頑張りたいと思います
では、どうぞ
第十八話
第三章「始動」第十八話
三日月が着任してから一週間が経とうとしていた。
ル級の襲撃によって損害した建物の復興作業も一段落着いたところだった。鎮守府やその周囲による被害はさほどなかったこともあり、それほど時間がかかることもなかった。強いて言えば、イ級による人事的被害の方が大きかったと言える。
「……はぁ」
「提督、気持ちは分かりますがもう少しです。頑張ってください」
「あぁ、悪いな」
「いいえ、これも秘書官の務めですから」
オルガは大淀から今回の鎮守府における報告書の作成や始末書などの作業を行っていた。かれこれ6時間は椅子に座りっぱなしであった。時折体を動かすために肩を回したり、足を伸ばしたりしてほぐす。
そもそも、オルガはデスクワークはそれほど得意という訳ではない。じっとしているのが性に合わないのだ。デスクワークよりも実際の現場での指示の方が向いているのだ。だが、今回のような本部に提出する始末書や請求書の類は、どうしてもオルガにしか出来ない仕事であった。
オルガは最後の書類にハンコを押すとやっと終わったと言って椅子に寄り掛かった。
「これで全部か?」
「えぇ、これで終わりだと思いま――」
「オルガ、僕だよ」
コンコンとドアをノックして入ってきたのはビスケットだった。ビスケットはオルガの机の前に来ると、大量の書類を目の前に置く。オルガは血の気が引いた表情でビスケットの置いた書類に指を指す。
「……なぁ、ビスケット」
「頑張ってね、オルガ」
「おい、ちょっと待て! なんだこの書類の山は!?」
オルガは置かれた書類について問いただすと、ビスケットはため息をこぼす。
「追加の書類だけど……」
「んなことは見ればわかる。俺が言いたいことはそういう事じゃなくて……」
「さっき大淀さんに連絡したはずなんだけど……」
サッと視線を逸らす大淀。手に持っていたタブレットで顔を隠すと、小さな声で「……そういえばありました」とつぶやく。
「おい。さっきので終わりじゃなかったのか?」
「……すみません。私のミスです。申し訳ありません!」
深くお辞儀する大淀にオルガはため息をつく。しかし、オルガは叱ることなく大淀の頭をポンと軽く叩くと、ニッコリと笑う。
「気にすんな。誰しも間違いはあるってもんだ。どうせ、終わらせなきゃいけないんだしよ。……手伝ってくれるか?」
「――ッ! はい!」
オルガの言葉に大淀は嬉しそうな声で返事をする。ビスケットもオルガと大淀のやり取りに安心すると部屋を出ようとする。だが、ビスケットがドアを開けるよりも前に執務室に入っていた人物がいた。
「あん? なんだビスケット。お前もオルガに用があってきたのかよ」
「うん。今ちょうど終わったところなんだけど……ユージンも?」
「まあな。昭弘を探してんだけどよ……」
「昭弘なら謹慎中だぞ」
ユージンの質問に答えるオルガ。オルガの言うことにユージンは驚く。
「はぁ!? なんであいつが謹慎中なんだよ!!」
「あん? 勝手に敵に突っ込んだからだ。あと、しばらく家に戻ってねえらしいからな。今頃ラフタの姐さんと一緒にいるんじゃねえのか?」
「あーマジかよ。ちょっと聞きてえことがあったのによ」
「急ぎの案件か?」
「いや、単にあいつが管理してた資材のリストを見せてほしかっただけだ」
ユージンがそう言うと、オルガは机の引き出しの中から一枚の紙をユージンに渡す。
「これのことか?」
「お、そうそう。お前が持ってたのかよ」
「あぁ、昭弘に渡されたのを思い出してよ」
「へへ、そうかよ。……ところでよ。三日月について何か聞いてるか?」
「ミカのこと?」
