陰陽師の魔女   作:もんごめりあん☆紗波

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◇オリジナル要素が多くなってまいりました……◇


闇に染まった髪飾り

 

フローリシュ・アンド・ブロッツ書店を離れて、彩芽とマルフォイ親子は再びノクターン横丁の入り口へと戻って来ていた。

ここに来るまでの間、ドラコはウィーズリー家とハリー、そしてハーマイオニーのことをこき下ろし、父親の体を心配する言葉をずっと口にしていた。

それは心底不愉快な光景だったが、不思議ではない。

彩芽はドラコよりも、ルシウスが気になって仕方なかった。

 

――あの嫌な、悪意に満ちた気配が消えている。

そして……何故か彼は機嫌が良かった。

 

「暴力を振るわれて喜ぶドMか……俺らの気付かない何かがあったのか」

 

氷炎が小さくそう口にする。

さっきのロンの言葉にいまだ機嫌は悪いが、彩芽が気にしないという態度であるため、怒りは抑えたようだった。

 

「くそっ、ウィーズリーめ……貧乏だと頭まで悪くなるみたいだな。父上にあんな事をして、ただですむと思うなよ!」

 

ドラコが憤る声に、ルシウスはまあまあと息子を宥めた。

 

「ドラコ、そう声を荒げる事はない。あんな公衆の面前で私に暴力をふるった事を、彼はすぐに後悔することになるだろう」

 

自信ありげに告げる父親に、ドラコは嬉しそうな誇らしげな顔をする。

彩芽はそれを眺め、冷えた心の底で憐れみを感じた。

 

「さて、待たせたね……それでは行こうか」

 

ルシウスがそう言って、ようやく彩芽を目的の場所へ案内した。

ノクターン横丁の奥まった場所にある、一見何でもない店の入り口。

それは逆に異質であった。

何故なら、ノクターン横丁では怪しげな事が普通であるからだ。

怪しげな雰囲気、おぞまし気な商品、どこか暗く闇を感じる中でポツリとそこだけが浮いていた。

まるでダイアゴン横丁の店を空間ごと切り取って、ここにぽんと置いたかのような……。

その入り口をノックして、ルシウスは待つ。

 

「誰だ」

 

扉の向こうから声がした。

 

「私だ」

 

ルシウスが答えた。

彩芽は視線を感じていたが、その視線は扉の向こうからではなく、天井からだった。

 

「――ようこそ、ルシウス。お連れさんは?」

 

薔薇の飾り彫りが美しい木の扉が開き、中にいた男がそう尋ねながら中に招き入れる。

ルシウスはそれに微笑みながら、息子とその友人だと紹介した。

 

「僕は友人になった覚えはない……」

 

ドラコは小さくそう呟く。

父親がそう言った手前大きく反論は出来ないようだった。

 

「そりゃこっちのセリフだっての」

 

彩芽の代わりに、苛立たし気に氷炎が答える。

通された部屋は高級そうな調度品が並ぶ品の良い部屋だった。

敷かれた深い青の絨毯はふかふかとしていて、少し歩き辛い。

 

「それで、ルシウス……今日は一体なんの要件で?それに、その頬はどうされました」

 

赤みを帯びた左の頬をひと撫でして、ルシウスは少しだけ不機嫌に「魔法族の誇りを持たない人間に少しね」と濁し、勧められたソファへと座る。

ドラコと彩芽も同じ様に座ると、店の男は向かいに座って笑みを浮かべた。

その笑みに、彩芽はダイアゴン横丁のある店の店主を思い出し、ああと納得した。

 

「私の名前はフィリップ・バーク。この店のオーナーです」

 

中肉中背のたまご色の髪をした男は彩芽とドラコにそう挨拶をすると、それで?とルシウスを促す。

 

「今日は購入の予定はないのだが……彼女に、この店の商品を見せてあげて欲しい」

 

「なるほど、では……少しばかり面白い品がありますので、少々お待ちを」

 

フィリップはにこやかにそう言ってソファから立ち上がり、部屋の隅にある棚から1つの箱を持って来た。

ドラコは興味深そうにその箱を見ている。

 

「……これはつい先日、手に入ったものでして」

 

お互いの間にある大理石のテーブルへ箱を置き、フィリップは芝居がかった様子でゆっくりと箱を開いた。

 

「フェリックス・フェリシス……幸運の液体です」

 

