「イリゼ、戦闘直前にあれだがそこそこ大事な確認だ。」
バスタードソードを持ち、エレメントドラゴンを見据える私は影君の少しトーンの低い声に呼び止められた。
「なに、影君。」
「...モンスターも生物だ。機械系でもない限り血液が流れている...何かの拍子で返り血を浴びた時に困るものとかあるか?」
「返り血って......このリボンかな。とても大事なものなんだ...命より大事な。」
「...二年前の大きな戦いのときに相棒から渡された再会の約束みたいなものか。」
「うん違うよ!?でもそれぐらい大事なものという認識はあってるかな!?」
「オーライ。...できるだけそこには飛ばさないように演算するさ。んじゃ、前は任せた。」
「うん。でもどうしてそんな確認を?」
「昔そういう系の確認をせず好き放題やったらひどい目にあわされたから...とだけ。」
影君の言葉から出たのは決して穏やかではない単語。何があったんだろうとも思ったけど、もしかしたら汚してしまうかもしれないという『読み』は私にとってはただ事ではない。だけど同時に影君は『読み』というか推測が本当に得意なんだな...って思った。あの茜の把握の向こうに立つ難しさは私が身をもって知っているし、茜が私と影君が似ていると言ってる以上、私だってそれくらい考えることはできる。考えたくもないし、もしこれに危害が加わったら私は正気でいられるのかなとも思うけれども...
「んじゃぁ戦闘開始...跳弾は気にせず突っ込め。」
「うん!」
影君は別の拳銃を持って一発発砲。それと同時に私はバスタードソードを持って突進する。影君の放った弾丸はエレメントドラゴンの腕に当たって弾かれる。
「硬い...だとするなら...!」
『グアァァァァァ!!!』
無理に攻撃すればバスタードソードが刃こぼれしかねない。だから硬くなさそうなところを探すように見渡す。けど、そんなことをしている余裕なんてものはなかった。
「火球が飛んでくるぞ、二発は回避して三発目はこっちに来るから無視、奴の膝に刃を突き立てろ!」
「膝に...!?うおっと...!」
影君の声の通りに火球が二発こちらに、一発が影君の方に飛んでいく。戦闘管制、というのがちょうどいいだろうか。まるで相手のすべてを掌握しているかのような、そんな動きやすさも感じながら影君の指示通りエレメントドラゴンの膝にバスタードソードを突き立てて...!
「っ...!?」
弾かれた。通ると思っていた。けど、鈍い振動が腕までやってきて、身体が後ろに反っていく。バスタードソードも手から離れ、バランスは全く取れない。しかもエレメントドラゴンはそんな私を凝視していて、腕をふりおろしてきた。どう考えても避けられない。
「しまっ...!?まさか影君...!」
「いいや、完璧だ、イリゼ。これで奴に一撃通る。」
「え...!?」
鳴り響く発砲音。放たれた銃弾。その銃弾は振り下ろされていく腕ではなくエレメントドラゴンの頭...右目に吸い寄せられるように着弾し、エレメントドラゴンは大きくのけぞった。まさかここまで読んでいたの...?
「私を、囮に...!」
「前衛ってもんはそういうものだ。だがやはり脆いとは言えど目への一撃だけでは脳には届かんか...同じ手は使えないしそもそももうイリゼは無視されるだろうな。モンスターとはいえ生物。本能の赴くままに敵と戦うだろうさ。」
拳銃をしまいながら私の方に来る影君。一瞬私を始末するための動きだったんじゃないかってひやひやしたけど、単に私を囮にしただけ...って、結構酷いことやってるよね!?私死ぬかと思ったもん!
