あの空間から帰って来たあと結局二度寝をし、茜とネプギアはルウィーで一日ゆっくり過ごし、今俺たちはその休みを取り戻すように気持ち急いでリーンボックスに向かっているのだった。
「茜、この近くに犯罪組織のアジトとか、そういうのはないのか?」
「そーだね。一箇所あるよ。...にしても、久しぶりだなぁ、リーンボックス。ほんとはあんまり来たくなかったんだけどね。」
「そうなんですか...?」
「うん、昔の話だけど、私はリーンボックスに住んでたからね。ちっちゃい頃に。」
茜の過去。そこから先を聞いたことのある俺は茜の話を遮ることにした。
「そうか...俺も世界を救うとは言えど...ここの女神はあわよくば切り捨てたいよ。」
「何を言ってるんですか!?」
「そーだよえー君。えー君の気持ちはわかるけど...世界を救うというのならちゃんと四人とも助けないと。」
「わかってる。冗談だ。私怨で国ひとつは見捨てねぇよ。」
「ガチのトーンだったけどね...」
実際ベールは俺には無理対面だ。どれぐらい無理かと言えば素手でダイヤモンドを割るくらい無理だ。無論ベール本人は過去のトラウマの原因とは全く無関係ではあるが...だがしかし死にかけた事実は恐怖以外の何者でもないわけであって。
「大は小を兼ねない...有は無ではないからな...」
「うん、ブランちゃんに聞かれたら殴られてるねえー君。私だからいいって思ってない?」
「どーどー、俺はもうこうとしか考えられないんだよ...ごめんよ茜。」
「はぁ。...そうしちゃったのは私のせいでもあったりするんだよね...えー君を歪めたのは私かもしれないなぁ...っと、ここだよえー君、ギアちゃん。私の知ってる犯罪組織のアジトは。」
「おーけー、コルトガバメントだけで十分いけるな。待ってろ。」
「......待ってる。」
茜の複雑そうな顔はまぁしょうがないな...なんて思いながら拳銃を手に突入する。中には中年男性が一人。
「動くな。お前が犯罪組織の一員か。アジトはどこだ、今すぐ言え。言ったら殺すのは最後にしてやる。」
「な、なんだお前!?犯罪組織ってなんだ...!言いがかりだ...!」
「皆そう言う。言うだけ無駄だ。俺たちに嘘は通じない。」
「待ってえー君。その人、嘘ついてない...」
なんだって...?だが茜の目が間違えるはずがない。というか、茜が情報を間違えた...いや、アジトを引き上げたと考える方が妥当か。
「私のミスだね...扉の修理費と修理の発注だけして行こうか...って...うそ...」
不意に、茜の視線が中年に向かう。
「どうした、茜...」
「......お父さん、だよ。私の...この人は。」
「は?俺に娘なんて......あぁ!?生きていやがったのか!?あの使えない女の落とし子が!」
「ひどい...」
「...っ!」
「待ってえー君!撃たないで!」
銃口を中年に向ける俺とそれを制止する茜。ネプギアだってひどいと言う、だのになぜ...!
「ねぇ、お母さんは?お母さんはどうしてるの?」
「あぁ?勝手に死んだよ。2年前にな。使えねぇなら使えねぇなりに使い道を作ってやったってのによぉ!」
「っ...!ふざけないでください!」
ついにネプギアも堪忍袋の緒が切れた。俺はとっくにブチ切れてるが茜が銃口の前にいるせいで撃てない。
「待ってギアちゃん...待って...!」
「どうして止める...茜...!」
シャドウ-Cを出しても中年には当てられない位置になるように茜は立っている。そうまでする茜の意図がわからない。
「人でなしでも私のお父さんなの。救いようもないけど、私の血はこの人の血を継いでるの。ねぇ、えー君。私はこいつが許せない。私にした仕打ちは到底許されるものじゃない。人として見られること、無かったからさ。でも、だけど...親なの。憎んでて恨んでてしょうがない、けど、親だから...私にやらせて。」
「......そうか。」
本来なら...ダメだというところだが。茜の言葉は否定をさせてくれなかった。だから俺はシャドウ-Cを茜に渡そうとして...油断した。
「んだと!?誰がてめぇなんかにやられるかよ!もっぺん痛めつけてやる!」
「っ!!......やめてっ...!」
「茜さん!」
「...!?ええい!」
中年はいつの間にかナイフを持ち茜に突っ込み、茜は動けたはずなのに硬直し、ネプギアはその瞬間に気づいたが間に合わず、俺は一瞬の硬直から左腕で茜を弾き、右手のシャドウ-Cでヘッドショットをしたかったが間に合わない。位置が悪い上にタイミングも悪い...!
「あうっ...えー君!?」
「ぐっ...残念右腕...!」
右手に握るシャドウ-Cは落下したが左手のコルトガバメントは無事だ。だったら、やることはひとつ。
「待って!」
「断る」
一発、二発と弾丸を中年に撃ち込む。
「ぐあぁぁぁ!?」
「急所じゃない...!?」
「あぁ...痛くて狙いが定まらなくてな...それにこいつもよく動くせいで急所には当たらねぇ...決めてくれ、茜...」
「......うん。」
三発、四発さらに撃ち込み、俺はネプギアの方に倒れる。
「大丈夫ですか!?」
「大丈夫と言えば大丈夫だが...ギア、せめて血がつかない位置にいてくれ。包丁を落とすから...使えるなら回復魔法、頼む...ぐっ...」
「抜こうとしないでください、すぐ病院に行った方がいいです...!」
「それは少し後だ...あの子を...置いてはおけない...」
動けない中年を前にシャドウ-Cを構える茜がいる。冷たく銃口を向ける、茜がいる。まるで俺のように、冷たい背中だった。
「...私に、ならよかった...とは言わないけど、えー君を傷つけた...私のせいとは言えど、えー君に手傷を与えたのなら...私は容赦しない。さよなら、お父さん。会いたくなかった。」
「ま、待て茜!話せばわかr」
乾いた銃声がリーンボックスの空に響く。確実に屠る一発の弾丸。ネプギアにもたれながら、俺はそのさまを見ていた。見ていただけだったのだ。
「...終わったよ、えー君。」
「そうか。...ごめんな。」
「なんで、えー君が謝るの...?」
「理由はないさ。ただ...感情があるうちに全部吐き出せ。俺が全部受け止めるから。」
茜が戻ってくる。これは本来、俺がやるべき事だった。だけど、茜にやらせてしまった。例えそれが茜の意思だったとしても、それだけは俺が一手に引き受けなければならないことだった。茜のシャドウ-Cを持つ手は震えている。俺は茜から返してもらったシャドウ-Cをなんとかコートの左ポケットに滑り込ませ、温もりのない左手で茜の頬を撫でる。
「えー君...」
「引き金は重い。命の重みだ。それを何回も引いた俺のこの手を、茜は握ってくれたよな...だから俺もそうする...その右手を包み込むさ。」
「ごめん、ありがとう...」
俺は茜の右手を握り、茜は俺の胸元で泣き始めた。静かに、静かに。
「最悪だな、今の気分は。」
青く澄んだ空が色あせて見えるほどに気分は最悪だ。どこからかやってきた教会職員がネプギアに状況の説明を求めていた。さて...このくっそ痛い右腕をどうしたものかな。
次回、第26話「歯車は欠けて狂って」
感想、評価等、お待ちしてます。