手のひらに乗るほどの小さな箱の中には、ふかふかの綿が詰められていた。

その真ん中に収められていたのは、金色の輝きを放つ液体を湛えた薬瓶。

輝いているのは、テーブルの真上に設置された照明が計算された角度と強さで薬瓶を照らしているからだが、そうだとしても綺麗な薬だった。

 

「ほう、フェリックス・フェリシス?」

 

今日は購入しないと言ったルシウスも、その薬を見て目の色を変えた。

 

「父上、これは?」

 

ドラコが尋ねる。

なにか価値のある薬だという事は伝わるが、具体的にはどういうものなのだろうか。

 

「幸運を呼び寄せる魔法薬ですよ、坊ちゃん」

 

「坊ちゃんは止めろ、僕はドラコ・マルフォイだ」

 

ルシウスの代わりに説明したフィリップの言葉に、不機嫌にそう名乗るドラコ。

フィリップは気にした様子もなく微笑むと、薬瓶をそっと持ち上げた。

 

「この薬を飲めば、幸運がその人物の味方をするのです。何かを成し遂げたいとき、その直前にこれを飲めば、驚くようにスムーズに事が運びます。ただし、その効果ゆえに公式な競技などには禁止されていますが。調合には高度な腕前と時間がかかるため、これが市場に出回る事は稀です」

 

キラキラと光を反射する黄金色の薬。

ルシウスは価格を尋ねるが、たった1回分しかないその薬には、驚くような値段がつけられていた。

その金額に、ルシウスは乗り出し気味だった体を深くソファの背もたれに返す。

物欲しそうな顔をしていたドラコも、父親のその様子に倣った。

 

その他、エルンペントの生首や、生きたスニジェット、ロウェナ・レイブンクローの髪飾りなどを取り出して見せるフィリップ。

彩芽は、髪飾りを見た瞬間それを凝視した。

黒ずんではいるが、鷲を模ったその髪飾りは細やかな細工がなされている。

磨けば今も美しい髪飾りとして使う事も可能だろう。

……しかし、彩芽の目に留まったのはその物が放つ気配だ。

 

禍々しくも嫌な気配。

先程、ルシウスから感じた気配をもう少し煮詰めたような。

そしてその気配をもっともっと、濃く煮詰めたらどうなるか……彩芽はそれに気付きフィリップを見た。

 

「この髪飾りはいくら?」

 

「なんだミナヅキ、こんな骨董品の髪飾りなんて買ってどうするんだ」

 

ドラコは薄汚れた様に見える黒ずんだ髪飾りを見て言った。

ホグワーツ創始者の1人、ロウェナ・レイブンクローが作ったと言っていたが、ドラコには全く価値のある物には見えない。

 

「ふふ、お嬢様はお目が高い。この髪飾りは、元々ホグワーツに隠されていたもの。それを誰かが学校から持ち出し、持ち主を転々としてここまでやって来たと聞いております」

 

フィリップはそう前置きして、彩芽に金額を提示した。

先程の幸運の液体より高い。

だが、彩芽は迷わなかった。

 

「では、その値段で買い取ります。ただ、今現在ここにお金はない……明日でも構わないかしら?」

 

「ええ、もちろんですとも。よろしければ銀行まで同行いたしましょう」

 

「正気か?」

 

彩芽とフィリップのやり取りを見て、ドラコが驚いて声を上げる。

 

「女が装飾品に興味を示すというのは知っているが、もう少し考えて物を買ったらどうだ?大体、お前はレイブンクローじゃないだろ」

 

自寮と関係深い品物であるならまだしも、ただ気に入ったと購入するには高価過ぎるとドラコは眉をしかめる。

 

「……貴方にとやかく言われる事かしら」

 

冷ややかな彩芽の声に、ドラコは口をつぐむ。

確かに、自分には全くもって関係のない事だ。

ルシウスも彩芽が髪飾りに興味を示したことや、その代金を簡単に支払うと告げた事に驚きはするものの、何も言わなかった。

 

「では、明日グリンゴッツでお会いしましょう」

 

フィリップと待ち合わせの約束をして、彩芽はマルフォイ親子と店を出る。

 

「どうかな、有意義な時間を過ごせてもらえたかな?」

 

ルシウスが問いかけて、彩芽はそれに頷いた。

 

「ええ、……本当に、有意義でした」

 

彩芽はそう言って口の端を上げた。

ドラコはその表情にぞくりと背筋に何かが走る。

そのまま彩芽と別れ、ルシウスとドラコは屋敷まで姿現しをした。

 

