ダンガンロンパ・コネクト~問題児だらけのコロシアイ学園生活~   作:ノドクル

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いよいよCHAPTER01スタートです。
よろしくお願いします。


CHAPTER01【シズメル】
(非)日常編その1


人を殺すという事は、あまりにも重い。

 

突然人を殺せと言われて即行動出来る人間はまずいないだろう。

 

だが、最初の一歩さえ踏み出してしまえば。

 

コロシアイという深淵に、人は簡単に沈んでいく。

 

 

CHAPTER01【シズメル】(非)日常編

 

 

希望ヶ峰学園に入学するはずだった俺達十六人は、どこかもわからない場所に拉致された。

 

そして拉致した犯人だろうモノクマというロボットに告げられたコロシアイ学園生活の開始。

 

そこから小城や武宮、一部の生徒が暴走を始め、完全な無秩序状態……

 

下手をすれば今この場で殺しあってもおかしくない状況で、俺は調整役として声をあげないといけないのに。

 

完全に雰囲気に呑まれた俺の声帯は全く機能してくれなかった。

 

「いい加減にしろこの塵共」

【みんな、ちょっと落ち着いてよ!】

 

そんな異常な光景を止めたのは、黒神の声音だけは心底見下げ果てたと言わんばかりの冷たい一喝だった。

 

「なんだこの低級極まりないくだらない騒ぎは……貴様らこれでよくも超高校級などと名乗れるな、屑が。こんな連中と同期とは希望ヶ峰も程度が知れる」

【いきなりこんな事になって混乱するのもわかるけど。これじゃあモノクマの思う壺だよ……クラスメイトなんだから団結しないと】

 

畳み掛けるように、捩じ伏せるように黒神の口からは真意を棘で覆い尽くした暴言が吐き出されていく。

 

黒神の言いたい事そのものは間違ってない。

 

確かに今の状態はモノクマにとって願ったり叶ったりの状況だろうし、俺達はクラスメイトなんだから団結するべきだ。

 

「てめえ、さっきから偉そうにしてんじゃねえぞ!?」

 

「ええい、暴れるな!」

 

「今回は武宮に同意だな。黒神、そっちこそさっきからちょっと口が悪すぎやしないか?」

 

「そうであります……いくらなんでも刺々しすぎるのでは?」

 

だけど黒神の表向きのそれはあまりにも棘がありすぎる。

 

こんな言い方をされて素直に頷ける人間はまずいないだろう……現に国希が抑えてなければ武宮はすぐにでも殴りかかる勢いだし、寛容な方だろう風魔や山菊でさえこれだ。

 

このままだと黒神の本音は伝わらず、他のメンバーとの間に決定的な対立が生まれる……だけど。

 

「ちょっと待ってくれ」

 

それは俺がいなかったらの話だ。

 

黒神の表向きの言葉……これでよくも超高校級を名乗れたという言葉は、俺の情けない思考を振り払うには十分な弾丸だった。

 

ここにいる個性的なメンバーや今の状況に圧倒されたけど、いくら助けを求めたところで調整役の才能を持つのは俺。

 

だったら俺がやるべきは助けを求める事じゃなくて……いらない亀裂を生じさせないために動く事。

 

それが【超高校級の調整役】である俺の役割なんだ……!

 

「確かに黒神の言葉は刺々しい。だけど黒神が本当に皆に言いたい事は違うんだよ」

 

「ど、どういう事ですか?」

 

「本当は落ち着いて、こんな状況だと混乱するのもわかるけど、このままだとモノクマの思う壺だよって黒神は言いたいんだ」

 

そうだよな?と同意を求めると、黒神は口を開こうとして……また変な言い方になるとわかったのか、ただ頷く。

 

「ぜ、全然違わない?というかなんでわかるの?」

 

「なんとなくな。調整役としての経験があったからかもしれない」

 

「そういう事だったんでちゅか……だったらさっきあちしに言ったのも」

 

