陰陽師の魔女   作:もんごめりあん☆紗波

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◇もし自分がホグワーツに入学するなら、杖はどの木にして何を入れるか。ハリポタ好きなら誰しもが通る道に違いない◇


杖選び

「杖はここにかぎる」とハグリッドが2人を連れてきたのは、狭くてみすぼらしい店だった。

 

『オリバンダーの店---紀元前382年創業 高級杖メーカー』

 

扉に剥げかかった金の文字でそう書いてある。

嘘か本当かは別にして、店内は確かに歴史を感じさせた。

細長い箱が天井近くまで積み上げられていて、下手につつけば崩れ落ちてくるのは必至だ。

 

「まもなくお目にかかれると思っていましたよ、ハリー・ポッターさん」

 

店主のオリバンダー老人がゆっくりとそう言うのを、彩芽は一歩退がった所で眺めていた。

ハリーにぴったりとくっついて、ハリーの両親の杖の事を話していたオリバンダーは、ハグリッドに気付くと今度はハグリッドの杖の話をしだす。

それからようやく、彩芽に気付いた。

 

「これはこれは……あなたのお母さんの杖もよく覚えておる。30センチ、桜の木にドラゴンの心臓の琴線。じゃじゃ馬の様な杖じゃったが、あなたのお母さんはそれが気に入られてな」

 

懐かしそうに目を細めるオリバンダーに、ハグリッドは不思議そうな顔をした。

 

「じいさま、アヤメの母親を知ってなさるんかい?」

 

オリバンダーは、ハグリッドに向かってぐるりと目を回してみせた。

 

「お前も知っとるはずじゃ、ルビウス」

 

ハグリッドはそれに眉根を寄せる。

 

「いんや、俺にそんな日本人の知り合いは……いや、そんなまさか……」

 

ハグリッドの彩芽を見る目が、みるみるうちに驚きで真ん丸くなった。

 

「おお、おお!どうして気付かんかった。お前さんの名前を聞いた時に気付くべきだったわい!」

 

ハグリッドは満面の笑顔で彩芽に言った。

 

「ナデシコ!お前さんはナデシコの娘だな!」

 

「ええ」

 

彩芽はそれにいつもの無表情で答える。

 

「母は、水無月撫子。ホグワーツの卒業生だと聞いているわ」

 

その、どこか人事のような言い方にハリーは首を傾げて、そしてハッとなった。

ハグリッドも、バツの悪そうな顔をしている。

 

「あー、悪かった。覚えとらんわな……」

 

「ええ」

 

彩芽は気にした風も無く頷いた。

 

「それよりも、早く杖を買わないと。オリバンダーさんが待ってる」

 

ハリーとハグリッドがオリバンダーを見ると、確かにじっと待っている。

彩芽はその話は終わりとばかりに、杖を物色し始めた。

 

その様子に、オリバンダーはカウンターに戻り、ハリーを手招きして近くに来るよう呼び寄せる。

そして、ポケットから巻尺を取り出して言った。

 

「どちらが杖腕ですかな?」

 

右利きと答えたハリーの右腕だけかと思ったが、あらゆる場所の長さを巻尺で測り始めるオリバンダー。

 

その間も、彼は独特の雰囲気で喋り続ける。

オリバンダーの杖は全て、強力な魔力を持った物を芯に使っているらしい。

ユニコーン、不死鳥、ドラゴン……その、体の一部を。

聞きながら、彩芽は考える。

芯もそれぞれ違うが、杖に使う木も、色々と違うようだ。

ここにあるオリバンダーの杖は、当然ながら西洋の材料で作られているものが大半だろう。

 

――とはいえ、神木で杖を作ったら、罰が当たりそうね。

 

ふと思いついた組み合わせを、彩芽は頭の中で否定する。

だが、面白い。

素材と芯の組み合わせを考えるのは、薬の調合に似ていた。

いつか自分で作ってみようか、などと考えながら、彩芽は魔力を放つ不思議な棒を眺める。

 

ハリーの杖選びにはかなりの時間がかかった。

次から次へと試しては、合わなかった杖が山のように積まれていく。

彩芽はその側で、時々ハリーの試し終わった杖を見ながら新しい箱に触れていた。

 

「必ずピッタリ合うのをお探ししますでな」

 

この難しい客に、オリバンダー老人は嬉しそうな顔をしながら、またもや合わなかった杖をハリーの手からひったくって山の上に積んだ。

 

