陰陽師の魔女   作:もんごめりあん☆紗波

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◇日本には結構龍の伝説(神話)が多くて、しかも日本列島は龍の形をしているとかそういう話大好きです(本編とは関係のない前フリ)。
今回ちょっと長くなりました◇


ドラゴンとクィレル

スネイプがクィレルを脅しているのを見て以来、ハリー達はクィレルがいつスネイプの脅しに屈するかと神経を尖らせていた。

例の4階の廊下で、中にいる3頭犬の鳴き声に耳を澄ましてみたり、クィレルと会う度にハリーは励ましの笑顔を向けたり、ロンはどもりをからかう連中をたしなめたりした。

彩芽はそんな2人に内心複雑な気持ちだったが、ハーマイオニーはハリー達ほど石の事に気を取られているわけではなかった。

6月の学年末試験に向けて、勉強しなければならないと思い出したようだ。

予定表を作り、本にマーカーを引き、彩芽やハリー達にも勉強するよう勧めて来た。

 

「ハーマイオニー、試験はまだずーっと先だよ」

 

「十週間先でしょ」

 

ハーマイオニーはロンの抗議にそう返し、ニコラス・フラメルの時間にすればほんの1秒だと言い切った。

 

「忘れちゃいませんかね、僕たちは六百歳じゃないんだぜ」

 

眉をしかめるロンの気持ちも分かるが、比喩はともかく、ハーマイオニーの言う事は概ね正しい。

試験をパスできなければ進級できない事は動かしようのない事実であったし、教師陣も試験はずっと先だなどとは思っていなかった。

その証拠に復活祭の休みにはどっさりと宿題が出され、のんびりするどころではなかった。

ハーマイオニーがドラゴンの血の十二種類の利用法を暗唱したり、杖の振り方を練習する横で、ハリー達も図書館でしぶしぶ勉強に励む。

彩芽は真面目に勉強していたが、大抵お昼を過ぎて少しすると用があると言って席を外し、そのまま帰ってこなかった。

当然ハリー達は用を尋ねたが、彩芽は「秘密」の一点張り。

 

「あいつ、僕たちに秘密が多すぎないか?」

 

ロンが口を尖らせて唸った。

これまでも談話室から急にいなくなる事がよくあったし、クリスマスに一体どこにいたのかも結局教えてはもらえないままだ。

 

「これで犯人がスネイプでなきゃ、アヤメが怪しいと思うところだよ」

 

「アヤメはそんなことしません!」

 

ロンの言葉にハーマイオニーがピシャリと言った。

ちょっとした冗談だよ、ともごもごしたロンは、ふと本棚の方を見て驚きに声を上げた。

 

「ハグリッド!こんなところで何してるんだ?」

 

 

 

 

 

いつもの様に氷炎の元に向かった彩芽は、気を移した後、別の作業に取り掛かった。

氷炎に出来る限り力を貯めておきたいところだが、こちらもそろそろ取り掛からなければ間に合わない。

以前の様に倒れてしまわないよう、今まで以上に力の配分に気を使う。

 

「俺、その箱お気に入りなんだよな」

 

「そう……」

 

彩芽の前に置かれているのは、装飾美しい箱。

黒漆に金の箔、幼少の頃、彩芽はこれを玉手箱ではないかと思ったことがある。

その考えはあながち間違いでもなく、これはかつて都で悪さをした強い悪霊を封じたという由緒正しい封魔の箱だった。

もっとも、中の悪霊は葛葉が若い頃に箱を開けてしまい、弱っていたところを完全に消滅させられたわけだが。

 

彩芽は集中し、箱の裏に札を貼る。

2、3日かけて気を流し込んだ1枚の札を作り、それで箱の強化を行う。

同時に、中の気を吸い取り、外に発散させる仕掛けも施していく。

 

「その箱に、お前の父親閉じ込めるんだろ?」

 

「ええ、色々考えてみたけれど、お父様は今、肉体を持っていないはず。なら、無理にその場で消滅させるより、どこかへ封印したのち無力化して消滅させる方が、逃げられる可能性も低い」

 

「いざとなりゃ、そのまま箱に入れて日本に持って行けば、後はどうとでもなるしな」

 

こんなに策を講じなければならない理由は、ここが英国で、彩芽の力が制限されてしまうからに他ならない。

日本に帰れば、史上最強の極悪魔法使いだろうが何だろうが、彩芽の敵ではないと氷炎は信じていた。

 