「いやいや、騙されたらダメだよ天使衣!悪吐蠱なんて嘘をつく生き物なんだから!」

 

思わぬ黒神の本音に皆がざわつきだす……最も、これでこの言い方を受け入れられるかと言えばノーだろう。

 

黒神がどんな本心を持っていたとしても、それは言葉の棘を消す魔法にはならないんだから。

 

多分これは黒神自身にこの口の悪さを直してもらうか、俺達が時間をかけて理解するしかない。

 

どちらにしろ時間のかかる問題……なら。

 

「小城、ますますさっき聞けなかった話を聞く必要が出てきたみたいだな」

 

今はこの場を治める事に重点をおいて……同時にさっき聞けなかった事を聞き出そう。

 

「フフフ、そうですね。皆さんもいずれ知る事になるでしょうし、美学ある殺人のためなら情報提供ぐらいはお安いご用です」

 

こんな状況で上機嫌で舌舐めずりしている小城に対して思うところはあるけど、今はあえて口を出さない。

 

機嫌を悪くされて教えないなんてなったら、問題だからな……それだけ今の俺達にとって何かを知る小城は重要人物なんだ。

 

「おぉ、そういえばそんな事言ってたな。それにさっきも資料がどうとか……お前さん、何を知ってんだ?」

 

「どこから話すべきか……皆さんはこの希望ヶ峰学園が一度滅びを迎えたのをご存じでしたか?」

 

「なんだと……?」

 

「希望ヶ峰学園が、滅んだ!?」

 

そうして語り始めた小城の話は初っぱなからとんでもない衝撃を俺達にもたらした。

 

こんなに世界的にも有名な、長年栄華を誇ってきた学園がそんな事になったなんて聞いた事ないぞ……

 

「本当でしょうね?そんな話聞いた事ないわよ」

 

「まあ、知らない人の方が多いでしょう。これは希望ヶ峰学園の闇のようなものですし、あまりにも凄惨な事件でしたから」

 

希望ヶ峰学園の闇……いったいそれがどんな風に関わってくるんだ?

 

聞きたい事は山ほどある、だけどいちいち話の腰を折るわけにもいかず……俺が黙ったままでいる間にも小城の話は続く。

 

「かつて希望ヶ峰学園は数多くの才能をスカウトし、研究していました。しかし78期生……その中にとんでもない生徒がいたんです」

 

「とんでもないって殺人鬼とかデスカ?」

 

「いいえ、違います。もちろん表向きの才能は違ったようですが、その後の影響や本人が名乗っていたことからこう呼ばれています」

 

「【超高校級の絶望】と」

 

【超高校級の絶望】……聞いただけでいい才能じゃない事だけはわかる。

 

「資料によると【超高校級の絶望】は洗脳や懐柔を用いて希望ヶ峰の生徒や一般人を取り込み、世界にテロや暴動を引き起こした。その被害は世界中に及び少なくともその時の人口の半分は死んだとか」

 

「じ、人口の半分!?」

 

「でも、そんな大惨事がどうして今の世に伝わってないんですか?」

 

新木の言う通りだ。

 

この事件が本当にあったなら、いくら記録が失われていても多少は歴史に残るはず。

 

だけど俺達はそんな事、何も知らない。

 

「出来なかったんですよ。紙媒体の記録は失われ、映像記録には洗脳する仕掛けを残していたようでしてね……映像を見た人はまるで狂信者のように暴れたとか」

 

「口だけでは何をトチ狂ったかと判断されるか……ふん、当然だな」

【にわかには信じがたい話ではあるし……記録がないなら仕方がないのかもね】

 

確かにこうして聞いていても、信じきれない部分はあるしな。

 

「それに、当時の人々は恐怖したようです。その絶望のあまりにも浸透のしやすさ、拡大の早さに」

 

「もう【超高校級の絶望】は話題にするのも憚られた……だからみんな口を閉じたって事?」

 

