陰陽師の魔女   作:もんごめりあん☆紗波

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◇みんな大好き組み分け帽子◇


入学式

「ホグワーツ入学おめでとう」

 

城に着きハグリッドが扉を叩くと、中から厳格な雰囲気の背の高い魔女が現れた。

エメラルド色のローブを着ているその魔女は、ミネルバ・マクゴナガル。

彩芽も知っている人物だ。

ハグリッドから1年生を預かると、石畳の広々とした玄関ホールからホール脇の小さな小部屋へと移動して、マクゴナガルはまずそう挨拶した。

 

「新入生の歓迎会がまもなく始まりますが、大広間の席につく前に、皆さんが入る寮を決めなくてはなりません」

 

マクゴナガルは組み分けの儀式で新入生を4つの寮に分けるのだと説明する。

グリフィンドール、ハッフルパフ、レイブンクロー、スリザリン。

ホグワーツの歴史について本を読んだ彩芽や、元々魔法の一家に生まれた者はすでに知っている事だが、中には今初めて聞いたという顔の者もいた。

 

「良い行いは寮の得点となり、反対に規則に違反すれば減点となります。学年末には、最高得点の寮には寮杯が与えられます。どの寮に選ばれたとしても、その寮の誇りとなるよう行動するように」

 

マクゴナガルは準備が出来るまで静かに待っているよう言い残して部屋から出て行ってしまった。

そわそわと落ち着かない他の生徒達を横目に、彩芽はぼんやりと部屋の中を見回していた。

組み分けの儀式が何なのか、というのが大方の関心事の様だ。

 

「彩芽、何か来る……」

 

ポソッと耳元で氷炎が呟く。

彩芽も感じていたことだったので、小さく頷いて気配のする方向へ意識を向けた。

瞬間、すうっと壁から白い半透明の人間が現れる。

その数、20人ほど。

日本の幽霊と違い、こちらのゴーストには足がある。

しかし、足は動かさずに浮かんだ状態でするすると滑るように動いていた。

 

「アヤメ!」

 

声をかけられて振り向くと、ハリーがにっこりしながら癖のある黒髪をぴょこぴょこさせて駆け寄ってきた。

 

「こんなに近くにいたんだ、気付かなかったよ」

 

頷いて、彩芽はハリーの隣にいる赤毛の少年に気付く。

赤毛でそばかすのその少年は、コンパートメントで一緒だった双子にどことなく似ていた。

 

「ハリー、知り合い?」

 

少年がそうハリーに囁くので、彩芽は少年に名乗る。

 

「私は水無月彩芽。……貴方は?」

 

少年はびっくりした顔をして、そしてもごもごと「ロナルド・ウィーズリー。ロンでいいよ」と答えた。

ロンは彩芽がジッと自分を見るので、恥ずかしくてたまらなかった。

表情に乏しくても、この時期にマフラーを巻いている変な子でも、彩芽は美人なのだ。

 

「僕、ダイアゴン横丁でアヤメと会ったんだ」

 

ハリーが説明すると、彩芽はコクリと頷く。

 

「へぇ……」

 

ロンが返事をしたと同時に、マクゴナガルが部屋に戻ってきた。

 

「組分け儀式がまもなく始まります」

 

そこかしこで1年生に話しかけていたゴーストたちが、その言葉に1人ずつ壁を抜けて出て行く。

 

「さあ、一列になって」

 

彩芽はハリーとロンに挟まれるようにして並び、マクゴナガルの後に続いた。

 

 

玄関ホールまで一旦戻り、そこから二重扉を通って大広間に入る。

遠くでずっと聞こえていたがやがやという話し声が、広間に入ったとたん洪水のように押し寄せてきた。

 

