群れに属するアイスクラブが次々に合流し、今や小規模な雪崩の如しだ。

 

「……皆、僕の為にごめん」

 

「気にするなって、リューナ。それよりテレポートは使えねぇのか?」

 

 先程の会話からしてリューナと呼ばれた少女の妹の高額な薬の代金を賄う為にアイスクラブの子供を捕りに来たらしいが、逃亡しながら謝る彼女の頭をリーダーの青年が軽く叩いて笑いかけながら少しずつ距離を積めてくるアイスクラブ達に冷や汗を流す。

 

「僕だけなら兎も角、皆と一緒なら発動までの時間が足りない。一度発動したら止められないし」

 

 問いに対して答える時の彼女の声には抑揚がさほど無く、感情が薄いのもあって人形めいた印象さえ他者に与えることだろう。そんな彼女は何を思ったか振り返りバック走で逃げながら先端に宝玉のついた杖を向けた。

 

 

「サモン・土人形(ゴーレム)

 

 地面が盛り上がり、雪を押しのけて土で作られたゴーレムが五体現れる。大きさはアイスクラブの倍ほどで、腕を振り回しながら向かっていった。

 

「足止め時間は短い。早く逃げる」

 

 再び前を向いて逃げる彼女の背後では群がられ押し倒された一体が切り刻まれて消え去り、もう一体も鋏を叩きつけられて半壊状態だ。だが、僅かだが気を逸らせたのか距離が開き、一同は足に更に力を込めて走り出す。だが、獣人の女性が足下の雪に隠れていた岩を踏んで滑ってしまった。

 

「きゃっ!」

 

「ニーナ! 行くぞ、リード、リューナ!」

 

「了解です!」

 

「もう一度ゴーレムを……っ!?」

 

 仲間を見捨てる事など出来ぬとニーナに駆け寄ろうとした時、迫ってきていたアイスクラブの足元が崩落する。擂り鉢状に大きな穴が現れ、アイスクラブだけでなく少し離れていたリューナ達もまた流れる足場によって中心へと引きずり込まれそうになった。

 

「領域主……そんな」

 

 穴を囲う様に地面が数カ所盛り上がり、雪が津波が起きたように波打って巨大な触手が現れる。不気味な程に白いそれは烏賊の足が一番近いだろう。獲物を逃がさないと取り囲む触手の持ち主、そして穴の中央が何の口に通じているのか、リューナは即座に思い当たる。中心へと進む速度は徐々に上がっていた。

 

「皆、一か八かテレポートを……テレポート!」

 

 共に転移するには接触している必要があるからと呪文を唱え手を伸ばすリューナ。足元に魔法陣が出現し、後数秒で転移先のマーカーをしてある拠点の街に飛ぶ。だが、伸ばした手は握られる事は無かった。

 

「……あー、これは駄目だな。終わったわ」

 

「まあ、冒険者ですし死ぬ覚悟は出来ていましたよ」

 

「仕方ないわね」

 

 焦燥する少女の耳に入ってきたのは諦めの言葉の筈なのに悲観的な感情が感じられない仲間の声。何で、そう訊ねようとする彼女に仲間達は自分が持っていた荷物を投げ渡した。

 

「皆、早く……」

 

 無情にもテレポートが発動し、リューナだけがこの場から消え去る。残った三人は目前に迫った死を感じながら笑っていた……。

 

 

 

 

 

 

「皆、なんで……」

 

 眼前に広がるのは見慣れた町の景色。何時もの様に人の営みが繰り広げられている場所で少女は立ち尽くす。側にいるのは当然で、時に鬱陶しいと思っていた大切な仲間は側に居ない。もう、会うことは決してない。その事を悟ったリューナは膝から崩れ落ちる。目からは大粒の涙が溢れ出した。

 

「ああ、ああああああああああああああっ!!」

 

 もっと自分が優秀な魔法使いなら仲間は生きていた。そんな自分を責める考えが頭の中を支配する中、ドス黒い感情が湧き出してくる。仲間を殺したモンスターへの復讐心だ。

 

 

「……許さない。絶対に殺してやる」

 

 リューナはモンスターの名を心に刻み込む。復讐の相手を絶対に忘れない為に。仲間の仇を討つ為に。

 

 

 

 

 モンスターの名は凍烏賊帝リジル。ゴーシュ雪原全土を縄張りとする強大なモンスター。今の彼女では絶対に勝てない相手であった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……お前の故郷を滅ぼしたドラゴンだが……諦めろ、絶対に勝てん」

 

「そんなっ!? 私は絶対に諦め……」

 

「領域主……騎士見習いだったなら知っているだろう?」

 

 レヴァは騎士学校を出たばかりの己の強さに絶対的な自信を持つほど自惚れてはいないが、それでも培ってきた物は確かにあると自負している。それ故に今後の可能性すら否定する青年の言葉に思わず立ち上がるも、続いて告げられた言葉に動きを停めた。

 

 領域主、と呼ばれる存在がある。通常、モンスターは同種族の同じ群れの仲間と縄張りで暮らすが、領域主はより広大な範囲を単独で支配する存在だ。故に強い。其れこそ縄張り内部のモンスターを一方的に補食出来るほどで、個体によっては二つ名が付くことも有る。

 

 通常は森や島一つを支配する程度だが、中には複数の領域主が存在する広大な範囲を縄張りにする大陸主や列島主と呼ばれる存在すら居るのだ。

 

「恐らくそのドラゴンは最強の領域主、何代も前の魔王の頃から存在し、危険故に秘匿されてきた存在の先兵……負の念を集める働き蜂に過ぎん。名を天空主『魔龍聖母ロンギヌス』。だから諦めろ」

 

「……私はっ! 私は絶対に諦めないっ! 何があっても奴を倒さなくちゃ先に進めない! このままじゃ死んでいるのと同じなんですっ!!」

 

「……そうか」

 

 グラムは拳を握りしめて叫ぶ少女の瞳を見て立ち上がり、部屋の奥から包みを取り出す。魔法陣が描かれた布と鎖で封印された何かを差しだし、こう告げた。

 

「これが俺の最高傑作だ。……これを見ても同じ事が言えるか?」

 

 真剣な眼差しで包みを開く。其処には……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……大根?」

 

 立派な大根が入っていた。

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