ギョウカイ墓場に着いたのは、犯罪神が動き出す1時間前だ。プラネテューヌでできる限りの準備をし、今に至る。
「...ついに来たんだな、この時が。」
「はい。...行きましょう、影さん。」
「あぁ...これが最後だ。」
ギョウカイ墓場の最奥部へ足を進める。
「来たか、人よ。」
「...茜の声でふざけたことを抜かすな...犯罪神。俺はお前を屠るために来ている。」
「そのための刃を持ってきたと...ほう...ほほう...面白い、面白いぞ人間...ただの一人のために女神を討つと...!」
「俺の選んだ道だ。さぁ、返してもらうぞ。」
「来い人間。そして唯一生き残った女神よ!」
変身して銃剣を構える。まずやるべきは茜の身体から犯罪神を引きはがすこと...!
「でやぁぁぁ!!」
銃剣で斬りかかり、それを躱されるも二撃目三撃目を叩き込んでいく。当然避けられるし防御もされるが...!
「っ...ほう...」
心なしか、犯罪神の動きが前より鈍い。茜をより取り込んで領域把握を満足に使えるはずなのに...何故だ。
「ギア、援護射撃頼む。理由はわからんが奴の動きが少し鈍い。...だからここで片づける。合図したら魔剣をくれ。」
「はい!」
理屈を考えるのはあとだ。あるいは並行してやるしかない。鈍いと言ったって、気を抜けば簡単に致命傷くらい与えてくる。
「偶然かあるいは必然か...いずれにせよ、まさかこの私がいわゆる不調となるとはな...!人の身に宿った副作用というところか...」
「人の身...不調......そういうことか......」
ずいぶんと都合がいいこともあるものだ。だが...たまたま今日がそうだというのならこの機は逃せない。どうやら俺は見放されてはいないらしい。
「くくく...この力の弱点も同時に思い知らされるとは...面白い日となった、そうは思わんか人間。」
「残念、俺は悪魔だ...人間という枠にはもう収まらねぇよ...ギア、魔剣をくれ。」
「もう、ですか...?」
「あぁ、存外早くに終わらせられる。」
「そうか...思いあがったな悪魔よ。」
「そりゃ悪魔だからな!」
ギアから魔剣を受け取ると同時に重い大剣の一撃が来る。そのまま魔剣で防ぎ、そこでまた違和感を覚える。
「やはり神殺しの魔剣...忌々しいほどの輝きよ!」
「...反転している...あぁそうだった。神殺しはあくまで結果...その本質は刃が触れたシェアエナジーの指向性と真逆のシェアエナジーを生み出しぶつけることで零に帰し糧とするもの...!この負のシェア渦巻くギョウカイ墓場ならば...この魔剣はある種聖剣ともなれる...面白い...!」
「だが、その程度の量では我を引きはがすことなど...!」
「...そうだな...だが、ここには俺が生み出したどうしようもないほどの怨念がいまだに跋扈している。それに、俺自身にも...!」
ゲハバーンはより虹色の輝きを増していく。『凍月影』に対する負の感情があればあるだけ、強く、強く。そして己の中に巡る身体を蝕むシェアエナジーも俺自身の後悔や苦しみ、過去の積層、罪の鐘楼をもとに負のシェアとして溢れる。それも魔剣の輝きを増す燃料である。
「なっ...」
「眩しい...でもそんなことをすれば影さんは...!」
「がふっ...よりシェアエナジーの影響を強く受け身体がもたなくなる...だからどうした。」
血を吐く。それがなんだ。茜を救うためならば俺は命以外はなんだって捨ててやる...!
「俺の身体を貸すぞ、触媒にでもなんにでも好きに使え...!」
「その覚悟...気に入った...!」
「ここからいなくなれ、犯罪神---ッ!!!!」
虹色の光の奔流が器である茜を覆う。これで、犯罪神を茜からはじき出して...実体化させる!
「ぬおぉぉぉ...おのれ人間...我の本当の姿をさらすことになろうとは...!」
「いけ、ギア...!」
「...!はい!」
犯罪神を完全にひきはがしたことを確認した俺は茜を抱きかかえ、魔剣を直上に投げる。その柄を握ったギアをみやり、茜とともに距離を取る。
「これで、終わりです...!」
「ぐうぉぉぉぉ......この力...なるほど我を屠るには過大ともいえる力...積層されゆく神殺しの連鎖...なるほど...だがこれほどの力...何も我が世界を滅ぼす必要はなかったということか...」
「何を...!」
「今際の戯言にすぎぬさ...唯一の女神よ...いずれ、世界が廃れゆくときにでもまた会おうではないか...ではさらばだ...」
「どういうことですか...!」
ギアの言葉は犯罪神が消滅したことで虚空に消えていった。
「...倒したな...あとは茜が目覚めれば...だがそれはプラネテューヌに戻ってから...だな...」
「影さん...?」
「大丈夫だ...さっきの副作用で全身が動きにくくなっただけだ...それだけのことだ...帰るぞ...」
「はい。」
茜をお姫様抱っこで抱きかかえ、プラネテューヌに帰る。あとは、目覚めてくれさえすれば...全部終わる...
