陰陽師の魔女   作:もんごめりあん☆紗波

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◇ハリーって結構思い込み激しい子ですよね。根はいい子なんだけど◇


ハリーの推測

クリスマスが終わると、大晦日があり、そしてお正月がある。

彩芽としてはクリスマスよりもこちらの方がメインなのだが、こちらではクリスマスほど重要視されていない。

 

彩芽は年末、寮内の大掃除の後、厨房にお邪魔して栗きんとんを作った。

氷炎はお節が好きで、中でも栗きんとんに目がない。

ひっそりと氷炎と2人で栗きんとんを食べて年を越し、ダンブルドアと鏡に細工を仕掛けた後。

寮に戻った彩芽を待っていたのはハーマイオニーだった。

 

「ただいま、アヤメ!クリスマスプレゼントをありがとう!あの本とっても面白くて、この休暇中にもう3回は読んだわ」

 

熱烈な抱擁とお礼に彩芽はたじたじになりながらも、自分もプレゼントが気にいった事を伝えた。

 

「聞いてくれよアヤメ、ハーマイオニーの奴、僕達の顔を見るなり挨拶より先に『フラメルが誰か分かった?』だぜ。こっちはハリーが大変だったってのにさ」

 

ロンの言葉に、ハーマイオニーが首を傾げる。

 

「ハリー?ハリーに何かあったの?あら大変、あなた顔色が悪いわよ」

 

ハーマイオニーの言う通り、ハリーの顔色は良くなかった。

あの鏡を見に行く事はなくなったが、それでも家族と一緒の姿が心から離れず、夜にはそれでうなされているからだ。

 

ハリーは弱めの笑顔を見せた後、何があったかを語った。

ハーマイオニーはハリーの話を聞いて複雑そうだったが、彩芽がクリスマスに寮に居なかったという話には眉をしかめた。

 

「じゃあ、あなた寮以外の一体どこに泊まったの?」

 

彩芽はこれには黙秘を通した。

ハーマイオニーはそれで、彩芽が例の保護者と一緒だったのだと気付き、それ以上は追及しなかった。

 

新学期が始まり、ニコラス・フラメル探しはさらに熱を帯びた。

クィディッチの練習で忙しくなるハリーの分も探さなくっちゃと、ハーマイオニーは図書室の本を読破する勢いで片っ端から読み進めていた。

彩芽はというと、そこに載っていないと分かっている本を読むのに疲れてしまい、本を捲るふりをしつつもこっそりサボっていた。

いっそ、ハーマイオニーが借りっぱなしにしているあの本を、早く読めばいいのにとさえ思う。

 

ハッフルパフとの試合を控えたある日、彩芽は1人で図書館に来ていた。

ハーマイオニーとロンは今、珍しい事にニコラス・フラメルから離れ、談話室でチェスをしている。

ハリーは例によってクィディッチの練習中。

最近、意味もなく本を捲る事ばかりを繰り返していたので、久々に面白い本をじっくり読みたくてこっそり借りにきたのだ。

 

薬学に関する数冊を借りて図書室を出た彩芽は、ゲラゲラと笑い転げるドラコとその取り巻き、そして今まさに角を曲がったネビルを見た。

ピョンピョンと不自然なうさぎ跳びだったネビルの姿。

それがどういう事なのか、理解した瞬間に彩芽の中で何かが溢れた。

 

「はははっ!今の見たか?あのロングボトムの間抜け……」

 

言いかけたドラコの顔が引きつる。

 

「ミナヅキ……」

 

水難の相が出ている、なんて嫌がらせでは温かった。

もっと、過激な何かがこいつには必要らしい。

もっと、もっと。

痛くて苦しい。

死なない程度の何かが……。

 

―――いや、死んでも仕方がないのではないか?

 

無言でこちらを見ている彩芽に、ドラコは身動きすら出来なかった。

蛇に睨まれた蛙、とは言ったものだ。

ただしスリザリン寮のシンボルが蛇なので、この場合は獅子に睨まれた蛙かもしれないが。

グラッブとゴイルでさえ、その場から動かず、息も止めたまま固まっていた。

彩芽は怒っていた。

不用意に神経を逆撫でれば、今度こそ直接彩芽の術は彼らに害を加えただろう。

だが、それより早く彩芽に声をかけた者がいた。

 

「あれ、アヤメ?こんなとこで何やって……」

 

聞きなれた声に、彩芽の張り詰めた気が霧散する。

溢れた何かは、スッと引いていった。

2、3度瞬きをして、彩芽は息を整える。

そうして振り向いた先には、怪訝そうなウィーズリーの双子。

格好からクィディッチの練習の後だと分かり、彩芽はドラコに背を向けて双子に歩み寄る。

 

