陰陽師の魔女   作:もんごめりあん☆紗波

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◇彩芽が子供らしくないせいで、スネイプ初めての子育て奮闘記……とはならない◇


共同生活

翌朝、目が覚めた彩芽は、そっと天蓋のカーテンの隙間から部屋を覗いてみた。

昨日はあのままベッドから出ずに寝たが、いつまでも籠っているわけにはいかない。

とりあえず、早急にトイレにも行きたかった。

 

朝、といってもまだ早朝。

スネイプも眠っているようで、微かに寝息が聞こえる他は静かだ。

起こしてはいけないだろうと、彩芽は静かにベッドから降りた。

氷炎を肩にのせ、足音を立てずにするりと部屋を出る。

 

トイレに寄った後、彩芽は地下の部屋には帰らず、そのまま地上に出た。

丁度日が昇るところで、ホグワーツの敷地が夜から朝に変わるのを眺める。

 

「……綺麗」

 

呟いた彩芽の耳元で、氷炎がフンと息を吐く。

 

「昔見た富士山の朝焼けの方が、よっぽど神秘的だったね」

 

皮肉屋の言葉に、彩芽が尋ねる。

 

「昔って、いつの事?貴方、富士山に行った事あったの?」

 

「……何年か前、テレビで観たんだよ。いつか本物も見るつもりだったけど」

 

悪いか、と言いたげな氷炎に、彩芽は黙ってその毛並みを撫でた。

しばらく撫でられた後、氷炎はポツリと呟く。

 

「覚悟は出来てる。気にすんな」

 

「ごめん」

 

「謝るな。嫌ならこんなとこまでついてきてねぇよ」

 

氷炎はそう言って、彩芽の肩から地面に着地した。

彩芽はそのまま、朝の稽古を始める。

 

父親を、ヴォルデモートを殺す。

それがここに来た目的。

これからその方法を探すわけだが、一つだけ、決定している事がある。

何にせよ、氷炎は死ぬ。

イギリスで彩芽が力を揮うには、ここは気の流れが違い過ぎた。

闇の帝王と恐れられているような相手と戦うには、今のままでは力が足りない。

ではどうするかと考えた時、一番確実な方法は一つだ。

 

氷炎を器に、力を貯めておく。

 

中途半端な術が通じる相手であれば、そのまま氷炎に攻撃させれば済む。

けれど万全を期すのであれば、氷炎を通じて彩芽が全力で術を使う方が良い。

ただそうなれば、十中八九器は壊れ、氷炎は死ぬだろう。

 

息を吐きながら、型の通りに体を動かす彩芽。

幼い頃から続けてきた習慣なので、体は勝手に動く。

葛葉には怒られるだろうが、この朝の稽古で体を動かしながらの考え事は、彩芽の癖だった。

 

「お前さぁ、地球最強にでもなるつもりか?」

 

「……っ!」

 

氷炎の声に、彩芽は突こうとした拳を止めた。

ハッ、ハッ、と短い息を繰り返し、呼吸を整える。

考え事をしていたのに、いつの間にか無心になって時間の感覚が分からなくなっていたらしい。

簡単にやって終わらせるつもりだったのに、気付けば本気でやってしまっていた。

流れてきた汗を袖で拭って氷炎を見ると、彩芽は何事もなかったように歩き出した。

それが照れ隠しだと分かっている氷炎は、くつくつと喉で笑い、後を追う。

 

 

 

地下の部屋に戻ると、スネイプはすでに起きていた。

彩芽が何かを言うより早く、不機嫌そのものな声が地の底から響く。

 

「どこに行っていた」

 

その怒気に、肩の氷炎が体を緊張させた。

彩芽はそれを宥めながら、目の前で怒っている人物を見る。

彩芽には、何故スネイプが怒っているのか分からない。

どう答えるべきか考えるが、どうも彼の望む答えは思いつきそうになかった。

 

「トイレに」

 

「我輩に嘘は通じんぞ」

 

嘘ではない。

それだけが真実という訳でもないが。

だが、スネイプは嘘だという確信があるようだった。

それは何故か。

 

考えて、彩芽は軽く首を振る。

まさかそんな事を、この人がするとは思えない。

だがその考えを否定するように、スネイプは続けた。

 