大きな長方形の広間は、息を呑む素晴らしさだった。

宙に浮かぶ何千というろうそくが幻想的な光を演出し、金の皿とゴブレットをキラキラと輝かせる。

左右に2つずつ、寮の数と同じ4つの長いテーブルには、すでに上級生が座っていて、何事かを喋りながらじっとこっちを見ていた。

入り口から真っ直ぐ突き当りまで行くとそこは先生方の席のようで、やはり長いテーブルに大人の魔法使いや魔女達が並んで座っている。

マクゴナガルは1年生を一列のまま横に並ばせ、先生方に背を向け、上級生に顔を向けた状態で待機させた。

 

「本当の空に見えるように魔法がかけられているのよ。『ホグワーツの歴史』という本に書いてあったわ」

 

誰かのそう言う声が聞こえて、彩芽は目を天井に向ける。

沢山のろうそく越しに、夜空が広がっていた。

 

「本当、派手だよなぁ……」

 

呆れた声が耳元でしたので、彩芽は黙って抓った。

つん、と肩をつつかれて横を見ると、ロンが目の前を指差している。

いつの間にか四本足のスツールがあり、その上にボロボロの汚いとんがり帽子が置いてあった。

帽子は、皆の視線を集めるとピクピクッと動き、つばのへりの破れ目を口のように開いていきなり歌いだした。

 

「私はきれいじゃないけれど、人は見かけによらぬもの……」

 

帽子の歌は回りくどかったが、寮の特徴を教えてくれた。

 

『グリフィンドールは勇猛果敢』

 

『ハッフルパフは忠実で忍耐強く』

 

『レイブンクローは機知に富み』

 

『スリザリンは手段を選ばない狡猾さ』

 

手段を選ばない狡猾な寮とは、また凄い発言だと彩芽は思った。

組み分けの帽子はスリザリンに対して何か思うところでもあるのだろうか。

だが、誰一人異議を挟まないところを見るに、本人たちも周りも、そう受け入れているのだろうか。

 

彩芽は歌い終わった組分け帽子に皆と同様拍手をしながら、スリザリンのテーブルを眺めていた。

マクゴナガルが長い羊皮紙を持って帽子の横へ進み出る。

 

「ABC順に名前を呼ばれたら、椅子に座って組分けを受けてください……アボット・ハンナ」

 

金髪でお下げの少女がこけそうになりながら椅子に駆け寄った。

マクゴナガルがハンナの頭に帽子を乗せると、帽子が大きくて目が隠れてしまう。

 

「ハッフルパフ!」

 

帽子が高らかに叫んだ。

右側のテーブルから歓声が上がる。

あれがハッフルパフのテーブルらしい。

彩芽が組分けも気にしながらハリーを見ると、平常心ではいられない様だった。

気分が悪そうな顔で組分けを見ている。

 

「ブラウン・ラベンダー」

 

「グリフィンドール!」

 

わっと左端のテーブルから歓声が上がった。

 

「グリフィンドールで待ってる」という言葉を思い出してテーブルを探すと、双子は口笛を吹いていた。

その横でリーが大げさなほど手を叩いている。

その後も着々と組分けは続いた。

彩芽は、組分けにかかる時間に大きく差があるのに気付いた。

長い方がいいのか、短い方がいいのか……。

 

「グリフィンドール!」

 

帽子の言葉に、隣でロンが低くうめいた。

彩芽はふわふわした栗色の髪の少女が走っていくところから視線を外して、ロンに向ける。

 

「な、なんでもないよ……」

 

彩芽の視線に気付き、首を振るロン。

それに首を傾げつつ、彩芽は組分けに視線を戻した。

 

「ポッター・ハリー」

 

ビクリと肩を震わせて、ハリーがすっと前に出た。

彩芽は、しんとしてしまった広間を見渡してからハリーに目を戻す。

ハリーは帽子をかぶったままじっと動かなくなる。

ハリーはどうやら長いほうの組分けらしかった。

ピク、ピクと帽子が時折動く以外は、しんとして物音ひとつない広間。

やがて組分け帽子はつばの割れ目を開けて叫んだ。

 

「むしろ……グリフィンドール!!」

 