「お疲れ様」

 

「え、ああ……」

 

彩芽の言葉に、ジョージが曖昧に頷く。

立ち尽くしたドラコと彩芽を交互に見やるが、彩芽が不機嫌なのを悟ると、無言でその背を押した。

 

「さ、帰ろうぜ」

 

「ああ、俺らももうくたくただし」

 

ドラコを睨みながらも無視する事にしたのか、フレッドがうんと伸びをする。

グリフィンドールの談話室に向かいながら、フレッドが不思議そうに「なんだってマルフォイの奴と一緒にいたんだ?」と尋ねたが、彩芽はただ首を振った。

ぎゅっと数冊の本を胸の前で抱きしめて、彩芽はただただ無言だった。

 

「良く分かんないけど、何かあるなら言えよ?」

 

談話室に繋がる肖像画の穴を登るとき、ジョージがそう声をかけたが、彩芽はそれに、ただ小さく「ありがとう」とだけ残して一直線に女子寮へと入っていってしまった。

 

 

 

翌日、彩芽はハリー達からニコラス・フラメルが誰か分かったというニュースを聞いた。

灯台下暗し、ハリーが初めて見たカエルチョコのオマケだったダンブルドアのシールに、それは書かれていたのだ。

さらに、ハーマイオニーが借りっぱなしになっていた本に詳細が載っていた。

 

ニコラス・フラメルは、賢者の石を創造した錬金術師でダンブルドアの友人。

以上から、あの三頭犬が守っているのは、賢者の石だろうというのが3人の見解だった。

彩芽はそれが正解だと知っていたので、そうだったのかと言わんばかりに黙って頷いて見せた。

あっさりした彩芽の反応にハリー達は肩をすくめたが、もう1つの報告……スネイプが今度のクィディッチの試合で審判を買って出た話をした途端、彩芽は物凄い勢いでハリーを見た。

 

「……何故?」

 

思いっきり不審な目で尋ねられ、ハリーは逆に眉をしかめた。

 

「僕の方が聞きたいよ」

 

スネイプがグリフィンドールを目の敵にしている事は周知の事実だ。

 

「今度のハッフルパフ戦に勝てば、七年ぶりにスリザリンから寮対抗杯を奪い取る事ができるのに……よりによってあのスネイプが審判なんて」

 

弱々しく肩を落とすハリー。

誰もがこの試合は不公平なものになるだろうと予感していた。

 

彩芽は試合に出ないロンやハーマイオニーですら落ち込んでいるのを見て、ため息をこぼす。

これは、スネイプがグリフィンドールがトップを奪うのを阻止するために引き受けたと思われても仕方ない。

でも、本当の理由は……恐らく……。

彩芽は気付いていた。

先日のあの箒が暴走した事件で、ハリーを守るべく真剣に戦っていた事を。

誤解されるのは本人の日頃の態度が悪いせいだとも分かっていたので、彩芽はそれ以上は考えない事にした。

 

スネイプが審判をするという事に落ち込んだ気分を盛り上げるためにか、今度はロンと『賢者の石を手に入れたら』という話で盛り上がり始めたハリー達を横目に、彩芽はノートに文字を書き込んでいく。

そう、今は闇の魔術に対する防衛術の授業中。

もっとも、この授業の先生はいつもターバンを頭に巻いた臆病と評判のクィレル。

生徒が多少お喋りをしていたところで強く咎めることはない。

狼人間に噛まれた傷の処置法をつらつらと書き綴りながら、彩芽は羽ペンの羽で自分の鼻を撫でた。

そしてその羽に隠れるようにしてそっとクィレルを窺う。

 

西洋の魔法使いと東洋の術師。

どちらが優れているという訳ではないが、彩芽から見れば魔法使いは自分の気配、気に対して無頓着過ぎる。

クィレルが黒板に向かうたびに強く感じるこの気に、誰一人気付かないのが不思議でたまらない。

 

いつの間にか隣でハリーが試合に出る決意をしているのを聞きながら、彩芽は思った。

前回ハリーの箒の異変に気付いた人間が複数人いる中で、同じ方法はとらないだろう。

もっと確実でスマートな方法はいっぱいある。

ハリー達はスネイプが再び箒に妨害の呪文をかけてくるのではと考えているようだったので、彩芽は今回は大丈夫だろうと言ってあげたが、それには首を振られてしまった。

 

「アヤメにそう言われたら、なんだか心配になってきたわ」

 

ハーマイオニーの言葉に、彩芽は黙って授業に戻った。

 

 

 

 