「さて、次は……」

 

オリバンダー老人はそう呟いて、思いついたように1本の杖を持ってくる。

結果的にその杖は、まるで最初からハリーの物になるのが決まっていたかのように素晴らしい反応を見せた。

ひとしきり素晴らしいと褒めた後で、オリバンダー老人はブツブツと呟く。

 

「不思議じゃ……不思議じゃ……」

 

「あのう、何がそんなに不思議なんですか」

 

たまりかねたハリーがそう聞くと、オリバンダー老人は淡い色の目でハリーを瞬きもなしにじっと見た。

 

「ポッターさん。わしは自分の売った杖はすべて覚えておる」

 

オリバンダー老人は、芝居がかった様子で話し続ける。

彩芽はそれをぼんやりと見ながら、まだ自分の杖を物色していた。

ハリーの杖が『ヴォルデモート』の杖と同じ不死鳥の尾羽を使っている、いわば兄弟杖だと説明して、オリバンダー老人はしきりに関心している。

 

「彩芽」

 

氷炎の声に、次々に箱をなぞる彩芽の指がピタリと止まる。

彩芽も頷き、確信に満ちた声で言った。

 

「あった」

 

ハリーはオリバンダー老人を好きになれない気がしてきたところだったので、会話を終わらせる良い口実が出来たと彩芽のその声に激しく振り返った。

 

「これが私の杖」

 

彩芽は無造作に積まれている箱の1つを指して言った。

 

「ふむ、なるほどなるほど」

 

オリバンダー老人はひょいと箱を抜き取る。

崩れるのではないかと思ったが、不思議と箱は傾いただけだった。

 

「イチイの木……これはこれは。なんとも不思議な」

 

ハリーはハグリッドと顔を見合わせる。

 

「32センチ、不死鳥の涙の結晶……ふむ」

 

彩芽は渡された杖を手に取り、振る。

ふわっと小さな光がいくつか生まれ、爽やかな風と共に部屋を駆け抜けた。

 

「おお、見事じゃ」

 

「それで、この杖は?」

 

褒めるオリバンダー老人に彩芽が尋ねる。

 

「その杖に使われておるイチイの木は……」

 

「『ヴォルデモート』の杖と同じ木?」

 

『ヴォルデモート』の言葉に、オリバンダー老人もハグリッドもぎょっとした様に身じろぎをした。

 

「そう、そうじゃ。同じ木から作られたものじゃ。そして……」

 

「不死鳥は、ハリーとヴォ……」

 

「『名前を言ってはいけないあの人』!そうじゃ、同じ不死鳥の涙を結晶化したものじゃ」

 

『ヴォルデモート』と彩芽が言う前に、オリバンダー老人はそう一息に言い切った。

 

「不思議ね」

 

彩芽はそれだけを言って「いくら?」と尋ねる。

ハリーと彩芽はそれぞれ7ガリオン支払って店を出たが、その間中ずっと、オリバンダー老人は唸りっぱなしだった。

 

 

 

 

 

「私はここに迎えの人が来るから」

 

『漏れ鍋』に戻るなり、彩芽はハリーとハグリッドにそう言った。

 

「うむ……」

 

ハグリッドは唸っている。

店を出てからここまでの間中、ハグリッドが何と言おうと彩芽が『ヴォルデモート』と呼ぶのを止めなかったせいだ。

 

「あの、僕はマグルのところに帰るんだ」

 

ハリーは気まずい雰囲気を何とかしようとそう言った。

 

「そう、残念ね」

 

残念とは思ってなさそうな口ぶりで彩芽はそう言う。

 

「もう少し話してみたかった」

 

にこりともしない。

だが、言ってることは恐らく本心なのだろうとハリーは感じた。

半日だけだったが一緒にいて、ハリーは彩芽はただ思ってることが顔に出ないだけだと気付いていた。

 

「僕もだよ」

 

ハリーがそう言うと、彩芽の口元が少し緩む。

 

「ホグワーツで会いましょう……多分ね?」

 

彩芽が手を差し出す。

最後の気取った言い方は、例の洋装店の男の子の真似をしたのだと分かり、ハリーは噴き出して笑った。

しっかりと彩芽の手を握り返す。

 

 

「うん、9月1日に……またね!」

 

 

 

 

 