わあっと今までで1番大きな歓声が響いた。

グリフィンドールの生徒達は皆、興奮したように叫んでいる。

彩芽は何が「むしろ」なのか気になったが、嬉しそうなハリーや、ハリーがグリフィンドールになったことで喜んでいる双子達を見てそんなことはどうでもいいと忘れた。

分かっていた事だったが、ハリーがグリフィンドールで良かったと思う。

ふと隣を見ると、ロンは真っ青な顔で組分けの儀式を睨んでいた。

 

「……ロン?」

 

「なっ、なに……?」

 

ハリーの次の「ターピン・リサ」はレイブンクローに決まった。

「ウィーズリー・ロナルド」

びくぅっと体を震わせて、ロンは青い顔でマクゴナガル先生を見る。

マクゴナガル先生は早く椅子に座って帽子をかぶる様にと目線で促した。

 

「大丈夫」

 

帽子を見てごくりとつばを飲み込むロンに、彩芽はそう囁く。

 

「大丈夫、ロンの思った通りの結果になる」

 

情けない顔で彩芽を振り返るロンに、彩芽はゆっくりと、でもしっかり頷く。

 

「私の占いは当たるよ」

 

ロンは一瞬不思議そうな顔をして、それから弱々しくではあったが笑顔を見せた。

 

「ありがとう、アヤメ」

 

そして、緊張はしているもののさっきよりは断然ましな顔色でロンは椅子に座って帽子をかぶる。

 

「グリフィンドール!」

 

待つことなく、すぐに組分け帽子はそう叫んだ。

ホッとしてへなへなと力を抜くロン。

そしてすぐに帽子を脱いでグリフィンドールのテーブルへ駆けていく。

ロンはハリーの隣に座り、兄弟と思われる年上の、双子とは別の赤毛の少年に何やら話しかけられていた。

 

「ザビニ・ブレーズ」がスリザリンに決まり、とうとう組分けを終えていない1年生は彩芽だけになる。

 

「……彩芽って、ABC順だと最後なのか?」

 

周りに誰もいなくなったので、首に巻きついたままの氷炎がポツリと尋ねた。

彩芽はそれに小さく答える。

 

「いいえ」

 

彩芽もそれは不思議に思っていた。

だが、入学許可証はもらっている。

しかも校長先生から直々に。

何か理由があるのだろうと、彩芽はのんびりと構えていた。

もしかすると、日本人である彩芽の名はアルファベットではないので後回しなのかもしれないし。

 

「……ミナヅキ・アヤメ」

 

マクゴナガル先生が、ゆっくりと名前を読み上げる。

広間はハリーの時同様、しんと静まり返っていた。

 

「ミナヅキ?」

 

「あの、ミナヅキか?」

 

教師側から囁きが聞こえる。

彩芽は顔を上げ、何事も無いように進み出た。

そして椅子に座り帽子をかぶる。

小柄な彩芽の頭に、組み分け帽子はズポッと首まではまった。

 

じっとしている彩芽の耳元で、誰かが喋った。

 

『ほう、これは……見事な閉心術だ』

 

組分け帽子の声だということはすぐに分かった。

 

『貴方は人の心を読んでいるのかしら?』

 

『もちろん、それだけではないがね。見たところ君は才能に溢れておる。どの寮でも、立派にやっていけるだろう』

 

帽子の言葉に、彩芽はそうだろうかと内心思う。

忍耐・勇気・知識・狡猾。

そのどれもを持っていると、この帽子は言うが……。

 

『私には、きっと何もない』

 

『そうかね?私は、そうは思わんが』

 

組分け帽子は言って、それではと話題を変えた。

 

『単純に、君はどの寮に入りたいと思っているんだい?』

 

『……どこに入れられても、私は構わない。決めるのは貴方』

 

決められない彩芽がそう言うと、組分け帽子は笑った。

 

『なるほど、君は確かにあの子の娘だ!』

 

『……何?』

 

『かつて君の母親も組分けを受けた。そう、私は覚えているよ。……君とよく似ていた』

 

『…………』

 

彩芽は押し黙った。

 