彩芽は氷炎ほど楽観的ではなかったが、相手の土俵で戦うよりは日本で戦う方が勝率が高い事は確かだと考えていた。

最悪自分が負けて解放されたとしても、後始末は陰陽頭がつけるだろう。

あの、大嫌いな親類たちに迷惑がかかるなら、負けるのもいいかもしれないと思ってしまったのが面白くて、彩芽は薄く笑った。

 

しばらく作業した後、彩芽は氷炎に別れを告げ、グリフィンドール寮に向かう。

直接そこへ行く事も出来るが、人目を考えて、彩芽はいつも少し離れたトイレに現れるようにしていた。

幽霊がいるせいか、このトイレに人がいるのを見たことがない。

その女生徒の幽霊は、初めて顔を合わせた時、彩芽にちょっかいをかけてしまったために酷く怯える羽目になった。

それ以来、彩芽が姿を現すと、派手な水しぶきを上げて便器の中に逃げ込んでしまう。

 

今日も背後に水音を聞きながらトイレを出た彩芽は、しばらく歩いた後、珍しい人物に出くわした。

相手も何故か少し驚いた顔をしていて、彩芽は首を傾げる。

 

「こここ、こんなところで、会うとは、き、奇遇、ですね」

 

酷くどもりながら話しかけてきたクィレルに、彩芽はここで決着をつけてしまうべきか考える。

だがどう考えても、やはり今はまだその時機ではない。

 

「寮に戻るところです」

 

答えた彩芽に、クィレルが視線を向ける。

どもり、つっかえながら話す人間にしては、鋭い探る様な目。

 

確かにこの先には、人の寄り付かないトイレくらいしかない。

他の場所に用があるなら、別の道を通った方が早い。

不思議に思うのは当然だと思うが、どうもクィレルの目にはそれ以上の感情が見える。

 

「ミ、ミス・ミナヅキ、よければ午後のお茶を、い、いかがかな?私の、す、好きなお菓子が、丁度届いたところで……」

 

「お茶、ですか」

 

数度瞬きをして、彩芽は頷いた。

 

「では、お邪魔します」

 

虎穴に入らずんば虎子を得ず。

この辺りで情報収集をしておくのも、悪くはないだろう。

 

 

 

 

招待された先は闇の魔術に対する防衛術の、準備室だった。

意外と小ざっぱりした部屋で、吊るしたにんにくや十字架さえなければ、知的とさえ言える。

棚に並んだ『吸血鬼に襲われた時の対処法』や『簡単!鬼婆退治』、『あなたの知らない恐怖の魔法生物』といった目を引くタイトルに隠れて、価値のある古書や高度な魔法書が置かれている事に彩芽は気付いた。

 

若草色のソファは座り心地良く、温かみのある木のテーブルには同色のランチョンマットが敷かれ、品のいいソーサーとカップが並べられた。

彩芽が見ている中、手際よくお茶の用意をするクィレル。

時折、目が何かを探るように動く以外は、おかしな点はない。

こだわり派のスネイプとは違い、クィレルは魔法で紅茶を用意すると、それを注いだ。

華やかに香る柑橘の香りは、彼が届いたと言っていたオレンジピューレがふんだんに使われたパウンドケーキによく合いそうだ。

部屋に異臭さえ漂っていなければ、まさに完璧なお茶会だったと彩芽は思う。

 

「ど、どうぞ……気に入ってもらえると、う、嬉しいのですが」

 

ぎこちない笑みを向け、クィレルが勧める。

彩芽は慎重にカップを傾け、口に含んだ。

 

――こちらに来て、彩芽は西洋の魔法使いが気の流れに酷く疎い事に驚いた。

だが、授業で実際に魔法を使う姿を見て、当然かもしれないと納得した。

こちらでは、力を使うのに杖を使う。

そして、その力の源は自身の魔法力だ。

 

対して、彩芽は、日本の術師は自然にある力を利用する。

自身の力も使うには使うが、基本的には周囲の気を読み、それを操るのだ。

生まれ持っての才能と、日常的な術の訓練によって、彩芽の気を読む力は驚異的なほど研ぎ澄まされている。

 

魔法がかかっているか否か、その強さはどれほどか。

そう、例えば、今飲んだ紅茶に何らかの魔法薬が使われていないかどうか、なども。

 

「美味しいです」

 

