陰陽師の魔女   作:もんごめりあん☆紗波

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◇マクゴナガル先生の減点が容赦なさすぎィ!◇


罰と予感

彩芽は知っていた。

嫌な予感というのは、大抵当たってしまうものだ。

 

夜、2時半を過ぎてようやく寮のベッドに戻ってきたハーマイオニーの顔を見て、彩芽は後悔に押しつぶされそうになった。

やっぱり、自分も行くべきだった。

いや、そもそも、自分ひとりで運べばよかった。

ノーバートの入った木箱1つくらい、姿を隠しながらでもあの塔のてっぺんまで運べたはずだ。

余力がないなんて、そんなものは言い訳だ。

それともあの時……マルフォイの息の根を止めに行くべきだったか。

 

今さら言っても仕方の無い事が、ぐるぐると頭を回る。

声を押し殺して泣いているハーマイオニーを抱きしめて、彩芽はどうすることも出来なかった。

自分のベッドに招き入れ、カーテンをひく。

パーバティとラベンダーの寝息が聞こえる中、ハーマイオニーはただ息をひそめて彩芽に抱きしめられていた。

 

翌朝、彩芽は談話室の方からざわめきが大きくなるのを聞いて憂鬱になった。

抱きしめたままのハーマイオニーが、小さく震えている。

誰かが「寮の得点が!」と騒ぐ声が聞こえた。

ハーマイオニー達は減点されたようだ。

今は理由が分からず騒いでいるだけだろうが、そのうちきっと『誰が』原因か分かるだろう……。

 

「ねえ、談話室の方が騒がしいけど、何かあったのかしら?」

 

ラベンダーがパーバティに尋ねる声が聞こえて、彩芽の腕の中でハーマイオニーの肩が跳ねた。

 

「さあ?私、ちょっと聞いて来るわ」

 

パーバティが部屋から出ていく気配がして、そしてすぐに戻って来た。

彩芽はハーマイオニーを抱きしめる手に力を込める。

 

「大変よ!寮の得点が……よく分からないけど今、最下位なの!」

 

「えっ、なんで?だって、昨日までは首位だったじゃない!」

 

「知らないわよ!でも、今それでみんな大騒ぎなんだからっ」

 

パーバティとラベンダーは、とにかく談話室に行ってみようと下りて行った。

2人がいなくなってから、ハーマイオニーが声を震わせて喋った。

 

「わ、私達、見つかったの……マントを忘れて、フィルチに……それで、マクゴナガル先生が、減点……」

 

「ハーマイオニー……」

 

彩芽はハーマイオニーの頭を撫でるが、かける言葉が見つからない。

こういう時、友達になんと言ってあげればいいのだろうか。

 

「直接減点されなかったけど、私もハーマイオニーと同罪よ。2人を止めなかったもの。ハーマイオニーが代わってくれなかったら、私がハリーと捕まっていた」

 

「アヤメなら……あなたなら、マントを置き忘れなかったかもしれない」

 

ハーマイオニーのその言葉で、彩芽は気付いた。

減点された事を悔やんでいるのはもちろんだが、彼女が一番悔やんでいるのは、自分の不注意さに対してなのだと。

 

「……自分が、もっと気を付けていたらって、そう思って泣いているのね」

 

「ええ……ハリーは浮かれていたわ、当然よね、ノーバートを送り届けることが出来たんですもの。直前に、マルフォイが捕まったのも見たし、有頂天だった。でも、だからこそ、私がちゃんと注意すべきだったんだわ!」

 

吐き出す様に言ったハーマイオニーに、彩芽はポツリと呟いた。

 

「やっぱり、同罪ね。私も……もっと注意すべきだったもの」

 

マルフォイがあのまま黙っているはずがないと、分かっていたのに策を練らなかった。

彩芽がもっとちゃんと、事前に手を打てていれば、ハリー達は捕まらなかったのだ。

 

 

噂はあっという間に広まった。

あのハリー・ポッターが、何人かの馬鹿な1年生と共に点を減らしたらしい、と。

寮の優勝争いから転落した事は、グリフィンドールはもちろん、レイブンクローやハッフルパフにもショックな事だった。

あのスリザリンから優勝杯が奪える、と期待されていたせいだ。

有名だった分、ハリーに対する風当たりは特にきつかった。

ハリーはどこにいても冷たい視線で見られたし、聞こえるように陰口も叩かれた。

暖かい言葉をかけてくるのはスリザリン寮生だったが、それは嘲りを込めた言葉だったし、嬉しくもなかった。

 

