では、どうぞ
第二章「再開」第十五話
ガヤガヤと賑やかな雰囲気を出しているこの場所、食堂「間宮」に今日の復興作業を終えた作業員や警備を終えた艦娘達が皆一緒になって集まっていた。
ここは食堂「間宮」。食堂「間宮」とは補給艦『間宮』が経営している場所である。間宮の主な役割として、艦娘の士気、つまりコンディションを管理している。食堂「間宮」以外にも喫茶店を開いており、艦娘以外にも一般の人も利用できるようになっている。ちなみに、食堂の場所と喫茶店の場所は離れており、利用できるのはあくまで喫茶店のほうだけである。無論だが、お店の売り上げの一部は鎮守府へと入るようになっている。これはオルガと間宮が話し合った結果であり、経営に関しても無理がない程度にという条件である。
ゴトンッ!
「はい! 次はこれを運んでもらえますか?」
「「はーい!」」
間宮は食堂のテーブルカウンターからカレーの入った鍋を置くと二人の少女、クッキー、クラッカーに鍋を運んでもらうよう頼む。クッキーとクラッカーは間宮の頼みに元気よく返事を返すと、二人仲良く協力し合いながら鍋を運んでいく。二人の後ろ姿を見て頬を緩めた間宮の元に、兄であるビスケット・グリフォンが近づいてきた。
「すみません間宮さん。二人とも迷惑かけてないですか?」
「そんなことないです。ビスケットさん、あの子たちが一生懸命手伝ってくれたおかげで皆助かってますよ」
「そうですか。よかった……」
ホッと息をつくビスケットに間宮は微笑む。
「いいお兄さんですね。ビスケットさんは」
「えっ、あ、いや……そんなことないです。でも、あの子たちは僕にとって大事な妹ですから」
「ふふっ。やっぱりいいお兄さんだと思いますよ、私はそう思います」
「あ、ははは……」
間宮の素直な感想にビスケットは帽子を深く被り顔を隠す。間宮はビスケットの耳が真っ赤になっていることに気付くが、彼の行動を考えると流石に指摘するのは可哀想だと思い、あえて見て見ぬふりをすることにした。
「……そ、そういえばアトラはキッチンの方にいますか?」
「アトラちゃん? アトラちゃんなら今、ハバの女将さんと追加の料理の仕込みの最中だけど……呼んできましょうか?」
「すみません。忙しい中、こんなことを頼んでしまって」
「いいのよ、気にしないで下さいね。――アトラちゃん! ちょっとお時間いい?」
間宮はビスケットの頼みを聞くと、後ろを振り返り、鍋をかき回していたアトラに声をかける。アトラは間宮の声に気付くと、女将さんに鍋をかき回していたお玉を渡し、後のことをお願いする。アトラのお願いに女将さんは景気良く頷くと、アトラは間宮とビスケットのところに向かった。
「はーい!……どうしたんですか、間宮さん?」
「今ビスケットさんがお時間いいかって聞いてきたんだけど、大丈夫ですか?」
「あ、はい。私は大丈夫です。ちょうど終わったところだったんで。……それで何か用かな?」
「うん。……ちょっと、ここじゃなんだから外でもいいかな?」
「うん? いいけど……ここじゃあダメなの?」
「ちょっとね。アトラにとって大事な話だから」
「……わかった」
アトラはビスケットの言葉に頷くと、キッチンと食堂のホールに繋がる扉を潜り、ビスケットのところまで行く。ビスケットはアトラが来ると、食堂から出ようと歩き始める。
ビスケットの後を追うと歩き始めたアトラの視界に、一人の少女が目につく。
(……あの子、どこかで見たことがある気がする)
アトラの視界に入る少女は、髪が黒く癖のあるセミロングにアホ毛。瞳は金色に黒いセーラー服を着ていた。だが、その少女ならぬ雰囲気に無表情で黙々と食べている姿が、どことなく好きだった男の子とそっくりだったことあってか、目が離せないでいた。
(――三日月?)