『彼女も私に君と同じ事を言った』

 

もしも組分け帽子に目があれば、懐かしさに目を細めただろう。

そう思わせるような声音で、組分け帽子は言った。

 

『「どこだっていいわ!決めるのは貴方、でしょう?」と。だが、彼女は君のように閉心術には長けていなかった。だから、私は彼女を彼女が望む寮に入れた』

 

『望んで、それでその寮に入れるなら。最初から組分けの儀式なんて必要ないのでは?』

 

彩芽が思ったままを口にすると、組分け帽子は頷いた様だった。

 

『ああもちろん、全ての生徒が自分が何を望み、自分にどんな才能があるのかを知っているならね』

 

組分け帽子は楽しげに言う。

 

『それに、どんなに本人が望んでいても、勇気が無ければグリフィンドールには入れないし、学ぶ意欲が無ければレイブンクローには入れない。逆に、両方とも兼ね備えているならば、本人しだいでどちらの寮にも入れてあげられる』

 

組分け帽子は『さて』と呟いた。

 

『今日はこのくらいにしておこう。君とはまた、話す機会がある気がするしね。広間の方も、あまり待たせるのは可哀想だ』

 

彩芽はその言葉で、今自分が広間の大勢の前で組分けを受けていることを思い出した。

 

『さあ、どの寮か決まったかね?』

 

組分け帽子の質問に、彩芽は何故かグリフィンドールのテーブルの様子を思い浮かべた。

何故だかは分からなかったが、ハリーやロンがグリフィンドールに決まった時の、双子達や本人達の嬉しそうな顔が頭から離れない。

 

『思い浮かべた寮の名を言ってごらん?』

 

『……望んでいる……のかどうかは、分からないけれど』

 

彩芽は戸惑いながら、寮の名を口にした。

 

『そう言うと思っていたよ』

 

満足げな声の後、彩芽は「グリフィンドール!」と高らかに叫ぶ組分け帽子の声を聞いて帽子を脱いだ。

 

 

 

 

しんと静まり返った広間で、その場にいる全員が彩芽を見つめていた。

大きな組分け帽子を首までかぶったその姿はまるで帽子お化けみたいだったが、広間の全員が帽子の中の少女が整った顔立ちであることを知っている。

首に巻かれた白いふさふさしたものが、生き物であると知っているものは少なく、ほとんどの生徒たちは何故マフラーを巻いているのか疑問に思った。

 

組分けは長かった。

しかし、誰1人目を逸らさない。

じりじりとした時間が過ぎ、ようやく帽子は叫ぶ。

 

「グリフィンドール!」

 

グリフィンドールからわぁっと歓声が上がった。

ハッフルパフとレイブンクローも、拍手で華を添える。

双子はリーと目を合わせニヤリとしたし、ハリーはロンとにっこりした。

帽子を脱いでグリフィンドールのテーブルまできた彩芽は、どこに座るか考える間もなくグイと腕を引っ張られて椅子に座らされる。

 

「ようこそ、グリフィンドールへ!」

 

「歓迎するぜ!」

 

左右から嬉しそうに双子に言われ、彩芽はしばらく固まった後、ポツリと「ありがとう」とだけ言った。

 

「おまえらズルイ……」

 

リーが小さく文句を言うが、もちろん誰にも聞こえない。

 

「おめでとう!ホグワーツの新入生、おめでとう!」

 

ダンブルドアが立ち上がってにっこりとして言った。

 

「歓迎会を始める前に、二言、三言、言わせていただきたい。では、いきますぞ。そーれ!わっしょい!こらしょい!どっこらしょい!以上!」

 

ダンブルドアは席に着き、広間に拍手と歓声が上がる。

 

「イカすぜ、ダンブルドア!」

 

「超イケてる挨拶だ!」

 

双子とリーが口々に褒め称えているのを、彩芽は不思議な思いで見ていた。

今の挨拶の、どこが良かったんだろうか。

 

「どうかしたか、アヤメ?」

 

