再編世界の特異点   作:Feldelt

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第38話 人の身に余るもの

「...それで、ネプギアの容態は?」

「そこまで深刻ではないわ。ここに連れてきた時に意識も認識もしっかりしていた。貴方のように記憶の混濁もない。少し休めば元通りよ。」

「そうか。」

 

現在俺はルウィー教会の謁見室でブランと会話している。なんでもあの剣についてわかったことがあるらしい。

 

「じゃあ本題に入るわ。影、あの剣は危険なものよ。」

「そんなことは見た時からわかっている。どのように危険なんだ。」

 

ブランがはぐらかすような言い回しから話し始めるとき、それは重大なことを表している。

 

「あの剣の名前はゲハバーン、端的に言えば...神殺しの魔剣よ。」

「神と名のつくものを確実に殺せるということか?」

「厳密には少し違うけど大まかにはそうよ。女神も犯罪神も、いとも簡単に殺せるわ。」

「...手放しで喜べないな、その言い回しは。それに、たとえこれで取り込まれた茜を斬っても...」

「茜を器として顕れたのなら...茜もまた神と定義される。茜から犯罪神を引きはがして実体化させれば話は別だけど...現実はそううまくはいかないわ。」

「だろうな...」

「...この神殺しの魔剣は...神を屠れば屠るだけ力を増す...」

「っ...!?」

 

それはつまり、女神を斬れば斬るだけ犯罪神そのものを屠りやすくなるということ。悪魔ですら恐れおののく悪魔のささやき。

 

「...その反応を見る限り...これが使われることはなさそうね。」

「少なくとも今は、だが...使うことがないのならそれに越したことはない。」

「そう。...これはネプギアに持たせておくわ。貴方が使うことがないように。」

「それはありがたい話だ。...墓場の様子はどうなんだ?」

「相も変わらず、変化はないわ。時々跳ねる力も周期的...逆に言えば、この周期が崩れた時が次の段階へ向かうということを示しているわね。」

「...そうだな。」

 

茜...どこまで耐えてくれてるだろうか...早く助け出さなきゃ...

 

「影、貴方も少し休みなさい。」

「犯罪組織の四天王と虚夜光を討った、これで終わらないのが現状だ。それに...シェアエナジーを感じる...女神であるブランならわかるはずだ。墓場の方角...マイナスのシェアエナジーが渦巻いて...その中心にどす黒い何かがあることが...」

「っ...貴方...シェアエナジーを感じ取れるの...?」

「そうだな。演算はなくてもうっすらと。だからここは居心地はいいし...心なしか気分もいい。...人の身には余るものだとは思うけどな。」

「ええそうよ、今すぐにでも...!」

「どうにかできるものでもないだろう。」

「っ...」

「デュアライザーの副作用だろう。茜が安全設計をしたとしても...常に限界ギリギリで使っていたんだ、こうもなろう。それに俺はほぼほぼ機械だ、そこまで重大な悪影響はまだない...だから今のうちに整えられるものは整えておきたい。戦力も、体調も...何から何まで。」

「...死ぬ気なの?」

「残念ながら死ねない...茜を助けるまでも、助けてからも...だからこそ...」

 

しっかりと、右目だけでブランの瞳を見る。

 

「俺は戦う。犯罪神から茜を奪い返すために。」

「そう...貴方はもう引き返せないところまで行ってしまったというのね...もう下がって。少し、一人になりたいわ。」

「そうか。」

 

俺の答えを聞いたブランは目を見開いて、目をそらして少し悲しそうな顔をした。わかってしまったのだろう。あの子は賢いから。

 

 


 

 

魔剣を持ってネプギアの部屋に入る。

 

「影さん...どうするんですか、これから。」

「なんだ、起きていたのか、ギア。これを持っておいてくれと、ブランが。」

「起こされたんですよ...なにか、今までにない何かの気配がしたので...その気配の出どころは影さんだったわけですが...あぁ...そうですか。」

「何を一人で合点しているんだ。」

「鏡を見てください。貴方の右目が全てを物語っています。」

「鏡?あぁ、確かここに雷銀式炸薬弾を作るために銀鏡反応をさせたペットボトルがあったな...って...これは...」

 

見ると、右目にはあの電源のマークが不完全にも浮き上がっていた。視界に異常はない。光彩のようなものか?いや、おそらくはシェアエナジーで構成されているということの証明。

 

「...どおりでブランも妙な反応だったわけだ。人の身に余る...そりゃそうだ。あの魔剣も、シェアエナジーも。だが、それは負のシェアも同じ...茜の身体は持つのか?もしそうじゃなかったら...いや、考えるのはやめだ...考えたくもない...」

「......」

 

会話が止まる。だが、それはドタバタとした足音がこちらに迫ったことで些事となった。

 

