陰陽師の魔女   作:もんごめりあん☆紗波

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◇しかしスリザリンの寮が地下牢ってイジメかな?地下室じゃなくて地下牢ってどういうことだってばよ◇


体調不良

翌朝、ハーマイオニーはまだ少し腹を立てているらしく、ラベンダーたちとの会話もそこそこに、かなり早めに寮を出た。

一緒に引っ張ってこられた彩芽は、大広間でハーマイオニーと黙々と朝食をとる。

 

「ねえアヤメ、どうしてあなた道に迷わないの?」

 

ついに1度も迷わず大広間の朝食を食べに来れたと喜ぶハリー達の声を聞きながら、ハーマイオニーがずっと気になっていた事を聞いた。

他の1年生に比べれば、ハーマイオニーはかなりスムーズに移動できる方だった。

だが、彩芽はそれ以上に道を迷うことがなかったのだ。

 

彩芽は、ぼーっと教師陣の食事を眺めていた顔をハーマイオニーに向ける。

 

「……何?」

 

「だから、どうして道に迷わないのかって……ちょっとアヤメ!」

 

「迷うよ、たまに」

 

答えた彩芽の肩を掴んで、ハーマイオニーは心配そうに顔を覗きこむ。

 

「そんなことより、あなた大丈夫?なんて顔してるの、まるで今にも死にそうよ!」

 

「……そう?」

 

小首を傾げて自分の頬に手を伸ばす彩芽。

その手を握って、ハーマイオニーは驚きの声を上げた。

 

「冷たすぎるわ!今すぐ医務室に行くべきよ!」

 

「…………大丈夫だから」

 

彩芽はそう言って、ハーマイオニーの手から抜け出す。

ハーマイオニーはそれに厳しい顔をしながらも、無理に医務室に連れて行こうとはしなかった。

代わりに、彩芽の目の前にマーマレードをたっぷり塗りたくったトーストを置く。

 

「いいわ、けれどアヤメ、何か食べないと私、マクゴナガル先生に言って貴女を医務室に連れて行ってもらうわよ!」

 

「……頑張る」

 

仕方なく、といった風にもそもそと食べだした彩芽を、ハーマイオニーはそれでも心配そうに眺める。

そのやり取りに気付いたのか、少し離れた場所で食事をしていたフレッドとジョージがわざわざ荷物を動かしてまで彩芽の目の前の席を陣取ってきた。

 

「どうしたんだ?」

 

「顔色が悪いな。体調不良か?」

 

心底心配そうな様子で尋ねかけるフレッドとジョージに、彩芽はフルフルと首を振る。

ホグワーツで最も有名な問題児、双子のウィーズリー。

ハーマイオニーは2人が彩芽に話しかけるのを快く思ってはいなかったが、彩芽自身が双子に好意を抱いているのは知っていたので黙って眉だけひそめた。

 

「ちゃんと飯食ってるか?」

 

「本当に顔色が悪いな。医務室に行かないのか?」

 

「……大丈夫」

 

彩芽の言葉に、双子は顔を見合わす。

大丈夫には全く見えない。

 

「今日の授業は何なんだ?」

 

「スリザリン生と合同で、魔法薬学よ」

 

ジョージの問いかけには、彩芽ではなくハーマイオニーが答えた。

それを聞いた途端、双子は信じられない!とばかりに目をぐるりと回す。

 

「あんな授業サボっちまえ!ぜひ医務室に行くべきだ!」

 

「そうだぜアヤメ、最高の口実じゃないか!」

 

勢い込んで説得にかかる2人を見て、ハーマイオニーは冗談じゃないと憤った。

 

「口実ですって?アヤメは本当に体調が悪いのよ!それに、授業をサボるなんて冗談でも言わないで頂戴!」

 

双子はハーマイオニーにも信じられないと言わんばかりの目を向けて首を振る。

 

「君って本当、パーシーそっくりだ!絶対にいい監督生になるだろうさ!」

 

「それと言っとくけど、魔法薬学は本気で……」

 

「魔法薬学、好きだから」

 

ハーマイオニーにイライラと当たりだした双子を見て、彩芽はそう言ってジョージの言葉を遮る。

喧嘩するのを見たくないというのもあったが、純粋に、彩芽はこの学科が好きだった。

 

ほら御覧なさい!と言うようにフンと鼻を鳴らすハーマイオニー。

フレッドとジョージはそれに顔をしかめつつも、初めて彩芽と会った時、彩芽が魔法薬学の教科書を熱心に読んでいたのを思い出す。

 

