再編世界の特異点   作:Feldelt

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断章9 零との戦い

さて...核空間に入ったはいいが...まずここには重力がない。だのに身体が重い。長居はできないか。

 

「それにあいつ...何をどう演算しても0だけだ。空間もしかり、さっき俺たちがいた空間しかり...だからこいつを仕留めればいいんだけど...」

 

どうする。闇雲な攻撃は意味が無いし物理的干渉は...いや、やってみなくてはわからん。

 

「まず一発か...!」

 

コルトガバメントで一発頭と思われる部位に発砲するが全く何もないように銃弾は素通りしていった。

 

「素通り...!?」

「やはり...来るぞ!」

「えぇ!?」

 

Arms drive singllized!

 

変身できない上、無重力なこの空間ではまだ手負いのイリゼが狙われたら何かしらの向こうからの物理的干渉をされた時点で終わり。だから変身してイリゼを引っ張り距離をとる。とったのだが。

 

「...!?」

 

瞬間だった。なぜ避けられたのかはわからない。が。避けた先に棘があった。鋭く、確実に屠るという意志のこもった棘が。

 

「影君...!?」

「かすっただけだ...だが...手詰まりか?茜がいればとも思うが結局結論は同じだろう...思いつく方法はあのわけわからん龍に干渉できるようにすること。通常の物理法則なら向こうがこちらに干渉できるならこちらも干渉出来なきゃおかしい...!」

「来るよ!」

「ええい、考えさせろよ!しっかり掴んでやるからちぎれるなよ!」

「え、ちょ、むちゃくちゃなぁ!?」

 

イリゼをしっかり左腕で掴み、空間を縦横無尽に駆け巡る。避けるだけならできる、が...反撃となると...!

 

「影君、上!」

「...ッ!」

 

思考を挟めばその分周りが見えない。イリゼの声がなければやられていたな...

 

「こちら側の物理法則が成り立たない...それはおそらく次元が違うからだ...『世界』という意味の次元ではない、数学的別次元...だのに向こうからこちらに干渉できるのは奴の攻撃が乗算だからだ。0は何に掛けても0だからな...だからどうしようもない...対してこちらの攻撃は加算、あるいは減算だ。一度の干渉で0以外にはできるが...0以外には干渉できない。...とするならば...」

 

ひとつ思いついた仮説。だが...あまりにも巨大で弱点が見えない...!

 

「影君...?」

「掴んでいろ。」

 

黒切羽を展開してビームを撃ち込むと同時に奴の中に数本黒切羽をねじ込む。

 

「乱れ撃つ。」

 

ねじ込んだ黒切羽を狙ってビームを撃ち込む。無論黒切羽はビームを反射するが...

 

「────!?」

「効いた...?」

「身体の一部の成分が0でなくなった、だから通じたんだ、攻撃が...だが俺でできるのはせいぜいこの程度...奴を仕留めるには程遠い。...それに...!」

 

龍の攻撃が苛烈になる。イリゼを引っ張りながら避けるにも限度がある。

 

「倒しきれない、か...!」

「打開の手はあるが...賭けだ。イリゼ、お前に賭ける。それしかない。」

「私に...?」

「あぁ...お前の血液をさらっと調べたら、驚くことにほぼシェアエナジーでできていた。元来シェアエナジーというものはさっぱり構造がわからない。であるが故に...いや、説明する余裕もない。ぶっつけ本番、疑似シェアエナジーの弾丸をお前にねじ込む。」

「弾丸である必要性は!?」

「一瞬で終わること。減衰が少ないこと。そして何より、勢いがある。」

「勢いって...」

「安心しろ、死にはしないように細工してある。もっとも失敗した場合のことを考えると...いや、やめよう。できるだろ、イリゼ。」

 

イリゼに問う。無理やり変身させて手数と余裕を増やす作戦だ。

 

「うん、できるよ。影君は...そう信じてるでしょ?」

「まぁ、な。五分といったところだが。」

 

イリゼの言う「信じる」というフレーズは好きじゃない。だが...乗ってやるか。

 

「でも、頼りにはしている。」

 

擬似シェアエナジーの弾丸をシャドウ-Cに装填し、イリゼに向ける。

 

「銃口向けられるのは...やっぱりなんか緊張するね...」

「安心しろ、痛みは一瞬だ。」

「え、痛いの!?一気に不安になったんだけど!?」

「つべこべ言うなって、の!」

 

四の五の言うイリゼにもう合図もなしにシェアエナジーの弾丸を撃ち込む。

 

「しかもいきなり...!?けど、これなら...!」

 

イリゼを光が包む。こちらも本領発揮といこう。

 

purple heart

black heart

 

「さて...と。」

「いっちょ派手にやりますかね。」

 

duallized!