「リーンボックスから入電です!犯罪神と思われるエネルギー集合体がリーンボックスに向けて進行中とのことです...!」

「仕掛けてきたか...ロムラムを借りる。ラステイションにも連絡は行ってるだろうし......いけるか、ギア。」

「はい。戦います。」

「...無理だけは、するなよ。まだお前は完治してないし頭へのダメージは想定外の傷に繋がりかねないし何より...」

「一番無理している人にだけは言われたくないです!」

「っ...ぐうの音も出ん。...まぁいい、出るぞ。」

「よくないですよ...って、言っても影さんは聞きませんか。」

「あぁ、聞かないね。」

「はぁ...一人にするにはいろんな意味で危険ですね、ほんと。」

「誉め言葉として受け取っておこう、リーンボックスまでひとっ飛びか...空対地迎撃戦用意。リーンボックス教会に武装をいくつか置くように言ってくれ、現地調達できるように。」

「それ、私が言うんですか!?」

「冗談だ。武装はあればいいが...まぁ、最悪なくていい。」

 

教会を出て、涼風を浴びる。ロムラムはもう変身して待っていた。

 

「あ、遅いわよ二人とも!」

「早く、行こう...?」

「そうだな...全くもってその通りだ...」

「影さん...?」

「これから先戦うのは犯罪神とおぼしきエネルギー体。さて、それは茜なのか...?茜に収まりきらなかった力なのか...繭から解き放たれたのは何なんだろうな。」

「...行ってみなくちゃわかりません。それに、ユニちゃんもきっと...」

「そうだったな。行くぞ!」

 

 


 

 

意思を込めて空を駆け、たどり着いたリーンボックス上空。

 

「なんだ、これは...」

 

そこには目を疑う光景があった。

 

「さなぎ...?」

「さなぎよね...あれ...」

 

リーンボックス市街のはずれに一つの巨大なさなぎ。繭やもしれない。中で胎動する何かがあることは確かだ。

 

「ネプギア!影さん!」

「ユニちゃん!」

「ユニか...まずは教会に連絡を...」

「その必要はないです。」

 

ユニと合流。ユニ曰く、あの繭、さなぎは墓場から動いてあの場所で止まった。

 

「あれは犯罪神で間違いないです。そして...ネプギア。あるんでしょ、影さんが見つけた神殺しの魔剣が。」

「え、あ、うん。これを使うの...?」

「確かに茜の姿が見えないが...繭を壊せば中身は不完全な状態で出る...茜を完全に乗っ取る前である可能性が高い。やってくれギア。」

「...はい!」

「それじゃあ私たちは!」

「ネプギアをちゃんと送り届ければいいのね!」

「そういうことだ、幸い繭だ、動き回れば当たるまい、行け、ギア!」

 

繭から防衛の対空攻撃が来る。それを俺、ユニ、ロム、ラムが撃ち落とし、ネプギアは魔剣を持って突っ込んでいく。魔剣におびえているのかネプギアへの攻撃は苛烈だ。

 

「攻撃を集中すべきところがわかっている...厄介だな!」

「それでも届ける、この刃を!」

 

黒切羽を射出、ネプギアの進路をクリアにし、ネプギアはついに間合いに入る。

 

「せぇぇぇい!」

 

一閃。深くはない一撃だが、繭は声になってない悲鳴のような音を出す。そして傷口から消えていく。繭は外側から段階を経て消えていき、構造が見える。中心へ伸びていく...いや、中心から伸びていった組織。それがだんだん中心へ向かうように消えていく。そしてその中心には茜がいた。

 

「茜...!」

 

近づこうと思った。だが、名前を呼んだ直後に感じたのはどうしようもないほどの寒気。そして次に感じ取ったのは...!

 

「逃げろ、ギアァァァァッ!!!!」

 

叫ぶと同時に俺と茜は動いた。どちらもネプギアに向かって。

 

「ッ...速い...!」

 

ネプギアへ振るわれる大剣。間違いない、こいつは犯罪神だ...!

 

「間に合えぇぇぇ!」

 

ネプギアを右腕で押しのけ、左腕で斥力フィールドを展開しながら大剣を受ける。

 

「...ほう。それは機械か...」

「っ...てめぇ...」

 

大剣は俺の左腕を縦に真っ二つにした。ぎりぎり接続部に傷はない。

 

「影さん...!」

「下がれギア...こいつは犯罪神だ...」

「いかにも。我は犯罪神。ゲイムギョウ界の神が女神だけでないことをここに覚えよ。」

「...茜の声で、ほざけたことを抜かすな!」

「遺憾である...貴様であればこの器の力を知らぬわけでもあるまいに。」

「っ...!」

 

繰り出した斬撃はすべて避けられている。銃撃も撃つ前まではそこにいるのに、撃鉄を起こす瞬間にいなくなる。あぁ、そうだ。これが領域把握。茜の能力...!