彩芽はロンと一緒に、改めてハリーとハーマイオニーから事の始終を聞いた。

マルフォイがやはり塔で待ち伏せしていたけれど、マクゴナガルに見つかって罰を与えられているのを見た事。

無事にチャーリーの友人達にノーバートを引き渡せて、すっかり舞い上がっていた事。

うっかりマントを被らずに帰ろうとして、フィルチに見つかってしまい、マクゴナガルに引き渡された事。

 

彩芽は聞きながら、拳を握り締めた。

フィルチがそんな時間に塔を監視していたのは、マルフォイのせいに違いない。

 

「マクゴナガルと一緒に、ネビルがいたんだ」

 

ハリーは痛みに耐えるように言った。

 

「マルフォイが僕たちを捕まえようとしてるって、教えようと……」

 

そしてネビルはハリー達を探してさ迷い歩き、見つかってしまったのだ。

マクゴナガルがハリー、ハーマイオニー、ネビルの3人に、1人50点の減点を言い渡したと知り、ロンは憤った。

 

「自分の寮だぜ?せめて3人で50点にしてくれりゃ良かったんだ」

 

「でも、僕たちが校則を破ったのは事実だ」

 

ハリーは力なく言った。

 

「僕、もう関係ない事に首を突っ込むのは止めるよ。遅すぎるかもしれないけど……」

 

 

 

ハリーにはロンが、ハーマイオニーには彩芽が、出来る限り側に居るようにした。

試験が近い事がかえってありがたいと思えるくらい、4人で試験勉強に没頭した。

彩芽はたった1人だけでいるネビルの事を思い、一度だけ一緒に勉強しないかと声をかけたが、ネビルは首を振って拒否した。

 

「マクゴナガル先生のところで、誤解したままなの……」

 

その様子を見てハーマイオニーが説明した。

 

「私達はドラゴンの嘘でマルフォイを罠にかけた。そして、ネビルが真に受けたことを滑稽だと思ってる、って……」

 

「違うって教えてあげたいけど、そうなるとドラゴンの事も言わなきゃならない」

 

だから、ネビルの誤解は解けないと言外に言うハリー。

彩芽はネビルにはきちんと打ち明けた方が良いのではないかと思ったが、どちらにせよもう遅い。

さっきのネビルの様子では、今さら言っても誤解が解けるとは思えなかった。

 

 

 

彩芽たちは試験1週間前のその日、図書館で天文学の勉強をしていた。

ハーマイオニーはロンに問題を出して、答えられないと呆れたという風に首を振った。

 

「僕はもういいよ。アヤメに問題を出したらどうだ?」

 

少しイライラしだしたロンが彩芽を指すと、ハーマイオニーは目を瞬かせた。

 

「あら、知らないの?彩芽は天文学が得意なのよ」

 

ロンが知らなかった、という顔で彩芽を見た。

 

「だったら君、僕の宿題手伝ってくれればよかったのに!」

 

「何を言ってるの、ロン!」

 

ハーマイオニーがピシャリと叱る。

そこへ、なにやら興奮した様子のハリーが帰ってきた。

 

「ハリー?寮に戻ったんじゃ……」

 

「聞いて!僕、見たんだ。クィレルが脅されて泣いてた。許して欲しいって……」

 

ロンの言葉を遮って、ハリーがひそひそと今見て来た事を伝えた。

 

「分かったって言ってた。クィレルはスネイプに屈したんだ」

 

「それじゃ、スネイプは『闇の魔術に対する防衛術』を破る方法を知ったんだ」

 

「でも、まだフラッフィーがいるわ」

 

ロンとハーマイオニーもひそひそと返す。

 

「ハグリッドに聞かなくったって、フラッフィーを突破する方法を見つけたのかもしれないぞ?」

 

ロンは周りにある何千冊という本を見上げた。

 

「これだけの本があれば、中には3頭犬を何とかする方法くらいありそうだろ?どうする、ハリー?」

 

ロンの目は、冒険心に燃えていたが、ハーマイオニーがハリーよりも早く釘を刺した。

 

「ダンブルドアのところへ行くの。本当はずっと前からそうすべきだったんだわ。自分達で何とかしようとすれば、今度こそ退学になるわよ」

 

彩芽はハーマイオニーの言葉に賛成だと頷いたが、ハリーは首を振った。

 

「でも、証拠はなんにもない!」

 

証拠がなくても話くらいは聞いてもらえるんじゃないかと彩芽は思ったが、ハリーにとってそれは重要なことらしかった。

 

「クィレルは当てにならないし、スネイプがハロウィーンの時トロールを城に入れた証拠も無い。足の怪我だってしらを切られればおしまいさ」

 

ハリーは他にも、いかに自分達に説得力がないかを挙げ、最後に1番重要なことを皆に思い出させた。

 

