陰陽師の魔女   作:もんごめりあん☆紗波

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マルフォイ親子とウィーズリー親子

 

 

信じがたい事だが、母の撫子とルシウス・マルフォイは学生時代に交流があり、そしてそれはかなり友好的なものであったらしい。

彩芽は興奮して父親に様々なものを強請るドラコを横目に、そう結論付けた。

まあ、セブルス・スネイプが自分の名付け親なのだ。

今さらスリザリン生と交流があった事を驚くのもおかしな話だった。

それに、祖父はスリザリン出身だ。

 

クィディッチの専門店の中は箒だけではなく、クィディッチに関する様々なものが売られていた。

そして店内にいる客のほとんどは酷く興奮している。

彩芽はそっと、店内の端の方へ移動して出来るだけ人混みから距離を取る。

ガチャガチャと鎖を千切らんと暴れるブラッジャーや、美しく光を反射する金のスニッチと比べ、このただ赤いクアッフルの並んだコーナーは空いていた。

 

ふと知った気配を感じて目をやると、表通りに面したショーウィンドウのガラスにロンがへばりついているのが見えた。

だが次の瞬間、引きずられるようにして消えてしまう。

ガラス越しにチラリと見えた後ろ姿は、ハーマイオニーのものだった。

 

「……きちんと話してみたらどうだ、彩芽。お前が『お父様』をどう思っているのか、どうしたいと思っているのか。あいつらの事を、どう思っているのか……」

 

氷炎が珍しく真剣な声音でそう助言するが、彩芽は微かに首を振ってそれを拒んだ。

 

「ここにいたのか」

 

しばらくの間、赤く丸いボールを無言で眺めていると、ドラコが探したぞと近寄って来た。

 

「父上が待っている。行くぞミナヅキ」

 

前を歩くドラコについて歩きながら、彩芽はどうして自分はドラコ・マルフォイなどと歩いているのだろうかと気分が沈んだ。

胸に不愉快な感情がモヤモヤと渦巻く。

 

駄目だ、冷静にならなければ。

心を閉ざし、無いように振舞う。

冷静に平静に……凪いだ海より静かに、死んだ湖のごとく。

 

彩芽の黒い目が、暗さを増す。

首に巻き付きながら、氷炎は主人の気が一切の揺らぎを消していくのを感じ取っていた。

一年をかけて姿を現し始めていた彩芽の感情が、再び水底へと沈んでいく。

それを止めることが出来ない氷炎は、ただその頬に鼻をすり寄せるしかできなかった。

 

 

 

 

 

フローリシュ・アンド・ブロッツ書店。

昨年はここへハリーとハグリッドの2人と来た事を彩芽は思い出す。

だが、心を閉ざした今、それについて何かを思う事はない。

 

「何だ?妙に混んでる……」

 

隣のドラコが呟いて、彩芽は書店の賑わいを眺める。

入り口の外まであふれかえった客層のほとんどは中年女性だった。

 

「原因はこれだろうな」

 

ルシウスの言葉に、ドラコと彩芽が目を向ける。

そこには大きな垂れ幕に『サイン会』と告知が書かれていた。

ギルデロイ・ロックハートという名前には見覚えがある。

今から購入予定の今年の教科書の著者だ。

人だかりのすぐ隣のポスターの写真、波うつ明るい金の髪をした男が、澄んだ青い瞳を片方閉じてウインクする。

その仕草に、並んでいた女性の1人がうっとりとした表情でため息を吐いた。

 

「ああ、知っている。おばさんに人気があるんだろ、僕には理解不能だけれどね」

 

ロックハートの名前に、ドラコが馬鹿らしいと言いたげにそう言った。

ルシウスも不愉快そうに眉をしかめていて、彩芽はこの著者がマルフォイ親子に好かれていない事を知る。

 

「丁度サイン会と時間が被っている様だ、少しずらして……――」

 

言いかけたルシウスの言葉が途中で止まる。

何かを見つけたらしいが、彩芽には人混みと視線の高さが違うせいで何を見つけたのかまで分からない。

ただ、意識を凝らすと人混みの中にハリー達の気配を感じる。

あまりに人が多いため正確な事は分からないが……。

 

「父上?」

 

ドラコがルシウスを見上げた。

その瞬間、大きく張り上げた声とカメラのフラッシュ音が書店の中から響いた。

 

「ご紹介しましょう、ハリー・ポッターです!」

 

「あの目立ちたがり屋の傷ものめ……」

 

ドラコが人だかりで見えない書店へそう吐き捨てる。

ここから中は見えないが、何が起きているのかは容易に想像がつく。

ハリー・ポッターは有名人だ。

本人の意思とは関係なく目立つ存在。

それに妬みや嫉みを向ける人間も少なからずいる。

そう、ドラコのように。

 

「行くぞ」

 