 

零なる龍を眺めるは、女神の力を纏いし悪魔と、原初の女神の複製体。

 

「182秒...それだけあればカタがつきそうだな。しかし、イリゼ...何か知らんが血の気が引いてきた。いや原因はわかるけど。」

「えぇ...ここから本番という時に貴方は何を言ってるの...」

「まぁいい、か。それじゃ...作戦は至ってシンプル。奴の中で俺らがドンパチやればいい。それだけで勝手に奴はダメージを受ける。こちらに干渉することができるのは攻撃の瞬間だろうからな。」

「それじゃ...こんなのはどう?」

 

イリゼはそう言って数本の剣を空中に精製した。それはまるで某英雄王のごとく。

 

「そういうことなら安全に行けそうさね。一応、乖離剣でも用意しておいてくれ。んじゃ...狙ってこい!」

 

俺は奴の中へ飛翔する。

 

「乖離剣って...けど、影君なら言うと思ったかな!」

 

イリゼが各種武器を俺に向けて射出する。俺は刀を顕現し、龍の体内で射出されてきた武器を滅多斬っていく。

 

「───────!?」

 

龍はそれはそれは苦しんでいる、だが苦しんでいる程度だ。そして向こうはイリゼに攻撃をしようとしている。だったら。

 

「イリゼ!来い!」

 

 


 

 

影君に呼ばれ、私も龍の中に入る。

実体も何も無いから入るというにもなかなかに変な表現なんだけど...問題は入った直後。

 

「...!」

「見切るか。」

 

影君の斬撃がしっかりと私の首筋を狙ってきたことである。共闘していたはずなのに...!

 

「どういう風の吹き回しかな?」

「おいおい、説明しなきゃわからないとか言わねぇよなぁ、原初の女神さん、よ...!」

 

まぁわかってるんだけど、影君の斬撃はよりキレが増して避けることが出来そうにない。いや、避けなくていいんだけどさ。

 

「全く...そうやって君は必要な情報も話さないんだから...茜もたまに困ってるんじゃない?」

「茜にわかるのは茜自身がわかる情報だけ。俺の深い演算は茜が預かり知らぬことが諸々ある...まぁだいたいその難しいところ以外は全部看破されるから困ってるのは...逆に全部説明した時かな!」

 

影君と会話しながら龍の中で切り結ぶ。

龍はその度に苦悶している。普通に中で斬ってるぶんには反応がないのに、鍔迫り合いなんてしてたら苦しそうにしている。なぜ?

 

「こいつは全て0でできている。0以外は実体だ。そしてこいつは外から0以外には干渉されない。だが中ならどうだ。さっき試したら効いた、それが答えだ。というわけで...長話もなんだ、大技で片付けよう。」

「言ってることの半分はわからなかったけどそれには同意だよ。それじゃあ...!」

 

私は長剣を高く構え、シェアエナジーを背中に集中させる。

 

「なるほど、だとしたら俺は...!」

 

影君は刀に雷を纏わせて私を見据える。

 

「《天舞陸式・皐月》ッ!」

「《紫一閃・雷波》ッ!」

 

二つの刃が点ではなく線でぶつかり、龍を裂く。

 

「出し惜しむな、すべて吐き出せ、イリゼェェェッッ!!!!」

「ッ...なら、望み通りそうさせてもらう!」

 

それで止めることなく私たち二人は押し合い圧し合い、龍のいたるところを駆け巡って最終的に弾かれて距離をとる。

 

「──────!?」

 

そして、龍は消え去った。

 