「分かったよ、アヤメ」

 

「でも本当に辛くなったら絶対誰かに言えよ?」

 

それに静かに頷いた彩芽。

その目の前の皿には、トーストが半分以上残ったままになっていた。

 

 

 

 

魔法薬学の授業は、地下牢で行われる。

冷やりと肌寒く、壁に並ぶホルマリン漬けの標本が不気味な、なんとも辛気臭い場所。

担当のセブルス・スネイプは、まさにその教室に相応しい雰囲気で、全身黒尽くめの格好をしている。

グリフィンドール生は、他の上級生からスネイプは自分が寮監のスリザリンをえこ贔屓して、他寮を減点ばかりしてくると聞いていたが、それはすぐに真実であると証明された。

 

「アスフォデルの球根の粉末にニガヨモギを煎じたものを加えると何になるか?」

 

ハリーを指名し、スネイプは意地悪い顔で答えられないハリーをなじる。

ベゾアール石の見つけ方、モンクスフードとウルフスベーンの違いを更に尋ね、どちらも答えられないハリーをせせら笑うスネイプ。

 

彩芽は最初の質問からずっと手を上げっぱなしのハーマイオニーとそれを無視し続けるスネイプとを交互に見やる。

ハリーはそれに気付いたわけではないだろうが、分からないと答えた後「ハーマイオニーに質問してみたらどうでしょう?」と言った。

 

「座れ!」

 

立って手を上げていたハーマイオニーにピシャリと言ったスネイプは、その横でじっと自分を見上げている彩芽に目を止める。

感情のこもらない目で見上げてくるその少女に、スネイプはほんの少し顔を引きつらせて名前を呼んだ。

 

「ミス、ミナヅキ!」

 

「はい」

 

「先程の質問は聞いていたな?ポッターの代わりに答えてみろ」

 

立ち上がった彩芽は2度、3度瞬きをし、そして口を開いた。

 

「最初の質問の答えは、別名を生ける屍の水薬ともいう眠り薬。ベゾアール石は、山羊の胃から取り出す石で、大抵の薬に対する解毒剤になるもの。魔法薬の材料を取り扱っているお店なら、大抵取り扱っています。最後の質問は、違いはない、というのが答えです。どちらも同じとりかぶとの事を指し、他にも、アコナイトと呼ばれることもあります」

 

スラスラと答える彩芽に、クラスの全員が目を見開いた。

特にグリフィンドール生は、答えられた事もそうだが、何よりこんなに長く喋る彩芽を見るのが初めてだったからだ。

唯一、ハーマイオニーだけは悔しそうにしながらも、笑って彩芽を見ていた。

 

「……正解だミナヅキ」

 

唸るようにそう告げて、スネイプはクラスを見回した。

 

「諸君、何故今のをノートに取らんのだね?」

 

その声に、ガサゴソと鞄を漁る物音が響く。

スネイプは未だ自分を見つめたままの彩芽にフンと鼻を鳴らすと、ハリーの態度が悪かったとグリフィンドールを減点した。

そのくせ、彩芽には加点がなかった事に、グリフィンドール生は眉をひそめる。

 

その後も、スネイプは前評判通りの活躍をみせた。

2人1組でおできを治す薬を調合させる時も、長く黒いマントを翻しながら見回り、何かにつけて注意していく。

ただし自寮のドラコ・マルフォイだけは、角ナメクジの茹で方について「完璧」だと褒めた。

 

「……アヤメ、大丈夫?」

 

鍋を緩慢な動作で混ぜる彩芽に、ハーマイオニーは心配そうに小声で尋ねる。

彩芽はそれに頷きかけて……。

 

スネイプが、ドラコの茹でた角ナメクジをみんなに見るようにと言った瞬間、地下牢いっぱいに緑の煙が広がった。

シューシューという音に目を向ければ、丸顔のネビル・ロングボトムが大鍋を溶かして薬をかぶり、体中におできを作って痛みに呻いている。

 

「バカ者!」

 

杖を一振りして床に広がった薬を取り除くと、スネイプはネビルの近くまで行って見下ろした。

 

「おおかた、大鍋を火から降ろさないうちに、山嵐の針を入れたんだな?」

 

おできが鼻にまで広がりシクシク泣き出したネビルを、スネイプは他の生徒に医務室に連れて行くよう指示する。

そして隣だったハリーとロンを見て、何故注意しなかったのかと睨んだ。

 