ユージンの言葉にオルガは首を傾ける。特にこれといったことは三日月本人からも聞かされていないと思ったオルガはユージンの話に耳を傾ける。
「……ミカがどうした?」
「あ、いや、そんなに深い意味で言ったんじゃなねえよ。ただ……」
「あん?」
ユージンが窓の方に視線を送ると、オルガとビスケットに大淀は窓の外を見た。そこにあったのは普段行われている海上訓練であった。ル級の襲撃でより訓練に力が入っている艦隊メンバーの光景を見て思わず笑みをこぼす一同。だが、ユージンの方に振り返ると、難しい顔のままであった。
「別に……問題なさそうに見えんだけどよ」
「私もそう思います」
「僕もだけど……」
「……はぁ。お前ら一体何を見てやがるんだ。三日月と神通をよく見ろ」
ユージンの言葉にもう一度外を見る。今度はユージンの言う通り三日月と神通だけを見ていると――
「『三日月』さん! ここではそういう戦い方ではいけないんです! 砲雷撃戦とは、もっと――」
「……」
((うわぁ……))
「?」
ユージンの言葉通り三日月と神通だけを注視して見ると、神通の教えに三日月は不機嫌そうな態度をとっていた。大淀にとって三日月達の光景は別段おかしなところはないと思った。だが、他の二人は三日月達のやり取りを見てすぐにわかった。
元々、鉄華団の時もそうであったが、三日月の戦い方は集団戦に向いていないのだ。地球に送り届ける時もそうであった。集団とはいっても各自の役割を担って行動していたことがほとんどである。つまり、単独行動に近い戦いだったのだ。実際、遊撃隊長として任されたときも率先して、敵陣に切り込んでいった。
だが、海上での戦い方は違う。艦隊の陣形を崩さず、いかに相手より優位に立てるかが勝利のキモなのだ。航空戦による優勢の有無。航海によるT字の不利有利。そして、いかに統率の執れた陣形を保てるかによるものである。
今の言ったことが全て揃えば負けないとまでは言わなくとも、基本的な戦いが出来なければ勝てる戦いも勝てないのだ。そんな基本的な戦いとは違い、三日月の戦い方は根本的に違っていた。
無理もないとオルガとビスケットは思った。三日月を見てきた彼らにとって、この海上での戦い方は三日月の戦い方からかけ離れているのだから。ましてや、ル級の時のように一騎打ちの戦いなどまずありえない。今回はなかったが、大抵は第二、第三艦隊と敵の艦隊がいるのだ。そんな中を突撃なんてしたら、どんなに強固な装甲であってもひとたまりもないだろう。
そんな三日月の戦い方に指摘という名の説教を神通から受けていた。三日月本人は神通の細かい指摘に嫌気がさしていた。いつも頼んだと戦い方を任せてくれたオルガとは違い、こうも指摘をされると、流石の三日月も我慢の限界に近かった。
「聞いているのですか『三日月』さん!?」
「……うるさいな」
三日月の言葉に辺り一帯にヒビが入ったかのような音が響き渡る。その光景を真直で見ていた長月と菊月は青ざめた表情を浮かべる。川内も三日月の行動に思わず手で顔を塞ぐほどであった。神通の黙りこくった顔を気にも留めず、スカートに入れておいたドライフルーツのレーズンを口に運ぶ。
「――『三日月』。いい加減にしなさい」
「別に、ふざけてないけど?」
あっけらかんとした表情で答える三日月に神通は手に込めていた力を抜くと、神通は三日月から離れていく。
「……今日は頭を冷やしなさい。罰としてドラム缶を背負った走行50周してきなさい」
「ん。わかった」
あっさりと了承すると三日月は一旦、陸の方へと戻るとドラム缶を取りに帰る。神通は三日月に振り返ることなく長月達の元に戻ると、長月達は酷くおびえた様子で神通のことを見るのであった。
三章は神通とか川内とかあと長月や菊月を中心に書いていきたいなーと思っています。
では、また。