鉄血の三日月   作:止まるんじゃねぇぞ…

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誤字報告ありがとうございました。
結構自分でも探したのですが見つけて頂いて助かりました。
では、どうぞ。


第二十三話

 第三章「始動」第二十三話

 

 ――戦艦レ級。

 戦艦でありながら小柄な体系をしており、黒いコート状のようなものを着ている。黒い素材で出来たブラをしていて、可愛らしい笑顔を浮かべながら敬礼をしていた。

 だが、そんな可愛らしい顔とは裏腹に、その強さは異常なほど強い。

 

 艦種こそ「戦艦」でありながら他の上位種である姫や鬼クラスの深海棲艦に匹敵するほど特殊な艦艇でもある。その強さとは、戦艦でありながらも航空戦、開幕雷撃、砲撃戦、雷撃戦、夜戦の全てに参加が可能といった艦艇であったりする。

 

 故に彼女のことを戦艦の皮を被った何かと言われるほど恐れらてきた。彼女一人で一艦隊分の強さを持っていると言っても過言ではない。彼女の出現により多くの提督たちは被害を受けてきた。

 

 そして、彼女一人によって、いくつもの町や鎮守府が壊滅へと追いやられたのは数えきれないほどあったりする。何故、彼女によってそこまでの被害が防ぎきれずにいたのか。それは、彼女の神出鬼没さにあった。

 

 本来、彼女はこんな鎮守府付近に生息するような艦艇ではない。むしろ、もっと奥の海域に生息する艦艇であるのだ。だが、時折彼女は鎮守府付近、あるいは鎮守府内にまで現れたこともあった。そんな神出鬼没さに対応出来ず命を落とす提督たちも少なくなかった。

 

 そんな神出鬼没な彼女だが、ここ数年見る影もなく姿を消したのだ。それは、今まで何事もなかったかのように、姿を現すこともなければ攻めてくることもなくなっていた。

 

 だからこそ、神通と川内は目の前の彼女の存在に目を疑わざるをえなかった。

 

 「ヒ、ヒヒッ。……レ、レレ」

 

 ニヤリと獰猛な笑みを浮かべながら敬礼をしているレ級。その敬礼からは、ただなんとなくやっているだけのようにしか見えなくもなかった。

 

 「……姉さん。今すぐ『三日月』さんたちを連れて離脱してください」

 

 「――ッ!? 神通、アンタ言ってる意味分かってるの?」

 

 「そ、そうだ。神通さんも一緒に……」

 

 川内は神通を睨みつけるよう言う。長月は神通も共に離脱するよう説得しかけるが、神通はフルフルと首を振った。

 

 「分かってます、姉さん。……長月さん。私もあなた達と逃げることが出来ればそうしたいです。ですが、誰かがここで残ならければ、誰が鎮守府の人や町の人たちの避難をしてあげるのですか?」

 

 「そ、それは……」

 

 神通の言葉に長月は言葉を詰まらせる。川内は神通の瞳から揺るぎない意志に気付くと背を向け鎮守府の方へと向く。

 

 「……わかった。あとは頼むね」

 

 「……はい」

 

 川内の頬に涙が零れ落ちる。震える体を悟られないよう必死に耐える。ここで泣くわけにはいかない。泣いている暇があるなら、提督に連絡して一刻も早く対応しなければならない。だが、頭ではわかっているがどうしても止まらなかった。そんな姉の後ろ姿に心の中で「ごめんなさい」と謝罪するとレ級に向き合う。

 

 「姉さんは旗艦をお願いします。長月、菊月のお二人は周囲の警戒を怠らないように。『三日月』は殿をお願いしますね」

 

 神通は振り返ることなく各自に役割を与える。神通の指示にそれぞれ返事を返す。長月や菊月は顔を歪ませ嗚咽し、川内は静かに泣きじゃくっている二人の声に感化されないよう心を殺すのであった。そんな中、三日月は表情を変えずに神通の後ろ姿を見ていた。

 

 「……ジンツウ」

 

 「……『三日月』さん。あなたと仲直りが出来て良かった」

 

 「……うん」

 

 「もし、生きて帰れたらいっぱいお話ししましょう。あなたはあまり喋るのが得意ではないですから、色々聞きたいことがあるんです。だから……」

 

 「わかった」

 