「奴が間違えれば自分の方がよく見えると考えたな?グリフィンドールはもう1点減……」

 

「アヤメ!!」

 

スネイプが言い終えないうちに、ハーマイオニーの叫び声が教室に響く。

誰もが驚いて振り向く中、スネイプだけは、驚くほど素早い動きを見せていた。

 

「くぅっ……!!」

 

ジュワッと音がして、スネイプのマントの一部が煙を上げる。

大鍋に向かって倒れかけた彩芽を間一髪で引き寄せたスネイプ。

引き寄せた時に当たって揺らした大鍋から零れた薬が、彩芽に当たらないよう庇った結果だった。

 

「っ何をしているミナヅキ!!全身おできだらけになりたいのか!」

 

怒鳴るスネイプに、近くにいた生徒の1人がヒッと小さく声を上げる。

しかし、怒鳴られた本人はぐったりしたまま動かない。

 

「あの、先生……彼女、朝から顔色が悪くて……」

 

尻すぼみになるハーマイオニーの言葉に、スネイプは彩芽を抱えて立ち上がると上から怒鳴りつけた。

 

「何故それを知っていて放っておいた!グリフィンドールはもう1点減点!」

 

真っ青になるハーマイオニーには目もくれず、スネイプはそのまま大股で扉に向かう。

 

「今日はここまでだ、各自キチンと後片付けをして帰りたまえ。出来ていなかった組は呼び出すのでそのつもりでだ!」

 

言い終えて、スネイプは彩芽を抱えたまま教室を後にした。

驚きで固まった生徒達が、困惑の表情でお互い顔を合わせる中、ハーマイオニーは顔を覆って泣いてしまった。

 

 

 

 

 

スネイプは教室を出た後、医務室ではなくすぐ側の自室に向かった。

部屋に入り、自分のベッドに彩芽を寝かす。

生気のない白い顔は、人形のようだと感じる。

彩芽が整った顔立ちである事も、それを際立たせていた。

 

体調不良だと、グリフィンドールの女生徒が言っていたのを思い出す。

確かに、言われてみれば顔色は良くなかったが、スネイプはそれに気付かなかった。

熱を測ろうとスネイプが額に手を伸ばしかけた時、するりと白い毛の動物が現れた。

彩芽がいつも首に巻いていたペットだと気付き、スネイプは特に警戒せず眺める。

きゅー、と鳴いたと思ったら、それはおもむろに彩芽に覆いかぶさった。

 

「何を……」

 

いくらペットとはいえ、体調の悪い主人の顔に乗っかるなと言いたい。

スネイプは引きはがそうとして、手を止める。

 

「……ん」

 

彩芽の目が開いて、スネイプを捉えた。

 

「私……」

 

呟いた彩芽にスネイプが答える前に、氷炎が前足で額を叩く。

 

「気ぃ失うとか、失態過ぎだろこの阿呆!だから加減に気をつけろっつったのに。お前、鍋に突っ込みかけて、そいつに助けられたんだぞ」

 

「……理解した」

 

記憶が途切れる寸前の事を思い出し、彩芽は体を起こした。

不可解そうに見下ろすスネイプを見て、頭を下げる。

 

「ごめんなさい、セブルス」

 

怒られるだろうか、と顔を上げた彩芽に、スネイプは尋ねる。

 

「お前は、その動物と会話が出来るのか?」

 

予想外の質問に、彩芽は瞬きの後、頷いた。

 

「はい。……氷炎は、私の『式神』ですから。こちらで言う、使い魔の様なものです」

 

使い魔、とスネイプは呟く。

ペットとは違い、使い魔ともなればそれなりの能力が伴う。

そう言われれば、と、日本で彩芽がこの動物に冷気を吐き出させていたのを思い出す。

夏場、幾度となく首に巻かれた毛を見て暑くないのかと疑問に思ったが、ようやく合点がいった。

 

「それより、セブルス。傷の手当てをさせてください」

 

彩芽がそう言って手を伸ばすが、その手が届く前にスネイプは身を引いた。

 

「結構だ。我輩、自分の事は自分でできるのでね。それよりも、今後このような事が起こらぬ様にしていただきたいものですな」

 

「……はい」

 

頷いた彩芽に、スネイプはそれで、と尋ねる。

 

「一体、何が原因で我輩の授業中に倒れたのだ」

 

彩芽は無言で見返した。

 