「父上……僕はミナヅキが嫌いです」

 

体を離すと、ドラコはルシウスにそう言った。

 

「なぜ父上はあいつを気にするのですか?あいつは、あのハリー・ポッターと仲の良い東洋人です。僕達とは違う……そうですよね?」

 

見上げてそう問いかける息子を見下ろして、ルシウスは笑みを浮かべた。

 

「そうか、ハリー・ポッターとは仲が良いのか……。ドラコ、私はお前にあの娘と仲良くなってもらいたいと考えている」

 

ドラコはどうして、と思う。

あいつは純血の一族ではない。

しかもあのポッターや魔法使いを裏切るウィーズリーと仲が良く、穢れた血であるグレンジャーとも友人だ。

そんな奴と、どうして仲良くなどと……。

 

「ドラコ、今はまだお前には伝えられないが……あの娘には利用価値がある。使いようによっては、今後の私たちの地位はさらに盤石なものになるだろう」

 

ククク、と楽し気に笑う父の姿を見ながら、ドラコはそれでも不安に思う。

父の言葉を疑う訳ではない……が、水無月は危険だとドラコの中で何かが警鐘を鳴らしている。

あの日、ロングボトムをちょっとからかってやったあの日……水無月の目が赤く光った気がした。

気のせいだったのかもしれないが、あの時、心臓を鷲掴みにされたような恐怖に支配されたのだ。

 

――正直に言うと、あの日以来、僕はアヤメ・ミナヅキが怖い。

 

ドラコは震える。

しかし、父親の言葉をはねつける事は出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、確かに」

 

翌日、約束通りにグリンゴッツ銀行で取引を終え、彩芽はロウェナ・レイブンクローの髪飾りを、フィリップは金貨の詰まった袋をお互いに確認する。

懐に金貨を仕舞うフィリップを見て、彩芽はその前にもう一袋、金貨をぶら下げた。

 

「……アヤメ様?髪飾りは1つしかございませんが」

 

「薬も売ってほしいの。あの金の薬を」

 

「ああ、それは構いませんが……」

 

フィリップは困った様に微笑む。

 

「今ここに持って来ておりません」

 

肩をすくめるフィリップに、彩芽は構わないと頷いた。

 

「そうでしょうね。私はあの完成した薬と、その作成のための材料が欲しい。……揃えられるかしら、その金貨で」

 

フィリップは袋を見た。

そしてそれを手に取り、中を確認する。

 

「1か月もあれば」

 

「送り先は、こちらから指示するわ」

 

「ええ、では揃い次第こちらからまずご連絡いたします」

 

恭しく礼をして、フィリップは人混みの中に去って行った。

 

「良かったのか、前払いで。場所が場所だし、あんま信用ある店って感じじゃなかったぜ」

 

氷炎の言葉に、彩芽は頷く。

 

「持ち逃げするなら、それはそれでいい。この髪飾りは手に入ったのだし。……それに、必要であれば表の店を訪ねればいいわ」

 

あっそ、と氷炎は答えた。

実際に尋ねる事になったら、それは楽しそうだなと少し思って口元がにやける。

彩芽のお金の使い方に、きっと内心首を傾げている事だろう。

 

「……で、どーすんの、その髪飾り」

 

昨晩、氷炎にはこの髪飾りからヴォルデモートの気配がすることを伝えていた。

クィレルにとりついていたヴォルデモートの気配……あれを薄めたような。

そして気付いた、ルシウスから感じた嫌な気配。

あれはもっと薄めたヴォルデモートの気配だ。

薄いといっても、少ししか感じられないとかそういう意味合いではなく。

悪意の濃淡、という意味だ。

それがどういう事なのか、今の彩芽には分からない。

が、この髪飾りが父親が未だ霞のごとく細々とではあっても生き延びている理由に繋がっていると、そう確信があった。

 

「以前あの人の持ち物だった、というような微かな気配ではないわ。むしろ、今ここにいると言った方が近い……」

 

「つまり?」

 

「手元に置き続ける事で最悪、私が乗っ取られる可能性もある。クィリナス・クィレルのように」

 

「そりゃ困るぜ」

 

氷炎が髭をそよがせた。

困ると言いながらその可能性はないと思っている様子だ。

 

「そうね。そうならない様に気を付けましょう」

 

彩芽は髪飾りの入った箱を懐へと仕舞い、ダイアゴン横丁の店へと足を向けた。

 

 

 

 

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