ふと思ってしまった。あまりにも酷似していたものだから。しかし、アトラは思い返す。私の知っている三日月は男だったはず。いや、男であった。間違いないと確信すると同時に残念な気持ちでもある。だって、あの子はどう見ても女の子なのだから。それは彼女が三日月でないことを意味した。
「おーい。どうかしたのかい?」
「あ、ううん。今行くね」
チラッと少女の方をもう一度だけ確認するとビスケットの所まで走っていくのでった。
♢
「……ん、うまい」
「ほら、『三日月』さん。そんなに慌てて食べなくても誰も取りませんよ?」
三日月の口元についた食べ物の汚れを神通が拭ってあげる。優しく拭ってあげると一言三日月はお礼を言った。
「んぅ……ありがと、ジンツウ」
「どういたしまして」
ニッコリと神通は笑顔で返すと、三日月は頷くとすぐに食事の続きに戻る。
「ふっふー。『三日月』はまだまだ子供だねぇ」
「……カワウチ、うるさい」
「カワウチ言うなぁぁぁぁ!」
「姉さん、ここは食堂なんですから静かにしてください」
三日月の言葉に反応して騒ぐ川内。その川内をなだめようとする神通であった。
「……もう。どっちが子どもなんですかね、姉さん?」
「だって、『三日月』がアタシの名前をちゃんと呼んでくれないから――って、アタシのおかずが減ってるんだけど!?」
バッと顔をあげ三日月に睨みつけるが、川内の睨みを気にした様子もなく三日月は黙々と食べ続ける。
「……アンタ、いつの間にアタシのおかずを?」
「俺じゃない」
「じゃあ誰が――」
「ん」
三日月の指に示された人物を川内は見る。それは隣に座って食事をしていた長月に指されていた。
「え、な、長月?」
「……」
もごもごと口の中が動き続いている長月の口に、川内は驚きを隠せずにいた。一番まともな子だと思っていた川内にとって不意打ちに近かった。
「ちょ、ちょっと長月~? じょ、冗談よね?」
「モグモグ……こいつはいいな」
「な、長月―!?」
ドヤ顔で食べ終わるところを見せると、川内は思いっきり席を立ちあがり叫ぶ。そして、長月の他にも自身の皿からおかずが持っていかれる光景が目に焼き付く。
「えっ!? ちょ、き、菊月!?」
「モグモグ……運が悪かったな!!」
「ア、アンタまで何言い出してんの!?」
「礼は言わぬ……この力、何に使うか……」
「食べ終わってから何言ってんの、アンタらはぁぁぁぁ!!」
「礼じゃなくて謝れー!」と川内は騒ぎ出すと、長月と菊月の追いかけっこが始まった。自分の姉の姿を見て思わず、眉間に皺を寄せる神通に、三日月は一言「大丈夫?」とだけ声をかける。
「えぇ、大丈夫です。……でも、少しホッとしました」
「なんで?」
神通は長月と菊月の方を見ているとポツリと言葉を漏らす。
「……あの子たちはあなたのことをずっと待ち望んでいました。どんなに『建造』の成功率が低かろうと、私たちよりも一生懸命資材の調達任務に勤しんでいました。そして、今日やっと待ち望んでいた妹に出会えたんですもの。きっと、今日まで色々と我慢してきたことも多いと思います。だから、普段真面目なあの子たちが羽目を外す真似をしているんだと思って」
「……そっか」
神通の話に三日月は一言だけ言うと、頬を緩ませる。
自分自身に言ってる訳ではなくとも、素直に嬉しいと思った。それは『三日月』を家族として迎い入れていることに他ならないのだから。
「……俺も、嬉しい」
「――ッ!! そう、ですか。……本当に良かった」
神通の目から一筋の涙が流れる。神通は涙を拭うと三日月と共に、楽しく騒いでいる川内たちの光景を眺めるのであった。
忙しくなってきたので更新が遅くなったらすみません。
では、また。