はねバド! ─羽咲綾乃は天才である─   作:サイレン

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あらすじに挿絵入れましたのでどうぞ見てください。






第4話 再会

 

 

 その日のことを、今でも時折思い出す。

 

 出逢いからして最悪だった。

 同級生に初めて負けた。

 何度も挑み、返り討ちにされ、敗因を考え、自身を見直し、練習に取り組み、再度挑み、また負ける。

 

 つまらなさそうにバドミントンをするその娘を見てるとイライラした。

 そうさせているのが自分だと思うともっとイライラした。

 

 自分は強くなっているのだろうか? 君は強くなっていると周りは言う。

 ではなぜあの娘には勝てないのだろうか? あの娘は天才だからと周りは言う。

 

 ふざけるな。何が天才だ。天才だなんて認めない。あの娘を倒すためだけに自分は努力してきたのだ。だからそんな戯言は聞きたくない。

 猛りを糧にまた挑み、そして負ける。

 

 一年以上繰り返したそんな日々。

 

 ある小さな大会でそれが終わった。

 練習試合ではなく公式戦でその娘と試合をするのは初めてだった。

 こんな機会は滅多に無い。

 必死に練習して、毎日走り込んで、寝る間も惜しんで研究して。

 結果、当日に風邪をひいた。

 

 あまりの不甲斐なさに頭が沸騰していた。

 あり得ない暴挙に出てその娘に風邪を移した。

 スポーツマンシップの風上にも置けない方法で条件を対等にした。

 

 そして、無様に負けた。

 

 こういう趣向は初めてで面白いね、とその娘は嗤った。

 手加減されていたと初めて知った。

 

 心が折れた音を聞いたのも初めてだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 古き良きキーンコーンカーンコーンというチャイムを合図に、午前中の授業が終了した。

 勉強道具を机にしまい、生徒たちは各々行動に移っていく。弁当を取り出す者、購買や学食に駆け出す者、他クラスに移動する者と様々で、中学の頃とは自由度が桁違いだ。

 この春入学した一年生も早くも高校生活に順応したのか、一年四組で勉学に励んでいた綾乃もカバンから弁当を取り出していた。

 

「エレナー、お昼一緒に食べよう?」

「いいわよ、のり子は?」

「のり子ちゃん、今日は用事があるんだって」

「あっ、そうなの?」

 

 紫に近い長い黒髪を靡かせるおでこを出した少女──藤沢エレナは、幼馴染である綾乃とお昼ご飯を食べるために机をくっつける。どちらもお弁当派なので移動することなくお昼休みを過ごすのが二人の日常であった。

 

「こうしてると中学の頃とあまり変わり映えしないわね」

「私はエレナと一緒のクラスで嬉しいよ?」

「まぁ私も気楽ではあるけどね」

 

 綾乃の直球な好意に少し照れながら、エレナは包みからお弁当箱を取り出す。

 エレナとしても綾乃と同じクラスなのは嬉しいのだが、綾乃の交流の輪が広がらないだろうことには懸念を抱いていた。元々閉鎖的な子ではあったのだが、中学のある出来事を経てその傾向に拍車が掛かっており、エレナともう一人の幼馴染であるのり子だけでは如何ともし難い現状なのだ。

 去年の秋に心許せる先輩方が現れたお陰で少しはマシになったが、未だに綾乃の排他的な態度は完全な改善とは程遠い。

 

 まぁ今すぐどうにかなる類いの悩みでは無いかとエレナはその懸念を頭の隅へと追いやり、とりあえずは目の前にあるお弁当を片付けようと両手を合わせた。

 

『いただき』

「見つけましたわ、羽咲さん!」

『……ま、す?』

 

 教室に響く心当たりのあり過ぎる名前。それにしては聞き覚えの無い声。

 綾乃とエレナは揃って首を傾げ、名前を呼んだであろう誰かへと視線を移す。

 平和なお昼が音を立てて崩れ去るのがエレナにはなんとなく判った。

 

「安心しましたわ、やはり北小町に入学していましたのね?」

 

 教室の静寂を派手に破った闖入者はそのままずんずんと歩き進み、一直線に綾乃の元へとやって来た。

 人違いではなかったかとエレナは初めて会うその人にどう対処したものかと一度止まり、声を掛けられてる本人の反応を待つ。

 綾乃は更に首を傾げていた。

 

「……誰?」

「なっ⁉︎ (わたくし)を忘れたんですの⁉︎ 同じクラブチームにいたこの私をっ⁉︎」

「クラブチーム?」

 