ルシウスがそう言って場所を移動する。

この人混みの中を入って行くのは嫌だったが、仕方がない。

ついて行くドラコの後ろを歩きながら、彩芽は熱気こもった書店へと渋々足を入れた。

 

人を押しのけ、押されながら。

中心に近付くにつれ、書店内に響くギルデロイ・ロックハートのものだろう気取った声が鮮明になる。

高くもなく、低くもなく、ざらついたところのない質のいい声だが、残念なことに鼻につく喋り方だ。

もう少し落ち着いた喋り方と、自己顕示欲を抑える方法を身に着ければ、人心を掌握するのに最適な語り手となれる可能性があるのに、と彩芽は思った。

現に、この程度の話術でもこれだけの人間を集められるのだ。

ただ見てくれが良いだけでは、これだけの人の心を掴むことは出来ない。

 

今年のホグワーツの『闇の魔術に対する防衛術』の教師として選ばれた、という言葉にドラコは呻き声を上げた。

ルシウスはそんな息子に目もくれず、一直線に歩を進める。

何を目指しているのだろうと思う彩芽の視界に、大きな鍋を手に持った赤い髪の少女が映った。

どこかで見た事があるような既視感を覚えた瞬間、その少女の前に本を抱えたハリーが前のめりに人混みから飛び出してきた。

 

「これ、君にあげるよ」

 

ハリーは抱えていた本を少女の大鍋に突っ込むと、もみくちゃにされてズレた眼鏡をかけ直した。

 

「やあ、気分はどうだい。有名人は大変だな、ポッター?」

 

ドラコが嫌味を込めて声をかける。

ハリーは嫌な顔で、目の前に立つ金髪の気取った少年を睨んだ。

 

「ハリーは有名人であることを自慢したことはないわ!失礼よ、あなた!」

 

赤毛の少女がハリーを庇う様に声を上げる。

それを見たドラコは揶揄うネタが増えたと嫌味な笑みを口元に浮かべた。

 

「ポッター、新しい彼女が出来たって訳か?お似合いじゃないか!」

 

少女は顔を真っ赤にして口を閉ざす。

ハリーが何か言い返そうとしたが、その時人混みからハーマイオニーとロンが本を抱えてやって来た。

ハリーが誰と対峙しているのかに気付くと、ロンはギュッと眉をしかめた。

 

「マルフォイ……なんでこいつがここにいるんだ」

 

「ハッ、ウィーズリー、それはこっちのセリフだね。君こそどうしてここにいるんだい?今年の教科書を揃えるために、君の家は今ごろ総出で内職をしていると思ったよ」

 

ロンの顔が真っ赤に染まり、ハーマイオニーは侮蔑も露わに顔をしかめた。

 

「ああ、それとも今日から食事を絶つのかい?新学期、ホグワーツの食卓につくまで命があればいいけれどねぇ」

 

「なんだとマルフォイ!」

 

ロンも赤毛の少女の鍋に本を突っ込むと、薄ら笑いを浮かべるドラコに殴りかかろうとした。

その服をハーマイオニーが掴み、ハリーも腕を掴んで止める。

いくら腹が立っても、ここでドラコを殴るのは得策でないことくらい分かっていた。

 

「なんだ、一体……どうしたんだ?」

 

険悪な雰囲気に割って入って来たのは、頭部が大分と寂しい男性だった。

ただし、残った毛は鮮やかに赤い。

腹を立てているロンとそれを取り押さえているハリーとハーマイオニー。

そしてその向かいに彼の父親にそっくりの金髪の少年……ドラコ・マルフォイがいるのを見て、赤毛の男性は眉をしかめた。

 

「これはこれは、アーサー・ウィーズリー。奇遇だね、君も子供の新学期の準備かな?」

 

見計らったように、ルシウスが赤毛の男の肩を叩く。

 

「ルシウス……ああ、奇遇だね」

 

アーサー・ウィーズリーと呼ばれたその男は、ルシウスを硬い表情で見やった。

 

「ああ、アーサー。顔色が悪いんじゃないか?最近、役所は忙しいらしいじゃないか。あんなにも抜き打ち調査をして……ろくに休みも取れていないのでは?」

 

「ご心配どうも」

 

言葉少なに答えるアーサーと対照的に、ルシウスは余裕の表情で側にいた赤毛の少女に近付いた。

そして少女の持つ鍋から本を漁る。

 

「ちゃんと残業代は出ているのか?もっとも、この様子ではタダ働きの様だが……」

 

ルシウスが鍋からつかみ出したのは、遠目からでも擦り切れてボロボロなのが分かる本だった。

表紙は『変身術入門』……古本で売られていた教科書だ。

 

「労働に見合う対価を貰えていないのでは、魔法使いとしての恥を晒すかいがないというもの」

 

「ルシウス、何が魔法使いにとっての恥なのか、君とは意見が相違するようだ」

 