なんか怖いなぁと口にする南雲……その様子はさっきまで武宮に殴られていたなんて微塵も感じさせない。

 

いくら殴られ屋といってもなんであんな平然としていられるんだ……その方が怖いぞ。

 

「そういう事です。この話を語り継いでもし影響された人間が現れたら、それこそ悲劇を繰り返す事になりますから」

 

「ふうむ……それではもしやこの状況も過去に?」

 

「えぇ、資料だと【超高校級の絶望】のクラスメイト……【超高校級】の才能を持つ当時の希望ヶ峰学園の生徒達が校舎に閉じ込められ、コロシアイをさせられたようですね」

 

「なにぃ!?今とまるっきり同じじゃないか!」

 

「そう、そしてその舞台であった校舎……資料に載っていた上面図とここは酷似している」

 

かつてコロシアイが行われた場所とここが同じ……じゃあここは希望ヶ峰学園の校舎だっていうのか!?

 

「さらに【超高校級の絶望】はコロシアイの進行のためにあるロボットを使っていたとか」

 

「まさか」

 

「その名はモノクマ。さっき私達も会ったあのモノクマですよ」

 

 

状況、舞台、モノクマ……小城の話すその事件と今の俺達はあまりにも一致しすぎている。

 

まるで、俺達をここに連れてきた犯人がその事件の再現をしたいかのようじゃないか……

 

「これが私の知る全てです」

 

「結論から言うと、このコロシアイとやらはその大昔の【超高校級の絶望】に影響された馬鹿が始めたってわけ?」

 

「まあ、影響されているのは事実でしょうね。まさか何も知らずにここまで被せたというのもおかしな話ですから」

 

「なるほどね、じゃあ今回の事件はお前が引き起こしたって事かな」

 

小城の話を聞き終わった皆が考え込んでいると、小田がいきなり指を突きつけて小城が犯人だと主張し始める……どうしてそんな結論になったんだ?

 

周りも同じ事を思ったのか、小田を何を言い出したんだという目で見ていた。

 

 

「あ、あの小田さん?どうちてそうなるんでちゅか?」

 

「わからないのかい天使衣!あの悪吐蠱はこのコロシアイが昔の事件の影響を受けたと言った。だけどボク達はそんな事件の事、今聞くまで何も知らなかったじゃないか!」

 

……まさか、小田が小城を犯人だと主張してる根拠って。

 

「あの、もしかして小田さんは、小城さんが昔の事件を知っていたから犯人だと……?」

 

「その通りさ天使良香!さあ、天使達早くボクの後ろに!悪吐蠱は死んでもいいからそいつを捕まえるんだ!」

 

意気揚々と腕を広げる小田の言葉に……動く人間は誰もいない。

 

「あ、あれ?」

 

いつまで経っても誰も動かない事に、小田は予想外だったのか目に見えてうろたえだす。

 

その様子はある意味同情すらしたくなるぐらいの狼狽ぶりだ。

 

「あんた馬鹿じゃないの?」

 

「馬鹿!?天使真依、どうしてそんな……」

 

冷めきった目の狭山に容赦なく斬って捨てられてさすがの小田も動揺している。

 

調整役として何か言うべきなのかもしれないけど、男の俺が口を挟むとややこしくなりそうだから黙っておくか……

 

「小田殿……もしもこのコロシアイが隠匿されていた過去の模倣ならば、それを知っている事を犯人はひけらかさないのでは?」

 

「いや、だけどね天使千代……昔の事件を知っていたのはあの悪吐蠱しかいないんだから必然的に……」

 

「そこは黙っただけだと思いますデスヨ?こうして疑われてしまいますデスシ」

 

「て、天使メイリーまで……そうだ!そもそもあの悪吐蠱は自分から言い出したんじゃなくて天使瑛子が見抜いたから……」

 

「名前を呼ばないで変態。大地に神罰を下してもらいたいの?」

 