 ほぼ直角に曲がった首を戻す綾乃。

 相手の口振りから本当に自分の知り合いなのではと思い直した綾乃は、風景に溶け込む色の無い他人という認識を改め眼前の人物を着色する。

 二つに束ねた桃色の髪に、頭部を更に彩る可愛らしい赤いリボン。髪と同色の勝気な瞳に、北小町高校の制服を着こなす綾乃よりは成長に富んだ女性らしい身体。先程から耳朶を震わすお嬢様口調の声。

 クラブチームというワードをヒントに記憶を漁り、該当者の存在を思い出し、うろ覚えだった名前を確定した綾乃は手をポンと叩いた。

 

「生え際薫子ちゃんだ!」

芹ヶ谷(せりがや)薫子(かおるこ)ですわよっ‼︎ 貴方なんて最悪な間違え方してるんですの⁉︎」

 

 薫子は綾乃に掴みかかった。

 

 当然の流れだった。

 

 

 

「意味がわからない」

 

 憮然と呟く薫子を余所に、綾乃とエレナは遮られた食前の祈りを捧げ両手を合わせる。ぱかりと蓋を外し箸を手に取った両者は、早速とばかりにお手製の料理を口に運んだ。

 よく噛んで食べる習慣が身に付いている綾乃は小さな口でゆっくりと食べ進め、エレナは綾乃のペースに合わせて手を動かす。

 もぐもぐごっくんという音が聞こえそうな気不味い沈黙の中、ふと綾乃は薫子を見た。

 

「あれ? 薫子ちゃん食べないの?」

「なんで私が一緒に食事することになっているんですの⁉︎」

 

 激しく同意するエレナ。もうやだ早く昼休み終わらないかなとまで思い始めていた。

 私とあなたは友達じゃないし私の友達とあなたが友達なのかもよく分からないという一種新しい場面(シチュエーション)に、エレナは黙り込むしか選択肢がないのだ。

 

「えぇー、だって薫子ちゃんが話があるって言うから」

「場所を変えようといった発想は無いんですの?」

「え? なんで薫子ちゃんのためにご飯我慢しないといけないの?」

「辛辣‼︎」

 

 バドミントンと大凡関わりのない日常会話を綾乃としたのはこれが初めてであったが、まさかここまで的確なハートブレイク発言が出てくるとは。しかも素で。天性の煽り士と言わざるを得ない。

 だが侮るなかれ。一度木っ端微塵に砕け散り、不死鳥の如く再生した薫子の精神は生半可な口撃では破壊不可能なのだ。

 なけなしの自制心を働かせて薫子は思う。

 昼食にしよう。

 

「それにしても……」

 

 市販のサンドイッチの包装を開ける薫子は、綾乃の弁当を見て感嘆の声を上げた。

 

「羽咲さんのお弁当は随分と彩り豊かですのね……」

 

 主菜の白米にたんぱく質となる肉類や魚介類、副菜にはトマトやブロッコリーなどの野菜を散りばめた食べる人への思い遣りに溢れる栄養バランスの取れた弁当だ。

 思わず感心してしまった本性がゲスな薫子はハッと気を取り直し、つい反射的に鼻で笑ってしまった。

 

「随分とお母様に愛されてるんですね?」

「なっ……」

 

 その発言に対し過剰な反応を見せたのはエレナだった。

 

「ちょ⁉︎ あなたなんてこと──」

「何言ってるの薫子ちゃん。これは私が作ったんだよ?」

「なっ……なんですって⁉︎」

「薫子ちゃんはコンビニのサンドイッチなんだね? まぁ女子力低そうだし……」

「きぃいいいいいいっ‼︎ 言わせて置けば! 私だって料理くらい余裕でこなしてみせますわ! ……なんですのそのキョトン顔は?」

「泥団子作りと勘違いしてるのかなって」

「張っ倒しますよ貴方‼︎」

 

 怒鳴りかけたエレナは怒鳴り暴れる薫子と成すがままの綾乃を見てその矛先を失う。エレナの中で最大級の禁句(タブー)に触れた薫子に言いたいことは多々あったが、今更掘り返すのは最も愚かだと弁えていたエレナは渋々口を噤んだ。

 

「それで薫子ちゃん、話ってなんなの?」

 

 一頻り制裁を終えた薫子は苛立ちの残滓をサンドイッチと一緒に呑み込んで、綾乃の疑問にやっと本題に入れると口を開いた。

 

「私と一緒にバドミントン部に入って欲しいのです」

 