「もっとも、貴様が一番近いトイレを無視し、二番目に近いトイレも無視して、わざわざ遠くまで足を運んだというならば別だが……もちろん、その場合はきっちりと理由を説明してもらえるのでしょうな?」

 

「…………」

 

つまり、と彩芽は思う。

起きた時、彩芽がいない事に気付いたスネイプは、わざわざトイレまで探しに行ったという事だ。

不思議なものを見るように、彩芽はスネイプを見つめる。

 

母が決めた、彩芽の後見人。

毎年クリスマスにカードとプレゼントをくれたS.S。

でも、一貫して家族であることを拒み、彩芽を迷惑な存在だと思っている。

 

「よもや、我輩に説明出来ない事をやらかしたのではないだろうな?」

 

無言でただ見つめ返すだけの彩芽に、スネイプがイライラとした声をあげる。

彩芽はそれにようやく首を振った。

 

「トイレの後、外で運動を」

 

「運動だと?」

 

スネイプは疑わしげに片眉を上げたが、ふと撫子……彩芽の母親の事を思い出す。

毎朝の日課だと言って、何やら怪しげな武術を練習していた。

グリフィンドールの黒髪の男が、小気味よく投げ飛ばされるのを見て胸が空いたのを覚えている。

よく見れば、目の前の少女は平然としているものの、汗をかいた形跡がある。

 

「ならば最初からそう言え、馬鹿者!」

 

不機嫌に怒鳴り、スネイプは杖を一振りしてタオルを一枚呼び寄せた。

それを彩芽に押し付けると、そのままドアを開ける。

 

「朝食に行く」

 

言うなり、出て行くスネイプ。

彩芽は一瞬考えて、スネイプがドアを閉めなかった意味に気付く。

ついて来いという意味だ。

 

急ぎ追う彩芽の肩で、氷炎は呆れた様に呟く。

 

「すっげぇ偏屈」

 

彩芽はそれにどう答えていいか分からなかった。

 

 

 

 

セブルス・スネイプという人物が、彩芽には分からない。

突き放したかと思えば、放っておくわけでもなく。

大人かと思えば子供の様で、それでいてやはり大人。

 

彩芽はすっかり、どう接していいのかを見失っていた。

 

「なぁ、彩芽、この城すっげぇ気持ち悪い……」

 

嫌そうに言って、氷炎がバシバシと前足で階段を叩く。

その階段はといえば、今まさに彩芽たちを乗せたまま動いていた。

 

「文句言わない」

 

「くっそ、なんなんだよ!あっちもこっちも!」

 

階段が動き終わったのを見計らって歩き出した彩芽を追って、氷炎も続く。

 

「この動くやつ何の意味があるんだよ。あの像の裏の隠し通路も気に食わねぇ!あそこの布のとこにも、なんか隠してる。もーっ、気味わりぃ!」

 

文句を言いながら指摘して歩く氷炎の言葉通り、ホグワーツ内のいたるところに仕掛けがある。

彩芽はここのところ、城のあちこちを探索して回っていた。

いざという時のため、内部の構造について詳しく調べておきたいというのが半分。

後の半分は、スネイプと同じ部屋にいるのがいたたまれないせいだった。

 

最初の日、「我輩は新学期のための準備がある」とスネイプが言ったので、彩芽は大人しくベッドの上に座っていた。

特にすることもないので、大人しく座って、スネイプが魔法薬関係の本を捲るのを見ていたのに、だ。

何時間か後、スネイプはいきなり突っかかって来た。

それは我輩への当てつけか、とかなんとか。

どうもジッと見ていたのが悪かったようだと、彩芽はスネイプの部屋にあった薬学の本を借りて大人しく読むことにした。

そうしたら今度は、そんなゴマすりで我輩の点が甘くなると思っているのか、とかなんとか。

じゃあ、と陰陽術に使う札やヒトガタの予備を作れば、一体それでどんな悪戯をしでかすつもりだと怒る。

 

……どうしろというのか。

 

喉が乾かないのかと聞かれ、乾いていると答えれば怒る。

水筒に水を入れて持ち運べば、不満そう。

喉が渇いたと言えば、面倒だと大げさに言ったうえで紅茶を振舞う。

 

