鉄血の三日月   作:止まるんじゃねぇぞ…

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昨日確認しましたが……日間ランキング7位に入ってた時はびっくりしました。
投稿してないはずなのに何故なんだろう?
まあ何はともあれいろんな方に見て頂けたので良かったです。
では、どうぞ。


第二十五話

第三章「始動」第二十五話

 

 「はぁ……はぁ……!」

 

 あれから神通は三日月達を逃がすために、たった一人でレ級との戦闘に奮闘していた。海上を縦横無尽に駆け回り攻撃を繰り出していた。

 

 (……不味いですね。もう、弾薬も燃料もそろそろ限界です)

 

 時刻を確認すると戦闘開始から大分時間稼ぎが出来たことに胸をおろす。だが、問題はこの状況の中、どうやってあのレ級から戦闘を離脱するかということだ。戦闘開始から今の今までレ級からの攻撃はそれ程多くはしてこなかった。いや、むしろ三日月達を追わなかったのも疑問に思う。

 

 あれ程の戦力差があるにも関わらず襲ってこなかったのか。最初の一撃のみ以外は特に攻撃をしてくるわけでもなく、ただ後ろ姿を眺めていたことに不思議でならなかった。現にこちらが攻撃をしているのに、反撃はおろか特に避けようともしない。まるで、わざと攻撃を食らっているかのように見える。

 

 レ級は神通の砲撃を避けることもなく受け続けていた。だが、その表情からは苦痛によって顔を歪ませることはなく、どこか余裕があるかのように思わせる顔をしていた。まるで、そんな攻撃など効かないと言わんばかりの笑みを浮かべている。

 

 (けれど、例え攻撃が効いていなくても時間さえ稼げれば……!)

 

 そう、あくまでレ級と戦闘に勝利することが目的ではない。むしろ、どれだけ時間を稼げるかが今回のポイントなのだ。神通は決して死ぬつもりも考えていなければ、勝てるつもりなどと思ってもいない。ならば、やることはただ一つ――

 

 (――この攻撃で戦線離脱します!)

 

 左腕の主砲の弾薬を使い切ると、腰に付けている魚雷管を全射投下しようとした途端――突如、上空から攻撃が降り注ぐ。

 

 「――ッ!? あれは……!」

 

 間一髪、上空からの攻撃に気付くとその場から離れる神通。顔を上げると、そこには敵の艦載機が宙に浮いていた。その数は五機にも及んでいた。

 

 「いつの間に……まさか援軍!?」

 

 バッと後方を振り返り敵の姿を確認するが、敵はおろか辺りには何もあるようには見えなかった。レ級の方へと視線を戻すと、そこにはレ級の尻尾の付け根の部分から、尻尾の背だと思われるところを走って、次々と艦載機が飛び出していく。

 

「……う、そ」

 

 ブオンッとエンジンの音を鳴らしながら次々と艦載機が上空を覆っていく。神通の周辺を敵の艦載機は旋回し始める。その数、おおよそ二十機にも及ぶ艦載機が神通の周辺を取り囲んだ。そんな光景にレ級は先程から浮かべていた笑みを、より一層深くすると艦載機に向かって敬礼をする。

 

 「――あぁ、そういうことでしたか」

 

 神通は全てを察した。どうして逃がした相手を追わなかったのか。反撃することなく攻撃を受け続けたのか。そう――全てはこの時の為だったのだと。

 

「は、はは……」

 

 神通の口から乾いた声が漏れる。全身から力が抜けると両膝を海面につける。所謂女の子座りとも呼ばれる座り方をしていた。両腕は項垂れ空を見上げれば、見えるのは快晴の空などではなく暗黒に染まり切った空、それは敵艦載機が埋め尽くしていたというのと同義であった。

 

 「レ、レレ……♪」

 

 楽しそうな声を出しながらこちらを眺めているレ級。その姿は無邪気な子供そのものだと言ってもいいだろう。

 

 「いつから……でしたの?」

 

 誰に問う訳でもなく自然と漏れる言葉に神通は振り返る。ここまでの戦闘に違和感は幾つか感じていたことはあった。だが、あれほど攻撃をしながら動き回っていて艦載機が飛び出す瞬間に気付かないなどあるのか。いや、気づかないはずがない。例え音に気付けなくとも気づかない訳がない。上空による攻撃がないか警戒を怠らなかった。何度も確認したが、一機も飛んでなどいなかった。

 

 「――まさか」

 

 ただ一つだけ思い当たる節があるとすれば、それは神通の攻撃、移動に対してレ級の向きが常に真正面に向いていたということ。神通の行動に合わせてレ級はその場から動くことはしなかったが、方向転換だけは行っていた。つまり、神通はレ級の背後を見てはいなかった。

 

 おそらく、こちらに悟られないために敢えて攻撃を真正面で受け続けたことによって、背後の尻尾から出される艦載機の存在に気付かせずに準備していたのだろう。そんなことが出来るのはこの状況以外ありえない。

 

 敵が一人。相手は自分の格下の軽巡。砲撃による損傷などほとんど効かない。あるとすれば魚雷による攻撃と、夜戦での戦闘のみ。だが、今はまだ夜まで時間があるうえに魚雷による攻撃など避けるのは容易い。これほど好条件の戦闘が彼女にはあった。