「存外あっけないものだったね...っ...」

「そうだな...傷が開いたか?」

「少し、ね。とりあえず女神化解除してゆっくりしたいよ。」

「周囲の状況がだいたい核空間に入る前になっている。崩壊したと考えるならこの空間もまぁ長くは持たないだろう。結局一体何のためにこの空間が作られたのかはわからずじまいだがまぁいいだろ。ゆっくり休め。いずれ時間が来るさ。」

 

影君はそう言って変身を解き、私も女神化を解いた。

胸の傷は少し開いていて、血も少し出ていた。

 

「...やっぱり開いちゃってたか...」

「...応急処置だ。」

「え?ちょ、冷たっ!?」

 

開いていたことを確認した後どうしようかなって思ってたらいきなり影君の左手が伸びてきて驚いて、そして急に傷の周りが凍っていくことでさらに驚く。

 

「動くな、服の繊維の水分までもっていくとこだったぞ。」

「う...ちなみに水分持ってかれるとどうなるの?」

「...簡単に言えば穴が開く。」

「ナチュラルに危険と隣り合わせなことをやるねほんとに!?」

「動かなきゃ何も起きないって...」

「いや事前になんか言ってよ!」

 

結果、止血はされたけど影君の自然なデリカシー皆無な行動にやっぱり慣れないことに。いや、まぁ...影君の性格的にあんまり会話をすることをしてこなかったのかな...なんて思った私。

 

(そういえば、影君と戦ったとき、影君は気になることを何個か言っていた...それに二回くらい戦ったり、行動していくうちにわかったけど、影君はきっと私には想像もできないつらいことを何回も経験している...茜の影君の話の後半がやっとわかってきたよ...)

 

「ったく...いちいち要求が多いんだよお前は...」

「逆だよ、全く要求されなさすぎなの、影君は!」

「そうは思わんが...でも数より質だからな、茜の場合...」

「質?」

「あぁ、俺が死ねば後を追うと宣言しやがった。」

「重い...ッ!愛が重い...ッ!」

「まぁこれぐらいが普通の世界だからな、俺の場合...いたって普遍な要求は逆に新鮮かつ不自然で驚かされるよ...さてと、お前の傷がふさがり次第、撤収だな。」

 

影君の言った撤収って言葉。そっか。この世界からそろそろ私の、影君は影君の世界に帰らないといけないんだ。

 

「撤収...そうか、そうだね。」

「俺から言わせてもらえるとするなら...本調子が全く出ない状況でよくもまぁここまでできたものだ...あー、早くぐっすり眠りてぇ...最低でも15時間...」

「寝すぎじゃないかなそれは!?」

「ちょくちょく寝てただろ?あれは応急措置なんだ。本来の睡眠の質には遠く及ばない...こう、安心感がどこにもない。戦場の最前線でいつ襲撃されるかもわからないまま安心して眠れないのと同じだ...」

 

影君の例えは妙に現実的で私の心はざわつく。

知っている、体験しているレベルの言葉の重み。そういえば影君は茜の話はしたけど自分自身の話は全くしていない。聞きたいわけじゃないけど...きっと聞いたら後悔しそうだけど、気になる。

 

「影君は...いままで何を見てきたの?」

「...地獄よりもひどい風景さ。自分自身が作り出して、自分自身で壊している、ただの地獄より酷い風景だよ。明、俺はどこで間違えたんだろうな。正しいと信じていたことは間違ってなかったはずなのに。」

 

遠くを見る影君は、悲しそうだった。

 

「きっと、何も間違えてないんじゃないかな。そう、信じてるんでしょ?」

「...今のは明に訊いたんだ、イリゼじゃない。」

「んなっ!?」

 

そんな影君の問いに答えたらあしらわれた。

うぅ、酷いよ、ちゃんと考えて答えたんだよ!?

 

「さて、と。感傷に浸るのもいいが最後の仕事だ、出口を探しに行こう。どうもここは不親切な設計で、ボスを倒して終わりじゃないらしい。」

「そう、それじゃあ、行こうか。」

 

そして私と影君は何もない空間を歩き始めたのだった。

 




茜「次回でえー君とぜーちゃんの話は終わりだよ!長いようで短かったね!そろそろ私の出番が欲しいよ!」

次回、「断章10 別れ」

茜「感想、評価等、待ってるよー!」
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