第一章「序章」第三話
「な、何を言っているんですかあなたは!?」
三日月の言葉に大淀は動揺を隠しきれなかった。それもそのはず。
三日月が建造されてから、まだ間もないというのに明石に出撃させてほしいなどとお願いをする意味が分からなかった。実戦経験はおろか艤装の起動演習すらまだなのだ。出撃したところで何も出来ず犬死するのが目に見えている。
「あんたに話してるんじゃないんだけど」
「わ、私に話しているとかの話じゃないんですよ!? まだここに来たばかりのあなたに出来ることは何もないんです! 今は戦うことを考えずこれからのことを――」
「ちょっと大淀は黙ってて」
「あ、明石!? あなたまで何言っているんですか!」
大淀の怒鳴り声に目もくれず、明石は三日月のじっと見つめる瞳に目を合わせる。この子の目を逸らしてはいけない。そんな気がするのだ。
「出撃するっていうことがどういうことか分かる?」
「うん」
「死ぬかもしれないのよ」
「分かってる」
「あなたね……」
明石は三日月との問答に思わずため息をつく。あまりにも即答なうえ、恐れているわけでもなく、強がっているわけでもなく、ただ淡々と答えていった。
「どうして……」
どうしてそうまで言い切れるの?
大淀ほどではないが戦うことが怖くないだろうか?
工作艦の明石としては戦う事は出来ずとも、後方で前衛を支えるために海域に出なければいけない時もある。無論、今まで自分自身が経験をしたことがあるかと聞かれればそうではない。過去にそういう事例があったという話なだけだ。
だが、仮に出ることになったとしたら、例え後方であっても怖いと思う。それなのに、目の前にいる自分より一回り小さな子が「そんな当たり前のことを聞いてくるんだ?」と言いたげな目で見てくる。
「……あのさ、勘違いしないでほしいんだけど」
「……えっ?」
「命を大切にしてないって思わないでほしいんだけど」
――な、なんでわかったの?
三日月の言葉に目を見開く。――間違いなどではなかった。
あの瞳からはどこか心を見透かされているかのように思えて仕方がなかった。だから三日月の瞳から目が離せずにいた。
分かっているんだ、この子は。戦うことの意味を。戦うことの怖さを。
「それに、俺の命は俺だけじゃない。皆のモノでもあるんだ。だから――俺は俺が出来ることをやるだけだよ」
「――そっか」
もう、何も言えないじゃない。
そう思い明石は三日月の頭をポンッと手を置くと、少し乱暴に撫でる。三日月も明石のやっていることに文句を言うこともなく、ただされるがままであった。気分を良くしたのか明石は三日月の頭から手を離すと、両手を腰に添え胸を張りながら言うのである。
「わかったわ。今すぐ艤装の用意をするから待ってて頂戴」
「ちょ、ちょっと明石!? 何勝手に話を進めてるんですか! 提督の指示も無しに勝手に出撃なんかさせたりしてこの子になにかあったらどうするんですか!!」
「大淀、もうこの子に何言っても無駄だからね。この子なら大丈夫。あとで責任でも処罰でもなんでも受けてやるわよ。だから、今はこの子のことを信じましょう」
「明石あなた……あぁ、もうわかりましたよ! あとでキッチリ受けてもらいますからね!」
「さっすが大淀! やっぱ持つべきものは友って言うしね」
「あなたみたいな友達は正直疲れるんですけど……」
はぁと息を吐く大淀に明石はパンッと手を合わせ一言「ゴメン」と告げる。明石の行動に仕方ないと言わんばかりに、鼻から息を流す。
「もう……ほんっとに昔から変わらないんですから貴女は」
「えへへ……それより急がないとね。――おやっさん!? ちょっといいかな!!」
「――なんだ、今手が離せねぇってのによ」
明石は倉庫の奥に向かって大声で呼ぶと、倉庫の奥の方から肌黒くガタイのいいおじさんがひょいと顔を出す。
「ちょっとこの子の艤装の準備に手伝ってほしいんだけど!」
「あん? 話を聞いていなかったのか、お前。俺は今手が離せねぇって言ってんだろうが」
「またまた~そんなこと言ってどうせアレの整備でもしてたんでしょ?」
「そ、そんなことはないぞ? 俺は艤装の整備をだなぁ……」
「――おやっさん?」
「あん?」
三日月はおやっさんと呼ばれる人物に声を掛けると、こちらに気付いたのか明石から視線を外しこちらに目を向ける。
「誰だ、そいつは?」
「この子ですか? 前にオルガ提督が言ってた『三日月』ちゃんです!」
「……『三日月』っか」
おやっさんと呼ばれる男は明石が紹介した三日月の顔を見ると、何を思ったのかフッと息を吹き失笑する。