「そもそも、僕たちは賢者の石も、フラッフィーの事も知らないはずだろう?」

 

ハーマイオニーはそれで納得したが、ロンは諦めきれないようだった。

 

「でも、ちょっとだけ探りを入れてみたらどうかな?」

 

「だめだ。僕たち、もう十分に探りを入れすぎてる」

 

ハリーは言って木星の星図を引き寄せた。

彩芽はしばらくロンがブツブツ言うのを聞いてから、そっと席を立った。

 

「どこに行くの?」

 

ハーマイオニーが気付いて問うと、いつもの「秘密」の一言。

 

「この秘密主義者め!」

 

ロンは口を尖らせて彩芽を睨んだ。

 

 

 

氷炎に気を与えた後、彩芽は例のトイレに現れた。

箱の細工もほぼ仕上げに入ったし、事は順調に運んでいる。

 

「あ、あんた……どうしていつもこのトイレに出てくんのよぉ」

 

おさげで眼鏡の幽霊が震え声で尋ねた。

いつもはトイレに飛び込んだきり、彩芽が去るのを待つだけの彼女が、今日は何故か配管から顔の上半分を出してこちらを見ている。

少し気になって、彩芽が女生徒の幽霊がいる辺りに近づくと、ひぃいと情けない声が配管から漏れた。

 

「何か、不都合?」

 

彩芽の言葉に、幽霊は少し間を取って答えた。

 

「ここは、あたしのトイレよ。なのにあんたが来るせいで、あたし……ちっとも落ち着きやしないわ」

 

「どうして?」

 

彩芽は純粋に不思議だった。

 

「初めて会った時、あなたが私に水をかけてきたりしたから応戦したけれど……何もなければ、私は何もしない」

 

その言葉に、幽霊はぐっと声を詰まらせる。

初めて彩芽がここに現れた時、彼女は半ば八つ当たりで水をまき散らした。

丁度自分の容姿について考えていたところへ、辛気臭いが美しい顔立ちの女の子が入って来て、少しばかりヒステリーになったのだ。

 

「それでも……落ち着かないものは落ち着かないわ」

 

女の子の幽霊はそう言って、配管からすぅっと浮き出た。

普通、幽霊は何でも通過できる。

生きている人間が手を伸ばしたって、体を通り抜けるだけ。

だが、彩芽は。

水をまき散らし、何事か喚きながら迫って来た彼女を、掴んで投げて床に叩きつけた。

彩芽にとっては別に驚く事ではない。

自分の気を操作し、幽体の彼女を薄く包む形で固定しただけ。

まだ入学前で、気に余裕があったのも大きい。

 

「私、あなたが怖いのよ……」

 

ただ、幽霊の彼女にとっては恐怖体験だったようだ。

 

「名前は?」

 

「えっ?」

 

彩芽の唐突な質問に、幽霊は目を瞬かせる。

そしてポカンとした顔のまま答えた。

 

「マートル」

 

「そう、約束するわマートル。来年はもうこのトイレには来ない。だから、少し……今年だけ我慢して」

 

そう告げて立ち去ろうとした彩芽に、マートルが慌てて声をかけた。

 

「ちょっと待ってよ!あんたの名前は?」

 

「私は彩芽。水無月彩芽」

 

ドアを開けた彩芽はマートルに名乗り、外へ出た。

残されたマートルはふわふわと配管に腰かけて呟いた。

 

「幽霊になってから名前を聞かれたのも、約束されたのも、初めてだわ。……変な子」

 

 

 

 

 

 

マートルと別れて寮に向かう最中、彩芽は呼び止められて足を止めた。

 

「ちょ、丁度いいところに……良い本が手に入ってね。き、君にぜひ読んでもらいたいと……か、考えていたところだよ」

 

「先生が良い本というのなら、私も読んでみたいです」

 

彩芽は頷いて、クィレルと準備室へ向かう。

 

「今日は、お茶は……いかがかな?ひ、久しぶりに……」

 

「いえ、あまり時間はないので」

 

クィレルはガッカリしたように首を垂れた。

彩芽はそれを横目で見て、言葉を続ける。

 

「先生は、お茶が好きですね。お茶うけにもこだわっている」

 

「そ、そうですか?ミナヅキには、い、一度も食べてもらえていませんが……」

 

クィレルが言う通り、彩芽は用意された菓子を口にしたことがなかった。

最初の日は、何か魔法の気配がしたからだが、それ以降は単に甘いものが欲しくなかったからだ。

 

「でも、言われてみれば、そ、そうかも……。ダイアゴン横丁に、リトルキャットというカフェが、あ、あるのですが、とても良いお店ですよ」

 