『グオォォォォアァァァァァ!!!』
そんなことを思っていると、隻眼になったエレメントドラゴンは怒り心頭という感じで影君をにらむ。
「うるさいっての...しゃぁない、加速式貫通弾をねじ込むしかないか。」
「弾丸に種類が...?って、来るよ!」
想定通り動いてくれたイリゼのおかげで一撃あいつに入れることはできたが、即死までは持っていけなかった。やはり出し渋りがよくなかったらしい。
「今計算してみたが22秒で事足りる。イリゼは指定したタイミングで2時の方向の壁にそれをぶっ刺してくれ。」
「壁に!?というか22秒って、え!?」
シャドウ-Cに加速式貫通弾を装填。振り下ろされてくるエレメントドラゴンの腕をどこ吹く風と無視して後ろまで走り抜ける。準備は整った。イリゼの身長から察するに一番投げやすい高さはもう算出済み。そして、エレメントドラゴンが振り向く。
「今!」
「せい!」
イリゼがエレメントドラゴンの後ろから己が獲物を投げる。完璧な位置と高さ。俺はそれで勝利を確信し、壁に刺さった瞬間のイリゼの剣を跳んで踏みつけエレメントドラゴンの頭の高さまで跳ぶ。
少し距離はあるがそのおかげでエレメントドラゴンは火球という選択肢を取った。それでいい。
「相手が悪かったな。」
加速式貫通弾と火球が同時に射出される。が、加速式貫通弾は加速度が加速度変化することでめちゃくちゃな速度が出る弾丸だ。この距離と、さっき放たれた火球の温度から算出するに、遅るるに足らず。
撃ち放たれた弾丸は火球を貫き、先の右目より少し眉間側に着弾する。その威力でエレメントドラゴンは大きく後ろにのけぞり、倒れ、そして二度と動くことはなかった。
「...存外あっけないものだ。」
排莢し、通常弾を込め、懐にしまう。イリゼもやってきた。
「あっけない...って、影君って結構ブラックな倒し方するんだね。」
「一番早いからな。タイプ一致急所だけで3倍ダメージ...相性もへったくれもないさ。」
仕留めきれなかったら組みついてナイフか最悪変身だったが...使う理由もないし手の内はあまり見せたくはない。
「これで...あ、さっきまでなかったのに扉ができてるよ!」
「...人為的なダンジョンかと突っ込みたくなるくらいにはあれな構造だ。さて...踊らされてやるとしますか。おちおち寝てもいられそうにねぇのが許せないところだが。」
結構脳を使ったからな、今回の戦闘は...もしこれぐらいの戦闘が続くのであれば...どこかで眠りたいものだ。
「影君って結構寝るタイプなんだね。」
「睡眠は大事だろ...今のうちに言っておくがもし長丁場になっても寝るのを邪魔されたら永遠の眠りを与えてやるからそのつもりで。無理やり起こしても同様に。」
「わ、わかったよ...それで、この扉開ける?」
「まだ眠くないしこの部屋はもう調べつくした。開けるのが丸い。」
「おっけー、それじゃあ開けるよ...!」
今回の扉はよくみる自動ドアだった。白い扉が両サイドに分かれ、俺たちはその向こうに進み、そして背後で扉が閉じてなくなる。なるほど。
「いやなるほどじゃないよ閉じ込められちゃってるよ!?」
「そんなこと論ずる前にわかりきっている。だが...この階層は...」
イリゼにはわからないだろうがここはそう、純粋な悪意を感じる。
悪意...言い換えれば負のシェアエナジー。そう言い換えればイリゼにも伝わるか。
「気を付けて、影君。ここは明らかに様子がおかしいよ。」
「あぁ...あれは...」
見るとそこには何かしらの機械。だがあれは...
