では、どうぞ。
第三章「始動」第二十六話
「ふっ……!」
三日月はレ級に全速力で接近すると担いでいた鉄メイスを振りかぶった。三日月の鉄メイスをひらりと避けるレ級。避けた地点に鉄メイスが振り落とされると大きな水の柱が立つ。振りかぶるだけで終わることはなく、そのまま横へと薙ぎ払うかのように鉄メイスを振るった。レ級も横からくる塊に目掛けて拳に力を込めると、タイミングを合わせて打ち込む。
「レレ!」
「……」
ガキィン!
鉄と鉄がぶつかり合う音が辺りに響き渡る。レ級の放たれた拳は傷一つ付くことなく鉄メイスとの力の勝負が続いている。その光景を目にした神通は驚きのあまりに開いた口が閉まらずにいた。
それもそのはず。あれだけの質量を持った鉄メイスの横薙ぎによる攻撃を素手で打ち返してきたのだ。それに見たところ痛む様子を見せるどころか喜々とした様子で三日月に押し返そうとしていたのだから。
神通自身、元来の船の戦いとは違い、深海棲艦との戦いで戦艦クラスが主砲による長距離射撃だけではなく、近接戦闘による戦い方もあることは知っていた。主に殴ったりする以外の方法以外は知らないが、敵の顔面を殴りつけたり、敵の砲弾を裏拳で弾いたりする戦艦もいるという噂を聞いたことがあった。
だが、あくまで噂であり目にしたことは一度もない。そもそも近接戦闘に及ぶほどの戦闘が無いに等しいからだ。当然だ。何故なら砲撃による戦いが主にも関わらず、敵に真っ向から突っ込む奴などいないからだ。そんなことをしたら敵の格好の的になるのだから。
しかし、目の前の光景は噂以上の出来事だった。戦艦どころか駆逐艦なのに、戦艦が搭載している砲塔くらいの重さを感じさせる鉄メイスを振っているのだ。それに、その鉄メイスに対抗しようとして拳を打ち込んでくる始末。もはや、神通にとって今まで学んできた戦い方とは一体何なんだと叫びたくなったのも無理はない。そんなことを思っていたところに状況は急変した。
「――レ、レ、レレレッ!?」
「はあっ!」
ガンッ! ガンッ!!
鉄メイスと拳が幾度となくぶつかり合う。二度、三度と立て続けに振り続ける三日月の攻撃に顔を歪み始めるレ級。レ級は驚きよりも拳に伝わる物理的衝撃による、痛みの方が段々と大きくなっていくことに気付く。初撃は全然感じなかった痛みがじわじわと伝わり始める。
だが、痛みもそうだが何より驚いたことがレ級にはあった。それは自身との近接戦闘に劣るどころか、まともに打ち合っていることに驚きを隠せずにいた。
これまでも何度か艦娘と遭遇しては戦ってきた。そして、自分と同じ戦艦クラスの艦娘と殴り合うことは無かった訳ではない。近接戦闘に及んだとしても殴り合いに負けたことなどなかった。なのに、目の前の敵は一体何なんだと思わずにはいられなかった。
相手は自分と同じくらいの体系だがクラスはどう見ても駆逐艦。そんな奴が戦艦である自分を押し始めている。あろうことか、さっきまで戦闘していた軽巡の攻撃は痛くも痒くもない攻撃だったはずなのに、敵の武器と思われる攻撃が効いていることに動揺を隠せずにいた。
「レレレレー!!」
「――ッ!! くそっ!」
拳での攻撃を止めて腕を交差させて防御の構えを取る。三日月の猛攻に耐えながらレ級は上空に咆哮を上げると、艦載機が三日月に向かって上空から銃撃を開始した。
すぐさま三日月は攻撃を中断すると、鉄メイスを盾に使いながら銃弾を受け切っていた。
「『三日月』さん……!!」
不味いと神通は思った。今回の訓練での必要であった兵装の中に対空射撃の出来る装備を持ってきた人は誰もいなかったのだ。鎮守府付近ということもあり魚雷に砲塔以外は必要ないと判断した結果であった。その判断が裏目に出た事に神通は過去の自分を恨んだ。
(どうしましょう……このままでは『三日月』さんが……!)
せめて援護でもと思い銃口を艦載機に向けるがハッと気づく。
(そうでした……もう、私には残弾が残っていないんでした)
神通は下唇を強く噛みしめると口の中に血の味が染み渡る。今の自分がいかに役に立たないことを思い知らされる。そんな自分が情けなくて仕方がなかった。
「それでも……せめて、私に出来ることを……!」
体中悲鳴を上げる体を奮い起こして神通はレ級へと方向転換を行う。レ級の方角へと体を向けると、片膝を水面に着けて狙いを定める。
(まだ、片方の魚雷管は生きているんです。これなら――ッ!?)
ギロッと横目で見ていたレ級に気付く。その眼差しに気付くと神通は身体が震えあがってきた。
「……あ、あぁ」
海面に着けていない膝を支えていた手が震える。外からでも奥歯がカチカチとぶつかる音が鳴るくらい出していた。先程までの体験を思い出してしまい、思わず神通は震える体を鎮めようと必死に耐える。
こんなことをしている場合ではないと頭ではわかってはいたが、どうしても体が言う事を聞かずにいた。
(はやく、はやく『三日月』さんを助けないといけないんです!……だからお願いです。私に、力を貸してください――那珂ちゃん!)
頭の中で思い描いた那珂の笑顔を思い出すと、少しだけ震えが落ち着いた。今しかないと思った神通はレ級に向かって魚雷を発射しようとしたその時――上空から敵艦載機の内一機が物凄いで神通に目掛けて飛んできた。
「くっ!?」
気付いた時にはすぐそばまで飛んできていた。ちらりとレ級に視線を向けると、そこにはこちらに向かって手を向けているレ級の姿が映っていた。その姿はまるで「その手には二度と乗らない」と言わんばかりの姿が目に見えた。
もはや、自分が魚雷を撃つよりも先に追突することに察した神通は目を閉じてしまう。自身の状態で言えばギリギリ大破ではないが大破寸前といった具合であった。そんな状態で敵艦載機による特攻など食らったら耐えきれない。心の中で目の前で戦っている三日月や那珂、川内やその他の人たちに謝罪をすると、今から起こりうる事態に目をギュッと閉じる。
だが――そんな事態などならなかった。
ドゴォォォォォン!!
「……え、あれ?」
激しい爆発音からは細かい鉄の塊が海へと沈んでいく。この展開にまさかと思った神通は思い当たる人物に視線を向けるとそこには――二丁の単装砲を構えた三日月が立っているのであった。
アーケードの艦これの動画で三日月が両手に持っているのを見て「あ、これミカが使ったらカッコよくね?」と思いこんな感じにしました。
次回で二丁持ってる理由が分かるんでお楽しみに。
では、また