鉄血の三日月   作:止まるんじゃねぇぞ…

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その5です。

これでラストです。

では、どうぞ


第三十話

 第三章「始動」第三十話

 

 ドゴォォォォォン!!

 

 「――くっ!?」

 

 激しい爆発に神通は残った腕で口元を塞ぐ。爆発による衝撃と高温の熱に襲われる。暫くして爆発の衝撃に耐えるとすぐさま三日月の確認を急いだ。

 

 「『三日月』!! 大丈夫ですか!?」

 

 周囲を確認すると呻き声を上げて倒れていた三日月の姿が確認できた。運が良かったからか、どうやら大きな損傷を受けている様子は見られなかった。

 

 「……良かった」

 

 あまりにも無謀な行動に過去の自分を殴りに行きたい神通であったが、とりあえず作戦が成功したことにホッと胸を撫で下ろす。

 

 「……これでよかったのでしょうか」

 

 ポツリと呟く神通に応えるものなどいなかった。

 作戦――とはあまりにも言い難いものであった。それは三日月が投げたメイスで吹き飛んだ先に止まったレ級に向かって魚雷を発射するという単純明快かつ短絡的すぎる作戦内容であった。

 

 もしも、一歩間違えれば三日月ごと爆発に巻き込む恐れもあるというのにだ。だが、これ以外の方法を神通は思いつかなかった。時間もほとんどない中、考え出した答えがこれだった。

 

 以前の自分であれば仲間を傷つけない方法を考えたであろう。しかし、目の前にいたレ級を倒すことは出来なかったはず。自分がした行動に神通は正しかったのか、それとも間違っていたのか分からないでいた。

 

 仮に答えられる人がいるのなら教えて欲しいと切実に思う。神通はそんなことを考えながら爆発した場所を眺めていたところ――薄っすらと煙の中から影が見えた。

 

 「――嘘」

 

 ――ありえない。いや、ありえるはずがない。

 完全に直撃したところをこの目で見ていた。防御はおろか避けられるはずもなかったはずだ。当たった瞬間を見逃すはずがない。

 そう思った神通の表情は青ざめていた。何故なら――目の前のレ級がまだ倒れていないからだ。

 

 「レ、レ……カハッ」

 

 煙が晴れてくるとレ級の姿も露わになる。片腕は爆発で吹き飛び、被っていたフードが取れて素顔が確認できた。左目は爆発のせいで失明しているように見える。息絶えそうな姿なはずなのに、しっかりと海面に足をつけて立っていた。

 その姿に神通は憤りを感じていた。

 

 「……どうして、なんですか!?」

 

 砲撃ならいざ知らず魚雷直撃となれば無事では済まないはずだ。普通なら沈んでいておかしくないはず。なのに、膝を着くどころか二本足で立っている始末。理不尽にも程がある。

 

 「レレ――」

 

 「……まさか、待って!?」

 

 ゆっくり、ゆっくりと海面を歩くレ級。歩く先には倒れている三日月の方向であった。叫び声を上げながらレ級に静止するよう呼びかける神通。折れていない腕を伸ばすが届くはずもなく、ただ虚しさだけが伝わってくる。

 

 「レ、レ――シ、ズメ」

 

 「や、やめてぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 レ級は三日月の場所まで辿り着くと、三日月の頭に向かって足を上空へと伸ばした後、そのまま振り落とした。顔面を砕く勢いで振り落とされる足を神通は見ていることしか出来ないでいた。

 

 (動いて! あの子を救えるならこの体がどうなっても構わない。だから――お願い、動いて下さい!!)

 

 もはやボロボロである体に鞭を打ち三日月を救おうと動かすが、激しい痛みのせいで動かすことが出来ない。そんな自分の体に思わず涙が溢れ出す。痛み、悔しさ、情けなさ、あらゆる感情や症状によって流れる涙は止まらないでいた。

 

 もはや三日月の顔面まで目前となった足を止める手段を移せないでいた神通はギュッと目を閉じた。訪れるであろう三日月の顔面が砕け散る音を耐えるために――だが、一向にその音は訪れないでいた。

 

 「……え?」

 

 何かあったのかと目を見開き、三日月の方を見るとそこにあったのは――1人の艦娘がレ級に向かって殴りつけていた瞬間であった。

 

 「カハッ……!?」

 

 殴られたレ級は不意を突かれたこともあり、まともに受け身を取ることすら出来ないでいた。まるでボールが飛び跳ねるかのように海面の上を飛び跳ねていた。そして、海面を滑り込み、徐々に止まると痛む体を抱えようと丸く蹲るレ級。

 

 その姿を見つめていた艦娘だと思われる女性に神通は声を掛けた。

 

 「……貴女は一体――」

 

 「……間に合ってよかった」

 

 神通へと振り返る女性は腰まであるロングストレートの髪に真紅の瞳が特徴的であった。

 頭には艦橋をモチーフしたヘッドギアをつけ、首には首輪のようなパーツ、両腕には長手袋、腰周りはミニスカートに、大日本帝国の菊の御紋をあしらったベルトという服装。その女性の艤装は煙突の付いた腰ユニットから体を挟みこむように左右に展開し、それぞれに41cm連装砲を計4門装備しているのが見える。

 

 振り返る女性の姿を見た神通は一人思い当たる人物がいたことに気付く。それは艦娘をやっている人であれば誰でも知っている人物。彼女の名は――

 

 「――長門さん、ですか?」

 

 「うん? 私のことを知っているのか?」

 

 「いえ、知っているも何も……」

 

 彼女ほど有名な人物、もとい船を知らぬ者などいないだろう。船を知らない子供でさえ名前だけは聞いたことがあるというくらいなものなのだ。それを同じ艦娘である神通が知らないはずがなかった。それに、ビック7とも呼ばれる彼女がどうしてこの場所にいるのか不思議でならないでいた。

