いよいよ大詰めです。
では、どうぞ。
第三章「始動」第二十八話
「ふっ……!!」
「レレレレレ……!!」
互いの攻撃がぶつかり合い、どちらも力が劣っていることは無かった。力は拮抗し合い動かないでいた。三日月は鉄メイスを傾けレ級を横へといなす。いなされたレ級は止まらずに出していた力の流れに逆らえずそのまま進んでいく。
全力速力ということもあって、直ぐには方向転換が出来なかったレ級は速度が落ち着いたところで三日月の方へと方向転換する。
「レ……!?」
「ちっ……!」
すぐさま気付いたレ級は方向転換と同時にその場から横へと飛んだ。自身の飛んだ位置を横目で確認すると直後、魚雷が通り過ぎていくのが見えた。
これは三日月が鉄メイスでいなした後、レ級から距離を取るように後退しつつ一直線に並んだところで、足に装備していいた魚雷を発射した。
艤装から送られてきたデータによって使い方は知っていても実践で使用したことが訓練以外なかった。あくまで的に当てるだけであって動く的には当てたことは無い。そんな初めてでもある動く的、つまりレ級に向かって魚雷を発射したのである。
互いは一直線、距離も十分生かせるほどの距離。タイミングも完璧な状況であるはずなのに、それを回避したレ級に三日月は思わず舌打ちをしてしまう。
「レレッ!!」
着地したレ級はすぐさま両手を握り絞めるとその場に向かって殴りだした。
ドンッと大きな音を立てながら一本の水の柱が高々と現れる。何か来ると思った三日月は鉄メイスを構えながら次の攻撃に備えた。だが――
「レ……」
徐々に水の柱が消えていくと上空から水蒸気が風に乗って落ちていく。消えた水柱の場所には、先程から動いた形跡も感じられないレ級がコートの裾を持ち上げているだけだった。
その様子に三日月は警戒をしつつ様子を見ていたところに近くで見守っていた神通の叫び声が聞こえた。
「――『三日月』さん! 下です! 魚雷がすぐ近くに……!?」
「――ッ!?」
神通の声に直後、三日月は後退をしながらも海面の下の存在に目を見張る。その存在はレ級のと思われる魚雷がすぐ近くまで迫っていた。
神通は今回の戦いで驚かされてばかりだった。自分の学んできた砲雷撃戦の戦い方など無視するかのような戦いぶりに開いた口が塞がらないほどである。三日月達から距離が離れていた神通が目にしたのは、海面に拳を叩きつけた後にコートの裾を上げた途端――魚雷がボトボトと海面へと落ちていくところであった。
魚雷を落としながらニヤリと笑みを浮かべるレ級の表情を見落とさなかった神通は三日月の方へと振り返る。案の定、気づいている様子もない三日月に大声で知らせたのである。
しかし、知らせるには遅く目の前までに迫っていた魚雷が三日月に当たると思ったが――
「……えっ!?」
「レ……!?」
「ぐうっ……!?」
寸前、三日月は迫りくる魚雷をバク転をすることで回避することに成功する。その光景を見ていた神通は三日月の行動に信じられずにいた。
(艤装を背負ったままバク転なんて真似……どうしたらそんなことが出来るんですか貴女は!?)
――無茶苦茶すぎる。目の前の少女の戦い方に神通はとことん思い知らされる。これは海での戦い方などではない。いや、船の動き方ではないと言った方が適切なのかもしれない。そう――根本的な戦いが違うのだ。だからこそ、神通は思う。
(あのレ級と……渡り合えるのでしょう)
自身よりも練度は劣っているどころか、まだこの世界にきてから一月も経たない少女が遥か格上の相手であるレ級と互角以上の戦いを繰り広げている。そんな格上の相手に勝つには従来の方法では駄目だと痛感せざるを得なかった。
そんなことを思っている間、三日月はバク転により魚雷直撃による損傷は皆無で終わったが――
「あぐっ……!!」
バク転した後、魚雷による回避は成功したものの着地までは無事とはいかなかった。
そもそもの話、艤装を付けた状態でのバク転など出来るはずもなかった。それだけの重さを背負ったまま飛ぶだけの脚力などあるわけがない。それに加えて背中に背負っている艤装のせいで体勢に無理があったのだ。言うなればバク転モドキと言った方がいいのかもしれない。無論、そんな状態で着地などできるはずもなく海面に背中を打ち付ける形で着地することになる。
三日月本人もこればかりはかなり無茶をしたと思った。本来の持ち主である『三日月』に心配されたが、大丈夫とだけ心の中で告げると痛む体を奮い立たせる。
手に持っていた鉄メイスを握りしめ、痛む体に鞭を打ちながらその場を離れた。動きながらレ級の行動を見張っていたが、どうやらあれが本当に最後の兵装だったらしい。その証拠に悔しそうに歯ぎしりをするレ級の姿が見えた。
「……なら」
――あとはヤるだけだ。
そう思い三日月は全速力でレ級に接近する。鉄メイスを担ぎ渾身の一撃を叩きつけようと手に力を込める。
迫りくる三日月にレ級はその場から動けないでいた。
「レ、レ、レ……」
――ナンダコイツハ。イッタイ――ナンダンダ。
迫りくる金色の目を宿した少女にかつてないほどの恐怖を感じたレ級。今までの戦ってきた相手とまるで違う。自分より弱いはずの相手にここまで追い詰められてしまうことに畏怖してしまう。
全ての兵装は使い切ってしまった。もはや打つ手がないに等しい。最後の奥の手の魚雷も回避された今、残っているのは所々指が折れた両拳位なものだった。砲弾ならいざ知らず、目の前の黒髪の少女の手にする武器と打ち合うほどの力が残ってなどいない。短い脚では避けられた後の攻撃に耐えられるかどうかも分からないでいた。
初手で喰らった時のことを思い出してみるが、かなりの痛みを生じたはず。そんな攻撃をもろに喰らったら今度こそ沈むと確信する。迫りくる中、レ級は静かに目を閉じる。十秒も満たないほど時間が経過した時、レ級は意を決した表情で目を見開く。
迫りくる鉄メイスにレ級は両腕をクロスする形で受ける体制へと備えた。チャンスがあるとすれば、この一撃を耐えた直後の隙を狙うしかない。そう思い、レ級は歯を食いしばり足に力を込め、直ぐに来るであろう攻撃を待った。
この時、その場にいた誰もが思った。次の攻撃で勝敗が決まるのだと。だが――世界はあまりにも残酷であった。
次回「三日月、大ピンチ」
では、また~