「俺にエサをやり過ぎたんだよ」

 

彩芽の代わりに、氷炎が答えるが、当然スネイプには分からない。

大体言葉が通じたところで、「エサ」で分かるはずがない。

そこも分かるように説明するとなると、少し面倒だ。

 

「ミス、ミナヅキ?答えたまえ」

 

「……体調管理がなっていませんでした」

 

要約すれば、こうだろう。

彩芽の答えに、スネイプは眉を寄せた。

納得のいく答えではなかったのだろう。

 

「今後、気を付けます」

 

彩芽が重ねて言うと、スネイプはフイと背を向けた。

庇ったときにおできの薬を被ったのだろう、肩の辺りが膨れている。

 

「特に怪我もないようだ、寮に戻りたまえ」

 

突き放すように言われ、彩芽はそれがどうしてか分からず困惑する。

だが、言う通りにベッドから下りて、ドアに向かった。

 

「ありがとうございました、セブルス」

 

「我輩は、言ったはずだ」

 

最後に一礼した彩芽に、スネイプはやはり背を向けたまま言った。

 

「保護者である前に、教師であると。軽々しくセブルスと呼ぶな馬鹿者っ」

 

「…………はい、スネイプ先生」

 

小さな返事の後、ドアが閉まる音がして、スネイプは薬棚に近づいた。

おできを治す薬を手に取って、小さく息を吐く。

 

彩芽が大鍋に倒れるのを見た瞬間、息が止まった。

怪我がないと分かればホッとし、気を失っているのを見て取り乱しかけた。

……確実に、振り回されている。

それが酷く腹立たしい。

さらに、彩芽がスネイプに対してとる態度が、腹立たしさを助長させた。

憎らしいほど、常に平常心。

振り回されているのが自分だけの様な気がして、スネイプは苛々としながらおできを治し始めた。

 

 

 

 

「まさかとは思うけど、あの陰険野郎の言う事真に受けたわけじゃねぇよな?」

 

グリフィンドール寮に向かう道すがら、黙々として喋らない彩芽に、氷炎が問う。

 

「まぁ、確かに人前で呼び捨てはまずいだろう、立場的に。でも、そんだけの事だろ?」

 

氷炎はスネイプの心情を察っしていた。

ああいう面倒臭いタイプは日本にもいる。

元々、彩芽の式神になる前は人間の心の隙間を見つけては広げ、悪事を起こさせるのが趣味だった氷炎。

人の心の機微には敏感だ。

 

「……ベッドが、なくなってた」

 

「は?」

 

何の事かと思い、氷炎はさっきの部屋を思い出す。

そういえば、スネイプが彩芽の場所だと言って出したベッドが無くなっていた。

 

「いや、そりゃあ隠すだろ。他の生徒に見つかっても面倒だろうし」

 

「怪我の手当ても拒んだ」

 

氷炎の反論に、すぐさま次の言葉を吐き出す彩芽。

 

「おでき見られたくなかったんじゃないの」

 

「背を向けた」

 

「あー、あのな?」

 

「馬鹿と言われた」

 

「…………」

 

氷炎は口を閉じた。

これは言っても無駄だ。

彩芽は悪意には敏感だが、その分好意には驚くほど鈍感なところがある。

真っ直ぐな好意ですら、なんとなく程度にしか感じないというのに、捻くれた好意なんて無いも同然、最悪捻くれた部分しか分かってもらえない。

式神である氷炎は、集中すれば彩芽と意識を共有できる。

その薄れゆく意識の中で見た、倒れる彩芽に駆け寄るスネイプは、明らかに彩芽を案じていた。

そう彩芽も思ったからこそ、先程の突き放す態度により傷ついたようだ。

ああ、自分を心配してくれたのだと思ったけれど、勘違いだったみたいだ、と。

 

氷炎が話しかけなければ、彩芽は滅多に喋らない。

そのまま無言でグリフィンドールに辿り着き、彩芽は太ったレディの前に立った。

 

「じゃあ、俺は持ち場に戻るから」

 

氷炎が言って、走り去るのを目で追う彩芽。

姿が見えなくなって、彩芽はレディに合言葉を伝える。

 

「カプート・ドラコニス」

 

太ったレディはその言葉に頷いて、道を開けてくれた。




◇映画版のスネイプの登場シーンカッコよすぎんだろ。しかしスネイプ先生は本当に大人げない残念な大人だなぁ……。
あと、もう気付かれていると思いますが双子が好きです◇
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