ジョージがダンブルドアを眺める彩芽を見て尋ねる。

 

「食べないのか?」

 

フレッドがそう言ってテーブルを指す。

いつの間にか、テーブルの上の空っぽだった食器には、山盛りのご馳走が盛られていた。

がつがつとかっ込む周りの人達とご馳走を見比べてから、彩芽はゆでたポテト、豆、にんじんをちょっとずつ皿に入れる。

妙に甘い味付けのされたそれに、彩芽はため息を吐く。

何度食べても洋食は苦手だ。

いっそ、調理せずに出ればいいのにと思う時もある。

茹でただけの野菜、とか。

いや、切っただけの野菜の方がいいかもしれない。

マヨネーズか味噌があれば最高。

たっぷりソースがかかった肉汁がジューシーなメインディッシュは、手をつける気にならなかった。

何か食べておかないとという気持ちだけでもそもそと食べていた彩芽は、視線を感じて横を見る。

 

「君、ベジタリアン?」

 

「いいえ」

 

リーの言葉に、彩芽は首を振った。

 

「手が届かないなら言えよ?」

 

ジョージが言うのにありがとうと返して、彩芽はテーブルの上のご馳走を眺める。

 

「…………」

 

しかし、それ以上は動かない。

彩芽の行動に首を傾げつつも、リーと双子はそれぞれ自分の食事に戻る。

しばらくして、周りが満足げにお腹をさすりだした頃、皿の上が綺麗になった。

見るのも嫌になってきていた彩芽は内心ほっとする。

……が、次の瞬間、今度はデザートが現れた。

 

「…………」

 

ものすごく甘そうなそれらに圧倒される彩芽。

別に甘いものが嫌いなわけではない。

あんみつ、クリームぜんざい、みたらし団子……和菓子はどれも好物だ。

ただ、こちらの菓子はびっくりするぐらい甘いものが多い。

それでも、アイスクリームくらいならと、バニラ味と思われる白い塊を彩芽は少し取った。

 

「今年こそは優勝したいよな!」

 

「ああ、でも俺たちには今シーカーがいない。それをどうするかだな」

 

頭の上で交わされる会話を聞いていた彩芽は、『シーカー』という言葉に顔を上げた。

 

「シーカーなら、見つかる」

 

突如口を挟まれて、ジョージとフレッドは彩芽を見る。

 

「なんで分かるんだ?」

 

フレッドが尋ねると、彩芽は「第六感」と答えた。

そして、少し首を傾げて聞く。

 

「2人はクィディッチを?」

 

「ああ、まあな。選手なんだ、俺たち」

 

「2人ともビーターさ」

 

そして、と言ってフレッドが体をずらす。

ずらしたフレッドの向こうには、リーの姿。

 

「リーは試合の実況係」

 

他の友人と話していたリーが、名前を呼ばれて振り向く前にフレッドは体を元に戻した。

 

「アヤメはクィディッチしたことあるのか?」

 

「……いえ、本で読んだだけ」

 

その答えに、2人は顔を合わせる。

そして勢い込んで彩芽に詰め寄った。

 

「本なんかじゃあの面白さは分かんないって!」

 

「そうだぜ、実際見て、プレイしなきゃな!」

 

キラキラした4つの目に見つめられて、彩芽は少し後ずさる。

 

「まあ、そのうち寮対抗の試合があるから、そのときに実際見てみろよ」

 

「応援も頼むぜ!なんなら、リーと一緒に実況すりゃいい」

 

「……応援は、するけど」

 

こくりと頷いて、彩芽は手に持ったアイスを思い出した。

皿の上のアイスは、ほとんど溶けてしまっていた。

 

 

 

デザートが終わると、ダンブルドアから注意事項があった。

彩芽はそれを聞き流す。

禁止されているもの。

あれを持ってきてはいけないとか、森に入るなとか、痛い死に方をしたくなかったら4階の右側の廊下に行ってはいけないとか。

 

「4階の廊下って……あからさま過ぎじゃね?」

 