「マジェコン...?いやでも摘発逃れのものがあってもおかしくないしそもそも少し形状が...」
「イリゼも知っているのか。なるほど話が早い。とりあえずあれを破壊する。存在してはいけないのがあれだ。」
「待って、そうさせる罠かもしれない!」
「だとしても、あれは人間の悪性の体現だ。悪は、より大きな悪に捕食されてから女神に滅ぼされるべきなんだからな。」
「捕食...?それってどういう...!」
銃声。金属音。破壊されたマジェコン。
「...なるほどそういうタイプか...イリゼ、俺の背中に隠れてろ。」
「え...?」
「お出迎えだ。」
直後、何かが壊れたかのような笑い声とともに銃弾の雨が俺たちの正面から襲い掛かってきた。
「えぇーー!?」
「面倒なことをしてくれる。」
左腕の義手から斥力フィールドを励起させ弾幕を防ぎ、弾幕の主たる存在を見やる。
「あれ...!」
「We need maje-con for playing game...そんな文字列を大仰に掲げた少年兵の集団か...さて、どうするイリゼ。武装解除もこの弾幕では接近すらできそうにない。次の階層に行くための手がかりもない以上...状況を打開するしか手はないが。」
「武装解除...うん、やろう。あの子たちだって、戦いたくてこんなことしてるわけじゃなさそうだもん。」
「果たしてそれはどうかな...あれは負のシェアの凝縮体、人類悪の一種。はぁ...すぐ片づけるから休んでろ。これは俺の領分だ。」
「領分...?」
見据えるはARを構える七人の子供。
イリゼの安全を考えると...ナイフよりは拳銃でいくか。
「すぐ終わるさ。」
斥力フィールドの裏から拳銃を取り出し、7連射する。
そのすべては少年兵の頭部に着弾、沈黙させる。
「...マガジン一つを使いきっちまった...終わったぞイリゼ。」
「終わった...?この状況の、何が終わったというの...?」
「そうだな、弾幕と敵の人生、か。そもそもあれが人間として生まれたのかは不明だが、負のシェアにより生命実体化なんてことは...正のシェアの権化たる女神が証明している以上可能なのだろう。先のエレメントドラゴン同様、相手が悪かった。それだけだ。」
女神、という立場なら...俺が抱いているイリゼへの何かしらの引っかかりからくるものがあるなら...イリゼは受け入れないだろう。
「ふざけないでよ!なんで...なんでそんなすぐに!そうだよ、あの子たちだって保護してちゃんと然るべきところで教育すれば...」
「人間と定義するには曖昧で、ARを持つことに、人向けることに躊躇がない奴らをか?」
「っ...それでも、茜なら...!」
「俺が好き好んで茜をそんな危ないことに加担させるとでも思っているのか...?」
「あう...」
詰まったのはきっと、イリゼも茜のことが大事だから。ますます、あの子を思い出す。多分生きてたら身長もこんくらいになってたんじゃなかろうか。
「...諦めろ、イリゼ。人間なんてものの根幹は悪以外の何物でもない。性善説を信じるのは勝手だが...現実はこうだ。」
「違う!性悪説なんて間違ってる!人は...信じることでどこまでだって強くなれる!」
女神としては、正しい。
だが、信じることは間違いなく隙になる。俺が一回経験したように。
「そう思っていた時期が俺にもあったさ。」
「だったら...!」
「だからこそ、俺は殺す。悪を滅ぼす巨悪でいい。悪しき人間は皆殺しだ。あの子たちが治める国に...悪人がいてはいけないんだ。」
「そんなこと...本当に望まれているの!?そんなことを!茜が言ってた茨の道を...まだあなたは進むと言うの!?」
茜が......だが、いや、そうだろう。俺がいない茜は、茜やブランがいない俺だ。
「あぁ。進むさ。道は作るものだしな。」
「...っ...だったら私は...そんなの間違ってるってことを伝えたい...言葉で伝わってないから...実力でいくよ...!」
「変身もできないのに、か。いや...だからこそなのかもな。そもそも女神は変身前でも十分強い...それに結局遅かれ早かれこうなってただろうな。光に生きるお前が眩しくて、あるいは闇に生きる俺が見えなくて。...来いよイリゼ。希望なんてへし折ってやる。」
よくわからない空間の第二層で原初の女神と審判の悪魔は互いの信条を掲げ、争うことになった。
これが後の窮地を破るきっかけになるとは二人は知る由もない。
茜「えー君vsぜーちゃんになっちゃったね。ぜーちゃん、私と戦う時の感覚でやったら一瞬でやられちゃうから注意してね?私はえー君を応援してるよ!」
次回、似てて真逆の二人が大激突!「断章3 対極にして同一」
茜「感想、評価、待ってるよー!」