「そ、それはよかった!ケーキも、好きなだけど、どうぞ!」

 

ホッとして勧めるクィレルに、彩芽は首を振る。

 

「甘いものは苦手なので。先生は遠慮なくどうぞ」

 

「そ、そうですか……では、私も紅茶だけにして、ケーキは、今度にします」

 

そう言って魔法の気配がするケーキを下げたクィレルは、落ち着きなく紅茶に手を伸ばした。

何かに怯えるその姿に、彩芽はカップを置いて尋ねた。

 

「それで、クィレル先生、どうして私をお茶に誘ったのか聞いても?」

 

ビクリと肩を揺らし、クィレルは彩芽を見た。

 

「あ、あなたは……私の授業をいつも熱心に受けているので……きょ、興味があるのではないかと」

 

「闇の魔術に、ですか?」

 

目を細めて尋ね返すと、さらに恐怖の色を濃くする。

彩芽はこのお茶会がクィレルの意思ではないと確信した。

 

「そうですね、とても興味がありますよ、先生。……覚えていて損はない」

 

これは本心だった。

敵を知らねば対策の立てようはないし、敵が使うのに自分は使わないと言うのもおかしな話だ。

必要だと思えば使えばいいと、彩芽は思っていた。

 

「ち、知的好奇心が、お、お、旺盛なのですね、ミス・ミナヅキは」

 

クィレルは立ち上がり、本棚に向かう。

後ろを向いたはずのクィレルから、先ほどより強い視線を感じて、彩芽は内心で嗤う。

顔には一切出さずに待てば、視線は薄れ、クィレルが本を差し出して来た。

 

「この本は、ほ、本来1年生の生徒に見せるには早過ぎるも、ものです。ですが、君なら、か、構わないでしょう」

 

一瞬逡巡した後、彩芽は微かな魔力を帯びたその本を受け取る。

 

「返却は、いつでも構いません。き、君にとって、何かの役に立つといいのですが……」

 

「ありがとうございます」

 

見上げた彩芽の視線から逃れるように、クィレルは目を伏せた。

 

 

 

 

 

 

 

「聞いてよアヤメ、スネイプもだったんだ!」

 

「それにドラゴンの卵だ!信じられるか?」

 

「落ち着きなさいよ2人とも」

 

紅茶を飲み干し寮へと戻って来た彩芽は、談話室に入るなり3人に捕まった。

口々に喋るハリーとロン。

ハーマイオニーがそれに呆れ、彩芽にきちんと順を追って説明する。

 

彩芽が図書室を出た後、ハグリッドに会った3人が知った事実に、彩芽は何と言っていいか分からなかった。

賢者の石の守りにスネイプが係わっていた、というのは別に驚きでも何でもなかったが、もう一つの方が問題だった。

 

「ハグリッド……」

 

事もあろうに、ハグリッドはドラゴンの卵を手に入れて、それを孵そうとしているらしい。

ノルウェー・リッジバックという種だと聞き、彩芽は以前見た本の内容を思い出してため息を吐く。

 

凄く驚くだろうと思ったが、それほど動じた様に見えない彩芽。

ロンはその反応が不満だったらしく、ドラゴンの飼育は1709年のワーロック法で違法だと決まっている事を熱弁するが、彩芽はちゃんと知っていた。

 

「ハグリッドってば、私達がいくら止めても聞く耳持たないのよ。ねぇ、どうしたら良いと思う?」

 

ハーマイオニーは困ったように彩芽に意見を求めた。

彩芽はそれに首を振り、「牙に毒がある」とだけ言い、女子寮に上がっていってしまう。

 

「なんだってんだ、アヤメのやつ。ドラゴンだぞ?!」

 

「しーっ!声が大きい」

 

ロンをたしなめながら、ハリーは彩芽が入っていった寮の扉を見つめた。

でも確かに、どうしてあんなに平静でいられるんだろうかとハリーは首を傾げる。

 

「大方、あいつは何も分かっちゃいないんだ。日本にはドラゴンなんかいないんだろ」

 

ロンが眉をしかめて鼻息を荒くした。

ハーマイオニーは心配そうにしながら、彩芽を庇う。

 

「きっと、ペットに餌をあげてたんだわ。なんだか凄く疲れるらしいの」

 

その言葉に、ハリー達は初めて会った時、彩芽の首元に白くてふさふさした生き物が巻きついていたことを思い出す。

そういえば、最近……いや、ずっと姿を見ていない。

 