……どうしてほしいのか。

 

分からない。

全然分からない。

理解しようと頑張った彩芽だったが、もう限界だった。

 

そもそもの話、彩芽は他人とコミュニケーションを図るという事が著しく少ない環境で育っている。

親類との顔合わせも、最低限の礼儀を守って一言二言、言葉を交わす程度で、後は葛葉が会話するのを隣で聞いていればよかった。

家族は祖母のみで、普段のお喋りの相手はこの氷炎か、葛葉が使役していた屋敷の式神。

時折、屋敷の近くに住む狸の一家との交流くらい。

屋敷の外にはほぼ出ない彩芽は、人間とほとんど接触がなかった。

――そういうわけで、ここのところは地下を出て、城の探索に興じている。

 

「気にすんなよ、あんな偏屈の事なんてよ」

 

今朝も今朝とて、何故毎日同じ服を着ているのかといちゃもんをつけてきたスネイプを思い出して、氷炎が階段を一段ぴょんと飛び越しながら言った。

ここでの洗濯の仕方も、そもそも着替えが必要な事も教えず連れてきたのは誰だと言いたい。

自分も毎日変わり映えしない服を着ているくせに、と氷炎が返した言葉はもちろんスネイプには理解出来なかったが。

 

「偏屈とか言わない」

 

彩芽もその段を飛び越した。

落とし穴の様な階段など、一体なんの目的で作ったのだろうか。

呆れながら階段を上がりきった先には、ダンブルドアが待っていた。

 

「偏屈というのは、セブルスの事かの?」

 

にっこりと笑みをたたえて尋ねられるが、彩芽はそれには答えない。

注意深く探っていたというわけでもないが、先程まで、誰の気配も感じていなかった。

食えない人というのはダンブルドアの様な人を指すのだろう。

郷に入れば郷に従えの精神で、彩芽はこちらにいる間は氷炎ともこっちの言語で喋っている。

しかし、これからは日本語で喋った方がいいかもしれないと、彩芽は考え直した。

もっとも、この老人ならば日本語さえ習得済みかもしれないが。

 

「それはそうと、丁度良いところへ来た。アヤメに手伝ってほしい事があるのじゃ」

 

「……なんでしょうか」

 

たまたま出くわしたような口ぶりだが、実際は待ち受けていたのではないかと思う彩芽。

ダンブルドアはついて来てほしいと言って、先に立って歩き出す。

 

「こっちじゃ、アヤメ」

 

言われるまま進んだ彩芽が連れられて来たのは、4階の扉の向こうにある廊下。

その廊下にダンブルドアは跪き、仕掛け扉を開いた。

そしてそのまま、ツルンと落ちていった。

 

「じーさん、歳なのに頑張るなぁ」

 

感心したように氷炎が呟く。

彩芽はそれには取り合わず、氷炎を肩にのせると自分も穴に飛び込んだ。

 

「ふむ、せっかく構えておったのに、残念じゃ」

 

しばらく落ちた後、減速してふわりと着地する彩芽に、底で両腕を開いて待っていたダンブルドアが残念そうに呟く。

 

「私が飛べることは、ご存じなのでは?」

 

「もちろんだとも。だがの、頼ってくれても良いんじゃよ?」

 

「……いずれ、機会があれば」

 

素っ気ない彩芽に、ダンブルドアは残念そうに頷く。

 

「こっちじゃ」

 

まだ目的地ではなかったらしく、そのままどんどん奥へと進むダンブルドア。

一番最奥の少し広い部屋まで辿り着くと、ダンブルドアはくるりと回り、彩芽を振り返った。

 

「わしの見立てでは、今年、ヴォルデモートに何らかの動きがあるだろうと思うておる」

 

「……、……」

 

彩芽は口を開いて、閉じた。

表情に乏しい彩芽の顔は、ほんの少し緊張しただけだったが、内心では驚いて声が出ないというのはこういう事かと思っていた。

 

「……いきなりですね。根拠があるのですか?」

 