視線の先には癖のあるセミロングの髪にアホ毛。瞳は金色である。服装は黒セーラー服を纏い、睦月型の特徴で三日月の形をした月飾りを右襟に着いている。
(同じ『三日月』なのにあいつと全然違うなんてよぉ……)
似ていると言えば無表情な顔立ちに、じっと人のことを見透かしているかのように見える瞳。強いて言えばアホ毛もあったというところではないか。しかし、いくら似ていたとはいえおやっさんの知っている三日月の姿とはかけ離れているのもであった。
「おやっさん」
「ん、なんだ『三日月』?」
「久しぶり。おやっさんも相変わらず元気そうだね」
「……はぁ? お前何言って――」
「知合いですか?」と質問される明石の言葉におやっさんは答えることが出来なかった。いかもに昔の知り合いに会ったかのように話しかける少女におやっさんは開いた口が閉めることが出来ないでいた。
(いや、ありえねぇ。だ、だけどよぉ……もし、俺の知る三日月だとした――)
「おやっさん?」とコテンと首を傾げる少女の手を取ると、倉庫の奥へと手を取り連れていく。明石と大淀に少し話があるから待っていてほしいとだけ伝え倉庫の奥へと入ると、少女の目線に合わせ片膝を地面に着きもう一度顔を確認した。
「俺の顔に何かついてる?」
「お前……あの三日月なのか?」
「なに言ってんの? 俺は俺だよ。三日月・オーガスだけど……おやっさん、もしかして俺のこと忘れたの?」
「はぁ……お前、今自分がどういう状態なのか分かってんのか?」
「……?」
言っていることがよくわからないと言いたげな三日月の顔に、おやっさんはため息を溢すと、腰に下げているポーチから一枚の手鏡を取り出すと、それを三日月に差し渡す。
「ほれ、今のお前の顔を見てみろ。そしたら俺の気持ちがよーくわかるからよ」
手渡された鏡に写る自身の顔を見ると、一瞬だが目を見開きまじまじと確認している。だが、いつもの無表情な顔立ちに戻ると気が済んだのか、手鏡をおやっさんに返す。
「ふーん」
「ふーんってお前なぁ……もう少し、こう、驚いたり焦ったりしてもいいんじゃねぇか?」
「別に」
「別にって……ま、お前らしいと思うぜ。俺はよ」
相変わらずな様子に安心したおやっさんは三日月の頭を撫でると、地面につけた膝を持ち上げる。
二人のいるところに戻ろうとした三日月だが、倉庫の奥の片隅に見覚えのあるものが置いてあるのに気づく。
「――おやっさん。これって」
「あぁ、そうだよ。お前さんが知ってるもんだよ」
片隅に置かれていたのは、かつてギャラルホルンの襲撃の際、初めて使用したバルバトスと呼ばれるガンダムシリーズの一つ機体に装備されていた武器、レアアロイ製メイスが置かれていた。そのメイスの隣には三日月と書かれていた盾に単装砲が一つ、円柱状の缶と煙突が付いたのと、三連装魚雷管が合計二基置かれている。
「言っておくが、この世界では阿頼耶識システムもバルバトスも存在しないからな」
「えっ、そうなの?」
「あぁ、この世界じゃあ俺たちの世界でいうMSやMWは存在しねぇ。しかも俺たちのような男の代わりに、さっきのお嬢ちゃんたちが戦ってるってことだ」
おやっさんの話によると、この世界の海に突然敵が現れたらしい。なんでも昔、国と国が戦争して沈んだ船だったのが人の形へと変え、あらゆる海域に侵略したとか。
――深海棲姫。それが敵の正体だという。その深海棲姫に対抗するために作られたのが俺が呼ばれていた『三日月』という存在。正確にはこちらも昔使われていた船が元に作られた存在を艦娘と呼ぶそうだ。
正直、おやっさんが他にも色々と説明をしてくれたけど、俺には難しいことはわかんない。けど、一つだけわかることならある。
「まあ、つまりだな……」
「ねぇ、おやっさん。そのシンカイって奴らはオルガにとって敵ってことでいいんだよね?」
「お前、オルガに会ったのか?」
「うん」
コクリと頷く三日月。
「で、どうなの?」
「まあ間違いじゃないけどよ。ざっくり言えばそうだな」
「そっか」
それさえ分かればいい。小難しいことを考えるのはオルガがしてくれるから、俺はオルガの命令があればそれに従う。けど、もし、オルガに手を出すなら――敵だ。
誰であろうと殺す。それだけの話なんだから。
三日月はクスリと笑みを浮かべるとこれからについておやっさんの指示に従うのであった。
理想:「俺……もしかして○○の身体に!?」
現実:「ふーん。別に、問題ある?」
とかミカなら言いそうなのは自分だけなのかな?