「どうして餌をやるのが疲れるの?」

 

ハリーが尋ねた。

あの動物に餌をやるのは、きっと赤ちゃんドラゴンに餌をやるよりうんと簡単だろう。

ハーマイオニーは分からないと首を振る。

ロンはそれ見たことかと口を尖らせた。

 

「全く、アヤメは僕達に何を隠してるんだ?」

 

 

 

 

翌日、ロンは彩芽に何度も口を割らせようと試みたが、それは結局失敗に終わった。

前から薄々感じてはいたが、ハリー達は彩芽がかなり頑固だと決定付ける事になった。

ドラゴンに彩芽の秘密主義、そして毎日毎日山の様な宿題……。

おまけに、ハーマイオニーがハリー達の勉強予定表まで作り始めたので、ロンもハリーもかなり参っていた。

 

そんなある日の朝、ハグリッドからの手紙をヘドウィグが届けに来た。

ハリーのペットのヘドウィグは、真っ白い羽の綺麗なふくろうだ。

彩芽はハリーの許可を得て、そっと撫でさせてもらった。

 

「大変だ、卵が孵るみたい……」

 

手紙を読んだハリーが、気分が悪そうに呻いた。

とうとう孵ってしまう。

生まれたドラゴンを、ハグリッドは一体どうするつもりなんだろうと考えると、胃からさっき食べた朝食が逆流しそうだった。

 

「すぐに行こう」

 

「ダメよ!」

 

ロンは鞄を引っつかんで腰を浮かしかけるが、ハーマイオニーの制止で椅子に座りなおした。

 

「ハーマイオニー、ドラゴンの卵が孵るところなんか、今を逃せばもう二度とないんだぞ?」

 

「授業をさぼったら面倒な事になるわよ。でも、ハグリッドがしていることがばれたら……」

 

「ハーマイオニー」

 

ハーマイオニーの言葉を遮り、彩芽が唇に人差し指を当てた。

 

「マルフォイだ……」

 

数メートル先で聞き耳を立てているマルフォイの表情に、ハリーの顔が曇る。

ハリー達が黙ると、マルフォイも気付かれた事を察したのか、なんでもないように立ち去った。

気にはかかったが、ロンはドラゴンが孵る瞬間をどうしても見たいらしく、薬草学の教室に行く間ずっとハーマイオニーを説得にかかっていたので、ハリーは忘れる事にした。

証拠はない。

そもそも、ハグリッドが考えを改めれば万事解決する話だ。

 

結局ロンの熱意に負けて、ハーマイオニーは薬草学の授業には出るけれども午前中の休憩時間に様子を見に行く事に賛成した。

授業終了の鐘が鳴ると同時に、ハリー達は移植ごてを放り出して走る。

 

「アヤメ?」

 

「片付けてから行く」

 

ハーマイオニーはドアのところで一緒に来ない彩芽に気付いて声をかけたが、その返事に頷いてハリー達を追いかけていった。

本当はハーマイオニーも興味があったに違いないと、3人が放り出した移植ごてを片付けながら彩芽は思った。

 

「ねぇ、あの3人、あんなに急いでどうしたの?」

 

「そうよ、アヤメに片付けを押し付けて。何かあったの?」

 

寮で同室のパーバティとラベンダーが不思議そうに声をかけてきたのを見て、彩芽は彼女達には分からない微笑を浮かべた。

 

「火トカゲの卵が孵る瞬間を見たいんだって」

 

彩芽の言葉に、2人は目を丸くする。

 

「ハーマイオニーったら……まるで男の子みたいね」

 

「私なら、爬虫類の孵化なんか興味ないけど」

 

思った通り、2人はそれで興味を無くしたようだった。

 

彩芽が片づけを終えてハグリッドの小屋に着いた時には、もう卵は孵った後だった。

机の上にいるのはドラゴンというより、羽のある出目金みたいなトカゲで、体が黒く、目がオレンジ色という……なんとも微妙な配色だった。

彩芽はうな垂れてバケツをかき混ぜているハグリッドを見てから、やはりうな垂れているハリー達を見る。

 

「……何かあったの?」

 

「マルフォイが……」

 

ロンが唸った。

彩芽はそれで理解した。

 

「見られたのね。……すれ違わなかったけど」

 

「君とは別の方に走って行った」

 