 そして、これほど手間を掛けてまで神通と戦う理由は一つだけ。

 

 それは深海棲艦として最もな理由――艦娘に絶望を与える。

 それこそが彼女達の戦う理由であり、存在意義なのだ。だからこそ、神通はそのことに気付くと絶望へと打ちのめされる。

 

 「レ、レ、レ~」

 

 「……」

 

 レ級がゆっくりと神通に近づいていく。神通は先程まで抱いていた想いを打ち砕かれ、目の前の存在から動けずにいた。いや、動いたところで意味がないのだと感じ始めていた。

 

 (残りは魚雷だけ。あとは燃料も帰るまでの分はほとんど残っていません)

 

 もはや魚雷を撃ったところで避けるのが目に見えている。どうあがいても無駄なのだ。

 

 「レレ!」

 

 「あがっ!?」

 

 神通の身体にレ級の尻尾が巻き付く。その尻尾は華奢な身体の持ち主とは釣り合っていないほどの重量感があった。そんな尻尾を軽々と扱いながら神通の身体を締め付ける。

 

 メキメキ!!――バキッ!!

 

 「き、きゃああああ!?」

 

 徐々に強まる締め付けに右腕に取り付けられている兵装と自身の骨が折れたことに、叫び声をあげる。その光景にレ級は嬉しそうに眺めている。次第に体中の骨が軋む音を立てる。アバラの骨がいくつか折れて内臓に突き刺さると、口から吐血をする。

 

 「かはっ!……はぁ……はぁ……」

 

 (――もう、ダメかもしれません)

 

 たった尻尾で締め付けられただけでこの有様。右腕は折れ、アバラもいくつか持っていかれた。魚雷管も両腰についている内の一つは潰れかけているせいで上手く作動しない。燃料も弾薬も尽きた今、神通に出来ることは一つだった。

 

 (せめて……命に代えても……!)

 

 残った魚雷管をレ級に標準を合わせる。その存在に気付いたのかレ級はさっきとは違い驚愕すると焦りが見え始めた。流石のレ級も近距離での魚雷発射は予想していなかったらしい。

 

 「……那珂ちゃん、ごめんなさい。約束、守れそうにありません……」

 

 神通はそっと目を閉じる。せめてもの悪あがきに神通はレ級に近距離による魚雷を発射ようとした瞬間――海上が激しく揺れた。

 

 「――え?」

 

 何が起こったのか神通は理解できなかった。目の前に出来た水の柱が消えると、そこにあったのは黒い鉄の塊がレ級の尻尾を叩き潰していたということ。そして、レ級はその黒い鉄の塊から離れながら苦悶の表情をしていたこと。レ級の尻尾の力が弱まると神通を水面へと落とした。神通は弱弱しくも無事に着地すると折れた右腕を押さえる。

 

 「――生きてる?」

 

 黒い鉄の塊の隣に立っていたのは、逃がしたはずの三日月がこちらをじっと見つめていた。その姿に神通は呆然と見つめることしか出来なかった。

 

 「……なんで?」

 

 「え?」

 

 「なんで……来たんですか。私は姉さんたちと逃げるように言ったはずです。なのに……わざわざ戻ってくるような真似をしたんですか!」

 

 痛む右腕を庇いながらも神通は三日月に糾弾する。

 

 「姉さんや提督は何と言ってたんですか? あなたは彼らの言葉を無視してまで助けに来たのですか?……だったら、要らなぬ世話です。まだあなただけでも逃げることが出来るはずです。さぁ、早く逃げてくだ――」

 

 「――約束したんだ」

 

 「……約束?」

 

 「あぁ、カワウチにジンツウを頼むって」

 

 レ級の尻尾に振り下ろした鉄メイスを持ち直すと、三日月はレ級へと視線を向ける。その視線の先には紅い眼からは怒りに満ち溢れているかのよう感じさせる。

 

 「……姉さんがそんなことを」

 

 「うん。オルガも良いって言ってた。だから来た」

 

 そう言うと三日月は鉄メイスの先端部をレ級に向ける。レ級は上空に向かって咆哮を上げると、艦載機の群れが三日月へと狙いを定めた。だが、そんな様子に三日月は臆することもなく敵から目を離さないでいた。

 そんな三日月の後ろ姿を見ていた神通はつくづく思う。

 

 (……どうしてこの子はこんなにも平然としていられるの?)

 

 相手は自分よりも格上の相手であるレ級。それに上空には圧倒的な数のレ級の艦載機がこちらを取り囲んでいるというのに。ましては片や大破寸前の手負いの仲間がいるというのにどうして堂々とした態度を取っていられるのか不思議でならなかった。

 

 もはや戦いなどではない。虐殺に近い戦いだというのに、その背中からはどこからか希望があるかのように感じられた。その背中が振り返ると神通に微笑みかける。

 

 「――いくね」

 

 「――えぇ、気を付けて」

 

 三日月の微笑みに神通も笑みを浮かべる。三日月は神通から視線をレ級へと戻した。

 そして、三日月は鉄メイスを担ぐとレ級に向かって全速力で水面を走り出すのであった。




いよいよレ級との戦闘開始です。
では、また。
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