「カフェ……」

 

クィレルは嬉しそうに頷いた。

 

「と、時々お菓子を、取り寄せるのですが……これがまた、美味しい。スコーンの種類が、と、とても豊富で、ジャムとの組み合わせも、考えるだけで楽しい、ですよ」

 

大人の男がお菓子の話を嬉しそうにするのは、彩芽にとってはなかなか違和感があった。

ダンブルドアもそうだったが、彼は『甘いもの好きなお爺さん』でしっくりくる。

 

「いつか、時間があったらい、行ってみては?」

 

彩芽はクィレルを見上げた。

ほんの少し、口元を緩めて。

 

「……考えておきます」

 

 

 

 

 

 

翌朝、クィレルから借りた本を夜遅くまで読んでしまって、彩芽は朝からぼんやりとしていた。

もっとも、氷炎や箱の件で疲れてぼんやりしているのは最近よくあることだったので、ハーマイオニーは大して不審がらずに彩芽を引っ張って朝食に行った。

席についてもただテーブルを見つめるだけの彩芽の皿にせっせと食事を盛っていたハーマイオニーの元に、フクロウが手紙を運んでくる。

それはハリー、ネビルの2人にも届いていたので、彩芽にはあの夜に関係するものだとすぐに分かった。

 

「何が書いてあるの?」

 

ハーマイオニーの手元を覗き込んで、彩芽は内容を見た。

 

『処罰は今夜11時に行います。玄関ホールでミスター・フィルチが待っています』

 

最後にマクゴナガル教授の署名もある。

 

「今から罰則を受ければ、今夜一緒に行けると思う?」

 

彩芽が聞くと、ハーマイオニーは怒った。

 

「そんなことしちゃだめ!……大丈夫よ、ハリーも一緒だから、ね?」

 

 

夜、玄関ホールへ向かう2人を見送って、彩芽はロンと一緒に談話室のソファで待つ事にした。

 

「大丈夫だよ、フレッドとジョージなんか今まで何度罰則を受けたか分からないけど、ピンピンしてる」

 

ハーマイオニー達を心配して落ち込む彩芽を元気付けようと、ロンが明るく励ます。

彩芽はそれに少しだけ微笑んでから、やはり表情を暗くした。

 

「処罰にはきっと、ドラコ・マルフォイも来るでしょう?いらない事しなきゃいいけど」

 

ロンはそこで初めてそれに気付いた。

マルフォイの事なんて考えもしなかった。

 

「でも、マルフォイだってどうしようもないだろ?同じ罰則を受けるわけだし……」

 

ロンは言いながら、嫌みったらしい顔を思い浮かべる。

そして、彩芽が前にドラコの名前に舌打ちしたことを思い出した。

 

「そういえば、アヤメもあいつの事相当嫌ってるよな」

 

普段感情をあまり表に出さない彩芽が、ドラコ相手には嫌悪を隠さない。

 

「半分くらいは八つ当たりなのかも。マルフォイを見ていると、親戚の子供達を思い出すから……」

 

彩芽は眉根を寄せた。

 

「選民思考の塊。自分達だけが特別だと思って、それ以外を見下すあの態度や言動。父親の権力を振りかざす馬鹿さ加減。なのに自分じゃ何も出来ない腰抜け具合」

 

彩芽がつらつらと挙げていく特長は、確かにロンの中のドラコとピッタリ合致した。

ロンはそれを聞きながら、ひとつ気になった事を尋ねた。

 

「もしかして、アヤメの家って純血の家系?」

 

「私自身は混血だけれど……」

 

ロンは、もしかしたら彩芽が「秘密」と言うかもしれないと思ったが、彩芽はあっさりと答えた。

 

「祖母は日本でいう純血だったし、祖父はイギリスのとある純血の家系だったらしいの。だから、私の母は西洋と東洋の純血の混血」

 

「えーっと、ちょっと待って。何だって?」

 

ロンは眉をしかめた。

 

「つまり、国はイギリス人と日本人のハーフ。魔法族としては純血って事」

 

「ふーん……」

 

曖昧に返事をするロンに、彩芽はさらに続けた。

 

「そして、私の父はマグルと魔法族のハーフだと聞いたから、いわゆる混血ね。だから私自身は4分の1はマグル。混血って事になるわ。因みに、日本人とイギリス人の血は1:3だから、本当はどちらかというとイギリス人寄り」

 

「うん……よーく分かったよ」

 

ロンは手を挙げた。

他にもロンは、いつも1人でどこに行っているのかを聞きたがったが、彩芽はそれは「秘密」で通した。

 