ハリーが答える。

授業が違えば教室の場所も違う。

彩芽は塔から来たが、マルフォイは城の方へ向かったのだろう。

 

「……そう」

 

「そう、だって?」

 

彩芽のあっさりした返事に、ロンが立ち上がった。

 

「君は分かってない!僕たち、すっごくまずい事になってる!いいかい、ドラゴンの飼育は法律違反なんだ!」

 

ロンは顔を真っ赤にして言ったが、彩芽は顔色を変えなかった。

黙ってドラゴンにバケツの中身を与えているハグリッドに目を移し、静かに尋ねる。

 

「ハグリッド、どうするの?」

 

「どう、どうって?」

 

目をキョドキョドと泳がせるハグリッドに、彩芽は言葉を重ねる。

 

「ドラゴンの飼育は法律違反。知ってて止めさせなかった私たちも同罪。それでも、ドラゴンを飼うの?」

 

「そりゃ、ずっと飼ってはおけんだろうが……」

 

ハグリッドは生まれたばかりのドラゴンに目を潤ませる。

 

「この子はまだこんなにちっちゃい。誰かが世話してやらんと死んじまう……ほっぽり出すなんて俺には出来ん!」

 

ハグリッドはドラゴンを撫でようとして噛まれたが、痛みよりも慈愛の気持ちの方が強いのか、構わず両手で包み込んだ。

もっとも、それも一瞬で、次の瞬間ドラゴンの鼻から出た火花に髭を燃やされかけていたが。

 

「正気じゃないよ……」

 

ロンは首を振った。

ハリーとハーマイオニーも疲れた顔をしている。

 

「授業が始まる。行きましょう」

 

彩芽の言葉に、ハリー達はハグリッドの小屋を出た。

茹だった様な小屋から出た瞬間、すぅっと汗が引いていくのを感じながら、ハリーはため息を吐く。

これからどうしよう。

 

「……ハリーたちはどうするの?」

 

「え?何が?」

 

彩芽に聞かれて、ハリーは聞き返した。

 

「行動の選択は……3つ。1つ、ハグリッドの説得を延々と続ける。2つ、見なかった事にする。3つ、ダンブルドアに相談する」

 

「ダメだよ!」

 

彩芽の言葉にハリーは首を振った。

 

「いくらダンブルドアでも、ハグリッドはきっとクビになるぞ」

 

ロンもハリーに加勢する。

表情から、ハーマイオニーも同意見のようだった。

彩芽はダンブルドアはそう簡単にハグリッドをクビにはしないだろうと思ったが、皆がそう思っているならと、あえて言い返すことはなかった。

 

「ダンブルドアに言わないなら……ハグリッドが説得に応じるとは思えない。私は手を引く」

 

「見捨てるってのか?!」

 

ロンが信じられないと目を見開いた。

 

「いいえ。助けが要るときは言って欲しい。でも、最終的に決めるのはハグリッドだから」

 

彩芽はそう言って、先に立って歩いていった。

 

「ああ言ってるけど、結局は見捨てるって事じゃないのか?」

 

ロンはイライラして言った。

ハリーはそれを肯定したくはなかったが、確かに冷たいと思ってしまった。

ハーマイオニーは黙って俯いた。

 

翌日から、ハリー達は暇さえあればハグリッドを説得にかかった。

必死にハグリッドの元へ通い詰めるハリー達をしり目に、彩芽はしょっちゅう寮からいなくなっていた。

ハグリッドがドラゴンにノーバートと名前を付けた話をしても、ほんの少し眉をしかめただけだった。

本気で知らん振りを通すらしいと分かり、ハリーは落胆したし、ロンは怒っていた。

彩芽はそれに気付いていたが、正直なところ、ハグリッドが説得に応じると思えない以上、無駄な時間を割く余裕はない。

氷炎へ気を貯めるのと、箱の細工の両立は気力と体力を激しく消耗する。

それに加えて、クィレルからの接触にも気を張らねばならなかった。

 

「ミミ、ミス・ミナヅキ、こ、この間の本は……い、いかがでしたか?」

 

クィレルは決まって彩芽が1人の時に現れる。

避け続ける事も可能だが、今は出来る限り力を使いたくないのと、情報収集になるかもしれないという打算もあって、彩芽はわざと声をかけやすい状況を作っていた。

 

「大変ためになりました」

 