「名前を呼んだだけで変態!?」

 

容赦ない総攻撃は女子を天使だなんて呼ぶ小田には効果抜群だったようで、彼女は膝をついて嗚咽を漏らし始める。

 

「ちょ、ちょっとやり過ぎたんじゃない……?」

 

「た、確かに少しかわいそうな気もしてきました」

 

まあ、小田も思った事を言っただけだもんな……

 

ここはフォローするべきなんだろうけど男にされるのは嫌だろうし、宇佐見辺りに頼んで……

 

「はぁぁ……天使達がボクの主張を切り捨てるのも、冷めた目で罵倒するのも、それはそれですごくいい……!」

 

前言撤回だ、あれはもう放置しよう。

 

「し、心配して損した……」

 

「同情が一瞬で吹き飛びました」

 

とうとう寝倉や新木にまで呆れられる小田……あの二人にこう言われるなんて相当だぞ。

 

とにかく小田は大丈夫そうだし、話を戻すか。

 

「それで、ここが小城の言う過去の再現みたいな場所だとしてこれからどうする?」

 

「それなんですが、皆さんまだこの場所を詳しく調べてないでしょう?私も確信を得たいのでここはひとつ調査をしませんか」

 

話を切り換える俺に乗る形で小城が調査を提案してくる。

 

調査か……俺も走り回ってた時は慌ててたし、改めてやれば何か発見があるかもしれないな。

 

「よし、調査か!アッハッハッハッ!もしかしたら出口が開いているかもしれないしな!」

 

「それはねえだろ……」

 

「あの、調査したらどこかに集まりまちゅか?」

 

そういえばそこも決めておいた方がいいな。

 

やっぱりこの体育館を集合場所に……

 

「それなら寄宿舎に食堂がありましたのでそこにしてはどうかと」

 

「食堂か……報告にはいいかもしれませんね」

 

「だったらそれで……」

 

「待って」

 

集合場所も決まり、調査を始めようとした俺達に狭山が待ったをかける。

 

まだ何かあるのか?

 

「調査するなら二人一組にしたら?」

 

「二人一組……なんでデスカ?」

 

「そしたら誰か死んだら殺した奴がすぐわかるでしょ」

 

狭山の言葉にいきなり冷や水をかけられたかのような冷たい感覚が背中に走る。

 

その空気を感じ取ったのか彼女は鼻で笑いながら、挑戦的な目を向けてきた。

 

「何?あたし間違った事言った覚えないんだけど」

 

「ふん、実に合理的だな。塵が死んでも俺達には手間がかからない」

【疑いたくはないけど、万が一を考えたらその方がいいかもね】

 

「わ、わかった。じゃあ二人一組になって……おい狭山、どこ行くんだ!?」

 

二人一組を提案したその本人が体育館を出ていこうとしているのを思わず俺は呼び止める。

 

振り返った狭山は何を聞いてるんだとでも言いたげな冷めた目で俺を貫いた。

 

「どこって調査よ」

 

 

「二人一組になるんだろ?一人で行ったら……」

 

「それでもやっちゃう馬鹿がいるかもしれないでしょ?あたしは馬鹿に殺されるなんてゴメンよ」

 

そう吐き捨てて、狭山は体育館から出ていってしまった。

 

その背中にははっきりと拒絶の二文字が書かれているような、そんな気さえしてしまう。

 

「何あれ」

 

「あの糞女!好き勝手言いやがって!次会ったらぶん殴ってやらぁ!」

 

「まあまあ落ち着いて落ち着いて。ほらグローブ」

 

「……は!?ここはいったい!僕は何を!」

 

「や、やっと目を覚ましたのね……」

 

佐藤が目覚めたり、狭山に対する不満が漏れるさっきまでとは違う意味で騒がしくなる体育館。

 

そんな中、俺は彼女が出ていった体育館の出入口をなんとなく見つめていた。

 


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