 ──ガタンッ! と烈しい音を立ててエレナが立ち上がった。

 纏う空気が様変わりしたエレナを中心に教室から音が消える。静まり返った異様な空気に薫子も半ば飲まれており、綾乃だけが親友の異変に頓着せず箸を動かし続けていた。

 

「芹ヶ谷さん」

「な、なんですの?」

「話があります。ついて来てください」

 

 有無を言わせぬ冷然とした口調に薫子は二の句が継げない。

 待つ気もなく拒絶も許さない態度でエレナは箸を置き、綾乃に少し出るからと言い残してから教室を出て行く。いってらっしゃーいと呑気に言う綾乃は後ろ姿のエレナと側で固まってる薫子を見ており、この場で動かないのは無理と悟った薫子は大人しくエレナに追従する。

 廊下を歩いて階段を上がり、屋上へと繋がる扉がある誰もいない空間へと辿り着いたところでエレナは薫子へ振り向いた。

 

 その瞳には明確な怒りが宿っていた。

 

「芹ヶ谷さん、もう綾乃に関わらないで下さい」

「……なぜ貴方にそんなことを言われなければいけないんですの?」

 

 移動の間に平静を取り戻した薫子は当然の疑問を問う。

 エレナが綾乃と仲が良いのだろうことは察せたが、それとこれとは話が別だ。自分が遠慮する理由にも要望を受け入れる理由にもなり得ない。

 そもそもここまでエレナが憤懣を募らせたのが薫子には謎だった。自身の知らない地雷を踏み抜いたのだろうが、それにしては綾乃の態度があっけらかんとし過ぎている。

 

 本当に意味が分からないという顔をする薫子に、エレナの敵視する眼差しが少し和らいだ。

 

「……どうやら知らないみたいですね」

「羽咲さんのことですか? まぁその通りですわ。私が知っている羽咲さんはバドミントンの天才だということ、それだけですわ」

 

 忌々しそうに吐き捨てる薫子。

 深い事情を知らないと分かったエレナは裡から湧き上がる怒りを宥めて、然れど意思は変えずに薫子に言う。

 

「じゃあ言い方を変えます。綾乃をバドミントン部に参加させようとするのをやめて下さい」

「それは出来ませんわ」

 

 即答だった。迷う素振りの無い断言。

 エレナの目が鋭利なものへと変貌する。

 

「……どうしてもですか?」

「どうしてもです。これだけは引けない一線です」

 

 薫子の意思は堅い。絶対に曲げられないと言葉の強さから理解できる程に。

 これでは平行線だ。

 薫子が秘めている万感の想いをエレナは知らない。

 エレナが隠している真実と綾乃を慮る想いを薫子は知らない。

 

「……藤沢さん、でしたよね?」

「ええ、何か?」

「せめて理由を教えてくれませんこと? 貴方が私ほど単純な理由で動いているとは思えません。なんなら先に私から話しますが?」

「……」

 

 エレナは即座に返答できない。親友といえど綾乃は他人だ。許可無く個人のデリケートな問題を口にするのは躊躇われた。

 はぁ、と薫子は溜め息を一つ。仕方ないと話し始めた。

 

「では勝手に話しますわ。とはいっても、そこまで大層なお話ではありませんが」

 

 薫子の望みは綾乃をバドミントンで負かすこと。その経緯と切っ掛けしか話すことはない。

 

「……とまぁどうしても勝ちたかった私は、今にして思えば最低な方法で羽咲さんと条件を対等にしてボロ負けしました。その時初めて知りましたわ、羽咲さんが実は左利きだったと。

 問題はその試合の後。羽咲さん、こんなこと言ったんですよ? 『薫子ちゃんは面白い人だけど、バドミントンをしてて楽しいと思ったことは一度もない』ってね」

 

 これには流石の薫子も心が折れた。風邪が治った後も一週間は引き篭もり、無気力で刺激の無い平和な日常を過ごす羽目になった。ぬるま湯の毎日がつまらな過ぎて気付けばラケットを握り、バドミントン漬けの日々に戻るのは早かったが。

 

「その日から羽咲さんと試合することはありませんでしたが、去年の秋にこのまま同じ環境で練習を続けても勝てないと悟りました。

 だから私は態々志望校を変え北小町に入学し、羽咲さんと一番近くで過ごしながらバドミントンをやり、羽咲さんの全てを分析して徹底的に懲らしめてやりたいと思った。……これが私が羽咲さんを部に誘う理由ですわ」

 

 自己中の極みにして傲慢の塊。

 他人の都合などどうでもいい。薫子はただ自分の願望を叶えるためだけに、羽咲綾乃にバドミントン部に入って欲しいのだ。そこに友情などという鼻で笑ってしまうような甘い感情は無く、敵愾心や復讐心といった醜い負の側面しか存在しない。

 そして薫子の執念を形にするには、部活動という環境が最も効率的かつ効果的だった。だから薫子は此処にいる。

 

「……ちなみになんですが、なんで綾乃が北小町に入学するって知ってたんですか?」

「あら、ライバルの動向を探るのは当然のことですわ?」

 

 ──コイツ堂々と正面切って探るって言いやがった!

