重い...身体が動かない...確か...何があった...?
「うぐっ...」
「影さん、起きましたか。」
「意識が戻ったといった程度だ...少しばかり記憶に障害も出ている...って、あれ、身体がどこも動かねぇ...」
身体を起こすにも腕も脚も動かないのではどうしようもない...
「落ち着いて聞いてください、影さん。影さんは現在、義眼の演算能力をフル活用した結果、脳に重大な悪影響が出ました。影さん自身、頭痛や急な眠気、疲労感などがあったはずです。」
「...あぁ。」
「意識が維持できないほどに義眼の力を使いすぎたということです。それで、私とブランさん、いーすんさんと協議したのですが...」
「まさかこいつを取り外すとでも言うんじゃあるまいな。」
「...それも考えました。ですが、影さんは義眼がなければこのように寝た切りの状態です。ですので...義眼の演算能力の稼働時間を15分に制限します。」
「...15分、か...どうにかならなかったのか?」
「理論値です。これ以上は伸ばせません。」
...15分の演算...おそらくこれを過ぎれば活動不可になるということだろう。
「そうか。」
「現在は義眼の再起動までは影さんは待機、私はギャザリング城にロムちゃんラムちゃんを助けに行きます。」
「虚夜光は倒した...余計な心配はおそらくいらないだろうが...用心に越したことはない、頼んだぞギア。」
「はい。」
ネプギアはしっかりと、次の目的を見据えた目をして部屋から去っていった。あぁ、この子はここまで成長したのか。さすが俺の妹...もう、すっかり追い越されてしまったかもな。
「...さて、いるんだろ、ブラン。」
「...気づいていたのね。完全に死角にいるのだけれど。」
「まぁな...それで...恨み言でも言うのか?」
「そうね...山ほどあるわ。山ほどあるけど...少し調べたいことを調べていたわ。」
「そうか。」
こうやってブランと言葉を交わすのはいつ以来だろうか。もう思い出せないし...あの頃にはもう戻れない。
「結果は私の予感通りだったわ。」
「...いったい、何を調べていたんだ?」
そこで生まれた間。本を閉じる音。
「...貴方が、黒と白の父親なのね。」
落ち着いた声音で彼女は言う。数多の感情を抑えて、ただ事実だけを言っている。
「DNA検査か。」
「ええ、あまりにもあの2人に似ていたのだもの。調べないという選択肢はないわ。...ただ不可解なのは...私の記憶の中に、そしてルウィーの記録の中に、貴方はいないということ。そしてそもそもとして...女神には生殖機能はないわ。あくまでも人間の女性の姿をしているのであって、形質は人間のそれではない...だのに、私は黒と白の母親であるわ。どちらも正しいのに矛盾でしかない...けれど...ひとつ仮説を思いついたわ。全ての辻褄が合う強引な仮説。」
「...俺にまつわる記憶と記録を世界の理と共に書き換えた...ということか?」
「...ええ。そして今この瞬間、仮説は真実であるとわかったわ。だから...」
不意にブランは立ち上がる。その時俺はブランの顔が見えた。落ち着いた...けど冷たい表情だ。
「てめぇは一体何をした...私たちを置いて何をした...!わからねぇ...てめぇを見るのは初めてのはずなのに、どうしてこうも心が苦しいんだよ!答えろ影!」
「っ......殺戮だよ。女神に仇なす人間の...」
「あぁそうだったな、でもそんなこと望んだか!?望まれたか!?余計なお世話なんだよ!」
ブランは俺の胸ぐらを掴みまくし立てる。余計なお世話...言われてみればその通りだ。
「それでも...余計なお世話だとしても...!俺は奴らを許せなかった...今もそうだ、挙句茜まで奪おうとしてる...!」
「てめぇは周りから奪っていったのに自分だけは奪われたくないとでも言うのか!?」
「あぁそうだよ悪いか?悪いさ、どこまでも外道さ。だがな...俺はもう二度と茜を失う訳にはいかねぇんだよ...わかるだろブラン...茜の友人ならわかるだろ...!」
眼光と眼光のぶつかりあい。譲れないものがお互いにある。
「っ...貴方は、茜の何なの?」
「生きる理由だ...俺は茜をもう一度失うなんてこと耐えられない...だから生きなければならない...死にたいほどに世界は俺を拒むがな...!」
「虫がいいにも程があるわね...!」
「そうだな...ただのクズだな...正直、俺はそんなに長くないとは思うさ。四六時中血を吐くわ思考判断するにも15分が関の山、人間ではない部分が多いとはいえデュアライザー越しでもシェアエナジーは体内を通り身体を蝕んでいる...次にデュアライズモードを使ったら身体が壊れるかもしれない。それでも...俺が始めたことだ、最後まで、最期までやるさ。」
吐露する。ブランの目を見てしっかりと、ゆっくりと、思いの丈を話す。
「っ......そう。...それじゃあもう何も言うことはないわ。貴方は世界一愚かで邪悪な犯罪者。犯罪神と共倒れになってくれればそれ以上のことはなさそうね。」
「そうだな...ネプギアの援護に行く。演算機能さえ使わなければ動くだろ。」
義眼を起動し、腕と脚が動くことを確認してベッドから起き上がり、武器や装備を整えてコートを着る。準備は整った。
「最後にひとついいかしら。」
「なんだ、ブラン。」
「貴方にとって、私は何?」
「...かけがえのない、愛する一人の女の子。」
それだけ言って、部屋から出る。扉を閉じる時、少しだけブランの表情を見た。残念ながら死角にいたから見れなかったんだけど...最悪の場合最後に見るブランの顔なんてことも有り得るかもしれない。
「はぁ...いつでも最後になり得るか...茜を助けても俺が死んだら意味ないってのに...」
目指す座標はギャザリング城。ネプギアはどこまで頑張っているのだろうか。分からないが...信じることしか今はできない。観測しなければ結果は分からないのだから。
「あれこれ考えてもしゃあない、行くか...」
教会を出て、変身して飛ぶ。次の戦場を目指して。
次回、第37話「ギャザリング城の激戦」
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