ハリー達の中で、スネイプがハリーに何かを仕掛けることはもはや決定事項のようだった。

ハリーに内緒でハーマイオニーとロンは足縛りの呪文を練習し、何かあったらスネイプにかけてやると意気込んでいた。

試合の日、例によって実況席に拉致された彩芽はハリーに「頑張って」と言う暇もなかった。

相変わらずの熱気……くらくらしながら見下ろしたグラウンドには、いつもの黒いローブに身を包んだスネイプの姿。

 

「ハリーには是非とも頑張ってもらわないと」

 

隣でやはりマイクを調整しているリーが、彩芽の視線に気付いて言った。

 

「長引けばそれだけグリフィンドールに不利だもんな」

 

スネイプがいわれもなくペナルティを与えてくるに違いない、と、言外にほのめかすリー。

残念な話だが、普段グリフィンドール生に減点している姿を考えれば、確かにそうだと彩芽も思った。

ただ、彩芽は今日の試合のことではなく、スネイプが競技場のグラウンドで箒に跨る姿は似合わないと考えていたのだが。

 

「さぁ、みなさん、選手が入場します!」

 

リーの声が響き渡る。

彩芽は赤いユニフォームの中からハリーを見つけ出してホッとする。

朝から比べて、ずいぶん顔色がマシになっていた。

理由はその視線の先、観客席でにっこり笑って試合を見ているダンブルドアの存在だろう。

逆にスネイプは不機嫌そうだった。

それもそうだろう、わざわざ審判を買って出たというのに……ダンブルドアが来る事を知っていたら、そんな事はしなくて良かった。

つまり無駄骨だったわけだ。

きっとダンブルドアは全て知った上で、観戦に来る事を言わなかったのだろう。

 

「おっと?開始早々ペナルティーです!見る限り反則行為は全くなかったといってもいいでしょう。一体何のペナルティーなのか分かりかねますが、ハッフルパフのペナルティー・シュートです!」

 

彩芽は笑ってしまいそうになったのを堪えた。

なんというあからさまな嫌がらせだろう。

みんなはスネイプの嫌がらせや態度の事を「ネチネチした」と表現するが、本当のネチネチはこんなものじゃない。

スネイプの嫌がらせは常に正々堂々の嫌がらせだと思う。

 

「クアッフルはグリフィンドール側に!アンジェリーナが華麗に追っ手をかわす!」

 

赤と黄色のユニフォームが入り乱れる中、その更に上を、ハリーがぐるぐる旋回している。

ハッフルパフのシーカーも、少し離れたところで様子を窺っていた。

ハリーと違って、ハッフルパフのシーカーはスニッチ探しに専念するのは難しいようだ。

まだ開始数分だというのに、すでに3回もブラッジャーに襲われていた。

もっとも、それは概ねグリフィンドールのビーター2人のせいだったのだが。

双子はハッフルパフのシーカーに、何か含むところでもあるのだろうか?

彩芽がそう勘繰った時だった。

 

「スニッチか?!」

 

リーの緊張と興奮を含んだ声。

パッとハリーのいたところへ視線を向けると、旋回していたハリーが一直線に急降下していた。

地面に向かってどんどん上げていくスピード。

そしてハリーの進行方向には、スネイプの姿。

 

「危ない!」

 

リーの実況が叫ぶ。

スネイプがほんの少し箒を動かし、その横を猛烈な勢いでハリーが通った。

何が起こったのかスネイプには分からなかったに違いない。

いきなり赤いものが耳元を掠めていったと思ったら、それがハリー・ポッターで、しかもスニッチを握っている。

スネイプが見たものを想像して、彩芽は微苦笑を浮かべた。

審判が無駄骨だった上、目の前でスーパープレイを見せられ、グリフィンドールを貶める間もなく試合を終了させられてしまったスネイプの心境はいかほどだろうか。

 

「見事です!やりました!ハリー・ポッターが!またもやグリフィンドールに勝利をもたらしました!!試合はまだ5分と経っていません!」

 

興奮しっぱなしのリーの実況の隣で、マクゴナガルもはしゃいでいた。

まさしく、望んだ通り最短の試合だった。

彩芽も手を叩きながら、地面に下りたハリーがダンブルドアに何やら話しかけられているのを見た。

そういえば、と先ほどまで見ていた黄色いユニフォームの方のシーカーを見れば、しっかりとハリーに向かって拍手をしていた。

なんというか、出来た人だ。

ハリーの隣で憎々しげに唾を吐いたスネイプより、よほど大人かもしれない。

 

「では、今日の試合をもう一度振り返ってみましょう!」

 

リーが興奮冷めやらない中、そう言って試合を最初から解説し始めた。

もっとも、今日の試合は1から全部説明したっていいくらい短かったが。

スネイプがハッフルパフに与えたペナルティー・シュートのくだりで、リーがマクゴナガルに叱られた以外は、何の問題もなく解説は終わった。

 