 

「加えて、傷心たる貴様では我に傷をつけることもできまい。」

「てめぇ!」

 

耳元で囁かれた。それは「殺すこともできる」という余裕の表れ。振り払ってもそんなの読まれている。

 

「魔剣によって不完全な状態で解き放たれたのは驚きであったが...いやはや、この器...我の状態がどうであれ、最高の状態に維持できる...我の封印を解いたあの女め、よきものを用意するではないか。」

「虚夜か...奴はどこまで考えていた、それに...!」

「落ち着いてください影さん!今あなたが本気を出しても多分...!」

「あぁ、そうとも。我には及ばぬ。」

「くっ...だから見逃すと?」

「話が早いではないか。そもそも我が狙うのは女神のみ...そこにいるのはまだ女神となるにはひよっこの存在...であれば捨て置く。ありもせぬ我を打ち破る算段を考える時間くらい、好きなだけくれてやろう。悪い提案ではあるまい。そうだろう?悪魔を名乗りし...神に最も近い人間よ。」

「っ...クソが...」

「その悪態に免じて我は退こう。3日、3日で我を倒す算段を考えてみよ。できなかったのなら...全ての女神を我が消すだけじゃ。ではさらばだ人間、女神の卵よ。」

 

「消えた...」

「シェアエナジーも感知できない...ほんとに消えたって言うの!?」

 

どうする、どうする。3日。3日でどうやって犯罪神を茜から引きはがしながら犯罪神だけを殺せる算段を考えろと?無理だ、今さっき一瞬戦ってわかった。あれは純粋に茜の力を利用しているだけじゃない。茜の能力すべてを軒並み高く引き上げている。だから大剣の挙動に淀みが一切なく、領域把握の読みの能力もさらに異次元になっているんだ。ただでさえどうしようもないあの呪いのような能力がおそらく意識的に好きなように使えるなんてそんなもの...どうしようもないじゃないか。

 

「くそっ...どうしろって言うんだよ...どうしろって言うんだよ!!!!」

 

地面を叩く。右腕がしびれるほど強く。歯を食いしばる。俺を見る四人の女神候補生の視線が辛い。あの子たちも、今さっきの戦いでわかった。あれは、俺たち5人で戦っても傷一つつけるので精いっぱいだと。

 

「影さん...」

「ギア...俺はどうすればいい...考えられること、全部考えたんだ。結果は全部、負けだ。勝てない。例え3日鍛えたとしても、足りない...手詰まりなんだ...!」

「...私は...そうは思いません。」

「どういうことだ...?」

「...この魔剣を使えば...あるいは...」

「刃を通す前にやられるのがおちだ、それに!女神を斬るなんてそんなこと...!」

「っ...そうですよね...誰かに考え方が似ちゃったのかな...」

「っ......!......帰るか、頭を冷やそう...明日、女神全員をプラネテューヌに集めて会議だ...」

「わかりました。」

「...いいの?ネプギア。」

「いいの。影さんの考えてることは間違ってないから。」

「そう...それでアンタは辛くないわけ?」

「大丈夫だよ。私は大丈夫。影さんを一人にしちゃだめだから...そうじゃないとあの人はおかしくなっちゃうから。私は...あの人が壊れるところを見たくないだけだから。」

「はぁ...ずいぶん毒されたわね。」

「あはは...それじゃあユニちゃん、また明日ね。」

「えぇ...」

「ネプギアちゃん、つらそう...」

「ネプギア、あいつになんかされたの?」

「何もされてないよ。ただ...ほっておいたら、何するかわからないのが怖いかな。」

「あー...」

「ちょっと、わかるかも...」

「わかっちゃうんだ...影さんほんとロムちゃんラムちゃんの前で何やったんだろ...まぁいいや。ロムちゃんラムちゃんも、また明日プラネテューヌで会おう?」

「うん、わかった。」

「やくそくよー!」

 

ネプギア以外の女神候補生は各々の国に帰った。

魔剣...ネプギアの口から出たこと...それに思考ルーティン...

 

「さ、それじゃあ帰りましょう、影さん。」

「ギア......そうだな、帰ろう。」

 

立ち上がる。変身はとっくに解除されている。どうしようもない絶望感。やはり考え直しても手詰まりだ。

 

不意に、ネプギアの頭にまだある大きめの白い絆創膏が目につく。

 

「ギア...」

「はい?なんですか影さん。」

 

右手をその絆創膏に走らせる。まだふさがってないからつけている。ただそれだけのことなんだ。だのに俺は怖がっている。この子がまたひどい目にあうことに。

 

「どうしたんですか影s...!?」

 

気づけば俺は右腕だけでネプギアを抱きしめていた。何も言わずに、ただ、抱きしめていた。

 

「...手遅れになっちゃいましたね。」

「...そうだな...もうどうしようもない。」

「はぁ...どうして、こんな優しい人が悪魔なんですかね。」

 

そのネプギアの疑問には答えられなかった。答える資格なんてない。俺はただ、腕に込める力を強くしただけだた。




次回、第39話「最後の選択肢」

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