薄くなった頭まで真っ赤にして、それでもアーサー・ウィーズリーは平静を保とうと出来るだけ平坦な声でそう言った。

ルシウスはフンと鼻で笑い、心配そうな、不安げな顔で事の成り行きを見守っている夫婦に目を止めた。

魔法使いとそうでないもの……マグルとの違いは生物学上見た目に違いはない。

しかし、独自の文化を築いて来た魔法使いは、マグルとは違う価値観を持っている。

簡単に言えば、ファッションセンスが根本から違った。

 

「まあ、こんな連中と付き合っているようではな……。ウィーズリー家はこれ以上落ちぶれる余地はないと思っていたが甘かったようだ」

 

ひと目でマグルだと見抜いたルシウスが、嘲りの言葉を口にする。

その夫婦はグレンジャー夫妻で、ハーマイオニーの両親。

アーサーはカッと耳が熱くなるのを自覚した。

自分たち家族の侮辱にはなんとか耐えたが、それは見逃すことのできない侮辱だ。

今まで抑えた感情が一気に爆発したのと同じように、一気にルシウスに向かって殴りかかる。

ぶつかった赤毛の少女の手から大鍋が落ち、店内に鈍い鉄が落ちる音がした。

同時に、アーサーに胸ぐらを掴まれたルシウスが背中を本棚に叩きつけられ、棚から本が落ちた。

 

「そこだ、パンチだパパ!」

 

フレッドの応援する声。

 

「何をしてるのあなた!やめて!アーサー!」

 

女性の制止の声。

 

ルシウスもやられっぱなしではない。

本棚に叩きつけられた次の瞬間、アーサーの横っ面に拳を叩き込む。

大人2人の取っ組み合いに、巻き込まれたくないと店の客は距離を取ろうと後退り、他の客とぶつかり小競り合いが起きる。

その混乱がさらに場をカオスなものに変えていた。

 

「氷炎、冷気を」

 

「ああ、うんと冷たいやつを浴びせてやるよ」

 

黙って事の成り行きを静観していた彩芽は、騒動の中心に一歩近づいた。

彩芽が腕を伸ばして、氷炎はその腕に前足を乗せる。

そして、ルシウス・マルフォイとアーサー・ウィーズリーの2人に凍り付くような風を吹きつけた。

凍える風はそのまま店内を駆け抜け、その突然の冷たさに、騒いでいた書店内の人間は全員動きを止める。

 

「……頭は冷えましたか?」

 

一瞬にして吐く息が白くなるほどに凍えた空気の中、酷く冷静で冷たい声が響く。

直接冷気に当たったアーサーとルシウスは、パキパキと頬から薄い氷が落ちるのを感じながら彩芽を見た。

ハリー達も彩芽を見ていた。

いや、書店の全員が目を向けている。

 

「君は……?」

 

寒さで震える声で、アーサーが尋ねた。

それに彩芽が口を開くより早く、ロンがアーサーを背に庇う様に前に出た。

 

「どの面下げて僕達の前に現れたんだ!」

 

「ロン……」

 

ハーマイオニーがロンを止めようと手を上げかける。

その手をハリーは掴んで下げさせた。

 

「ハリーの次は僕のパパを殺すのか?え?この人殺し!」

 

「ロン、言い過ぎだ!」

 

彩芽に怒鳴るロンの言葉を聞いて、ハリーが嗜めた。

 

「一体いつ彩芽が人を殺したって言うんだこの餓鬼が……」

 

未だ、彩芽は誰1人として殺してはいないのだ。

氷炎が殺気を膨らませる。

彩芽が一言、肯定の言葉を発した瞬間にロンの首は飛ぶだろう。

しかし彩芽はそんな氷炎に構わずロンの父親、アーサーを一瞥すると、興味ないと言いたげにルシウスの前に立つ。

 

「用が済んだのであれば、そろそろ案内いただけますか?」

 

「……ああ、そうだったな」

 

ルシウスは立ち上がると、体を叩いて埃を払った。

そして手に持ったままだった『変身術入門』の古本を、苛立たし気に少女の大鍋に突っ込み返す。

 

「おい、こりゃあ一体なんの騒ぎだ……?」

 

騒ぎを聞きつけ、ハグリッドが人混みをかき分けてやって来た。

それを合図に、ルシウスはドラコを連れて書店を出る。

 

「アヤメ、なんであいつらなんかと……」

 

ジョージの呟く声が彩芽の耳に届いた。

しかしその声を振り切るように、足を止めることなく、彩芽はマルフォイ親子を追って出て行った。

 

 

 

 

 




◇ダンブルドアがロックハートを教師にした理由が未だに理解できない。本当にこれしかなかったのなら、魔法界の人材不足が深刻過ぎる。あの授業なら実践のない通信教育の方がまだマシじゃないか。さあ、皆でクイックスペルの『闇の魔術に対する防衛術』コースを受講しよう☆◇
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