その後、ハリー達の処罰がどんなものか予想しあったり、彩芽がドラゴンに噛まれたロンの手の傷がすっかり治っている事を確かめたり、嫌がるロンに試験に出そうな問題を出したりしているうちに、談話室にはすっかり人気がなくなってしまった。

暗くなった中、暖炉の火だけ見つめていると眠くなってくる。

彩芽は薄明かりの中、魔法史の教科書を読んでいたが、頭の上にロンの頭が落ちてきて苦笑した。

 

ハリー達が帰ってきた時、彩芽はロンを膝枕したまま本を読んでいた。

談話室に駆け込んできたハリーとハーマイオニーはその光景に眉をしかめたが、すぐにロンを起こした。

 

「どうしたの、ハリー?」

 

彩芽はただごとじゃないハリーの様子に本を置く。

 

「ヴォルデモートだ、あいつだったんだ」

 

ハリーは震えながらも、興奮した様子でそう言った。

ロンはまだ寝ぼけていたが、ハリーとハーマイオニーが何があったか話すと、ぼんやりしていた顔はみるみる引きつっていった。

彩芽は奥歯を噛みしめた。

 

ハーマイオニーが、処罰は森の中で傷ついたユニコーンを見つけることだったと告げると、ロンは目を見開いた。

 

「ユニコーンの血を飲めば命を永らえさせる事ができる。だけど、その瞬間から永遠に呪われるんだ」

 

ハリーは言って、身震いした。

 

「僕はそいつがユニコーンの血に口をつけるところを見たんだ。フードをすっぽり被った奴が、銀色の血を滴らせて僕を殺そうとしたけど、フィレンツェが……森に住んでるケンタウルスの1人だけど、彼が助けてくれたんだ。額の傷が痛くて、正確には何があったか分からないけど」

 

ロンの喉がゴクリと鳴った。

 

「スネイプはヴォルデモートの為にあの石が欲しかったんだ……ヴォルデモートは森の中で待ってるんだ」

 

ハリーは落ち着きなく暖炉の前を行ったり来たりしながら断言した。

 

「その名前を言うのはやめてくれ!」

 

ロンが恐々囁いたが、ハリーは聞いていなかった。

 

「フィレンツェは僕を助けてくれたけど、それはいけない事だったんだ。ベインがものすごく怒ってた……惑星が起こるべき事を予言しているのに、それに干渉するなって言ってた」

 

その言葉に、彩芽はちらりと窓の外を見た。

今夜は火星が明るい。

そのベインというのもケンタウロスだろう。

彼らは星を読む。

 

「惑星はヴォルデモートが戻ってくると予言してるんだ。ヴォルデモートが僕を殺すなら、それをフィレンツェが止めるのはいけないって、ベインはそう思ったんだ……僕が殺されることも星が予言していたんだ」

 

最後の方はハリーの憶測でしかなかった。

彩芽は首を振る。

 

「ハリー、星の予言はヴォ……」

 

「頼むからその名前を言わないで!」

 

ロンが懇願した声と重なって、彩芽の声はかき消された。

ハリーはまだブツブツとヴォルデモートが自分を殺しに来ると言い続けた。

 

「今夜の星は、ハリーの死について予言していない」

 

彩芽はハリーがしつこいのできっぱりそう言ったが、ハリーはピシャリと言い返した。

 

「君はケンタウロスじゃない!」

 

陰陽道は占星術にも通じている。

ハリーの言い返しに彩芽はかなり不満だったが、むっつりと押し黙った。

 

「ハリー、ダンブルドアがいるじゃない」

 

ハーマイオニーがそっと優しくハリーに声をかけた。

 

「『あの人』が唯一恐れている人物。ダンブルドアがいれば、貴方に指1本触れられやしないわ。それにケンタウロスの言う事が正しいって誰が言ったの?つまり、占いの様なものでしょう?マクゴナガル先生が仰っていたじゃない、占いは魔法の中でも、とっても不正確な分野だって」

 

ハーマイオニーの言葉に、ハリーも少しだけ落ち着いた。

話し込んでいるうちに、外は白み始めていた。

ハーマイオニーとベッドに戻って、彩芽は目を閉じた。

 

もう少し、あともう少しで……その時が来る。

 

 




◇ユニコーンの血を飲んだら呪われる……の、呪われる部分が不確定過ぎる。見た感じ関わってるクィレルが呪われた感じないし。とりあえずここでは、呪われて命としては不完全な存在となるけど賢者の石で完全復活するしまあいっか!ってヴォルさんが飲んでた設定。むしろヴォルさんすでに呪われてるようなもんだしね。全然平気ですよね◇
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