 

 「あの、どうしてこの場所に貴女がいるのですか?」

 

 「それを私に聞くのか?」

 

 「え、だって……」

 

 「理由など一つしかないだろう?」

 

 「……まさか、援軍ですか?」

 

 神通の問いに長門は頷く。倒れている三日月をそっと抱きかかえると三日月に向かって労いの言葉を掛けた。

 

 「……よく、頑張ったな。たった一人であのレ級と戦うとは大した奴だ」

 

 安全システムのせいで意識を失っていた三日月の耳に長門の言葉は届くことは無かった。届いているはずはないのに、三日月の表情は柔らかな顔つきをしていた。まるで長門の言葉に反応したかのように。三日月の表情を確認するとクスリと笑いかける長門。しかし、すぐさま凛とした表情へと戻すと立ち上がったレ級へと視線を向けた。

 

 「……まだ立つというのか」

 

 「ガ、グ、ギィ……!」

 

 「……もはや深海棲姫を通り越してゾンビ棲姫と呼んでも間違いじゃないだろう」

 

 レ級の姿を眺めていた長門はそう言うと、レ級から背を向けて離れようとする。

 

 「え、あの、長門さん? まさかこのまま放って置くのですか!?」

 

 「いや、そんなことはしない」

 

 「だったら……!!」

 

 「もう――勝負は着いているのだからな」

 

 「……どういう意味です、か?」

 

 長門に真意を訊こうとしていたところ、神通の頭上からエンジン音が聞こえてくる。大量の艦載機が上空を埋め尽くしていた。一つ違うのは先程までのレ級のとは違って、全ての艦載機が味方のであるということだった。そして、レ級のとは比べ物にならない程の艦載機の量がレ級の方へと飛んでいく。

 

 その光景をレ級も同じく眺めていた。空一帯に広がる艦載機を眺め思い出していたのは、先ほど戦闘した軽巡にした時と同じ光景だなと思っていた。自分の状態を確認するまでもないとレ級は思った。全ての兵装は使い切った。満身創痍な身体。おまけに数えきれないほどの艦載機がこちらに向かってきている。

 

 「レ、レレ……」

 

 引きつる頬の痙攣が止まらない。逃げようにも思うように体が言う事を聞かない。チラリと長門達の方へと視線を向けると、そこにいたのは鋭い眼差しでこちらを睨んでいる長門であった。

 

 「……貴様は言ったな、沈めと。ならば望み通り海の底へ帰るといい」

 

 長門はガッコンと音を立て計4門の連装砲をレ級へと狙いを定める。振動で三日月に負担が掛からないようしっかりと抱きかかえる配慮も忘れたりはしない。すぅっと息を吸い込み一拍置くと――海域に一帯に広がる程の号令を放った。

 

 「――全艦隊一斉射撃。目標、戦艦レ級。――撃てぇぇぇぇぇ!!」

 

 ドンッ!! ドンッ!!

 

 長門の4門の連装砲が一斉に射撃を開始する。それだけではない。長門の後方からも多くの砲弾がレ級へと発射されていく。神通は勢いよく後ろを振り返るとそこに立っていたのは、長門と似た服装を着た女性と巫女服のような服を着用した女性が二人立っていた。

 

 次々と打ち込まれる砲弾にレ級は為す術もない。折れた腕で防ぐことは出来ず、逃げることも敵わない。上空から振り落ちてくる爆撃を避ける手段を持っていない。ならば――

 

 「ヒ、ヒヒ……レッ!!」

 

 砲弾の雨と上空からの爆撃攻撃を受けながらレ級は長門達に向けて、渾身の笑みを浮かべながら折れた腕で敬礼をして見せた。敵の最後の姿に長門は決して言葉に出すことはしなかったが、心の中でひっそりと敬礼を返した。

 

 同情などではない。敵でも見方でも誰であろうと長門は戦った相手に敬意を持つよう心掛けていた。だが、滅ぼすべき敵に向けて敬礼などしてはないとわかっている。だからこそ、表ではその振る舞いを見せる真似などしなかった。

 

 激しい轟音が数分続いた末、辺り一帯には火の海が広がっていた。

 そこに残っていたのはレ級にコートらしき衣服の断片が海に漂っているだけであった。

 

 「……もう、終わったんですよね?」

 

 「あぁ……神通だったな? 君もよく頑張ったな。無事で――良かった」

 

 「――んっ!」

 

 無事で良かった――その言葉を聞いて初めて神通は自分が今生きていることを実感できた。最初にレ級に挑んだ時には死ぬかもしれないと死を覚悟しつつ、生きようと必死に戦った。だが、今は意識を失っている三日月が助けに来なかったらと思うと既に死んでいただろうと思う。それに長門達が助けに来なかったら二人とも死んでいたはず。それが今では二人とも無事でいる。そのことに神通は止まりかけていた涙がまた溢れ出てきた。

 

 「――那珂、ちゃん」

 

 ――約束、守ることが出来たみたいです。

 

 安全システムが作動して動けずにいる神通を巫女服のような服を着た女性二人が滑り寄ってくる。神通の近くまで滑りよると、神通のことに気付いたのか二人の女性は互いに顔を見合わせ笑みを浮かべ合い、そっと神通の頭を撫でるのであった。そのことに神通は戦闘で押し殺していた感情が一気に溢れ出し大声で泣き喚くのであった。

 

 こうして、無事三日月達はレ級との戦いに勝利するのであった。




次回で第三章は終了となります。

補足なんですが、建造の三日月と違って神通は適合者ですので、気を失うことは無いんですがその場から動けないというのがあるとだけ書いときます。……多分、説明してあるから大丈夫だとは思うんですが、一応。

では、また。

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