氷炎が呟く。

彩芽も同意の意味を込めて、微かに頷いた。

その後校歌を歌い、やっと寮に移動する事になる。

 

「じゃあ、お願いね氷炎」

 

「俺がいなくても平気だな?」

 

小さな耳打ちに、そう返してきた氷炎に小さく頷き、彩芽は周りの生徒たちに合わせて立ち上がった。

氷炎は心配そうな視線を送りながらも、ざわめく人混みの足元をすり抜けて走っていく。

 

「あれ?さっきまで首に巻いてたやつは?」

 

氷炎がいなくなったことに気付いたジョージがそう聞くと、彩芽は首を振った。

 

「さあ」

 

そっけない返事だが、意味深に向けられた彩芽の視線を追うと、そこには眠たそうな顔で歩いているドラコがいて、ジョージは思わずニヤリとする。

そのやり取りに、見ていたフレッドも気付いて彩芽にニヤリと笑いかけた。

 

「ん?どうしたんだ、2人とも」

 

双子のニヤニヤに気付いたリーがそう聞くが、双子は「別に」「なんでも」と誤魔化しながら彩芽の両側に立って歩き出す。

不思議そうな顔をしながらも、リーは肩をすくめてその後ろを歩き出した。

 

 

忍者屋敷みたいだ。

グリフィンドールの寮に向かう間、彩芽は改めてそう思った。

隠し扉や、タペストリーの裏の抜け道など……わざと分かりにくく造ったとしか思えない。

彩芽がその事を伝えると、双子とリーは笑顔で、動く階段や一段だけダミーになっている階段、扉のフリをしている壁などの事を話した。

曰く、普通の通路を歩くより、よっぽど楽しい!と。

彩芽にとっては意味の分からない仕掛けだが、人によってはそうとれるのかと、感心して相槌を打った瞬間、彩芽は前を歩いていた生徒が止まった事に気付く。

と、同時に、前方から風船から空気が漏れるときの様なけたたましい音が聞こえた。

 

「ピーブズだな」

 

ジョージが呟いて、フレッドがあぁと相槌を打った。

 

「パーシーの奴、からかわれておかんむりだぜ、きっと」

 

言い終えないうちに、甲高い声が意地悪そうなからかいの声を上げるのが聞こえ、次いでピーブズを怒鳴る声が響く。

 

「ほらな、おかんむりだ」

 

ひょいと肩をすくめてニヤリとするフレッドに、ジョージもニヤリとやり返す。

 

「監督生殿は気難しいからな。後で慰めて差し上げなければ」

 

彩芽は何もしない方が喜ばれるだろうと思いつつも何も言わず、代わりにパーシーとは誰かと尋ねた。

ガラガラと音がして、再び動き出した人混みについて行きながら、双子達はこれはしまったと大げさに嘆いた。

 

「我々とした事が、大切な兄弟を紹介しそびれていたとは!」

 

それから双子は交互にパーシーの物まねを交えて、グリフィンドールの監督生で、規則にうるさく、頭が固い自分達の兄の1人だと説明した。

彩芽はそれを聞きながら、なんだかんだ言いつつも2人が笑顔なのを微笑ましく思う。

 

やがて一行は、穴をくぐってグリフィンドールの談話室に着いた。

彩芽には見慣れない、丸い造りのその部屋は、寮のシンボルカラーの赤がふんだんに使われた派手な部屋だった。

先程双子が実演して見せた通りの口調で、パーシーが男女それぞれの寮に入るよう促す。

彩芽は男子寮に向かう双子とリーに「おやすみ」と「今日はありがとう」を言うと、「また明日」と笑顔で手を振る3人にほんの少し口元を緩め、小さく頷いて自分の部屋に向かった。

 

 

 

 

 




◇特に捻りもなくグリフィンドォオオオル!多分双子と列車で同じ部屋に居なければ、彩芽はスリザリンだっただろう。勝負はコンパートメントの場所取りから始まっているのだよ◇
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