 

 何一つ悪びれること無く飛び出たストーカー宣言にエレナは慄き、身の上話を終えた薫子は腕を組んで壁に背を預け聞きの姿勢を取った。

 

「次は貴方の番ですわ。羽咲さんをバドミントン部に参加させたくない理由を教えていただきます。言っておきますが、話してくれないのであれば勝手に調べますわ」

 

 どうやら交渉ごとは薫子の方が上手らしい。あんな発言を聞いた手前、ここで口を噤んでも意味を成さないとエレナは判ってしまった。

 思惑通りに動くのは癪だが、言い返したいこともある。

 分かりましたと一呼吸空けて、エレナはまず問いを投げた。

 

「芹ヶ谷さん、綾乃がそのクラブチーム入ったのがいつ頃か覚えていますか?」

「ええ、中学一年の夏でしたわ」

「……綾乃はその前までは中学のバドミントン部に所属してました」

 

 同級生にボコボコにされたのに加え、クラブチームに入るには微妙な時期だったのでよく覚えていた。

 出逢った時から恐ろしく強く、つまらなさそうにバドミントンをするその姿も。

 

「ふん、どうせ人間関係で何かあったんでしょう?」

「……その通りです。綾乃はバドミントン部を崩壊させました」

「はっ! 崩壊ときましたか。まぁあっても可笑しくはないですわね」

「……驚かないんですね?」

「どうやら貴方はバドミントンをする羽咲さんを知らないようですね。羽咲さんはね、バドミントン選手の心を殺すのがとてもお上手なのよ?」

 

 同じ年頃の少年少女と来れば尚のこと。メダカしかいない水槽に枷の無いホオジロザメを放り込んだ結果なんて、考えるまでもない。

 無邪気に、無自覚に、心が成長し切ってないから何が悪いのかも分からずに、綾乃は他人の心を喰い千切って弱さを叩き付ける。

 

「まさかそれが理由ですか? なら心配要りませんわ。羽咲さんはそんなことトラウマとも何とも思っていない筈ですから」

「……あなたに綾乃の何が分かるんですか?」

「分かりますわよ。私が羽咲さんの立場だったらそう思っているからです。業腹ですが、私と羽咲さんは本質的には似てるんですよ」

 

 方向は違えど、どちらも自分本位な人間だ。

 綾乃だって、上手く立ち回れば穏やかな人間関係が築けただろう。自分が孤独なのは周りが弱いからと責任を他者に押し付ける辺り、綾乃の闇は深く濁っている。

 

「……嘘です」

「……何がですか?」

「綾乃が何も思っていないなんて! それに私が見た綾乃はバドミントンを楽しそうにやっていました!」

「とても信じられませんわね」

 

 エレナはカチンときた。知った風な口を利く薫子に目に物見せてやろうと憤慨した。

 携帯を取り出し画像ファイルを漁り、目当ての思い出を掘り起こしたエレナは薫子に突き出す。

 

「これを見てもまだそんなことが言えますか?」

「はぁ、なんですかいった……なっ⁉︎」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 画像が脳に染み込んだ故に硬直する。

 エレナから携帯を奪い取りまじまじと見詰め、他人の空似ではない本人だと確信した。

 

(ま……益子泪、志波姫唯華、津幡路⁉︎ もう一人は益子泪のパートナーの旭海莉ですか⁉︎ 何故羽咲さんがこの方々と⁉︎)

 

 錚々たる面々に絶句する。

 現女子高生バドミントン界における最強たちと、昨年その名を轟かせた神童の揃い踏み。何がどうしてこんな光景が生まれたのか薫子には理解の外だ。

 驚いている薫子に満足したエレナはふふんと自慢気に笑う。

 

「どうです? この人達とバドミントンしてる綾乃はとても楽しそうでしたよ?」

「……それはまぁ、そうでしょうね。同世代の最強ですから、羽咲さんを満足させるには充分……」

「えっ? 最強?」

「一番右の旭海莉を除いたこの三人、益子泪、志波姫唯華、津幡路は『三強』と呼ばれていて、女子高生バドミントン選手の中で最強なんですよ。……特にこの方」

 

