再編世界の特異点   作:Feldelt

32 / 55
断章8 現空間が二つの次元の直積集合の部分集合であることの証明

影君のような何かを倒した後、影君はぐっすり眠り、私はまたまた手持ち無沙汰になったわけなんだけど...30分くらいなら思いついたことを手当り次第にやっていたら過ぎていく。

 

「ふぁぁ、さて、30分眠ったことだしいよいよ証明の時間だ。」

「起きたんだね影君。水あるよ?」

「サンキュ...」

 

影君の考えていることは私にはわからない。だから話してくれることを待つ。

 

「ふぅ...なぁイリゼ。仮定の確認だ。俺とお前のいる次元は違う。それでいいよな?」

「うん、そうだよ。」

「おーけー、じゃあ便宜的に名前をつけたいのだが...」

「名前?信次元だよ?信じるの信。」

「ほーん、じゃあ俺の次元を影をもじってA次元、信次元を信じる、BelieveとかけてB次元と呼ぶ。」

「きれいにAとBになったね...」

「それはいい。この時A次元の存在はA個の変数、B次元の存在はB個の変数で表される。」

「変数...!?早速わかんなくなってきた...」

「まぁ待て。簡単に言えば俺はA個、イリゼはB個の変数で表されるという仮定の話だ。ところで...今俺がお前の額を指で押すとする。この一点はA次元でありB次元であるわけだ。なんなら頬に手のひらを滑らせたら曲面がA次元かつB次元になる。」

「ナチュラルに優しい手つきでほっぺたを撫でられてただでさえ入らない内容がもっと入んないんだけど...」

「そうかい、まぁ簡単に言えばこの空間はA+B次元空間だ。であるが故に、俺とお前は存在できている。まぁこういうのを直積集合というのだがそれはまぁおいおいとして、さて、A次元かつB次元である空間だが、これはA次元の部分集合であり、B次元の部分集合である。また、ここがA+B次元の全体集合だった場合、どちらかの次元にしかいないものが全てなければいけない。当然俺たちだけじゃないはずだ。よってここはA+B次元の部分集合である。」

 

待った結果...さっぱりわからなかった。もう全く何を言っているのか...そういう世界。

 

「つまり...?」

「つまり、そういうことさ。まぁこれをどうこうしたところで脱出方法は未ださっぱりなんだけどな...」

 

そして影君の口から出たのはそれがわかったところでどうにもならないということ。

 

「それに人為的なのか自然にできたのかもまだわかってない、階層構造なのは一体なんのためなんだ?そもそも...なんで俺たちなんだ...?」

 

さらに湧き出てくる疑問。不思議に思うことはこれだけではとどまらない。

 

「なぁ、イリゼ。また何か見落としをしている気がするんだ。しかも根本的な何かを...すべてを打開できるやもしれないのに、何もできないこの見落としはなんだ...?」

「それを私に言われても...」

 

影君の思考を私が理解できていない以上、変に影君の考えにツッコミは入れられない。だとするなら...私が突っ込めるのは一箇所だけ。

 

「あ、そもそも考えるべきことが違った...なんてことはない?」

「......」

 

沈黙。影君は顎に手を当てたまま...微動だにしない。そして不意に「そうか」とだけ言って歩き始めた。

 

「何かわかったの...?」

「あぁ...お手柄だイリゼ...確かにここは直積集合、それは何も間違ってない。だが俺たちは元ではなく像だった。だからこの空間に適した諸々がある...何も間違ってないが...強いて言うなら感覚が違うんだ。俺たちは...写像の中にいる。」

「うん、わからないということしかわからない...!」

「だろうな...だがこの場合核が存在しているんだ。核空間というものだが...数学的にはそれは壊せないが『世界』という意味で『次元』という言葉を使ってるこの世界であるならば...核空間さえ何とかすれば、像は成立しない...つまりは帰れるということだ。」

 

影君は空中のとある一点にナイフの先を向けていた。

 

「ラストダンジョン...というかラスボス戦への準備はどうだい?俺はできてる。」

「私も...できてるよ。実感はないけどね。」

「...だろうな。それじゃあ核空間へ...行くか。」

 

そう言って影君は手元でナイフを動かして...瞬間、足元から視界から、何から何まで歪んでいった。

 

「──ッ!?」

「想像以上だ、これは...!」

 

そこはあまりに『無』を体現するにはふさわしい場所であった。

 

「何も、なさすぎる...!」

「いや、『無い』は『在る』...数学的に言えば、核空間は連立方程式の解集合...つまり零なんだ。この零を0出ない実数にできたのならOKなのだが...そうは問屋がおろしそうもない。なんせ法則への干渉だ...守護者みたいな何かがいるよなぁ...」

 

私たちの目の前には靄がかった龍。

あの巨人とはまた趣向の違う巨大な何か。

 

「はぁ...とりあえずあれ、片付けますかな...」

「うん!」

 

私はバスタードソードを、影君は拳銃を構えて、靄がかった龍に向かうのであった。

 

 




茜「えー君の言ってること、全然わっかんないなぁ...いや、もうほんと何言ってるの...?」

次回、断章9 零との戦い

茜「感想、評価等、待ってるよー!」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。