ありがとうシモツキさん。
最初に言っておくと茜ちゃんはあとがき担当です。
では、どうぞ!
無という言葉がある。
無があるから有があり、有があるゆえに無がある。
だがしかし、今俺が置かれているこの状況は無...としか言いようがない。
「茜に起こされず起きるという時点で色々奇怪だが...一面真っ白で輪郭を知覚するにも苦労するような空間だ。それに...茜がいない。俺一人というのが何より謎だ。まるで切り取られたかのように俺だけ。」
だとしたら何からという謎があるが、不思議と変な確信もあった。少し前茜が話していた、よくわからない空間とそこで出会った六人と一匹。その写真と経験談。それとは同じとも違うとも言いきれないが...茜の話と何割かはこの状況は一致している。
「だとするならここに主犯か、あるいは俺たちの世界とは違う世界の誰かがここにいると考えるのが自然か。いや、不自然しかないが...」
なんにせよ一人でいるのは非効率的だ。もっとも、誰もいなかったらそれはそれで拍子抜けだが...そう思って、目の前の扉に手をかけ、押し開けた。
「こう何度もこういう所に飛ばされちゃうと...もう慣れちゃうよね。いや、前回が一番とんでもなかったんだけど...っと。こういう所に来た時にまずはじめに確認することは...やっぱりあった。」
もう何度目かにもなるこの次元と次元の狭間みたいなこの場所は、決まって中身が真っ白な本がある。装丁はいくつかあるんだけど、今回は赤色に黒縁の本。相変わらず中身はないんだけど...この赤と黒という色の組み合わせには覚えがある。しかも、この本の赤色は真っ赤というよりか少しくすんでいて...確か、茜色とかいう名前だったはず。
「茜色...てことはまさか...」
脳裏に浮かぶのはそれこそこの表紙のような髪色をした、元気で快活な一人の少女。
「まさかそんなに時間が経ってないのにもう再会するなんて...いや、まだそうと決まったわけじゃないんだけど...うん、ここまで露骨に示していたらきっと茜がいるはず!よし、行こう!」
意気揚々と私は目の前の扉を開けて、その向こうを見る。そこには茜はいなくて、かわりに銀色の長髪と左目を隠す眼帯、そして体全体を覆う真っ黒なコートが印象的な男の人が同じように扉を開けていた。
扉の向こうは広間、そしてもうひとつの扉。その向こうからは茜が見せてくれたあの写真に写っていたうちの一人だ。確か茜は『ぜーちゃん』と呼んでいたはずだ。もっとも、茜はそうとしか呼んでいなかったせいで本名はわからずじまいだが。
「......」
しかし、あちらとしては初対面なわけでありまして、いきなりそう呼ぶというのは抵抗がある。むしろ抵抗しかない。茜がいれば...!
「あ、あのー...」
できるだけ表情を変えず思考していたが、それを見かねたのかそもそも話を切り出す側なのか、こちらへ言葉をかけてきた。
身長は俺より少し低い。ちょうど茜くらいだろうか。だが、年齢がわからない。少しまだ幼さもあるからきっと年下だとは思うんだけど...
「...どうした?」
「あ、えーっと...ここ、なんだかわかります?」
「わかれば苦労しない...何を演算しても、出るのは0だけだ。...ところで君は。」
「あぁ、自己紹介がまだでしたね。私の名前はイリゼって言います。原初の女神の複製体...っていうものです。」
「複製体...イリゼ...あぁ、だからか。」
「だから...?」
「いや、気にしないでくれ。俺は影。凍月影。さてこれ以上どう名乗ったものか悩ましいが...一応24歳って言っておくか...」
原初の女神の複製体という単語が頭の何割かを支配している。義眼のアーカイブにもそんな単語はない。いや、それもそうか。茜が出会ったあの六人は俺たちの世界にはいないのだから当然といえば当然か。
「影...えい...えー...まさか!」
「まさか...茜が俺のこと話してたのか?」
「やっぱり...!」
「さてどこまで話してたのやら。いかにも、茜の親友の凍月影だ。茜が世話になったな。」
「いやいや、むしろ世話になったのはたぶんこっち...というか、実物はこんな人なんだ...」
「実物って...どんな言い方をしてたんだ茜は...」
「それは...もうすごい勢いとしか...」
俺のことを話す茜、か。茜がその現象に巻き込まれたのは世界再編の一年前、だから今から四年前か。そのころ俺は悪魔だったのだけど...さて俺はこの女神に説明すべきなのだろうか...いや、しないほうがいいだろう。むしろしたら面倒なことになりそうだ。