 薫子は綾乃に腕を組まれて微笑んでいる泪を指差す。

 

「益子泪は去年の全日本ジュニア、簡単に言うと高校二年生以下の大会における()()にして、今年の春の選抜の()()。最強の中の最強ですわ」

「なっ……泪さんって、そんな凄い人だったんですね」

 

 エレナから見た泪は綾乃のお姉さんでしかなかったが、他二人含めてそこまで全国的に有名で強い選手だとは知らなかった。綾乃が真面にバドミントンをしてる姿を見たのも初めてに近い。

 

 エレナがその場にいた理由は完全に警戒心からだった。

 エレナやのり子といる時以外は機械のように毎日を過ごしていた綾乃が、突如エレナに相談を持ち掛けたのがきっかけ。

 

『エレナ〜、体育館の借り方教えて〜』

 

 何を言ってるんだこの子はと詳しい話を聞いてみたところ、綾乃が言うには今度別の県に住んでいる高校二年生の先輩たちがバドミントンしに遊びに来るからその場を確保しなければならないということだった。

 

 ぶっちゃけエレナはメチャメチャ怪しんだ。

 同級生でなく高校生、しかも他県出身を名乗る不届き者。自分たち以外の綾乃の友人を知らなかった故に、エレナの印象はこれで固まってしまった。

 時折ぽけ〜っと黄昏てる綾乃のことだ。何か良からぬ事態に巻き込まれて騙されている可能性は決して否めない。

 体育館を借りることは綾乃の中で絶対となっていたので、エレナは手続き上必要なんだと綾乃を言い包めて無理やりその集まりへと参加したのだ。

 

 結果エレナは罪悪感に押し潰された。

 

 もう本当に良い人たちだった。包容力の塊みたいな志波姫唯華、姉御肌の津幡路、優しく見守ってくれる旭海莉、もはや綾乃の姉にしか見えない益子泪。全員が全員、器の大きい尊敬すべき先輩方だった。

 自分はなんと愚かなことを考えていたのだろうと、綾乃が嬉しそうにエレナを紹介する度に心が痛む。綾乃が楽しそうに先輩たちと笑い合うのを見ると、場違いな自分を申し訳なく感じる。

 

 耐え切れなかったエレナは綾乃が席を外した隙に謝罪した。自分はあなた達を疑っていたと。

 すると泪たちはしばし固まって、確かにと頷いた。

 

『言われてみれば超怪しいよね私達?』

『私も引っ込み思案な友達がそんなこと言ったらあわや通報ものだわ』

『最近は物騒な事件も多いし、これは私たちの配慮が足りなかったね』

『でも安心したな。綾乃にもそういう友達がいて良かった』

 

 女神かと思った。心の底から信頼した瞬間だった。

 そんな経緯で六人は交流を深めたのだ。

 

「とはいえ、これで分かりましたか? 綾乃はバドミントンを楽しむことが出来てます。無理に部活に参加する必要はありません」

 

 エレナは薫子から携帯を奪い取り胸を張って結論を述べる。

 面食らっていた薫子はエレナの言い分に納得して仕方ないと引き下がる。

 

 ……そんなことはなかった。

 

「はぁ……貴方を説得出来ないのは分かりました。もう部外者二人で話し合っても意味はありません」

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ、やっと戻ったの? もうお昼休み終わっちゃうよ?」

 

 五時限目の準備をしていた綾乃は帰ってきたエレナと薫子に声を掛ける。

 神妙な顔をして近づいて来る二人。

 疑問符を浮かべながら首を傾げる綾乃。

 

 切り出したのは薫子だった。

 

「羽咲さん、私と一緒にバドミントン部に入りましょう」

「愉しそうならいいよ」

「えっ⁉︎ 本当ですの⁉︎」

「うん、愉しかったらね」

 

 驚くと同時に薫子はやはり自分の考えが間違って無かったことを察する。中学の頃の出来事など綾乃はこれっぽっちも気にしていないと。

 

「綾乃、本当にいいの?」

「うん。大会に出場する手続きとかもよく分かんないし、高校なら泪ちゃん達みたいに強い人もいるかもしれないから」

「……そう、分かったわ。私も付いて行っていい?」

「いいよ!」

 

 

 

 この日の放課後、綾乃は再会する。

 全日本ジュニアで出逢ったとある選手と。

 

 

 

 

 

 







薫子ちゃん in 北小町!


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