ハリーとハグリッドが漏れ鍋を出て行ってしばらくすると、彩芽は荷物を持って来た道を引き返す。

 

「やったなー、お前のお父上様とお揃いの杖じゃん」

 

周囲に誰もいなくなった途端、茶化す様に氷炎が話しかける。

彩芽はそれに、買ったばかりの杖を取り出した。

 

オリバンダーの言っていた、杖が持ち主を選ぶと言う話は、付喪神の様なものかと思ったが違うようだ。

ただ、確かにしっくりと馴染む感覚はある。

イチイの木だと言っていたが、年輪の丁度色の境で削り出したようで、杖は縦半分ではっきりと色が分かれている。

赤い方が年輪の真ん中側、白い方が外側か。

まるで陰陽の太極図のようでもある。

 

「イチイは東北では神木としても使われることがある木。そして不死鳥は東洋では鳳凰、五行で言うところの朱雀に当たる。厳密に同一ではないとしても、……私は気に入ったわ、この杖」

 

「……ま、そう言うと思ったよ」

 

どうでもよさそうに氷炎が相槌を打った。

氷炎にしてみれば、杖などどうでも良い道具だ。

なにせ、こんなものなくとも、彩芽は術を使える。

 

彩芽は杖をしまって、人気のないレンガの塀の前に立った。

待っていたかのように、タイミングよく背後に気配が現れる。

彩芽が振り向くと、予想通りダンブルドアが笑顔で立っていた。

 

「買い物は全て終わったかね?」

 

「いけしゃあしゃあだな、この爺さん」

 

氷炎の悪態に、彩芽も頷く。

ダンブルドアは氷炎の言葉が分からないので、小首を傾げて彩芽の返事を待った。

 

「ええ、終わりました。……偶然居合わせたハリー・ポッターと、ハグリッドと一緒に」

 

「それは何よりじゃ」

 

満足気に、にっこり笑うダンブルドア。

彩芽は皮肉を込めたつもりだったのだが、全く伝わらなかったらしい。

……いや、単に面の皮が厚いだけかも。

 

「さあ、帰ろうか。あまり遅くなるとセブルスが心配するじゃろう」

 

ダンブルドアが両腕を広げる。

スネイプが自分を心配するとは思えなかったが、彩芽は何も言わず素直にダンブルドアに掴まった。

 

 

ホグワーツに着くと、大荷物は先にヒトガタに地下へと運ばせ、彩芽はダンブルドアとゆっくり歩き出す。

 

「その術は実に便利じゃ。どれくらいの重さまで運べるのか、聞いても良いかね?」

 

「ここでなら、アルバス3人分くらいです」

 

ダンブルドアが興味深げに聞いてくるのに、彩芽は適当に答える。

もっとも、彩芽にも本当に分からないのだ。

日本でならダンブルドア100人分だって持ち上げられるだろうが、ここでは制限が多過ぎる。

事前準備なしに咄嗟に持ち上げられる重さ、と考えると、やはりそれくらいか。

 

城の入り口に足を入れたタイミングで、彩芽は隣を歩くダンブルドアに声をかける。

 

「ところで、アルバス」

 

「何かね?」

 

「今日、ハグリッドが貴方から頼まれた713番金庫の物……例の、ヴォルデモートが狙ってくるという大切な物でしょう?」

 

「いかにも」

 

ダンブルドアが頷く。

 

「あれは賢者の石じゃ」

 

「……それは、また」

 

彩芽は瞬きをした。

賢者の石とは、また凄い物を用意したものだ。

だが、合点はいく。

賢者の石は金を作り出すだけではなく、命の水の源にもなる。

ハリーが生き残った男の子と呼ばれてから今まで、存在すら確認されていないヴォルデモート卿。

力を取り戻そうとしているなら、喉から手が出るほど欲しい物だろう。

 

「ほっほっ、名前を聞いて理解するとは、アヤメは賢いのう」

 

ダンブルドアは目を細め、彩芽を褒めた。

 

「賢者の石を作り出したニコラスは、わしの友人なんじゃよ。以前から、これが狙われる可能性については話し合ってきた。それで、ニコラスはわしに預けることに決めたのじゃ」

 

ダンブルドアの言葉に、階段を降りる彩芽は内心眉を寄せた。

ポッター家が襲われてから今まで、かなりの年数が過ぎている。

その間何も対策をしていなかったのに、今回、この年に、ホグワーツで石を預かるというのはおかしな話だ。

どう考えてもこれは、ダンブルドアがヴォルデモートをおびき寄せようとしているとしか思えない。

 