心の中で深呼吸をし、彩芽はゆっくりと尋ねた。

ヴォルデモートが失脚して姿を消してから、かなりの時間が経つ。

力を蓄え、動き出すのには、確かに十分な時間だろう。

だが、どうして『今年』と言い切れるのか。

 

「根拠はある。何事にも『理由』はあるのじゃ、アヤメ」

 

ダンブルドアは両手を広げてそう告げた。

その理由が何かは、言う気がないらしい。

 

「それで」

 

彩芽は目の前の老人を見る。

 

「私は何をすればいいのでしょうか?」

 

好々爺の様ななりをしているが、本当はどんな人物なのだろうか。

ダンブルドアはいつも、表情や仕草は柔らかくても、瞳は強すぎる光を放っている。

 

「わしは今学期、ここに大切なものを隠す予定じゃ。そして、ヴォルデモートは必ずそれを狙ってくるじゃろう」

 

それは予想ではなく、確信。

彩芽は目を瞑る。

 

今、ダンブルドアは狙ってくると言ったが、正確にはそうではない。

ヴォルデモートはおびき出されるのだ。

ここへ。

ハリー・ポッターのいる、この場所へ。

入り口から階段を少し下る、このすり鉢の様な形状の部屋は、そのために作られたのかもしれない。

 

「ホグワーツの教師達にも、様々な守りを施してもらう予定じゃが……アヤメ、君にもそれを頼みたいのじゃ」

 

ゆっくりと、彩芽は目を開けた。

そう言う事かと、内心で納得しながら。

 

「もちろん、お引き受けします」

 

ダンブルドアはそれに頷き、微笑んだ。

穏やかな、満足そうな顔で。

 

「そう言うと思うておったよ」

 

 

 

 

ダンブルドアといくつか打ち合わせをした後、彩芽は地下のスネイプの部屋へ戻った。

いつも帰る時間より、かなり遅くなってしまった。

ドアをノックするが、返事はない。

しばらく待った後、ドアを開けてみたが、中は無人だった。

 

「先に夕飯食べに行ったんじゃないか?」

 

「そう、ね」

 

ずっと一緒に夕飯を食べていたので、彩芽はてっきり待ちくたびれて怒っているかと思ったのだが。

でも確かに、いつまで経っても帰ってこない人間を待つ義理はないだろう。

少しガッカリしている自分に気付いて、彩芽は驚いた。

それは裏を返せば、待っていて欲しかったと思っているという事だ。

 

部屋に入って、スネイプがいつも座っている椅子に触れてみるが、温かさは欠片もない。

ついさっきまでここに居た、という事もないようだ。

 

「飯に行こうぜ。どーせ口に合わない洋食ばっかだろうけどな。あの偏屈な奴もそこにいるだろうし」

 

氷炎の言葉に頷いて、彩芽は部屋を出る。

ふ、と。

気配を察して廊下の先を見ると、スネイプの姿が見えた。

 

姿を見た瞬間、食べ終わって帰って来たのだと思った。

しかし次の瞬間、違うと分かる。

怒っている。

それもかなり。

 

「セブ……」

 

「この馬鹿者!お前は時計の見かたも知らんのか!」

 

大股でやって来たスネイプに頭ごなしに怒鳴られて、彩芽は混乱した。

 

「どれほど我輩の時間を無駄にさせる気だ!」

 

「あの……」

 

近くで見たスネイプは、服や髪に蜘蛛の巣や埃をくっつけていて、なんとも言い難い格好をしていた。

 

「遅くなるなら遅くなると……いや、そもそも遅くなること自体が間違いだ!今までどういう教育を受けてきた!やはりお前はあいつによく似ている、その規則を規則とも思わない傍若無人っぷりがだ!!当然、覚悟は出来ているのだろうな!」

 

怒鳴り過ぎて、だろう。

肩で息をするスネイプに、彩芽は何と返していいか分からない。

今まで彩芽の保護者だった葛葉は、激昂して怒鳴り散らす事はなかったし、そういう大人に出会った時は、表面上うまく付き合って、後は無視をすればよかったのだ。

だが、彼は自分の保護者。

その相手に無視をするという選択肢はなく、さりとて意味不明の質問の回答も彩芽には思いつかなかった。

 