とにかくハリーが凄かった。

こんなに最短の試合は初めてだ。

 

今日の試合はこの2点に尽きるらしい。

解説も終わり、生徒も寮に戻りだす。

彩芽もリーとグリフィンドール寮に向かうが、途中で用があると抜け出した。

興奮冷めやらぬ大勢と帰るのが少し疲れたので、迂回して人通りの少ないルートを帰ろうと思ったのだ。

その途中、彩芽はフードを被ったスネイプが城から出て行くのを見つけた。

不思議に思っていると、禁じられた森へ向かうスネイプの後ろを、ハリーが箒で後をつけているのも見つけてしまった。

少し考え、彩芽もそれに倣う事にした。

札を咥えて印を結び、姿を隠して2人を追う。

 

森の入り口から少し入ったところで、彩芽はスネイプと……クィレルを見つけた。

辺りを見回し、木の上にハリーがいる事も確認する。

スネイプは酷くどもるクィレルを脅しにかかっていた。

 

話題は賢者の石について。

ハグリッドの野獣を出し抜く方法はもう見つけたのかどうか、さらにクィレルの怪しげなまやかしについて、そして……。

 

「もう一度よく考えて、どちらに忠誠を尽くすのか決めておいていただきましょう」

 

ひとつも明確な返事を返さないクィレルに言うだけ言って、スネイプは立ち去る。

今の言葉を聞いて、ハリーは今まで以上にスネイプの事を疑うだろう。

でも仕方がないのかもしれない、この会話、この状況、そして生徒からの好感度。

スネイプとクィレル、どちらが悪かと問われれば、大半はスネイプと答えるだろう。

 

しばらくして、ハリーが城に戻るのにあわせて彩芽も動いた。

丁度、階段を上りかけたところで声をかける。

 

「ハリー、寮に帰るの?」

 

ハリーはびっくりして跳び上がった。

 

「アヤメ?!ハーマイオニー達と一緒じゃないの?」

 

そこにいるのが彩芽ひとりだと知って、ハリーは驚く。

 

「私、リーと実況席にいたから」

 

言われてハリーも思い出す。

ただ、じゃあどうしてリーと一緒じゃないのかという疑問は浮かばなかったようだ。

 

「それよりアヤメ、聞いて!僕……」

 

言いかけたハリーの口に彩芽が人差し指を当てる。

 

「ハーマイオニー達と聞くから」

 

ハリーはそれに頷いて、急ぎ足で階段を上った。

談話室に辿り着く前に、ハーマイオニー達がハリー達を見つけた。

 

「ハリーったら、いったいどこにいたのよ?それに、アヤメも!」

 

興奮した顔のハーマイオニーの横で、浮かれたロンが「僕達が勝った!」を連呼している。

ハリーは談話室のパーティーについて話すロンを遮り、話したいことがあると切り出した。

不思議そうな2人と、黙って立っている彩芽を空き教室に突っ込み、ピーブズに注意しながらドアをピッタリと閉めた。

 

「僕らは正しかった。賢者の石だったんだ」

 

ハリーはそう切り出し、今しがた聞いた事、見た事を伝える。

ハリーが言った事にはハリーの主観が混ざっていたので、正しい情報とは言えなかった。

ただし、雰囲気としては間違っていないと彩芽は思った。

ハリーが誤解しても仕方ないくらい、スネイプに悪役は良く似合う。

 

「それじゃ賢者の石が安全なのは、クィレルがスネイプに抵抗している間だけって事になるわ」

 

ハーマイオニーとロンは眉をしかめた。

 

「抵抗できると思うか?3日ともたない。石はすぐなくなっちまうな」

 

ルーマニアで会った吸血鬼が怖くて教室ににんにくを吊るしまくり、どもって挙動不審のクィレルが、あの恐ろしく怖いスネイプに抵抗できるとは思えないというのがハリー達の意見だった。

とはいえ、解決策も思い浮かばず、3人は黙り込む。

結局、何も出来ずに談話室に戻るしかなかった。

 

「まだしばらくは大丈夫よ」

 

あんまりにも意気消沈してしまったみんなを励まそうと、彩芽がそういうと、ハーマイオニーが深々とため息を吐いた。

 

「だから、アヤメがそう言うと逆に不安になるのよ。あなたの『大丈夫』ほどあてにならないものはないもの」

 

彩芽はそれに黙って口を閉じた。

 




◇なんというか、スネイプが審判を買って出たところはいつも可哀想になります。ダンブルドアが急にクィディッチ見に来たのって絶対スネイプへの嫌がらせだと思うんですよ。言っといてやれよっていう◇
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