 それだけ言うと神通は後ろを振り返り微笑した。今にも消えそうな表情に三日月は思い出す。それは、かつての仲間が浮かべていた表情と同じだということに。死を決した時の顔であると。だから三日月は何も言わなかった。彼女の思いを無駄にしたくなかったから。

 

 「カワウチ」

 

 「――うん。皆、行くよ!!」

 

 川内の掛け声に神通を置いて離脱する。レ級は川内達の後ろ姿をじっと眺めていた。レ級が川内達に攻撃を仕掛けないか見張っていた神通だが、攻撃する気配がないことにひとまず息をつく。

 

 (……どうやら追う気配はないようですね)

 

 相手はレ級。戦艦クラスに対し自分は軽巡なのだ。規模も兵装も何もかもが自分より遥かに各上なのだ。そんな相手が追撃する形にでもなれば一人ではとてもではないが太刀打ちすら出来ない。

 一艦隊、大体六人構成の艦隊が彼女一人分なのだ。そんな化け物が目の前にいる。これ以上理不尽な奴がいるのかと言いたいくらいの気持ちがあった。

 

 ――死。まさにその言葉が目の前に存在している。神通自身、生きて帰れるなど甘い考えはすでになかった。けれど、彼女にとって死は自身に対する恐怖ではなかった。最も恐怖したのは仲間が死ぬこと。それだけが神通にとっての恐怖であった。

 

 「姉さん、長月さん、菊月さん。そして――『三日月』さん。短い間でしたがあなた達と会えてよかった。本当に楽しかった。だけど――」

 

 たった一つだけ心残りがあった。それは以前、姉妹艦である那珂との出来事だった。

 

 

 ♢

 

 

 「う、ひっく……」

 

 「もう、神通ちゃん。そんなに泣かないでよ~。ほら、那珂ちゃんのようにこうやってさ~。キャハ☆」

 

 「で、でも……」

 

 それはオルガの鎮守府に着任する前の話。神通は川内、那珂と一緒に他の鎮守府に属していた。そして、その鎮守府で深海棲艦との戦いに参加した作戦の時に、那珂は神通を庇って轟沈寸前まで追いやられることになった。

 

 結果的に作戦は成功し、深海棲艦の拠点であると思われる島を奪還することが出来た。だが、被害は小さい訳ではなかった。那珂のような者もいれば、未だに意識が目覚めない者もいたりした。

 

 そんな中、那珂は必死に神通を励まそうとしたが、一向に泣き止むのが収まらない気配に頭を抱えていた。

 

 「う~ん……じゃあさ、神通ちゃんはどうしたら泣き止んでくれるのかな?」

 

 「……わ、わからないです」

 

 「え~そんなぁ。……あっ、いいこと思いついたかも!」

 

 「……えっ?」

 

 拳銃のような形を手で作り顎に当てる。ベロを口角の方へと出し、ベロとは反対方向に目を閉じる。いわゆるウィンクである。その光景からどからともなくキュピィ―ンと擬音が出ているかのような雰囲気があった。

 

 「約束だよ! 約束!」

 

 「……約束、ですか?」

 

 「そうそう!……約束ってさ。あるのとないのと違うんだと思うんだよね」

 

 うんうんと頷く那珂。その仕草にぼーっと神通は見つめていた。

 

 「今度なにかあったら神通ちゃんが助けてよ。そして、また一緒に生きて帰るの」

 

 「……私が、那珂ちゃんを」

 

 「うん! 大丈夫、神通ちゃんは強いからね~。きっとできるよ」

 

 那珂はニコッと笑いながら小指を出す。その小指に神通も小指を絡ませる。

 

 「……私、約束します。もし、那珂ちゃんの身に何かあったら必ず駆け付けますからね」

 

 「うん! 約束だぞー! あ、でも助けて死ぬマネだけは許さないんだからね!」

 

 「うふふ……わかってます。また、生きて一緒に帰りましょ」

 

 「えへへ。やっぱ神通ちゃんは笑ってた方がいいよ」

 

 那珂は泣き止む神通に笑いかける。それに釣られて神通も笑い出す。

 しばらくして、那珂は別の鎮守府に移動の報告が入り、川内、神通たちもオルガの鎮守府へと移動することになった。

 

 

 ♢

 

 

 「……那珂ちゃん」

 

 約束、守れないかもしれません。けれど――最後のその時まで私は諦めません。

あなたとの約束を果たすためにも、生きて――帰ります!

 

 「『華の二水戦』――神通、いきます!」




明日も更新が出来るよう頑張ります
では、また。
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