階段を下りきると、ダンブルドアは歩きながら話を続けた。

 

「そういうわけで、わしは後ほどハグリッドから石を受け取る。以前頼んだ事は覚えておるかね?」

 

「ええ、もちろん」

 

「君に力を借りるのは、学校が始まってからになるじゃろう。夏休み中は石の事は忘れて、ゆっくりセブルスと過ごすのじゃ。たまには我が儘を言ってみるのも良いと思うがの」

 

ウインクを一つ、茶目っ気たっぷりに彩芽に向けて、ダンブルドアは地下のスネイプの部屋の前で足を止めた。

 

「我が儘、ですか」

 

「家族であれば、多少の我が儘は許してもらえるものじゃ。度が過ぎれば、それは良くない事じゃが……」

 

訝しげな彩芽に、ダンブルドアは微笑む。

 

「君は、もう少し甘えても良い」

 

「…………」

 

それはダンブルドアの見解であって、スネイプのものではない。

それに、人に甘えるという事が、彩芽にはよく分からない。

黙り込む彩芽を、ダンブルドアは微笑んだままじっと見ている。

 

「……善処してみます」

 

答えなければずっとそのままな気がして、彩芽はポツリと答えた。

それに頷くと、ダンブルドアはようやくその場を去って行った。

 

 

ノックの後、彩芽は返事を待ってドアを開けた。

いつものように机で作業しているか、ソファで本を読んでいると思ったが、ドアを開けるとスネイプが目の前に立っていて、彩芽は少し驚いた。

 

「……校長はどうした」

 

「恐らく、自室に」

 

ダンブルドアに用なのかと思う彩芽の前で、スネイプの目が左右に視線を送る。

ドアの脇に積まれた荷物を見て、スネイプは無言で杖を振った。

無言で荷物をベッドの横に積むと、スネイプは彩芽を見下ろす。

 

「ありがとうございます……」

 

よく分からないが、運んでくれたのだと分かり、彩芽は礼を述べた。

 

「単に邪魔だったんじゃねぇの?」

 

氷炎がぽそっと茶々を入れる。

もしも本当にそうなら、ありがとうじゃなくごめんなさいと言うべきだったと彩芽は考えた。

 

「全部買えたのかね?」

 

「はい」

 

結局どちらが正解なのか分からないままだったが、スネイプの問いに彩芽は頷いた。

そうか、と言って部屋に引き返すところを見て、ようやく彩芽はやはり親切だったのだと思う。

外に出ないのであれば、荷物が邪魔になるはずがない。

 

部屋に入ってドアを閉めた彩芽の鼻を、ふわりとダージリンの香りが掠めた。

机にティーカップが置かれているので、さっきまで飲んでいたようだ。

ベッドによじ登りながら、彩芽はスネイプが意外に紅茶好きであることを考える。

仕事で一息つく時は、必ず紅茶を淹れているし、茶葉も何種類かあるらしく、気分によって変えているようだ。

先程、荷物を無言呪文で運んだように、魔法使いは基本的に何をするにも魔法を使う。

スネイプも大体そうだったが、紅茶は時折マグルの様に手で淹れる事がある。

それはきっと、彼なりのこだわりなのだろう。

 

紅茶の事を考えていたら、無性に緑茶が飲みたくなった。

彩芽はホームシック気味になった気分を紛らわそうと、首に巻き付いたままの氷炎を片手でもふもふする。

ちらりとスネイプを見ると、黙々と机に向かっていた。

時折手を止めて、眉をしかめたり、はたと気付いたように別の書物を捲る。

ぼうっと見ていた彩芽は、このまま眺めていてはまた叱られるかもしれないと気付き、ベッドを下りた。

買ってきたばかりの教科書を探し当てると、再びベッドに上がる。

あえて魔法薬学を避け、考えた末に『魔法史』を開いた。

 

 

 

 

 




◇昔某方がスネイプ先生を無類の紅茶党として書かれているのを読んで以来、スネイプ=紅茶大好きのイメージが……。まあ、イギリス人はみんな紅茶党のイメージですが。そしてイギリスに旅行に行った友人が「紅茶は美味かった。……紅茶は、な」という感想をくれて以来、イギリスはとんでもなく飯マズのイメージです◇
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