彩芽は借りた本を鞄から取り出すと、クィレルに手渡す。

ほんの少し魔力を帯びたその本は、罠ではなくただの書物だった。

ただし、内容ゆえに持ち主を選んで来たようで、その痕跡がうっすらと残っているのだろう。

クィレルから貸される本は、そういう類の物ばかりだ。

 

「それは、良かった。た、立ち話もなんです、お、お茶でも……どうですか?」

 

「はい」

 

二つ返事で了解して、彩芽はクィレルの部屋でお茶を飲む。

授業でも思った事だが、クィレルは決して馬鹿ではない。

お茶の合間の雑談は、どもりとつっかえがなければとても有意義でためになるものだった。

ハリー達がハグリッド説得にかかりきりになっている間1人になる機会は当然多く、彩芽はクィレルとのお茶の機会を何度も持つことになった。

 

「タブー視されているだけあって、闇の魔法に関して詳しく説明された本は少ない。その中で、この本は大変興味深かったです」

 

「と、いうと?」

 

「闇の魔術と呼ばれるものは、一般的な魔法と差異はない。ただ、殺傷能力に長けた威力の強い物を、そう分類付けているに過ぎない」

 

「ええ、そ、そうです、ミス・ミナヅキ。やはり貴女は、あ、頭が良い」

 

頷きながら、クィレルは弱々しく笑った。

 

「闇の魔術はお、恐ろしいものです……人を殺めるものや、拷問に使うようなものが、た、たくさんある。ですが、古代魔法のような、べ、別の魔法という訳ではない。貴女が言ったように、私たちが普段使用している魔法と、お、同じ、なのです」

 

その言葉に、彩芽は何の不思議もなかった。

日本にも禁忌の術は存在するが、概ね似たようなものだ。

ようは術者がどう使うか、という事。

 

「た、例えばミナヅキ、貴女が新しい魔法を、開発したとして、それが誰かをき、傷つけるものであれば、それは即ち闇の魔術を生み出したと同意なのです」

 

「その理屈でいくと、世の中は闇の魔法で溢れ返っていることになりますね。どんな術でも、使い方次第で武器になるのに」

 

「ぶ、物騒な事を、言うものではありませんよ……」

 

怯えたふりをするクィレルに、新しい本を借りてお茶を切り上げる。

数日後にまたお茶に誘われ、そうして話をしてまた本を借りる。

 

少し近付き過ぎかと考えたが、直接の害がないため、切り上げる機会を失っているのも確かだ。

ドラゴンの件に動きがあれば、また状況は変わるのだろうが……。

 

彩芽は借りる度に過激になっていく本の内容を頭に入れながら考える。

――ところで、クィレルやお父様は、一体何がしたいのだろうか?

 

 

 

 

 

クィレルから借りる本が、そろそろ理論から実践的な内容になってきたある日の夜。

談話室に戻ってきたハリーは部屋の隅の椅子で本を読んでいた彩芽に、ハグリッドがルーマニアでドラゴンの研究をしているロンの兄に、例のドラゴンを預けるという説得に応じたと伝えた。

 

「ハグリッドは説得に応じないって言ったのは、どこの誰でしたっけね?」

 

ロンが意地悪を言うと、彩芽は素直に「ごめん」と謝った。

これはロンも予想外だったようで、毒気を抜かれたのかそれ以上は責めなかった。

ロンが彩芽を許したと分かり、ハーマイオニーは目に見えてホッとした。

 

「それで、アヤメ。チャーリーに引き渡す間、ノーバートの世話を手伝って欲しいんだ」

 

ハリーがそう言うと、彩芽は頷いた。

 

「分かった」

 

言いながら彩芽が閉じた本を見て、ハーマイオニーはクスリと笑った。

ハリーもそれに気付き、嬉しい気持ちになった。

彩芽が読んでいたのはクィレルから借りた本ではなく、『ドラゴンの種類とその特徴~危険なドラゴンに出会ったときの為に~』という本だった。

彩芽は本気でハグリッドを見捨てたわけじゃなかったんだと、2人は顔を見合わせて笑う。

 

寝る前に、ハリーがこっそりロンにその話をすると、ロンは眉をしかめて肩をすくめた。

 

「だからあいつは秘密主義だって言うんだ。ハグリッドを助けたいんなら、そう言えばいいじゃないか」

 




◇クィレルのどもり口調が書いていて面倒な上に読みづらいです。私なら、にんにく臭の中のお茶会とか御免被る!◇
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