修羅の路   作:瑕傷々

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寛永御前試合 寛永十一年
屍山血河舞台下総国 寛永十六年
あっ…(唐突に閃いた)


「武蔵」を名乗る者
序幕


ーーー寛永十六年 某月某日 未の刻

 

周りに広がるのは四角が延々続いた田園風景。

ある男が街道沿いの土手坂、若木の影を顔に乗せていた。

 

外見はぼろになった胴着に腰には小太刀が一口。体格は幅広な胴着からでも分かる程度には整っている。…が、いかんせん纏う空気が緩いモノであるが故にチグハグさが際立っていた。

故に、見る者一人一人によって男の印象は様々に形を変えるだろう。実際、寝床(土手)に来るまでにすれ違った者達から見た男の印象は風の行くままに生きる旅芸人、国荒れによって他国に彷徨う浪人、他の惣村などに雇われている用心棒などであった。

士農工商の区分けがハッキリとし始める管理時代の黎明期。…それでも男の内情を少しでも捉えられた者はいなかった。

 

「何だってんだ、ココは 腹減ったな‥」

時折鳴る腹を寂しそうに撫でながら細々と声を漏らす件の不明男。

足を大に広げながら腕を枕にし、片眼開いたその中には痛い青空に風に泳ぐ薄白の雲を映している。

まるで空の海に浮かんだ舟の如く。男はする事無しにただただ其れ等を見つめ続ける。

 

遠い鳥の声、低い蛙の鳴き、通り抜ける山風の音。

在りのままの自然を感じながら暫く動きの一切を止めていた男であったが、自身の里(鬼の巣)に置いてきた身重の嫁や父母を想い、愁いの息を吐き出す。

 

吐息は山風の合間に混ざって流れていったが、その途中にあるナニカに当たり四散する。

男は気配を感じ取り(ソラ)に眩んだ目を瞬かせた。

いつの間にか白い雲々はその視界から消え、黒々とした澱んだ黑雲が空を包み覆い被さっている事に気付く。

 

「おい‥‥」

男は身体を起こし軽く肩を回す。

腕から肩、肩から腰、腰から足までの弛みに活が入ると、同時に今迄のゆったりと凪いでいた暢気は澄んだ闘気へと変化する。

男の日々の鍛錬の成果故なのかその準備は一息で済み、その身体は即座に戦闘態勢に入る。それがあたかも常の様に。

 

そして次の瞬間。

視界外から襲ってきた半透明の三体の餓者髑髏を、座り見ぬままその両手に一体ずつ掴んで即座に地に叩き付け、叩いた反動で飛び起きれば一直線に伸び切った蹴りで残る一体も跡形も無く消し飛ばす。

 

「全く‥うかうか昼寝もできやしないのか」

男はそのまま何間も落ち土手の底へ着地すると、ユラリと身体を起こして溜息を吐く。

背後の街道から湧いているのは人数人分の質量を持つ人外の武者鎧。凄まじい速度で数を増していくその異形は兜の内にて音にならない殺気を漏らしながら、人間()と認識した男の元へ徐々に近付いていく。

 

浮遊し、先行してくる髑髏の霊体をいとも容易く殴り抜く事で四散させながら男は思考を重ねる。

(妙な奴等がわんさかいやがるな ‥‥血ぃダラダラ垂らしながら全くだらしがねぇ オレだって口許位は拭くぞ)

 

自身の今迄の価値観の外側に存在する怪異達の異常性には触れず、否…気にも留めていないのかゆっくりと足を進めていく男。

赤黒い血が滴り蠢き嗤う武者鎧と冷たく黄泉へ誘い嗤う餓者髑髏の群は、獲物を逃さぬ狼の様に男の周りを埋めていき、相対的にその距離を詰めていく。

 

ぐるり。ぐるり。

死が近付いている筈の男は不敵に口角を上げる。

途端。我先にと刃が、爪が、その牙が襲い掛かる。

 

「誰が何かはしらねぇが‥喧嘩してぇなら‥」

拾間。片目が薄く開き男の殺意が果て無しに増し。

伍間。怪異達は未知の怖気に対抗し声を上げる。

参間。十、二十が同時に向かうその中心にて。

 

「死ぬ気で来いよ 化生共」

零間。ーーー修羅の片鱗がその身を見せる。




地の文は普通に、台詞は修羅を意識し頑張ります。
人物一人だけだと文字数少なくてやばいよぅ…。

当作品のコンセプトは状況説明を詳しく描く事。
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