そんな彩芽の代わりにスネイプに答えたのは、ダンブルドアだった。

 

「セブルス、初めての子育てに張り切るのは良いが……ちと、張り切り過ぎではないかの?わしの部屋まで声が聞こえてきたわい」

 

「……校長」

 

いきなりのダンブルドアの登場で、怒りに染まっていたスネイプの顔にほんの少し冷静さが戻る。

忌々しげに顔を歪め、口を結ぶ。

 

「それにのう、アヤメが遅くなった原因はわしにあるのじゃ。少し話があったので、引き留めておったんじゃよ」

 

「……ですが、それと時間を守らぬというのは」

 

「もちろんじゃセブルス!約束は守らねばならん」

 

言いかけたスネイプを遮って、ダンブルドアは大げさに言った後、「はて?」と、とぼけた様に髭に手を置いた。

 

「しかしのぅ、彩芽は何時までに帰る、というような約束を、してはいないと言っておったが……」

 

ちら、とスネイプを見る。

 

「そんなにも怒っておるのじゃ、もちろん約束しておったのじゃろう、今日は何時から夕食に行くので、何時までに帰るようにと」

 

もちろん、そんな約束はしていない。

彩芽の見ている前で、スネイプは完全にやり込められていた。

しかしダンブルドアはスネイプに対して意地悪過ぎるんじゃないだろうか。

ギリギリと歯ぎしりでもしそうなスネイプがあまりにも可哀想になって、彩芽は口を開いた。

 

「アルバス、部屋を出るとき急いでいたから、私が約束を聞きそびれただけかもしれません」

 

2人の視線が彩芽に向く。

ダンブルドアは面白そうに頷いた。

 

「そうかもしれんの」

 

「約束など、しておらん……」

 

それを、絞り出すような声でスネイプが否定する。

彩芽はスネイプを見上げた。

黙っていればいいものを、何故正直に言ってしまったのか理解できない。

 

「で、あればじゃ、セブルス。おぬしの言い分は理不尽じゃな」

 

ダンブルドアはあっさりとスネイプに注意すると、これで万事解決だと言いたげに手を打った。

 

「では、皆でディナーに行くとしよう」

 

気まずい雰囲気も物ともせず、ダンブルドアはスネイプに杖を一振りすると、そう言って歩き出す。

蜘蛛の巣も埃も消えて綺麗になったスネイプが、もの凄い形相で後に続く。

ダンブルドアは食えない人だし、スネイプは矛盾に溢れていると、彩芽は改めて思った。

 

 

夕食を終えて部屋に戻ると、スネイプは無言で机に向かう。

彩芽はベッドに上がり、隅の方で膝を抱えて大人しくしていた。

しばらくして何かを書き終えたスネイプは、それを彩芽に突き出す。

 

「我輩はお前の母親とは違い、規律を重んじる。我輩を保護者とするのであれば、しっかりと守ってもらおう」

 

羊皮紙を受け取り、彩芽は順番に読む。

起床時間、朝食の時間、昼食の時間、夕食の時間、就寝時間。

まだ乾ききっていないそれを、スネイプはひったくるように彩芽の手から奪い、壁に貼り付ける。

 

「セブルス、起床……」

 

「異論は認めん!!」

 

彩芽の声を遮り、スネイプが怒鳴る。

よほどさっきのが腹に据えかねたらしい。

彩芽は黙って寝ることにした。

規律を守るのは彩芽も好きだ。

ただ、あの起床時間だと朝の運動時間はほとんどとれないな、という事だけが不満点だった。

 

「偏屈で、頑固で、気の短い嫌な奴~」

 

氷炎が鳴いた。

確かに氷炎の言う事は間違っていない。

しかしスネイプは何故あんなにも、彩芽に対して怒り、怯えているのだろう。

内心首を傾げつつ、彩芽は黙って目を閉じた。

 

 

 

 




◇イライラしっぱなしなスネイプ。ダンブルドアは腹黒い。
彩芽がやってる朝の運動は太極拳の套路を祖母の葛葉が柔術などをブレンドしてアレンジしたもの。葛葉が生きて元気だった時は、組手も良くしていた。つまり、痴漢などしたらどうなるか……分かるな?◇
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