紆余曲折...と言うにはドタバタしすぎていて、どうにかルウィーに入国した俺達一行は黒白ロムラムを抱え教会に向かっていた。
「しかし...人がいませんね...」
「そうだな。だいたい、殺したから。」
「...ルウィーは犯罪神発祥の地。犯罪組織の前身はルウィーを拠点にしていたようだからね。えー君にとって大事なこの国だけでは...感情で悪魔を演じていたのかも、ね。」
茜の言う通りかもな。
人のいない雪道を歩くこと数分。不意に人がごった返してるところを見つけた。
「はいはーい、よってらっしゃい見てらっしゃーい、犯罪組織マジェコンヌのマジェコンだよー」
「リンダ君かー。けど、この人の量どうしようね。放っておくわけにもいかないし私はちょっと黒君白ちゃん抱えてるから...」
「いいよ、俺がなんとかする。ギア、ラムを頼んだ。」
「はい...って、まさかまた殺す気ですか。」
「とりあえず主犯だけだ...一般人はマジェコンを持って使った瞬間に殺すだけだしな。」
「...えー君...」
シャドウ-Cに通常弾を仕込み、人影から銃口を差し向ける。
「よぉ、下っ端。単刀直入に...死ね」
「え、ぬわっ⁉」
下っ端への銃撃の瞬間下っ端はバランスを崩し銃弾を結果的に避ける。
「悪運だけは強い...だが、ここまでだ」
一発しかシャドウ-Cには装填できない。だから氷でナイフを作り、下っ端の喉元へ振るう。
が、突如横からタックルを受け、身体のバランスごとナイフが逸れる。地面に突き立てられたナイフは崩れ、下っ端は逃げる。さすがに立って追ってもあの逃げ足には間に合わない。
「...マジェコン返せよ!」
タックルをしてきたのは一人の少年。
この小さな体躯で俺のバランスを崩せたのは一重に腹の傷に他ならないが...その少年の主張には耳を疑った。
「やっと俺もマジェコンがゲットできると思ったのに...返せよ!」
お涙ちょうだいと言わんばかりにギャンギャン喚く。
周りの人間もそうだ、俺達にはマジェコンがいる、お金がなくてもゲームができる、そう主張している。子供のわがままで独りよがりな言葉から、それに端を発したように次々と大人までもが山のように喚くのだ。
「そんなの...そんなの間違ってます!」
ネプギアはそう言う。希望を信じたい女神としての在り方では100点満点だ。
だが、犯罪組織に所属させられていた茜はネプギアを止める。
「...言っても無駄だよギアちゃん。目の前に女神候補生がいても、この人たちは欲に目が眩んでいる。目先の欲と、その機会を奪ったえー君への怒りだけだよ。この人たちにあるのはね。だから、ギアちゃんは離れてて。でも目に焼き付けておいて。女神でも、救えないものがどうなるか。」
茜の目はこの有象無象の歪んだ内情を把握していた。把握してしまっていた。自分自身の意思とは反してその情報を把握していた。俺の中にある黒い何かもすべて。
「でも、諦められません!まだこの人たちは影さんと違って目に光はあるんですよ!?」
そう、こいつらの目は爛々と輝いている。欲という光に視界を奪われ、それしか見えていないのだ。目に光があるというよりも、むしろ光の残像が目に残っているといったほうが正しい。対して俺はどうだ。希望とはなんだ。女神を救うことが本当に俺の希望か?わからない。だが、今目の前にいる有象無象、マジェコンを求め群がる子供も大人も、俺はきっと殺すだろう。何のために?これが本当に女神のためなのか?何人殺しても変わりはしないというのに。頭ではもうそんなこと理解してしまった。演算ももうとっくにだ。だが...俺はこいつらを殺さなければ俺でいられない気がするんだ。
「ギアちゃん風情がえー君と有象無象を比べないでよ。」
茜はいつもの明るい声も、微笑みも浮かべずにネプギアにそう言った。
俺を本当の意味で見てくれるのは茜だけなんだと、同時にそう思った。
「えー君は...私でももうわからないほどぐちゃぐちゃなの。わかりたくてもわからない...大事な人を奪われて、記憶も記録も...存在なんてものが消されて...身体だって...今も傷がある中あんな中にいるの。わかるわけないでしょ、ギアちゃんには...生まれた時から、いつも誰かが自分自身を認めてくれていたギアちゃんにはわかるわけない!えー君がどうしてあんな目になっているのか...理解なんてされてたまるか!」
茜はそう叫んだ。有象無象の注目もそっちに向かっていた。
そうか、茜でもわからないのか。自分自身でもわかるわけないな、はは。
「茜さん...」
「いいよ、えー君。やっていいよ、泣いていいよ、壊れたっていい。私は...生きてる。えー君も生きてる。だからえー君の好きなようにやって。この子たちは、私が見るから。何も見ないように、私が見てるから...」
茜の悲痛な声が出る。
いつも快活で、元気な茜とは思えない声だ。
「あぁ...そうだな。そうするよ。」
有象無象の、少年から大人からすべての足元を凍結させる。
斬られた腹に走る一本の線。痛い、いたい、イタイ。
「何が痛いんだ...?どこが痛いんだ...?」
もうわからない。氷の刀を左手に生成し、俺をタックルした少年を見据える。
「あ...あぁ...やめろ、来るな...来るなぁぁぁぁぁ!」
ほんと、よく喚く。
「だめ、させません!」
「ギアちゃん!」
ネプギアが変身してこちらに飛んでくるが遅い。機械の左腕は振り上げるだけでも、氷の刀は力だけでも、ただの少年一人、深く斬れる。
「...!なんで、なんでですか!」
「なんでですか...?わからないのか?女神の敵をここで屠っている...それが今この状況だ。文句あるか?」
「...!文句しか、ないですよ!」
ネプギアはここぞとばかりに俺に向けてビームを撃ち放つ。
「だったらここの有象無象を一人でも生き残らせてみせろよ、女神様ならさぁ!」
変身できないし、腹も痛いが、動けない有象無象はネプギアの攻撃を鈍らせ、俺はその人間の壁をばったばったと斬り殺しながらネプギアと戦う。
「貴方は...!」
「止められるわけないだろ、お前が!返り血が暖かいと知らぬお前が!」
もはや服も肌も真っ赤だ。そして、ネプギアの攻撃を防ぐ壁ももうなくなった。
ついぞネプギアは一度も攻撃しなかった。誰も守れなかったのだ。
「それでも、私は...!」
「守れないさ、その程度では。度胸も覚悟も何もない。目の前の惨状を見て、恐怖ですくむ程度なら...俺を止めることなんて...夢のまた夢だ。」
肌や服、髪についた返り血を凍結させて落とす。
「救えないなら切り捨てろ。救う努力が無駄なだけだ。」
「そんなの...そんなのただの諦めじゃないですか!」
「あぁそうだ、諦めだ。女神と違って人間の時間は有限なのだから...全部を諦めないなんてことできやしない。さて...教会に行きたいが向こうからお迎えだ。まぁ女神候補生とブランの子の撃退、そして街での大量殺戮...素直に教祖の前まで連行されるとしよう。...茜。」
「そうだね。いるんでしょ、教会の人。私たち抵抗しないからさ、教会まで連れてってよ。この子たちもちゃんと返すから、さ。」
茜の声に反応するようにぞろぞろと教会職員が出てくる。
抵抗の意思は見せず、職員の指示通りに動き、教会へ向かう。
雪を踏む音は、俺の心の奥の闇によく響いていた。
次回、「太陽なくして影はなし」
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