「そうか...さてでは本題に入ろう。単刀直入に...ここがどこかわかるか?」
「複数の次元が交わることができる場所...としか。」
「...なるほど。そういうことか。」
「えぇっ!?今のでわかったの!?」
「あぁ、とりあえず打つ手なしということがな。」
「あう...早速期待しちゃったじゃん...」
「茜の色眼鏡...とまではいかないけどあの子は俺を過大評価しているよ。こちらの欠点に気づかない子でもないし、それをわかっていてもそれが出てきてしまう。嘘がつけないかわいい子さ。うらやましいくらいに。」
ふと、茜にも面と向かって言ったことがないようなことが出る。
なんでかはわからないが...あのイリゼという少女からは何か...どことなく明やネプギアに似ている、そんな気がする。
茜の言ってた『えー君』にまさか会うことになるなんて...と思って会話すること数分。私はこの影君をすっかり信用していた。だって茜の大事な人だよ?友達の大事な人を信用しないなんて、友達...茜に失礼だもん。
「ねぇ、影君。」
「...なんだ、イリゼ。茜の親友だからといって信用するには早すぎないか?」
「そういう影君は私の事信用してるの?」
「...茜の友人。それだけで信用はできるよ。あの子の前で嘘はつけないのだからな。」
「ほら、してるじゃん。」
茜の領域把握は嘘発見器にもなるんだ...ほんとあの能力には戦慄しかないよ...というのはともかくとして、私たちは出会って数分だというのに共通の友人の話題で打ち解けたのだ。ありがとう、茜!
「ぜーちゃん、か。」
「ぶっ!?茜ならともかく不意打ちでそれはインパクトが大きいかな!?」
「茜もよく考える。確かにイリゼは言いにくい...そんなこと言ったら俺は影だからまぁお互い様か。ちょくちょくかげ、って呼ばれることも昔はあったし。」
「それはただの読み間違いじゃないかな!?」
打ち解けてからは...ご覧の通りです。すっごい軽くあしらわれてるというかこれじゃまるで子供扱いじゃないかな...
「そうとも言う...さて、広間の観測も終えた訳だが...端的に言えば何も無いな。」
「何も無い...?天井とか床とか壁とかも含みで?」
「あぁ...もはや壁を壊すのが正解な気がしてきた。」
「考えることが茜と同じ...!?」
「へ?」
きょとーんとする影君。さすがに茜から壁を壊した...なんて話は聞いてなかったっぽいからその事を説明するんだけど...
「はは...なるほど、打開のために茜は壁を壊したのか。なるほどなるほど。強度は把握できるからな。」
「笑うんだ...当時はもう何やってるのーって感じですごかったよ...」
「だろうな。だが...その茜の思考はこの状況でも助かりそうだ。観測していない一点があることに気づかされたからな。」
「観測していない一点...?」
そもそも観測ってどうやってしてたの?だって影君一歩も歩いてないじゃん。それこそただ右足を軸にして回っていただけ...ってことはつまり。
「あぁ。この、右足の下だ。」
そう言って影君は右足に力をかけ、床の一部が少し凹んだ。
同時に私たちの正面にある扉のない壁が下がっていって、その向こうには...
『グルルルル...』
エンシェントドラゴンがいた。
「エンシェントドラゴン...!?」
「いいや違う...皮膚が硬質化している...エレメントドラゴンだ。」
『グアァァァァオォォォォ!!!!』
いや、今までの経験上すぐに通路が出るわけはないって思ってたけど...前回が前回なせいでちょっとこれは予想外かな...!
「はぁ...やりますか。」
影君はコートの中から拳銃を取り出して...って、あれってたしかどこかの魔術師殺しさんが愛用しているあれだよね。一発しか装填できないやつ。
「あぁ、そうだ聞き忘れてたけど...前衛後衛どっち?」
「前衛だよ。変身できればいろいろできるけど...あいにくここじゃ変身できないみたい。」
「...そうか。それじゃあだいたい想定通りに事が進めば...」
「進めば?」
「次回にはあれは討伐できるな。」
「ちょ!?メタいことをいきなりぶっこむの!?」
「しかもこれで終わるの!?え、えぇ...」
茜「ぜーちゃんのツッコミスキルは健在だね!ちなみに笑うえー君は激レアだぞ!ぜーちゃんがうらやましい!それじゃあ次回予告!」
えー君とぜーちゃんが挑むは物質龍エレメントドラゴン!全身の肉質が20で統一されているバリカタ相手に二人はどう立ち向かう!?次回、『断章2 悪魔と原初と物質龍』
茜「さあえー君、コンボの時間だよ!感想とか評価とか待ってるよー!」