プラネタワーの一角でベッドに横たわる茜を見ながら俺は朧げな意識を義眼の力で無理やり繋ぎ止めていた。
「目覚めてくれ、茜...ここにはギアと...俺がいる。俺が生きているんだ...まだ無様に生き残っているんだよ...だから...目覚めてくれよ...茜...」
「いい加減休んでください影さん。もう7時間も起きっぱなしじゃないですか。」
「休めるか...休む理由も何もない...俺は茜が目覚めるまでは...戦いは終わったとは思えない...だからだ。今ここから離れるわけにはいかない。」
「無茶苦茶ですよ...それに...考えたくもないですが茜さんにまだ犯罪神の何かが残っていたら...」
「...神を恨むよ。」
「女神に向けて言うことですか、それ...」
そんな会話をしながらも、茜が目覚める気配はない。
「義眼の観測、演算によると...茜の全身にまだシェアエナジーの残滓は残っている...いわば俺と同じ状態だ...俺は高純度のシェアの力を身体を通して使ったことによる副作用、茜は犯罪神の器となって全身にシェアを纏った副作用...もはやお互い人間とは言えないな...」
「そんな...」
「...だからこそ、俺には茜が必要なんだ...人でも神でもないのなら...もう、すがることができるのは...茜だけなんだ...」
茜は生きてはいる。それはわかっている。だのにまだ目覚めてくれない。焦る心もある。だけど俺は待つことしかできないのだ。
「...身勝手ですね、影さんは。」
「今に始まったことじゃないくらい、わかってるだろうに...」
「まぁ、そうですね...でも、あなたをどれだけ恨んでも斬る気になれません。むしろ...貴方は生き続けることの方が罰なのではないか、そう考えてます。」
「...もう普通に死ぬことはできないからこそ、生き続けろ、か...あるいはただ一人の女神を一人にしないための生き地獄、か...でも、そうかもな...」
生き続けることが罰になる、か。ネプギアも考えたものだ。しかもそれは全く、間違いではない。
「...でも、それは...」
「...っ!?」
茜の声が聞こえた。反射的に俺はベッドに目を向け、本当に茜かどうかがまだわからないからゆっくり近づく。
「私もでしょう?えー君。」
「茜...聞いていたのか。」
「そーだね...ありがと、えー君。助けてくれて...」
「...あぁ...どういたしまして...けどそれは俺よりも女神たちに言ってくれ...」
「...もう言ってきたよ。あの光の奔流の中で、ね。」
「...そうかい。...おかえり茜...待っていたよ。」
「ただいまえー君。それに、ギアちゃん。」
「おかえりなさい...茜さん。...これが、お姉ちゃんが望んだこと、なんですよね。」
ネプギアの目はまだ少し曇っている。まぁ無理もないか。
「ねぷちゃんはにっこり笑ってたよ。羨ましいくらいに。」
「っ...そうですか...お姉ちゃんらしいな...」
「そうだな...」
ふらり、安堵して油断した隙に意識が飛ぶような感覚がした。
「あうっ...えー君、頑張ったんだね...私を助けるために、ねぷちゃんも、ノワールもベールも...ユニちゃんロムちゃんラムちゃん...黒君と白ちゃんも...そしてブランちゃんも...みんなみんな、えー君の心と一緒に殺したんだね、えー君の手で...」
茜のふとももの上にまるで吸い込まれるように倒れこんだ俺は、直後にその茜の言葉を聞いた。頭には優しく暖かい手が乗せられていた。
「わかる...よな、茜なら...」
「知りたくなかったけどね。...ギアちゃん。」
「は、はい!」
急に呼ばれたギアは驚いたような声音を出した。
「私たちの事...恨んでる?」
「...そうですね、恨んでます。でも、どうしてわざわざ訊いたんですか?」
「声として聞きたかったからかな。事実、えー君は恨まれて憎まれて当然なことを平然とやってきたからね。...同時にどうしようもないほどに壊れていって...もう一つ聞いていいかな、ギアちゃん。えー君は...諦めようとした?」
「いいえ。一度たりとも...止まろうとも引き返そうとも...投げ出そうともしませんでした。怖いと思うほどに...影さんは初志貫徹し続けたんです。」
「そっか。」
「...まだ起きているんだが...」
「わかっててやってるんだよ。」
茜は俺が寝ている時に問うような質問を二つ投げかけ、ギアはそれに二つとも答えた。茜の反応から見るに、ギアの返答は想定通りなんだろう。なんせ把握しているわけだし...
「...本当に、えー君は大馬鹿さんだ。どうして、やりとげられちゃうかな...なんで、諦められないのかな......今私がここにえー君と一緒にいるのはとっても嬉しいけど...同時にね、とっても罪悪感があるんだよ...」
「茜...」
ふと、茜は吐露する。涙とともに。
あぁ、またか。また俺は泣かせてしまったのか。
「だから...」
茜は俺の身体を両腕でしっかり抱き留め、言葉を紡ぐ。
「もう離れないで...絶対に離さないから...!」
「...あぁ。」
これで本当に終わったと、思う。
終わったのなら...少しは楽になれるのかも、な...
そして俺はまるで飲み込まれるかのように深いところまで意識を持っていかれたのであった。
次回、第44話「代償」
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