では、どうぞ。
第三章「始動」第二十一話
「それじゃあ、明石におやっさん。あとはお願いねー」
「はーい。『三日月』ちゃんもしっかり休んでねー」
「おう、任せとけ。……三日月もしっかりな」
「うん」
海上から帰還した川内と三日月は使用した艤装を、明石とおやっさんに預けるとそのまま格納庫から出る。さっきよりも体力が回復した三日月は、川内の肩から降りて海岸沿いを歩く。先程まで三日月と戦闘演習を行っていた川内は、疲れているどころか、元気になっていく姿に三日月は素直に感心する。
「……凄いね。カワウチは」
「ふっ、ふっ、ふっー。そうだよーアタシは凄いんだぞ。見直した?」
「うん。見直した」
「……」
川内は自慢げに三日月に話しかけると素直に答える。今まで誰かに素直に言われることがなかった川内は、三日月に顔が見えないよう先頭に立つ。そして、今の川内の顔は真っ赤な状態へとなっていた。川内は別な話をして気を紛らわそうと三日月に話しかけた。
「あ、そうそう。神通のことなんだけど……」
「そのことなんだけど」
「うん?」
「俺、明日謝るよ」
三日月は足を止めて立ち止まると川内に告げる。川内も三日月の言葉に歩くのを止めると後ろに振り返る。三日月は川内の顔をじっと見つめる。金色の瞳からは嘘をついているとは思えないと感じた川内は頬を緩ませる。
「……そっか。それが聞けてちょっと安心した」
「そうなの?」
そう言うと川内は「うん」と頷く。
「……ねえ、『三日月』。なんで神通あんなにアンタのことを厳しくするか知ってる?」
「ううん。よくわかんないけど、俺のことが大切だからじゃないの?」
「もちろんアンタのことが大事だからってのもあるよ。でもね、それだけじゃないの」
「……どういうこと?」
川内は三日月から視線を外すと海を眺める。水面一帯が月に照らされて宝石のように輝いている。そんな光景を眺めながら川内はポツリと漏らす。
「……ここに着任する前に、アタシたちの姉妹艦の那珂ちゃんって子がいたんだ」
「……死んだの?」
三日月の言葉に川内は首を振った。
「いや、死んでないよ。ただ、ある日、出撃した時に神通を庇って那珂ちゃんはあと一歩で轟沈寸前だったんだ」
――轟沈。それは、この世界で艦娘の死を意味する。
艦娘が深海棲姫との戦闘において致命的なダメージを受けると、艤装が壊れてしまう。つまりは船が沈むことを意味する。ル級を倒した際に起こった現象と同じで、自身の力で浮き上がることが出来ず、ただ海の底へと落ちていくのだ。そうなってしまったら、もはや助けることは出来ない。それは死んだ人間を生き返らせることが出来ないのと同じであるからだ。
「あの時、神通は自分に力が足りなかったって言ってね。那珂ちゃんを守れなかったのは自分だって攻めてね。敵の奇襲に気付かなったのは皆同じだったのに、自分だけのせいって。だからあの子は強くならなきゃいけない、守らなきゃいけないって。たとえ、仲間から煙たがれようとも守れるのであれば、なんだってするって」
「……そんなことがあったのか」
言われてみればそうかもしれないと三日月は思った。神通の指導で敵との戦い方や陣形による連携が多かったが、そこには自分を仲間のことを強調して話していたことに気付いた。
「だからさ。あの子のことを嫌いにならないであげてね」
「わかってる。アンタに言われるまでもないさ」
そう言うと三日月も川内と同じ海の方へと視線を移す。川内は三日月に見えないよう微笑を浮かべると、頭を思いっきりかき回す。突然の行動に三日月もなされるがままであったが、川内は満足したのか頭をかき回すのを止める。
そして、川内は三日月から離れると腕を後ろに組んで前へと歩き出した。
「……あの子のこと。これからもよろしくね?」
「ん、わかった」
三日月の返事に川内はその場を去ろうとするが――
「あ、ちょっといい?」
「なに?」
「アンタに頼みがあるんだけど」
「お、『三日月』の初めての頼みかー。いいよー。何でも言ってくれちゃっていいんだよ!」
川内のテンションに正直苛立ちを覚えそうになった三日月であったが、なんとか堪えることに成功する。
「これからも夜の特訓に付き合ってくんない?」
「……へぇー? あれだけボコボコにされたっていうのに、わざわざ自分から頼みにくるんだ」
「うん」
三日月の返事に川内は素直に感心する。まだここに来てから一週間ほどしか経っていないのと、大抵川内と夜戦での戦闘訓練を受けたがらない人の方が多いからであった。そんな三日月が臆することなく頼んできたことに、喜びを隠しきれずにいた。
「いいけど……アタシ、夜戦に関してはさっきのように手加減できないんだ。だからあんまり教えるってことが出来ないけどいいの?」
「アンタとやっていれば強くなれるんだろ? 俺はこのままじゃダメなんだ」
「ダメって……まだ来たばかりなんだから、そんなに焦んなくても――」
「俺が出来る精一杯のことをしたいんだ」
その言葉に川内は息を詰まらせる。三日月は自身の手のひらを見つめる。その見つめる瞳からはどこか強い意志を感じさせた。それを感じた川内は心の片隅でひっそりと決意する。
「わかった。『三日月』の初めての頼みだしね。いいよ」
「いいの?」
「いいよー。けど、明日から覚悟しとけよ~」
「うん。わかった」
三日月の言葉に満足した川内は手を取ると一緒に鎮守府へと戻るのであった。
本当はもっと感情の描写とか上手く書けたらよかったんですが、これから頑張っていきたいです。
次回はいよいよ新たな展開に突入する予定です。
では、また